見窄みすぼ)” の例文
村の学校は、其頃まだ見窄みすぼらしい尋常科の単級で、外に補習科の生徒が六七人、先生も高島先生一人りだつたので、教場も唯一つ。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
見窄みすぼらしい安居院の屋根には、疫病やみのやうな鴉が一羽とまつて、をりをり頓狂な聲を出してそこらをきよろきよろ見まはしてゐる。
飛鳥寺 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
前の晩に悉皆すつかり荷造りして置いた見窄みすぼらしい持物を一臺のくるまに積み、夜逃げするやうにこつそりと濃い朝霧に包まれて濕つた裏街を
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
うねえ、もすこおほきくなりたいの、らずらずのうちに』とつてあいちやんは、『三ずんばかりぢや見窄みすぼらしくッて不可いけないわ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
すると、學校から歸つた後の毎夜々々の長い時間を何もしないで持てあましてゐる自分の姿が見窄みすぼらしく目先にちらついた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
下関の桟橋へ着いた七千トン級の関釜かんぷ連絡船、楽浪丸らくろうまるの一等船室から一人の見窄みすぼらしい西洋人がヒョロヒョロと出て来た。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子供をぶった見窄みすぼらしい中年の男に亀井戸たままでの道を聞かれ、それが電車でなく徒歩で行くのだと聞いて不審をいだき、同情してみたり
雑記帳より(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今は、この見窄みすぼらしい薔薇が、どんな花をひらくか、それだけに、すべての希望をつながなければならぬ。無抵抗主義の成果、見るべし、である。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
おそろしく潔癖けつぺきしも見窄みすぼらしい草木さうもく地上ちじやうにじりつけた。人間にんげんりたものはでもはたでも人間にんげんりて到處いたるところをからりとさせる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
銀座の舗道ほどうから、足を踏みはずしてタッタ百メートルばかり行くと、そこに吃驚びっくりするほどの見窄みすぼらしい門があった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その男は、服装みなりから見ても人柄から見ても、高等乞食こじきとでも称し得るようなタイプをそなえていた、すなわち非常な見窄みすぼらしさとともにまた非常な清潔さを。
私は気易いのびのびした心持で、四辺あたり見窄みすぼらしい石版画の額や、黄色くなった窓レースを眺め廻した。表道路に面した窓の外に素焼の植木鉢が投出してある。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
売れッ子の若い人気作者の住居すまいとは思われない古風な武者窓むしゃまどの付いたすこぶ見窄みすぼらしい陰気な長屋であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「が、酒のいきおいを借りて、と云うのが、打明けた処だろう——しかも今夜——頭から恐入らされたよ。」と、もう一呼吸ひといき、帽子を深草、みのより外套がいとう見窄みすぼらしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑貨店・雑穀屋・呉服店、小さな見窄みすぼらしいそれらの店の間に挟まって、一軒の薄汚い居酒屋があった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それから歸りに、近くにゐる知人のところで油を賣つて、日暮時分にのそ/\歸つて來ると、見窄みすぼらしい住居の入口は、夕方はなほ更物淋しい。家の内はもう薄暗かつた。
胡瓜の種 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
道は追々と勾配を増すが、間明野まみょうのを過ぎて桑西くわさいに至る迄は迷うようなことは滅多にない。極めて寒村らしく想像される沿道の部落も、見窄みすぼらしい住居は余り見受けなかった。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
小学生にでも着せるような袖の軽い着物を、風呂からあがって着け終わった時には、なんという見窄みすぼらしくも滑稽な姿になったものかと尾田は幾度も首を曲げて自分を見た。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
義男は自分の見窄みすぼらしさをからかつてゐる樣な女の態度に反感を持つて默つてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
其の途端に袂の柿がころ/\と草原に轉がり出た。選りに選つて見窄みすぼらしい小ひさな柿なのを、獵師も意外に思ふ風で見てゐたが、更に文吾を捻ぢ伏せて、兩の袂から、懷中までを檢めた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それは彼の田舎の家の前を通っている街道に一つ見窄みすぼらしい商人宿があって、その二階の手摺てすりの向こうに、よく朝など出立の前の朝餉あさげを食べていたりする旅人の姿が街道から見えるのだった。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
すると、自分の身分、自分の運命、自分の真価値が、到底、いま目前に悠然と寝そべっているこの男に対してはあまりに見窄みすぼらしい、比べものにならないものだという羞恥がこみあげて来た。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
うち見窄みすぼらしかったが、主人も襟垢えりあかの附た、近く寄ったら悪臭わるぐさにおいぷんとしそうな、銘仙めいせんか何かの衣服きもので、銀縁眼鏡ぎんぶちめがねで、汚いひげ処斑ところまだらに生えた、土気色をした、一寸ちょっと見れば病人のような、陰気な
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
伸び上って見ると櫃台の下のしきいの上に孔乙己が坐っている。顔が瘠せて黒くなり何とも言われぬ見窄みすぼらしい風体で、破れ袷一枚著て両膝を曲げ、腰にアンペラを敷いて、肩から縄で吊りかけてある。
孔乙己 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかも今日来た時に気がついて私の上げて置いた見窄みすぼらしい野生の花は悄然しょんぼりと淋しく挿さっているほかには、今あの人たちがお詣りに来たにもかかわらずそこに花らしいものの影すらないのであった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
御主おんあるじかんむりとなつた荊棘いばらの木よ、血塗ちまみれの王のひたひめた見窄みすぼらしい冠。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
村の學校は、其頃まだ見窄みすぼらしい尋常科の單級で、外に補習科の生徒が六七人、先生も高島先生一人りだつたので、教場も唯一つ。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其日は紀元節で、見窄みすぼらしい新開街の家々にも國旗がひるがへつて見えた。さうした商家の軒先に立つて私は番地を訪ねなどした。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そうして乞食のように見窄みすぼらしくなった先生の姿に驚いている生徒たちに向って、ポツポツと講義を初めたのであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
亜米利加の大富豪おほものもちロツクフエラアが、まだ年盛としざかりの頃、何処へ出掛けるにも、見窄みすぼらしい服を着て平気でゐるので、仲のいゝ友達は気が気でなかつた。
窓外では、見窄みすぼらしい身裝なりをした朝鮮工夫が道路の修繕をしてゐた。僅かばかりの石を入れた籠を重さうに脊負つてノロ/\と坂を上つて來る工夫もあつた。
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
その地平線の一方には上野たけだいのあの見窄みすぼらしい展覧会場もぼんやり浮き上がっているのに気が付く。
帝展を見ざるの記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
勘次かんじはたけ蜀黍もろこし被害者ひがいしやがいつたやうに、なさけないやうな見窄みすぼらしいがさらりとつてそれでも恐怖心きようふしんられたといふやうに特有もちまへな一しゆさわがしいひゞきてつゝあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
広瀬に行く途中雲が切れて雁坂山と破風山を望むことが出来た。長く伸びた山の鼻を廻って少し登ると、原のような平に如何にも見窄みすぼらしい人家が十五、六軒あるのに気が付く。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこは壊れた敷石の所々に、水溜りの出来ている見窄みすぼらしい家並やなみのつゞいた町であった。玄関の円柱はしらに塗った漆喰しっくいが醜くはがれている家や、壁に大きな亀裂ひびのいっている家もあった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
荒布あらめとも見える襤褸頭巾ぼろずきんくるまって、死んだとも言わず、生きたとも言わず、黙って溝のふちに凍り着く見窄みすぼらしげな可哀あわれなのもあれば、常店じょうみせらしく張出した三方へ、絹二子きぬふたこの赤大名
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
絵甲斐機えがいき胴裏どううらが如何にも貧弱で見窄みすぼらしかったので
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
爾等なんぢら見窄みすぼらしい繪馬ゑまの前に
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
出入りの執筆同人の文士たちに見窄みすぼらしい田舎者の父を見せることを憂へて、折返し私は電報で上京を拒んだ。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
どちらもほんとに結構な心掛だがかう諸式が高くなつては、多くの人の食卓は、これが神様の下され物だらうかと、怪しまれるやうに見窄みすぼらしくなつて来る。
ムンムンする香水の匂いで息が詰りそうな中にタッタ一人突立っている見窄みすぼらしいあっしの姿が、向うの壁一パイに篏め込んで在る大鏡に映ったのを見た時にゃ
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それを羨ましに見ながら、同年輩の見窄みすぼらしいなりをした、洗洒しの白手拭を冠つた小娘が、大時計の下に腰掛けてゐる、目のショボ/\した婆樣の膝に凭れてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
兎も角も自分の子供の時にはみんな貴重な舶來物であつた品物が、ちやんと此處等のこんな見窄みすぼらしい工場で出來て綺麗なラベルなどを貼られて市場に出てくるのであらう。
写生紀行 (旧字旧仮名) / 寺田寅彦(著)
それに比べると、私の会長振りは見窄みすぼらしくて、有れども無きが如くであった。
ペンクラブと芸術院 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
大自然だいしぜんの、悠然いうぜんとして、つちみづあたらしくきよ目覺めざむるにたいして、欠伸あくびをし、はならし、ひげき、よだれつて、うよ/\とたなかひこうごめづる有状ありさまは、わる見窄みすぼらしいものであるが
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぐるり山の鼻を廻ると打ち開けた岩の多い緩傾斜の窪地に、入口を此方に向けて建てられた見窄みすぼらしい鉱山の事務所が現れる、其下の方にも二つほど可なりの建物があった、飯場であろう。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
男とそして女——何といふ見窄みすぼらしい相手であらう。相手が無くて済むのだつたら、結婚は理想的である。
そうして四十を越してから妻を亡くした見窄みすぼらしい自分自身の姿が、こころもち前屈まえかがみになって歩いて行く姿を、二三十けん向うの線路の上に、幻覚的に描き出しながらも……。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして尾瀬の風光がいつも昔と変らぬ自然のままの姿であることに大きな喜びを感ずると共に、魚釣りや蕨取りの見窄みすぼらしい小屋に雨露を凌いだことのある身には、改築された長蔵小屋などは
尾瀬の昔と今 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
蘆花君は薄暗いへやの隅つこで、膝小節ひざこぶしを抱へ込んだ儘、こくりこくりと居睡ゐねむりをしてゐる。附近あたりには見窄みすぼらしい荷物が一つきりで、何処にもその「善い物」は見つからなかつた。