かぎ)” の例文
戸にかぎをかけてしまって、僕が戸の隙間から『お早うボンジュール』と挨拶あいさつしても、返事もしないんだ。自分じゃ七時にちゃんと起きてたくせに。
が、私はよく勝手を知っていたので、庭の目隠しの下から手を差し込んで木戸きどかぎを外し、便所の手洗鉢てあらいばちわきから家の中に這入はいった。
当時の将軍家は、十代家治いえはるであった。軽くうなずいて紅錦こうきんふくろをとりだす。いわゆる肌着はだつきのお巾着きんちゃく、守りかぎとともに添えてあるのを
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死体をかついでいたのはジャン・ヴァルジャンです。かぎを持っていたのは、現にかく申し上げてる私です。そして上衣の布片きれは……。
しな天秤てんびんおろした。おしなたけみじか天秤てんびんさきえだこしらへたちひさなかぎをぶらさげてそれで手桶てをけけてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この書物に於てのみ、読者は完全に著者を知り、過去の詩論が隠しておいた一つの「かぎ」が、実に何であったかを気附くであろう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ろくに動きまわることもできないほどの狭い低い室も、彼には一王国のように思われた。彼はとびらかぎめ切り、満足して笑った。
と云いつつ、隠袋ポケットからかぎを取出して其箱を開けば、中から出て来たのは、金銀宝玉の装飾品数十種、いずれもまばゆきばかりの珍品である。
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
人々が振仰ぐ方向に視線を向けると、丘の上の樹木のこずえの青空の奥に、小さな銀色のかぎのような飛行機が音もなく象眼されていた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
と、たった一人の孤独なので、此処まで来るにも、手提てさげを二ツ、かぎやら銀行の帳面やら入れてさげてこれは大切だといったと語った。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
我慢がまんできないようないやらしい沈黙ちんもくのなかで、ぼくは手紙を受取ると、そのまま、宿舎に入り、便所に飛びこんで、かぎを降しました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その花はまた規則正しくしおれるころになると活けえられるのです。琴も度々たびたびかぎの手に折れ曲がった筋違すじかいへやに運び去られるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜寝る時にはちゃんとドアにかぎを掛けておくんだ。それにそんな妙なことが起こるんだからね。それだけなら、まだいいんだよ。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
半三郎は三度まで彼らの側に身をひそめて、会話のなかにそのかぎをみつけだそうとした、そして今その唯一の方法を発見したのであった。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私の部屋のかぎをつくらせて、互いに貸し合っているんですよ。いやわずらわしいったら、人様にはほとんど想像もつきますまい。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
祖母おばあさんのかぎ金網かなあみつてあるおもくらけるかぎで、ひも板片いたきれをつけたかぎで、いろ/\なはこはひつた器物うつはくらから取出とりだかぎでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
……一度は金沢のやぶの内と言う処——城の大手前とむかい合った、土塀の裏を、かぎ手形てなり。名の通りで、竹藪の中を石垣にいて曲る小路こうじ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
命ずるに十分な力のあるところでは從順は、決してなくなりはしないものだ。私は自分の寢室に這入つて、かぎをかけてしまつた。
尤もフロイド風に分析すれば持って廻った底の方になぞを解くかぎもあろうけれども、ポーズの方が重要なのさ、と思いこんでいたかも知れぬ。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一歩ひとあしちがいで、まア御在ございました。不用心ですからかぎをかけて、お湯へ行こうと思ったんですよ。お君さんも今夜はお早いんですか。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
葉子はややしばしとつおいつ躊躇ちゅうちょしていたが、とうとう決心して、何かあわてくさって、かぎをがちがちやりながら戸をあけた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この土蔵のかぎは枳園が自ら保管していて、自由にこれに出入しゅつにゅうした。寿蔵碑に「日々入局にちにちきょくにいり不知老之将至おいのまさにいたらんとするをしらず殆為金馬門之想云ほとんどきんばもんのおもいをなすという」としてある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして研究室には内側からちゃんとかぎがかかっていたんですって、今朝木見さんのお父さんが雪子さんの部屋をおしらべになったときにはね。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これではいかぬと思うて、すこしく頭を後へ引くと、視線が変ったと共にガラスのきずの具合も変ったので、火の影は細長いかぎのような者になった。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
丁度何かで不機嫌だつた父は金庫の把手とりてをひねりながらかぎの穴に鍵をキリリと入れて、ヂロツトとその兒を振りかへつた、私はわつと泣いた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
かれはせっかちに、ページを先にめくり、またあともどりした。しかし、どこにもかれの疑惑を解くかぎは見つからなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そうって、彼女は扉に手をかけて見た。それは平素いつもになく内部から、かぎが、かけられたと見え、ビクリとも動かなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「喧嘩ぢやございませんよ。ほんの言ひ合ひで、——何んでも、かぎがどうとか、千兩がどうとか、三百兩でいゝとか——」
森閑しんかんとした部屋の外に、そつと、かぎをまはしてゐる音、やがて、扉は開き、外の光のなかから、背の高い富岡が、扉の中の暗さへ消えてしまふ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
四日目、私は遊説ゆうぜいに出た。鉄格子と、金網かなあみと、それから、重い扉、開閉のたびごとに、がちん、がちん、とかぎの音。寝ずの番の看守、うろ、うろ。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
ねえ、ドクトル、給仕スチュワードを内部へ入れないでくれたまえ。あいつはわしが気が狂ったと思うだろうから。その戸にかぎをかけてくれたまえ。ねえ、君!
わたくしたちは、小さい花をつけた雑草の上に立って、大きいかぎの響きを聞いた。それがもう気分を緊張させる。戒壇院はそういうところである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それまでは親父おやじの家、それも大家族の、純日本式の家の六畳一間に住んでいたんだもの、すべての他人の目や物音から遮断された、かぎのかかる部屋
お守り (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ふと遠い冷たい北の方で、なにかかぎでも触れあつたやうなかすかな声がしました。烏の大尉は夜間双眼鏡ナイトグラスを手早く取つて、きつとそつちを見ました。
烏の北斗七星 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それらの凡てのことは、何が美であるか、どうしたら美が分るか、如何にして美が産めるか、美の意義と認識と製作との三つの問題へのかぎとなろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
こちこちかたい階段を上りおりするのも相当骨が折れ、やっと部屋まで辿たどり着いたと思うと、かぎがかかっていたりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旭川平原をずっとちぢめた様な天塩川の盆地ぼんちに、一握ひとにぎりの人家を落した新開町。停車場前から、大通りをかぎの手に折れて、木羽葺が何百か並んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ドアにかぎがはまったままになっていたので錠を下ろして鍵を取り、さて考えてみますと、死体が知れた暁には自分が犯人と見なされるに違いないから
このちひさなそばつてても仕方しかたがないと、あいちやんは洋卓テーブルところもどつてきました、なかばかぎ見出みいだしたいとのぞみながら、さもなければかく
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ばたん、と覆をおろすと、にっと笑った閑山、音のしないように伊達緒をぎりぎりに締めつけてそっとかぎをかけた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
廊下をずっと突き当ると、かぎに廻ったところに物置と背中合せに湯殿がある、それは女たちの入る湯殿である。
とある四辻をかぎの手に曲っているびた荒壁の塀の屋根の、丸瓦の上からのぞいているうつぎの花をながめたとき、要は老人のこの言葉をおもい出した。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おやじは気をきかせてトーマスをおくまった部屋へやにかくし、かぎをかけてやってから、もとのところへもどってきた。
しかたがないから、夜はかぎをかけておく。こうそこにつとめていた人が話した。かれは心にほほえみながら歩いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
虚無の自然と生死する人生とを関連する不思議なかぎです。芸術のうちでも、童話は小説などとちがって、直ちに、現実の生命に飛び込む魔術を有しています。
『小さな草と太陽』序 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしそれは、氏のもっとも自ら愛していた作品であって、その晩年私に、自分の絵を理解するためのかぎはその中にある、とまで云われたことがあった。
(新字新仮名) / 堀辰雄(著)
魔法つかひは腰に大きなかぎのたばをぶら下げて、火にかけたまつ黒ななべの中に、何やらグチヤ/\煮え立つてゐるものを、しきりにかきまはしてゐました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
この新旧の対立には意味があり、コウソという語はその一つのかぎなのだが、考祖・高祖の字解に心服した人々は、これを疑って見ることができなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かぎはあってもかける必要のない玄関をふりかえり、修造のあとについて歩いた。ふしぎな、あふれるような感情が、さっきの涙とむじゅんなくわいてきた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
大杉が果してスパイであった否乎のなぞは大杉自身がかぎを握ってるので、余人の推測は余りアテにならないが
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)