野良のら)” の例文
お月夜は、まだよいのくちで、子どもたちは野良のらからかえったおやたちと、やっといま、ゆうはんをたべおわったばかりなのでした。
月夜のかくれんぼ (新字新仮名) / 槙本楠郎(著)
そこで、親たちは、自分のガキ共を、山仕事、野良のら仕事の手伝いをさせる時間をいても、与八のところへよこすようになりました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを顔の前にあてるのである。いわばヴェールである。この「顔当かおあて」は昼野良のらで仕事をする時、虫をけるためだといわれる。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ことしは隣り村に大きいうわばみが出て、田畑をあらし廻るので、男も女もみな恐れをなして、野良のら仕事に出る者もなくなった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
冬の日の暮れやすいことももとよりではあるが、麦蒔頃の野良のらの寒さが、何となく夕日の名残を惜しませるのではないかと思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
リップの跡取り息子はというと、さっき木によりかかっていた父親に生き写しの男だが、これは野良のら仕事にやとわれていた。
その、誰にも言うな、と堅く口留くちどめをされた斉之助せいのすけという小児こどもが、(父様とっさま野良のらへ行って、穴のない天保銭てんぽうせんをドシコと背負しょって帰らしたよ。)
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男親が世にいたじぶんから家にもろくに落着いていず、世間で何をやっていつも飲み歩いているか、親さえその職業もよく知らない野良のら息子。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町を抜けると野良のらである。野良の細道を二個の人影が、足音も立てずに走って行く。間もなくこんもりとした森へ出た。頼正は森の中へ走り込む。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
段々野良のらの仕事がいそがしくなつて欠席の多くなるべき月に、これ以上歩合を上せては、郡視学に疑はれるおそれがある。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は午前中だけ野良のらに出て百姓の稽古けいこをし、午後は講義録を読んだ。私はとみに積年の重たい肩の荷を降した気がした。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
久「蜻蛉とんぼうの出る時分に野良のらへ出て見ろ、赤蜻蛉あかとんぼ彼方あっちったり此方こっちへ往ったり、目まぐらしくって歩けねえからよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
太陽は燦爛さんらんと、野良のらの人々を、草木を、鳥獣を、すべてのものを祝福しているように、毎日やわらかに照り輝いた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「出来るものなら三毛の代りに……」「あの教師の所の野良のらが死ぬと御誂おあつらえ通りに参ったんでございますがねえ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ポリーナ あの人は、よそ行きの馬まで野良のらへ出したんですの。それに、こんな行き違いは毎日のことなのよ。
ほかの小作人は野良のら仕事に片をつけて、今は雪囲ゆきがこいをしたり薪を切ったりして小屋のまわりで働いていたから、畑の中に立っているのは仁右衛門夫婦だけだった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
林の一角、直線に断たれてその間から広い野が見える、野良のら一面、糸遊いとゆう上騰じょうとうして永くは見つめていられない。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
三つの時孤児みなしごになり、庄屋しょうやであった本家に引き取られた銀子の母親も、いつか十五の春を迎え、子供の手に余る野良のら仕事もさせられれば、織機台はただいにも乗せられ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
野良のらの仕事を終わって帰る百姓は、いつも白地の単衣ひとえを着て頭の髪を長くした成願寺の教員さんが手帳を持ちながらぶらぶら歩いて行くのに邂逅でっくわして挨拶をした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「へえ、それはもう。この大身代の大旦那樣ですが、三日もくはを持たずに居ると、氣分が惡いと仰有つて、よく私と一緒に野良のらへ出ましたよ。よく出來た方で——」
練馬駅で下車しましたが、見渡す限り畑ばかりで、春日町は、どの辺か見当が附かず、野良のらの人に聞いてもそんなところは知らん、というので私は泣きたくなりました。
千代女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
獅子や驢馬ろばと共同生活を営んでゐた仏蘭西の女流画家ロザ・ボナアルは、何処に一つ女らしいところのない生れつきで、夕方ゆふかた野路のみちでも散歩してゐると野良のらがへりの農夫達ひやくしやうだち
それが今日は野良のら仕事もだんだんしなくなり、たまたまみなさんが郊外を散歩して、散歩が気恥きはずかしいように考えられるような、女の働きぶりを見られることがあっても
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
正直しょうじきな百しょうが、いつものように、朝早あさはやく、野良のら仕事しごとにいこうと、くわをかついでいえたのであります。まだ、つちがしめっていて、あまりひととおったようすもありません。
武ちゃんと昔話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
眼の覚めるような爽々すがすがしい緑の野良のらを、きのうの雨で黒くなって横ぎっている道を鞭で指しながら、セリファンは自分の傍に坐っている女の子に向ってぶっきら棒に訊ねた。
セーラー服の少女は、近づいてその顔を見ると、少女とは言えないとしの顔だった。白粉おしろいがうまくのらない、むらむらの顔は、ついこの間まで野良のらで働いていた娘らしいとも思われる。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
牛の脊中へ赤い紙片を貼付け、尻尾しっぽ摺粉木すりこぎを一本縛り付けて野良のらへ出しておく。
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
家中うちじゅうのものが鳴りを静めた。野良のらからこの様子を見て走って来るものもあった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それからというものは、村の人達はそれをわざわざみにいったり、野良のらの行き帰りに廻り道をして飲みにいったりしました。泉のおいしい水は、いつもふつふつと湧き出していました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
野良のらへ行く者もある。ここでは、掘ったり鋤いたりしに行く男や女たちがいる。
それで駅次馬えきつぎうまは少ししかいないし、馬はみな野良のらに出てます。ちょうどこれからすきを入れる時だから馬がいるんです。どこの馬も、駅のもなにもかも、そっちに持ってゆかれてるんです。
人間がいじめ抜いた野良のら犬でない限りは、淋しいところにいる犬ほど人をなつかしがるもので、見ず知らずの人でも親切な人には決して怪我けがをさせるものではない事を、経験の上から私は信じている。
もっとも、最初さいしょべつわたくしをおみやまつるまでのはなしわけではなく、時々ときどきおもしては、野良のらへの往来ゆきかえりわたくしはか香花こうげ手向たむけるくらいのことだったそうでございますが、そののち不図ふととしたこと動機どうきとなり
規則正しい、高いトヨのひづめの音が、静かな部落に響きわたると、往来にんやりたたずんでいたお主婦かみさんや、野良のら径をせわしげにしていた百姓たちは、驚いたように径をゆずって馬上をふり仰ぐ。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「ベンボー提督屋」の先の方の側で野良のら仕事をしていた人たちの中には、見慣れない男が何人も街道にいるのを見て、それを密輸入者だと思って逃げ出したことがあるのを、思い出す者もあったし
あくる日から甲斐々々かいがいしく野良のらへ手伝いに出た。
日本婦道記:箭竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
不思議と見野良のら男。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あはれ、あに元太郎もとたらうは、何事なにごとふりますで、何時いつもよりかへつておそくまで野良のらかへらないでたとふのに。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ある日甚三は裏庭へ出て、黙然もくねんと何かに聞き惚れていた。夕月がのぼって野良のらを照らし、水のような清光が庭にさし入り、厩舎うまごやの影を地に敷いていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これで高禄をんでいる身かと考えると、主人へ対してよりも、野良のらに年貢米の植付をしている百姓に対して、済まないような気恥かしさを時に覚える。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野良のらへ出て働く人も、春はおのずから多いわけだから、そういう風に解しても構わない。要するに暮色がようやく迫って、物音もないような、寂しい春の野の様である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
みちは次第にぼんやりしてきて、もうそこには何ひとつ動くものは見当らなくなった。ただ、ときおり農夫が野良のら仕事からとぼとぼ家路にむかってゆくだけだった。
八五郎の聲は、目黒の野良のらに高鳴ります。この聲は、曲者の足をすくませるばかりでなく、八丁四方に居る人達の耳に響いて、思はぬ助力をび出す役にも立ちます。
余りおとなう人もない所であるが、一度訪うた者には忘れ難い土地となろう。なぜならここに珍らしい風俗が残るからである。女たちが野良のらに出て働く時の身なりである。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
正面しやうめん本院ほんゐんむかひ、後方こうはう茫廣ひろ/″\とした野良のらのぞんで、くぎてた鼠色ねずみいろへい取繞とりまはされてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
器などの散った部屋には今まで差していた西日の影が消えて、野良のらくさい夕風が吹いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
殊に朝早くからデタチの支度したくをして、野良のらや山に出るのでなく、家にいて時々力業ちからわざをするという町の労働者などは、仕事着にわざわざ着換えるのも手数だから、下着は不断のままで
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの枯木林の中の亜鉛葺トタンぶきの一軒屋の中で、いつもの通りに自炊の後始末をして、野良のら犬が這入はいらないようにチャント戸締りをして、ここまで出かけて来たことは来たに相違ないのだが、しかし
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昼は野良のらかせぎの手伝いに日を暮らし、夜はそこで猪の番をしていた。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八つ、宿無やどな野良のらいぬ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)