まみ)” の例文
より良くより高い生活のためなら、二夫にでも三夫五夫にでもまみえてよろしく、それによってむしろ魂の純潔は高められるであろう。
貞操の幅と限界 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
爾来じらい同志を糾合きうがふし、相共に此問題を研究し来りしが、時機やうやく到来し、こゝに一小雑誌を刊行して我が同胞にまみゆるの栄を得たるを謝す。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
昔は、琉球神道では、巫祝の夫を持つ事を認めなかつたのであらうが、段々変じて、二夫にまみえない者は、許す事になつたのである。
琉球の宗教 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
たけも高からず、打見たるところもはえ無けれど、賤しきかたにはあらず。就いてまみえばをかしからじ、へだゝりて聞かんには興あらん。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
吉川閣下にしても、将軍になってから再び郷党にまみえると言って出て行ったことになっているが、祖父さんの話によると全く嘘だ。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
互いにへだてられたるふたりの恋人は、そのあいまみえない間を多くの空想によって紛らす。しかもその空想は彼らにとっては現実である。
そのごとく恋においても勇敢であった。そうして男が多妻であるごとく、女も、つぎつぎにではあるが、多夫にまみゆることを辞せなかった。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼らの江戸獄中にあるや、ただ法廷において相まみゆるを得るのみ。しかれどもその唱和の詩を読めば、人をしておもいに禁ぜざらしむるものあり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
コノ夜逆旅げきりょニ来ツテ寝ス。余コレニイツテ曰ク二親おわス。汝ノ来ルハ何ゾヤ。曰ク僕大夫たいふヲ送ツテ至ル。今二親ニまみユ。実ニ望外ノ幸ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
在来の貞操と云ふ言葉の内容は「貞女両夫にまみえず」と云ふことだとすれば私はこんな不自然な道徳は他にあるまいと思ふ。
貞操に就いての雑感 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
奪わるるが如きことあらば、なんの面目あって魏王にまみえん。御身、よろしくこの所を守り給え、予は山を下りて、決戦せん
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「自分等も早晩刑を受ける事であろう。今はただ相共に天国にまみえん事を待つのみである」と呼ばわりながら、見送った。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
予は一夜夢に先生にまみえてこのことを問うた、先生はいう、虚子が何をいう、余計な手入などせぬがかえってよろこばしいのだ。
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
形よりも影、体よりも光り、姿よりも匂いで、人のまみゆる方が多くなった。水にひたす影に於てこそ、もっとも女神の現身うつしみをみることができる。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
例えば「二夫にまみゆべからず」という客観的の倫理を建ててこれを婦人の生命——生活の中枢——とすることをいたのが従来の貞操倫理である。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
この小尼公には、むかし我手にかき抱きて、をかしき畫などかきて慰めまつりし頃より後、再びまみゆることを得ざりき。
大阪なる友人をうを名とし重井に面して両親の意向を告げしに、その喜び一方ひとかたならず、この上は直ちに御両親にまみえんとて、相挈あいたずさえて岡山に来り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それでも日頃尊敬していた人にまみえた、一種の満足を得て、私は社へ帰って参りました。初めての事で非常に印象強く、どうか斯うか纏めて書きました。
職業の苦痛 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
が、残念なことには京阪の間を奔走ほんそうすること三ヵ月、未だ慶喜よしのぶ公にまみえざるに、藩の有力者の手にとらえられてそのまま国元へ送り返されてしまったのだ。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その名家に、万一汚辱を蒙らせるような事があったならば、どうしよう。臣子の分として、九原きゅうげんもと、板倉家累代るいだいの父祖にまみゆべきかんばせは、どこにもない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一人は人にまみえずに地上を周遊して善人を助け、一人はもっぱら牛を護るという(グベルナチス伯とサルキンの説)。
松田氏は其母が福山の士太田兵三郎の姉であつたので、名望ある柏軒にまみえてにへを執るに至つたのださうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
……曲線に依りて成りたちたる一個の物体ありとして、試みにかれ盛装せいさうして吾人ごじんまみゆるまでの順序を思へ
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どんなかおをしてわたしにまみえるか見てやりたい——といった気分がさせる業で、もとより七里の渡しにも、伊勢の国にも、恩も怨みも微塵あるわけではないが
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
陽貨ようか、孔子を見んと欲す。孔子まみえず。孔子にいのこおくる。孔子其の亡きを時として、往きて之を拝す。これみちに遇う。孔子に謂いて曰く、来れ、われなんじと言わんと。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
またむかし武田勝頼たけだかつより三河みかわ長篠城ながしのじょうを囲み、城中しょくきもはや旬日じゅんじつを支え得なかった時、鳥居強右衛門とりいすねえもん万苦ばんくおかして重囲をくぐり、徳川家康とくがわいえやすまみえて救いを乞い
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
されどかかるわらべめきたるものをことさらに掲げて諸君にまみえんとにはあらず、朝々あさあさ病の牀にありて新聞紙をひらきし時我書ける小文章に対していささか自ら慰むのみ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
即ち彼としては、切腹仰せ付けられようとも武士たる道をみ違えまいとする一念が、心中に燃えていたので、舊主にまみえてその裁断に服しようとしたのであろう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いや実に昔は何か貞女両夫にまみえずの教訓を守って居りましたが、かえってそれでは御先祖へ対しても不孝にも相成ること、拙者主人美作守みまさかは小禄でござるけれども
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
孫子武そんしぶ齊人也せいひとなり兵法へいはふもつ呉王闔廬ごわうかふろまみゆ。闔廬かふろいはく、(一)の十三ぺんわれことごとこれる。(二)もつすこしくこころみにへいろくきか』と。こたへていはく、『なり』と。
今より後は大王も、枕を高く休みたまはん、これひとへに和主が働き、その功実に抜群なりかし。われはこれより大王にまみえ、和主が働きを申上げて、重き恩賞得さすべし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
大正元年の秋海外の旅にいでしより余の永井荷風先生にまみえざる事既に久しく、昨年十月歸朝以來常にお目にかかり度くおもひながら、機を得ずして遂に今日に及びたりしが
貞婦二夫にまみえずなど根拠もなき愚説を喋々して、却て再縁を妨ぐるの風あるこそ遺憾なれ。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
相当の成績をもって二人にまみえるためには——と、ここで性来うまれつき人なみ外れて身が軽く、それに山奥育ちで木登りは十八番おはこ、足も滅法早いところから、さっそく盗賊に早変り
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私の廻りには大勢のお母さんと大勢のお父さんが居るでせう。私は其中の一人にも満足して居ません。私は彼等の様に凡ての点に貧弱で児にまみえる度強を持して居ませんもの。
獄中の女より男に (新字旧仮名) / 原田皐月(著)
道徳の方からは、「貞女両夫にまみえず」なぞと睨み付けられているし、習慣の方からは世間の口端くちはという奴が「女にあれがあってはねえ」と冷たい眼で見詰められております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
賢弟とわかれて国にくだりしが、国人くにびと大かた経久がいきほひにきて、塩冶えんやめぐみかへりみるものなし。従弟いとこなる赤穴あかな丹治、富田の城にあるをとむらひしに、利害を説きて吾を経久にまみえしむ。
飄々へうへうたる天地の一沙鴎いちさおうかくて双翼さうよくおもひはらんで一路北に飛び、広瀬河畔ひろせかはんに吟行する十日、神威犯しがたき故苑の山河にまみえんがために先づ宮城野の青嵐に埃痕あいこんを吹き掃はせて、かくて
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
筆をって読者にまみえんとする余が入社の辞に次いで、余の文芸に関する所信の大要を述べて、余の立脚地と抱負とを明かにするは、社員たる余の天下公衆に対する義務だろうと信ずる。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分ながら心配でならぬ——一体、僕は貞婦両夫にまみえずといふ在来の道徳主義を非とする者で、天下の寡婦くわふは再婚すべしといふ論者であるのだ、事情の許さるゝものは兎も角も、いや
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
今富士の膝下ひざもとへ来て亡き母の顔にまみえまつるが如く、しみじみと見ているのだ。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
身には数創を帯び、みずからの血と返り血とで、戎衣じゅういは重くれていた。彼と並んでいた韓延年かんえんねんはすでに討たれて戦死していた。麾下きかを失い全軍を失って、もはや天子にまみゆべき面目はない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
兄妹の父村松将太夫むらまつしょうだゆうが、老職と意見の衝突をして小笠原志摩守おがさわらしまのかみを退身してから十五年、二君じくんまみえずと云って清貧のうちに父は死し、母も五年以前に父を追って逝った——それから今日まで
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それどころか、僕は『あに五斗米のために腰を折って郷里の小児にまみえんや』
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
我が手のもしも觸れたらば恥かしく恐ろしく我身はふるへて我がいきはとまりぬべく、總じて夢中にまみへしひとは嬉しく床しくなつかしく、親しさは我れに覺えなけれど母のやうにも有りけるを
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私は棺側に進んで、おしづさんの亡骸なきがらまみえた。おしづさんは病症の所爲せゐとかで、宛然まるで石膏細工のやうな顏や手をして居ました。髮だけは生前私が記憶して居るまゝに、黒く長く枕邊に亂れて居た。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
おおいとり互にまみ寒牡丹かんぼたん
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
漸く思ひ定めやしけむと身を起して衣服をあらため、感応寺に行き上人にまみえて昨夜の始終をば隠すことなく物語りし末
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
まさかりを手にし、鉄の面と鉄のくつと鉄の手袋をつけ、一つは黄色の馬飾りを施し、一つは藍色あいいろの馬衣を置いて、互いに相まみえた。
私は再び君にまみゆることを得て、君の温なる唇を我手背に受け候ひぬ。今や戸外に送りいだしまゐらせて、私は再び屋根裏の一室に獨坐し居り候。