わび)” の例文
足りなければ何回でもおわびします。しかしあんなことのために全然愛想づかしをして、前々からの手紙まで取り返すというのはひどい。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
わびさせ其夜の中に事をすませ叔母も名主方へぞ參りける是は傳吉が留守中るすちうおはや憑司は不義ふぎなしお梅は昌次郎と密通みつつうに及びて居たるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
魂消たまげた気の毒な顔をして、くどくどわびをいいながら、そのまま、跣足はだしで、雨の中を、びたびた、二町ばかりも道案内をしてくれた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火事息子といふ言葉もある位で何か騷ぎのある時驅けつけるのが、勘當された息子のわびを入れる定石になつて居る時代のことです。
文「姉さん、帰るんならどうせ通道とおりみちだから送って上げよう、大きに御厄介ごやっかいになりました、明日あした来て奉公人や何かへわびをしましょう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
秋雨あきさめいて箱根はこねの旧道をくだる。おいたいらの茶店に休むと、神崎与五郎かんざきよごろう博労ばくろう丑五郎うしごろうわび証文をかいた故蹟という立て札がみえる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は唯今日まで嫂に隠して置いたそのわびの心を書くだけに満足しようとした。短く、短くと、心掛けた手紙は夜の二時頃までも掛った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「サア姫や。嘘をいて済みませんでしたとお云い。これから決して嘘をきませんとお云い。お母さんがわびをして上げるから」
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
到頭とうとう仕舞しまいには洋書を読むことをめて仕舞うて攘夷論でも唱えたらば、ソレはおわびが済むだろうが、マサカそんな事も出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
吉公も口のなかでぶつぶつわびを云って、親方より一つくらい余計におじぎをした。錺職の徳治が二度めに、来たとき、むっとした口ぶりで
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
我は響きをききてその再び閉されしことを知りたり、我若し目をこれにむけたらんには、いかなるわびも豈この咎にふさはしからんや 四—六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
堪忍かんにんして堪忍してと繰返し繰返し、さながら目の前の何やらに向つてわびるやうに言ふかと思へば、今ゆきまする、今行まする
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いやあ、一寸おわびをしなけりゃならんですが、今までご覧に入れたのは、皆な火星の果実でもなんでもありません、この地上のものですよ」
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
おまへはわびをしても忘れるから困り升。今度は忘れさせない様にせずばなるまい、おまへ自分の金をいくらか持つて居るか?
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
世話ついでに死後の片付方かたづけかたも頼みたいという言葉もありました。奥さんに迷惑を掛けて済まんからよろしくわびをしてくれという句もありました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっと表向おもてむきは手が切れた事になったんで、中に人もはいり、師匠の方もわびが叶い、元通り稽古を始めましたから、食う道はつくようになりました。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ならば、そちが来ても仕方があるまい。それよりは、わしの申したことを御隠家殿に伝えて、わびを入れた方がよかろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おまえさんにあやまらせようとおもって、こんなにおそく、わざわざひとりでわけじゃァさらさらない。わびなんぞは無用むようにしておくんなさい」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
例の鋭い眼をえて考え込み、飯店ファンテンの亭主が出て来てしきりにわびをいうのも聞き流して、真青な顔をして飯店を出た。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「よかろう。俺がおまえに娘を一人生ませなかったわびだと思えば何んでもない。仕儀によったらそれをやろう」
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたくしがお呼び立ていたした罪は、幾重にもおわびいたしますわ。でも、お互に理解しない者同士が、何時いつまで向い会っていても、全く無意味だとも思いますわ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それに、生徒監せいとかんはとても愛想あいそよく母親ははおやむかえて、さんざんおわびをいったのだから、その上どう仕様しようがあろう?
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
聞ちゃ、しろと仰しゃッてももう出来ない……がそうすると、母親さんにおわびを申さなければならないが……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
京子にはおわびのしようもないほど済まぬことだけれど、済まない済まないと思いながら、やっぱり、私はこうして、夜毎にお前の顔を見ないではいられぬのだ。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母親は物優しく「まあ二郎ちゃん、お前さんは何をしだい、何もしない兄さんをぶつなんて、お父さんがお帰りですと叱られたらどうなさいます。さあおわびをなさい。」
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
呆気あっけにとられた女はどうしておわびしてよいかに迷って、おずおずし乍ら彼の顔を見つめて居た。
初往診 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
然し、そんな事を言ひに来たではない、私の方にも如何様いかさま手落があつたで、そのわびも言はうし、又昔も今も此方こちらには心持に異変かはりは無いのだから、それが第一に知らせたい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「それから、そのわびしるしにていんで、二百——ハヽヽッ、旦那兄貴はなんか言ってましたか」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
学事をも捨てて出京して、先生にすっかりお打明申して、おわびも申上げ、お情にもすがって、万事円満に参るようにと、そういう目的で急に出て参ったとのことで御座います。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
エルリングが肩の上には、例の烏が止まって今己が出し抜けに来たわびを云うのを、真面目な顔附かおつきで聞いていたが、エルリングが座をったので、鳥は部屋の隅へ飛んで行った。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
では今日の所は、私からよくお客さまにおわびを申しあげて置くから、これからよく気をつけなくちゃいけないよ。いいか。もう決して学校で禁じてあることをしてはならんぞ。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
父は人力車夫ののどのあたり項のあたりを二三度こづいたが、それでも人力車夫は再び起き上つて父と争はうとした。そのとき乗つてゐた老翁がしきりにそれを止め父にわびをした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「そんな事をして好いのかい。どうせおわびを入れて、此方こっちから帰って行くことになるんだからね」姉は手ばしこく働くお島の様子を眺めながら、子供をゆすり揺り突立っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これもとわがなしたるつみなれば、人はしらずとも余処目よそめに見んはそらおそろしく、命をかけてちぎりたることばにもたがへりとおもふから、むすめごのいのちかはりて神に御ばつわび候はん。
村中の人よりも誰より彼よりも一番熱心に満の帰りを待ちわびけるはこの娘なり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そんなことを繰り返しているうちに自分はかなり参って来た。郵便局で葉書を買って、家へ金の礼と友達へ無沙汰のわびを書く。机の前ではどうしても書けなかったのが割合すらすら書けた。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
難有ありがとう御座います。それで僕も安心しました。イヤまことに失礼しました匆卒いきなり貴様をとがめまして……」と彼は人をおしつけようとする最初の気勢とはうって変り、如何いかにも力なげにわびたのを見て
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
後の日に迢空は切角の赤の飯を食べそこねましたと、上方なまりでわびて言われた。では、来年はうけとって下さいと私は言ったが、翌年の春に持って行ったかどうか、今はおぼえていない。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
婿の出仕祝と無沙汰のわびとを兼ねたのであるが、ついでに保子が生んだ九条家若公のいたいけな姿を見、その容儀神妙なるを喜び、馳走を受け、前後を忘るるほどに沈酔して帰宅したとある。
今ネ、何処どこからか電話で、——何でも警視庁とか云つてでしたの——しらして来たんです、阿父おとつさん阿母おつかさんに話してらしつてよ、是れでやうやく松島さんへ、おわびが出来るつて、ほんとに左様さうだわねエ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
こう言っても、やっぱり丸い眼をして——舞台で見るのとはまるで違う、生彩のない無邪気な眼をむけて、だまって、度外どはずれた時分にちょいと首をかしげて挨拶とおわびとをかねたこっくりをした。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
果して屈静源は有司ゆうしに属して追理ついりしようとしたから、王廷珸は大しくじりで、一目散に姿をかくしてしまって、人をたのんでわびを入れ、別に偽物などを贈って、やっと牢獄ろうやへ打込まれるのをまぬかれた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これにつけて、わたくしひと是非ぜひあなたに折入おりいっておびしなければならぬことがございます。じつはこのおわびをしたいばかりに、今日きょうわざわざ神様かみさまにおたのみして、つれていただきましたような次第しだいで……。
「兵馬さえなくば、父にわびして故郷へ帰ることも……」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
醉心地ゑひごこちでのまどひを、——あなわび
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
「申訳ありません。おわびに上りました」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二人は、心からおわびをしました。
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
甲「いえ/\誠に恐入りました、よいに乗じはなはだ詰らん事を申して、お気に障ったら幾重にもおわびを致します、どうか御勘弁を願います」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
火事息子という言葉もあるくらいで何か騒ぎのあるとき駆けつけるのが、勘当された息子のわびを入れる定石じょうせきになっている時代のことです。
あげ何卒なにとぞゆるしてたべわたしは源次郎といふをつとのある身金子が入なら夫より必ずお前にまゐらせん何卒我家へ回してと泣々なく/\わびるを一向聞ず彼の雲助くもすけは眼を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)