みち)” の例文
北村君の生涯の中の晩年の面影だとか、北村君の開こうとしたみちだとか、そういう風のものに就ては私は已にいくらか発表してある。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
李一は小さいガラスの瓶に二疋の人魚を入れて、いまは全く夜になった海岸の町を指して帰ってゆくみちで、瓶の中からほそい声がして
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私にとっては血の出るようなその金を、これと言って使いみちのわからぬようなことに使って、今になってもまだそんなに借金がある。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
是を果して知るみちがまったく無いかどうか。そういうことを自分は考えている。勿論もちろん直接に是を書いて伝えようとしたものは少ない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
変化へんげの術ももとより知らぬ。みち妖怪ようかいに襲われれば、すぐにつかまってしまう。弱いというよりも、まるで自己防衛の本能がないのだ。
私はもう、当ってくだけるよりほかにみちがないと思った。何でもいい、ただ行って見よう。行ってどうかしよう。こう私は腹をきめた。
うちの狗か。」判事はだしぬけにみちの真中で鼻をつままれたやうな顔をした。「それぢや仕方がない、盗まれた肉代は幾らだつたね。」
「先程申したのは戯れでござる、高麗村へおいでとあれば、どうせ吾々も帰りみち、一緒にまいって御隠家様へお取次いたすであろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いくらかんがえたってしかたがないことだ。おれたちははたらくよりみちがないのだ。」と、おつこうさとし、自分じぶん勇気ゆうきづけるようにいいました。
一本の釣りざお (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのほか小船はあるにはあるが、使いみちにならない。隣の村に人をやって訊いてみたが、もうみんな約束済であいてる船は一つもない。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
飛騨路というのは峰の小屋から路を右手にとり、二の池の岸をめぐって磊々らいらいたる小石の中を下って行くので、みちというべき途はない。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
「そうだね、玄妙観げんみょうかんへ往って魏法師ぎほうしに頼むより他にみちがないね、魏法師は、もと開府王真人かいふおうしんじんの弟子で、符籙かじふだにかけては、天下第一じゃ」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
心の許さぬ、望みのない思ひをいさぎよくてるに最も安全なみちむしろ其の相手の欠陥に幻滅を起すことより他になかつたからである。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
宇津木兵馬は一緒に竜王村の方へ入るみちすがら話して行くと、この金公という折助がいかにもくだらない人間であることを知りました。
思い詰めれば何事もみちのふさがるものだが、一転機に立って勘考方かんがえかたを変えてみれば、なんだつまらねえ、何もやきもきすることはない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いつ動きだすやら判りもせん船を待っとらねならん、宝ものにしておいた家の道具はみんな潮水に濡れて、使いみちも無くなった、見んか
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
幽明交通ゆうめいこうつうみち杜絶とだえているせいか、近頃ちかごろ人間にんげんはまるきり駄目だめじゃ……。むかし人間にんげんにはそれくらいのことがよくわかっていたものじゃが……。
葉書を出しに行くみちさけの切身をひと切れ買って、まちがえてその鮭のほうを郵便函へほうり込んでしまったこともありました。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
何度も同じ小みちに出入した後、僕は古樒ふるしきみいていた墓地掃除の女にみちを教わり、大きい先生のお墓の前へやっとK君をつれて行った。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
風揉めの為に立ち枯れた木が時々骸骨のように白くされてみちに倒れているのもあるが、下生えの若木が無いので甚しく邪魔にもならない。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
みちすがら薫は浮舟を早く京へ迎えなかったことの後悔ばかりを覚えて、水の音の聞こえてくる間は心が騒いでしかたがなかった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
戸田様に御奉公をしている兄にも頼んで、方々へ渡りがつけてあるから、近いうちには何とか仕官しかんみちも着こうかと思っている。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
19の黒い制服には金釦きんぼたんが重要性をつけていた。すべてが巴里パリーからドライヴして来た人に相応ふさわしい「長いみちに狐色になったラフさ」
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
僅かなみちのりであるが、私の乗った電車は、その渓から枝別れして、ポスキヤーヴォの谷底を、ベルニナさして向かうのである。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
そして我らキリストのすくいに浴して永遠の生命を信ずる者は、ヨブのこの詰問きつもんに対しては永生の真理を以てこれに答うるを最上のみちとする。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
イエスはみちすがら、エルサレムにて御自身を待つ運命について明瞭に語り給うたのですが、弟子たちにはどうしても本気にそう思えない。
俺にしろもうあの時はあの女を思ふさま淫逸な欲念と熾烈な死と官能の幻惑の中に引きずり廻すより外にみちが無いと思つたのだ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふたゝび荊棘けいきよくえだとり香花かうくわ神前しんぜんさしはさみくうず。次にあつま各童わらべども手に木刀をとりみち隊閙たいだうしすべて有婚こんれいして无子こなきをんな木刀をもつ遍身へんしん打之これをうち口に荷花蘭蜜こばらみとなふ。
今の僕の心持では、そうする外にみちがないのだ。この恐ろしい疑いを抱いたまま、じっとしていることは、一日だって出来ない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私はその後、始終ナオミとダンスに行くようになりましたが、その度毎たびごとに彼女の欠点が鼻につくので、帰りみちにはきっと厭な気持になる。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どのみち迷信は人間にはつきものであって、これのない人はどこにもない。科学者には科学上の迷信があり、思想家には思想上の迷信がある。
千人針 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
帰朝歓迎会なんていうものくらい下らんものはありませんね。あの場ではみんなが心にもなくほめちぎっておいて、帰りみちにはみんな悪口を
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「この間の小説はもう出来上ったか。」と唖々子はわたしに導かれて、電車通の鰻屋うなぎや宮川へ行くみちすがらわたしに問いかけた。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
活字にせられたものは、未発表の部分の単なる標本としてこれを取扱い、他日たじつ全部公開の機会の到来を待つより外にみちがない。
昨日飛行場からの帰りみちでジャネットに私がアーミー・ジョンソンの様に女流陸軍飛行家希望の事や、ママが賛成して呉れぬ事を話したの。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かれはみちゆく人を呼び止めて話した、居酒屋いざかやへ行っては酒をのむ人にまで話した。次の日曜日、人々が会堂から出かける所を見ては話した。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
小さい時、いねは寺子屋の帰りみちなどで、すぐその近くにある妾の家を出入りする父親の姿を見かけた。黒い羽織を着ていた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「そりゃ駄目だよ」と天願氏があわてて私の腕をつかんだ。「僕の所に今晩は居てくれよ。どのみちざわざわして何も出来やしないだろうから」
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
或る朝、私は例の気まぐれから峠まで登った帰りみち、その峠の上にある小さな部落の子供二人と道づれになって降りて来たことがあった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
また石器せつきかたち大體だいたいまへ時代じだいよりは小形こがたのものがおほく、しかも石器せつき使つかみちによつて種々しゆ/″\ことなつたかたちのものがわかれて發達はつたつしてました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
思へば戀てふ惡魔に骨髓深く魅入みいられし身は、戀と共に浮世に斃れんか、た戀と共に世を捨てんか、えらぶべきみち只〻此の二つありしのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
生きた兎が飛び出せば伏勢でもあるかと刀に手が掛かり、死んだ兎がみちにあれば敵の謀計はかりごとでもあるかと腕がとりしばられる。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
三藏は歸みちで、ふと尋中卒業の時の祝賀會の事を思ひ出した。さうして自分から進んでお弓をやらうと言ひ出した當時の心持が思ひ出された。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
みちに一騎の驕将をらすといふ一段を五行或は四行の大字にものしぬるに字行じのかたちもシドロモドロにてかつ墨のかぬ処ありて読み難しと云へば
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
田甫道たんぼみちをちらちらする提燈ちょうちんの数が多いのは大津法学士の婚礼があるからで、校長もその席に招かれた一人二人にみちった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
米子の滝のしょうかたりて、ここへ来しみちなる須坂より遠からずとおしえらる。滝の話は、かねても聞きしことなれど、往てんとおもう心切なり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
このみちをとりました、師範として立直ることはできなかったが、——剣士としては、無神流の技を存分にふるい、存分に闘って倒れたのです。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
されど我等主題を遠く離れたれば、今目をめぐらして正路を見るべし、さらば時とともにみちを短うするをえむ 一二七—一二九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私の眼はきらきらしました。しだいにかえみちの暑さがおもいやられるようになりました。私は兄さんをうながしてまた山を下りました。その時です。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旧幕時代には裕福ゆうふくだった上に、明治になってからも貨殖かしょくみちが巧みだったと見えて、今では華族中でも屈指の富豪だった。