隙間すきま)” の例文
そこでこの渡洋潜波艇は、海面とすれすれの浅い水中を快速で安全に突破するもので、つまり水上と防潜網との隙間すきまねらうものである
うしろを限る書割かきわりにはちいさ大名屋敷だいみょうやしき練塀ねりべいえがき、その上の空一面をば無理にも夜だと思わせるように隙間すきまもなく真黒まっくろに塗りたててある。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
枯れて行く建築材の臭気と、ほこりッぽい風が隙間すきまから降っていた。戸外の空気に触れたいのは、何か混乱するものを感じていたからだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かたまりになってる群集は、ちょっと隙間すきまを開いて二人を通し、そのあとからまたすぐ隙間をふさいだ。クリストフは愉快がっていた。
ほばしらの様な支柱を水際のがけから隙間すきまもなく並べ立てゝ、其上に停車場は片側かたかわ乗って居るのである。停車場の右も左も隧道とんねるになって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかもこの小山ほどといふのは、誇張でない、ぎつしりと隙間すきまのないまでに積まれてゐるので、自分は来る度毎たびごとに驚きおどろいたものである。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「誰?」と言いかけて走り出で、障子の隙間すきまより戸外おもてを見しが、彼は早や町の彼方かなたく、その後姿は、隣なる広岡の家の下婢かひなりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先生はそれを落すために、後ろ向きになって、浴衣を二、三度ふるった。すると着物の下に置いてあった眼鏡が板の隙間すきまから下へ落ちた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梶はそんなに反対の安全率の面から探してみた。絶えず隙間すきまねらう兇器の群れや、嫉視しっし中傷ちゅうしょうの起すほのおは何をたくらむか知れたものでもない。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
壁の隙間すきまや床下から寒い夜風が吹きこむので二人は手足も縮められるだけ縮めているが、それでも磯の背部せなかは半分外に露出はみだしていた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
画家は扉に飛んでゆき、ほんの少しだけ隙間すきまをあけると——嘆願するように差出された、合わさった少女たちの手が見えた——言った。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「この手紙をね、ここの家の玄関の戸の隙間すきまから、ソッと投げ込んでくるのじゃ。よいかな。誰にも見られぬよう、充分気をつけてな」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さうするとはたつゝとほちかはやしには嫩葉わかば隙間すきまからすくなひかりがまたやはらかなさうしてやゝふかくさうへにぽつり/\とあかるくのぞこん
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二人は立ち寄って戸の隙間すきまから覗くと、石の地蔵はやはり薄暗いなかに立っていて、その足もとにはこおろぎの声が切れ切れにきこえた。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
静かに縁側へお上がりになり、格子に隙間すきまの見える所へ宮はお寄りになったが、中の伊予簾いよすだれがさらさらと鳴るのもつつましく思召おぼしめされた。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
雨戸の隙間すきまから投り込んだらしく、白々と椽側にあつたといふのですから、曲者から主人三郎兵衞に當てたことは言ふまでもありません。
ちょうど正面の松林がまばらになって、窓のごと隙間すきまを作っている向うから、そのえ返った銀光がピカピカと、練絹ねりぎぬのように輝いている。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この船の料理部屋の背後うしろの空隙なんかへ行く連中は、ドン底の水槽タンク鉄蓋てつぶたまで突き抜けた鉄骨の隙間すきまに、一枚の板を渡して在る。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
空の細い隙間すきまから、高原の強い日光がぎらぎらと道に降りそゝいでゐる。富岡は、日本の女と歩く事に、何となく四囲に気を兼ねてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
一心斎老人は隙間すきまなく二人の位を見ているが、どちらからも仕かけない、これから先どのくらい長くにらみ合いが続くか知れたものでない
深い谿たにや、遠いはざまが、山国らしい木立の隙間すきまや、風にふるえているこずえの上から望み見られた。客車のなかは一様に闃寂ひっそりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
見る目には三人の使い手の体の運動があたかも巧妙な踊りのごとくに隙間すきまなく統一されてなだらかに流れて行くように見える。
文楽座の人形芝居 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
通り抜けることはできないと思っていた生け垣が、今では、隙間すきまだらけになって、黒つぐみは、そこへ隠れるのに骨が折れる。
そこには小松などまばらに生えてたように思う。そのあいだをよく南画などにある一面隙間すきまなく小波さざなみのたった海が流れてゆく。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
そこで、戸の隙間すきまから、そっと外を覗いて見ると、見物の男女なんにょの中を、放免ほうめんが五六人、それに看督長かどのおさが一人ついて、物々しげに通りました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無造作に押よせた入口の草の戸、その隙間すきまから薄明りがさして、いつか夜は明けたらしい。起きて屋外へ出たが、一面の霧で何も見えない。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
どこに向って鬱した気を晴らして好いのか。人々はその隙間すきまを模索して、そのために悶え苦しんでいる。そういう時期がある。
普通は勝手なかわら隙間すきまなどに巣を掛け、それがまた並んでいるのを見究め難いが、私が自分の寝る室の窓の前に、柱のような木を一本
巌の隙間すきまに棲み番兵を置いて遊び歩き岩面を走り樹に上るは妙なり、その爪と見ゆるは実はひづめで甚ださいの蹄に近い(ウッド『博物画譜イラストレーテッド・ナチュラル・ヒストリー』巻一)
やがて、きゃッ、という悲鳴が、かわやの中で起った。雪隠せついん隙間すきまからモチ竿で、老女の隠しどころを、モチでさした者がある。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鋭く斬込んで来る源八郎を扱いながら、その隙間すきまに七三郎を参らしたのだから、どの位腕が利くか、ほとんど分らなかった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
壊れている屋根が今にも吹飛ばされそうで、水は漏り、風は仮借なく隙間すきまから飛込んで来、生きた気持はしなかったという。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
丁度甲州流の戦法のように隙間すきまなくやり穂尖ほさきそろえてジリジリと平押ひらおしに押寄せるというような論鋒ろんぽうは頗る目鮮めざましかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
俊寛、藻草を敷き破れたる苫をかけてねている。第一場より一か月後の夜、隙間すきまより月光差し入る。小屋の外はあらし吹く。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
一段はほぼ五十センチほどの厚さがあり、段と段のあいだは隙間すきまになって、枯れた古いあしの幹が支柱のように竝立へいりつしている。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昨夜さくや以來いらいわが朝日島あさひじま海岸かいがんは、およかぎ裝飾さうしよくされた。大佐たいさいへ隙間すきまもなくまる國旗こくき取卷とりまかれて、その正面せうめんには、見事みごと緑門アーチ出來できた。
そこは、空気がよどんで床下の穴倉から、湿気と、貯えられたねぎや馬鈴薯の匂いが板蓋いたぶた隙間すきまからすうっと伝い上って来た。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
長い長い石垣の上に、杉の生垣いけがきが続いて、その隙間すきまから石碑がのぞいている。電柱がその石垣に沿うて一つ二つ見えて来る。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
眼が、闇に慣れるにつれて、襖の隙間すきまから洩れる光線が、仕切棚の裏にぼんやり扇形の模様を投げているのが見えだした。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そして悪魔は、方々の掃除口を探して歩きましたが、どこもここもみな、頑丈がんじょうな鉄の蓋が閉め切ってあって、下水道へはいり込む隙間すきまもありません。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
石垣の下から生えている老木のこずえ孟宗竹もうそうちく隙間すきまから、私の住んでいた家なぞは、はるかの眼下に小さく俯瞰ふかんされます。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それが戸の隙間すきまから見えぬやうに忍び込んで行燈あんどんの紙をしめらしてゐる。湯鑵の水はすつかりなくなつて、ついでに火鉢の火の気も淡くなつてゐる。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そのうちにはるか彼方かなたに群を抜いてそびえている一本の大木の葉のしげみのなかに、円い隙間すきま、あるいは空いているところがあるのに、注意をひかれた。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
その事業の高尚な配慮と神嚴な結果から云へば、その仕事は愛を破られ望を碎かれたものゝ心の隙間すきまを充すには、一番相應ふさはしいものではないだらうか。
掻巻かいまきかけて隙間すきまなきよう上から押しつけやる母の顔を見ながら眼をぱっちり、ああこわかった、今よその怖い人が。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
仕方がないから試に左向きに寐て見るとガラスごしに上野の杉の森が見えてその森の隙間すきまに向うの空が透いて見える。その隙間の空が人の顔になって居る。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しかしそれは隙間すきまを洩る風がカーテンを揺すったのだろうぐらいに思って、わたしは別に気にもとめなかった。
高々たかだかのぼっているらしく、いまさら気付きづいた雨戸あまど隙間すきまには、なだらかなひかりが、吹矢ふきやんだように、こまいのあらわれたかべすそながんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
よく平気でそんな事が言えたものですね。客に隙間すきまがあれば少しでも儲けようという浅ましい根性なのです。客に対して親切という心は少しもありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ちょうどその時、前の廊下を、ほうきをもった二人の女中が、玄がめきらずに残して行った障子しょうじ隙間すきまから私の方を覗き込むようにして見ながら通りすぎた。