行先ゆくさき)” の例文
小六ころく宗助そうすけきるすこまへに、何處どこかへつて、今朝けさかほさへせなかつた。宗助そうすけ御米およねむかつて別段べつだんその行先ゆくさきたゞしもしなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
市中の電車に乗って行先ゆくさきを急ごうというには乗換場のりかえばすぎたびごとに見得みえ体裁ていさいもかまわず人を突き退我武者羅がむしゃらに飛乗る蛮勇ばんゆうがなくてはならぬ。
ソレカラ考えて見ると、今日の書生にしても余り学問を勉強すると同時に始終我身の行先ゆくさきばかり考えて居るようでは、修業は出来なかろうと思う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
行先ゆくさきあんじられて、われにもあらずしよんぼりと、たゝずんではひりもやらぬ、なまめかしい最明寺殿さいみやうじどのを、つてせうれて、舁据かきすゑるやうに圍爐裏ゐろりまへ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
行先ゆくさき何處いづこちゝなみだは一さわぎにゆめとやならん、つまじきは放蕩息子のらむすこつまじきは放蕩のら仕立したつ繼母まゝはゝぞかし。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
聞て然らばいづれへ參りしや其行先ゆくさきを御存じなるか重四郎され今晩こんばん元栗橋もとくりばし燒場隱亡やきばをんばう彌十の處に於て長半が出來ると云によりゆふ申刻頃なゝつごろから行べしと拙者それがし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其人そのひといま新聞しんぶん題目だいもくとなつて世人よのひといぶか旅路たびぢこゝろざしたといふ、その行先ゆくさき何地いづこであらう、その目的もくてきなんであらう。
それにしては此処こゝらにいなさらねばならぬ筈だに……こりゃ神奈川まで行って待っていなさるんだろうか、私が行先ゆくさきも知らないことは能く呑込んでいるんだから
その名をぬひと呼ぶと聞きて、行先ゆくさき人の妻となりてたちぬひの業に家を修むる吉瑞きちずゐありと打ち笑ひぬ。時も移りて我は老婆と少娘との紙帳しちやうに入りて一宵いつせうを過ごしぬ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
幾百台の荷馬車が並んで、懸声かけごえいさましく、上熊本駅と熊本駅を行先ゆくさきにして、往復が絶えなかった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
そして爆発的に泣き出した。その次の度からは早く出ようとすると、「あなた今からどこへ行くのです」と云って、無理に留めようとする。行先ゆくさきを言えば嘘だと云う。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
まづ責任せきにん閑過かんくわする一れいまをしませう。それはおも外出ぐわいしゆつなどについおこ事柄ことがらで、塾生じゆくせい無論むろんわたくしおやから責任せきにんもつあづかつてゐるのですから出入ではいりつきては行先ゆくさき明瞭めいれうにしてきます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
此処ここでは皆の人がだ自分の行先ゆくさきばかりを考へる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
此処ここでは皆の人がだ自分の行先ゆくさきばかりを考へる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
神楽坂かぐらざかりて、あてもなく、いた第一の電車につた。車掌に行先ゆくさきを問はれたとき、くちから出任でまかせの返事をした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
堀割ほりわりづたいに曳舟通ひきふねどおりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先ゆくさきの分らないほど迂回うかいした小径こみち三囲稲荷みめぐりいなりの横手をめぐって土手へと通じている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
絶頂ぜつちやうなかわるかつたときは、二人ふたりともにそむそむきで、そとへいらつしやるに何處どこへとふたことければ、行先ゆくさきをいひかれることい、お留守るす他處よそからお使つかひがれば
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
右の手に持あらはれ出たる一人のをんな行先ゆくさき立塞たちふさがおのれ大惡だいあく無道ぶだうの吾助大恩有る主人と知りながら兄君あにぎみがいし岡山を立退のきし事定めて覺え有べし今爰にあひしは天のたまもの疾々とく/\勝負しようぶ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
頓と其の行先ゆくさきが分りませんので、梨売重助も心配して、お手紙一本お寄越しなさらない訳はないのだが、旅で煩っていらっしゃるのではないかと案じられるから、売卜者うらないしゃて貰ったり
やがて、そなたの行先ゆくさき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
堀割ほりわりづたひに曳舟通ひきふねどほりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先ゆくさきわからないほど迂囘うくわいした小径こみち三囲稲荷みめぐりいなり横手よこてめぐつて土手どてへと通じてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
Kの行先ゆくさきを心配するこの姉に安心を与えようという好意は無論含まれていましたが、私を軽蔑けいべつしたとよりほかに取りようのない彼の実家や養家ようかに対する意地もあったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふいとつてうちをば御出おであそばさるゝ、行先ゆくさきいづれも御神燈ごじんとうしたをくゞるか、待合まちあひ小座敷こざしき、それをば口惜くちをしがつてわたしうらみぬきましたけれどしんところへば、わたし御機嫌ごきげんりやうがわるくて
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
上げ此程申上ました通り十兵衞の後家お安へは妹娘は或屋敷あるやしきへ奉公にあげたといつはり私しと長庵兩人ふたりで丁字屋へ三十兩に賣代うりしろなし其内私しは長庵よりわづかに五兩もらひ候處お安も其後妹娘の行先ゆくさきへんだと思ふたやら兩人の娘にあはしてれ/\と長庵に晝夜ちうや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
せまく暗い路地裏ろぢうらのいやに奥深おくふか行先ゆくさき知れず曲込まがりこんでゐるのを不思議さうに覗込のぞきこむばかりであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
自分は薄志弱行はくしじゃっこうで到底行先ゆくさきの望みがないから、自殺するというだけなのです。それから今まで私に世話になった礼が、ごくあっさりとした文句でそのあとに付け加えてありました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不意に彼と彼の家族が、今までとはまるで別物のように私の眼に映ったのです。私は驚きました。そうしてこのままにしておいては、自分の行先ゆくさきがどうなるか分らないという気になりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行先ゆくさきはさぞや門出かどでの初ざくら
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もん行先ゆくさきまどふ雪見かな
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)