トップ
>
莟
>
つぼみ
ふりがな文庫
“
莟
(
つぼみ
)” の例文
吃驚
(
びっくり
)
したようにあたりを見ながら、夢に、
菖蒲
(
あやめ
)
の花を三本、
莟
(
つぼみ
)
なるを手に提げて、暗い処に立ってると、
明
(
あかる
)
くなって、
太陽
(
ひ
)
が
射
(
さ
)
した。
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そしてその下の方に茂つてゐる大株の山吹が、二分どほり透明な黄色い
莟
(
つぼみ
)
を
綻
(
ほころ
)
ばせて、何となし晩春らしい気分をさへ
醸
(
かも
)
してゐた。
花が咲く
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
まだ名物の桜の
莟
(
つぼみ
)
も固く、道の枯草に浅緑も
蘇返
(
よみがえ
)
らず、うるんだような宵月が、二人の影法師を長く苅田の中へ引いて居ります。
銭形平次捕物控:245 春宵
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
ちょうど三月の末、
麦酒
(
ビール
)
会社の岡につづいた桜の
莟
(
つぼみ
)
が
綻
(
ほころ
)
びそめたころ、私は
白金
(
しろかね
)
の塾で大槻医師が転居するという噂を耳にした。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
明朝咲く朝顔の
莟
(
つぼみ
)
を数えて報告するのもある。幼い女児二人は縁側へいろいろなお花を並べて花屋さんごっこをする事もある。
小さな出来事
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
▼ もっと見る
が、その次の
瞬間
(
しゅんかん
)
には、私はその同じ茂みのうちに殆ど二三十ばかりの花と、それと殆ど同数の半ば開きかかった
莟
(
つぼみ
)
とを数えることが出来た。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
我を切り、突き、剜らんとする一切
兇悪
(
きょうあく
)
の
刀槍剣戟
(
とうそうけんげき
)
の類は、我に触れんとするに当って、其の刃頭が皆
妙蓮華
(
みょうれんげ
)
の
莟
(
つぼみ
)
となって地に落つるを観た。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
木村の好きな雁皮の樺色の花なんぞがそれで、近所の雑草を抜かうとして手が触れると、切角
莟
(
つぼみ
)
を持つてゐる茎が節の所から脆く折れてしまふ。
田楽豆腐
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
花ならばまだほんの
莟
(
つぼみ
)
みたいなようなもんだけど、利口なことにかけたら、先祖のパタシヨン・パタポンなんか足もとへも及ばないぐらいなのよ。
ノンシャラン道中記:08 燕尾服の自殺 ――ブルゴオニュの葡萄祭り――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
路傍
(
みちばた
)
にはもう
蕗
(
ふき
)
の
薹
(
とう
)
などが芽を出していました。あなたは歩きながら、
山辺
(
やまべ
)
も
野辺
(
のべ
)
も春の
霞
(
かすみ
)
、小川は
囁
(
ささや
)
き、桃の
莟
(
つぼみ
)
ゆるむ、という唱歌をうたって。
冬の花火
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
「
然
(
さ
)
うかなあ。俺は少し、底に
斯
(
か
)
う空色を帯びたやうな赤い
莟
(
つぼみ
)
があつたと思つたのに。それを一つだけ欲しかつたのさ」
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
駅を下りてからの長い桜並木は、まだ
莟
(
つぼみ
)
が堅くて、
籬
(
まがき
)
の中には盛りの過ぎた白梅が、風もないのにこぼれておりました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
満枝はさすが
過
(
あやまち
)
を悔いたる
風情
(
ふぜい
)
にて、やをら左の
袂
(
たもと
)
を
膝
(
ひざ
)
に
掻載
(
かきの
)
せ、
牡丹
(
ぼたん
)
の
莟
(
つぼみ
)
の如く
揃
(
そろ
)
へる
紅絹裏
(
もみうら
)
の
振
(
ふり
)
を
弄
(
まさぐ
)
りつつ、彼の
咎
(
とがめ
)
を
懼
(
おそ
)
るる
目遣
(
めづかひ
)
してゐたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
奥はまだ
莟
(
つぼみ
)
が堅かった。
金峰山
(
きんぷせん
)
神社・蹴抜けの塔、山道の青草の上を行く人がない。西行庵は、前がつまっているので、もうほのぐらくなって居た。
花幾年
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
夏も末の頃になつて漸く新らしい枝のさきに白い粉の吹いたやうな
莟
(
つぼみ
)
が沢山につきはじめて、其の苔がほころびるとはじめて赤い花が咲くのであつた。
百日紅
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
さうしてそれが頭の上の水面へやつと届いたと思ふと、忽ち白い
睡蓮
(
すゐれん
)
の花が、丈の高い芦に囲まれた、藻の匀のする沼の中に、
的皪
(
てきれき
)
と
鮮
(
あざやか
)
な
莟
(
つぼみ
)
を破つた。
沼
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
莟
(
つぼみ
)
の出来ただけを
悉
(
ことごと
)
く花にし、その花も千切ったりせずに、皆実になるに任せて置いて、
蔓
(
つる
)
ごと引たぐるという意味であろう。平凡なる駄朝顔である。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
器量は色が白いだけでたいしたこともないけれど、その律義と初々しさが水仙の
莟
(
つぼみ
)
のようで、わたくしは何だか下から煽られているような気がいたします。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
が、よく見ると、そのなかで花弁をぱつとはでやかに開いてゐるのは、まだほんの二三分で、残りの七八分方は言ひ合せたやうにふはりと膨らんだ
莟
(
つぼみ
)
のままだ。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
昨日
(
きのう
)
の雨を
蓑
(
みの
)
着て
剪
(
き
)
りし人の
情
(
なさ
)
けを
床
(
とこ
)
に
眺
(
なが
)
むる
莟
(
つぼみ
)
は一輪、巻葉は二つ。その葉を去る三寸ばかりの上に、天井から
白金
(
しろがね
)
の糸を長く引いて一匹の
蜘蛛
(
くも
)
が——すこぶる
雅
(
が
)
だ。
一夜
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
しかし僕の学才は矢張り
莟
(
つぼみ
)
のまゝで
萎
(
しぼ
)
む運命を持っていた。人の
所為
(
せい
)
にするのではないが、本科に進んでから未だ学校が始まらない中に、菊太郎君はもう決心が生返って
勝ち運負け運
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
然
(
しか
)
しその眼元はあの
無垢
(
むく
)
な光を失って一種鋭どい酷薄な光りを帯び
柔
(
やさ
)
しく
綻
(
ほころ
)
びかかった花の
莟
(
つぼみ
)
のようであった唇の辺りには、妙に残忍な
邪慳
(
じゃけん
)
な調子が表われているのです。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
薔薇の
莟
(
つぼみ
)
の花環が彼女の額にまかれ、足は絹の靴下と小さな
白繻子
(
しろじゆす
)
の靴とでよそはれてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
綱手は、紅い
莟
(
つぼみ
)
のように、ふくらんでいる眼瞼から、愛と、情熱とを込めて、月丸を見た。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
桔梗
(
ききょう
)
もまた羞ぢて
莟
(
つぼみ
)
を垂れんとす、
眇
(
びょう
)
たる五尺の身、この色に沁み、この火に焼かれて、そこになほ我ありとすれば、そは同化あるのみ、同化の極致は大我あるのみ、その原頭を
山を讃する文
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
フックラと
莟
(
つぼみ
)
のように、海に浮いた島々が、南洋ではどんなに奇麗なことだろう。それは、ひどい搾取下にある島民たちで生活されているが、見たところは、パラダイスであった。
労働者の居ない船
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
戀
(
こひ
)
しいお
人
(
ひと
)
、さよなら!
此
(
この
)
戀
(
こひ
)
の
莟
(
つぼみ
)
は、
皐月
(
さつき
)
の
風
(
かぜ
)
に
育
(
そだ
)
てられて、
又
(
また
)
逢
(
あ
)
ふまでには
美
(
うつく
)
しう
咲
(
さ
)
くであらう。さよなら/\! お
前
(
まへ
)
の
胸
(
むね
)
にも
予
(
わし
)
の
胸
(
むね
)
にも、なつかしい
安息
(
あんそく
)
の
宿
(
やど
)
りますやう!
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
解
(
とき
)
ほどけばさすがに梅は雪の中に
莟
(
つぼみ
)
をふくみて春待かほなり、これ春の末なり。
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
油のはいった
皿
(
さら
)
があって、その皿のふちにのぞいている
燈心
(
とうしん
)
に、桜の
莟
(
つぼみ
)
ぐらいの小さいほのおがともると、まわりの紙にみかん色のあたたかな光がさし、附近は少し明かるくなったのである。
おじいさんのランプ
(新字新仮名)
/
新美南吉
(著)
わずかに庭前の
筧
(
かけひ
)
の傍にある
花梨
(
かりん
)
の
莟
(
つぼみ
)
が一つ
綻
(
ほころ
)
びかけているのを、いかにも尼寺のものらしく眺めなどしながら、山の清水の美味なのに舌鼓を打ちつつコップに何杯もお代りを所望したりして
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
そうするうちに五分刈の綾之助は
稚子髷
(
ちごまげ
)
になった。また男髷になった。十四、十五と花の
莟
(
つぼみ
)
は、花の盛りに近づいていった。明治廿三年には十六歳となった。女義界の綾之助は桜にたとえられた。
竹本綾之助
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
けれどもそれは
莟
(
つぼみ
)
が春になってふくらむように確実に、そうすべきときにそれに服従してとどろく己が法則をもっているのだ。大地はどこからどこまでも生きており、小乳頭状突起でおおわれている。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
含
(
ふふ
)
める
莟
(
つぼみ
)
に咲いての後の奇蹟を待たせられた時です。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
澄
(
す
)
ますに
吹
(
ふ
)
き
渡
(
わた
)
る
風
(
かぜ
)
定
(
さだ
)
かに
聞
(
きこ
)
えぬ
扨
(
さて
)
追手
(
おつて
)
にもあらざりけりお
高
(
たか
)
支度
(
したく
)
は
調
(
とゝの
)
ひしか
取亂
(
とりみだ
)
さんは
亡
(
な
)
き
後
(
のち
)
までの
恥
(
はぢ
)
なるべし
心靜
(
こゝろしづ
)
かにと
誡
(
いまし
)
める
身
(
み
)
も
詞
(
ことば
)
ふるひぬ
慘
(
いた
)
ましゝ
可惜
(
あたら
)
青年
(
せいねん
)
の
身
(
み
)
花
(
はな
)
といはゞ
莟
(
つぼみ
)
の
枝
(
えだ
)
に
今
(
いま
)
や
吹
(
ふ
)
き
起
(
おこ
)
らん
夜半
(
よは
)
の
狂風
(
きやうふう
)
別れ霜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
小豆
(
あづき
)
売る小家の梅の
莟
(
つぼみ
)
がち
俳人蕪村
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
いと甘き
沈丁
(
ぢんてう
)
の
苦
(
にが
)
き
莟
(
つぼみ
)
の
東京景物詩及其他
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
莟
(
つぼみ
)
の花に震ふ手を。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
とその蹴出しの下に脱いで揃えた白足袋が、蓮……蓮には済まないが、思うまま言わして下さい。……
白蓮華
(
びゃくれんげ
)
の
莟
(
つぼみ
)
のように見えました。
甲乙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
半分開けた障子は、手細工の切張りだらけですが、例の淺黄色の空が覗いて、
盆栽
(
ぼんさい
)
の梅の
莟
(
つぼみ
)
のふくらみが、八五郎の膝に這つて居るのです。
銭形平次捕物控:248 屠蘇の杯
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
これは青虫ほど旺盛な食慾をもっていないらしいが、その代り云わば少し贅沢な嗜好をもっていて、ばらの
莟
(
つぼみ
)
を選んで片はしから食って行くのである。
蜂が団子をこしらえる話
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
銀子にもそんな思い出の一つや二つはあったが、彼女が出たての
莟
(
つぼみ
)
のような清純さを冒された悔恨は、今になっても
拭
(
ぬぐ
)
いきれぬ
痕
(
あと
)
を残しているのであった。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
たとえば、三日見ぬうちに
莟
(
つぼみ
)
であった桜が、もう満開になってしまった、というだけでは満足しないで、「世の中は三日見ぬ間に桜かな」といわねば承知せぬ。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
それは
美男葛
(
びなんかずら
)
といってね。夏は青白い花が咲くのだ。もう
莟
(
つぼみ
)
があるだろう。実が熟すると南天のように赤くて綺麗だよ。蔓の皮を
剥
(
は
)
いで水に浸すと、
粘
(
ねばり
)
が出るのを
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
そうやって植込みの中にすっぽりと身を入れていると、あちらこちらの小さな枝の上にときどき何かしら白いものが光ったりした。それはみんな
莟
(
つぼみ
)
らしかった。……
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
籬には
蔓草
(
つるぐさ
)
が
埒無
(
らちな
)
く
纏
(
まと
)
いついていて、それに黄色い花がたくさん咲きかけていた。その花や
莟
(
つぼみ
)
をチョイチョイ
摘取
(
つみと
)
って、ふところの紙の上に
盛溢
(
もりこぼ
)
れるほど持って来た。
野道
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
派手で勝気で、爛漫と咲き乱れる筈の大輪の花の
莟
(
つぼみ
)
が、とかく水揚げ兼ねている。あんたはそういう女だ。その
蝕
(
むしば
)
みは何処にも見えない。茎は丈夫だし、葉は艶々しい。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
それは淡紅色な大輪の花であつたが、太陽の不自然な温かさに誘はれて
莟
(
つぼみ
)
になつて見たけれども、朝夕の
晷景
(
ひかげ
)
のない時には、南国とても寒中は薔薇に寒すぎたに違ひない。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
先には土いきれに
凋
(
しぼ
)
んだ
莟
(
つぼみ
)
が、花びらを暑熱に
扭
(
ねじ
)
られながら、かすかに甘い
匀
(
におい
)
を放っていた。雌蜘蛛はそこまで上りつめると、今度はその莟と枝との間に休みない往来を続けだした。
女
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
鳩の首を
捩
(
ね
)
ぢようが、孔雀の雛を殺さうが、犬を
嗾
(
けしか
)
けて羊を追ひ𢌞さうが、温室の葡萄の
果
(
み
)
をちぎらうが、一番大事な花の
莟
(
つぼみ
)
を
毮
(
むし
)
らうが、誰ひとりとして、邪魔するものもなければ
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
磨かれぬ智慧を抱いたまま、何も知らず思わずに、過ぎて行った幾百年、幾万の貴い
女性
(
にょしょう
)
の間に、
蓮
(
はちす
)
の花がぽっちりと、
莟
(
つぼみ
)
を
擡
(
もた
)
げたように、物を考えることを知り
初
(
そ
)
めた郎女であった。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
“莟(
蕾
)”の解説
蕾(つぼみ、莟)とは、まだ開いていない状態の花のことである。転じて、前途有望な若者をいうこともある。
(出典:Wikipedia)
莟
漢検1級
部首:⾋
10画