こまか)” の例文
太吉は全く火の燃え付いたのを見て、又かたわらの竹を取り上げて小刀であなを明けはじめた。白いこまかな粉がばらばらと破れた膝の上に落ちる。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とき繰返くりかへすやうだけれども、十圓じふゑんたい剩錢つりせん一錢いつせんなるがゆゑに、九圓九十九錢きうゑんきうじふきうせんわかつたが、またなんだつて、員數ゐんすうこまかきざんだのであらう。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こまかく切り離した長吉の死骸(?)いやいやまさかそんなものではありません。実は何万円とも知れぬ莫大なお札の束だったのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こまかく振りて云ひ「旦那え、こゝに堕ちて居るのを拾つて居らつしやるが、それはみんな虫つ喰でございます、木にあるのをお取んなさい」
北満ほくまんの厳寒の野に立つ哨兵しょうへいと全く同じ服装をしてこまかい物理の実験をしようというのだからなかなか思うように仕事ははかどらない。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
何でも旦那方はそこいら中こまかに調べられて、あの雑木林の入口に散っていた沢山の紙切れなんども丁寧に拾って行かれた位いで御座居ます
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
彼らの精神作用について微妙なこまかい割り方をして、しかもその割った部分を明細に描写する手際てぎわがなければ時勢に釣り合わない。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女はそれから先の事をこまかに想像して見ずにはいられなかった。多分男は冷やかに微笑ほほえんで、自分と握手をして、「難有ありがとう」というだろう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
彼はこの女らしくこまかいものに気のつく嫂から、三人も子供をもったことのある人の観察から、なるべく節子を避けさせたかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸をつたひ流れにさかのぼりて進み、また我はわが歩みをこまかにしてそのこまかなる歩みにあはせ、これと相並びて行けり 七—九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
熊野川の谷を遡る時も、瀞八町の渓に船を泛べる時も、玉置山たまきやま大塔おほたふの宮の遺跡を偲ぶ時も、柔かなこまかい雨が常に私の旅の衣をうるほして居た。
春雨にぬれた旅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
しかし、純粋小説に関して、なおこまかい説明をつけようとすれば、ここにまた次の新しい技術の問題が現れて来なければならぬ。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と云って今古本屋から買って来たのは、字のこまかい哲学の書物だから、ここでは折角の名論文も、一頁と読むのは苦痛である。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
然し稀に旅人の手から古新聞を一枚貰つたとき、この仲間でするこまかな議論を聞く事が出来たなら、或る政治家は随分金を払つたかも知れません。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
雨は水沫しぶきだけのように、空一面に、こまかく粉のように拡がった。風も、それに準じて、勢いを収めて、見る内に、山の頂きには青空が顔を出した。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鎌田さんは、お太鼓医者じゃないから、うしても治らないことを力説する為めに専門書を持出した。その図が馬鹿にこまかくて目がチラチラする。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
荷物を背負ったままで、彼れは藁繩の片っ方の端を囲炉裡にくべ、もう一つの端を壁際にもって行ってその上にこまかく刻んだ馬糧の藁をふりかけた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「私があの人に何を言うもんですか」お島は顔をしかめてうるさそうに応答うけごたえをしていたが、出る先へ立って、こまかい話をして聞かす気にもなれなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
毎度の文にてこまかに申上候へども、一通の御披おんひらかせも無之これなきやうに仰せられ候へば、何事も御存無ごぞんじなきかと、誠に御恨おんうらめし存上候ぞんじあげさふらふ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで鋼鉄の弾丸と一緒になって、こまかく細く、はげしい音にのろいの声を叫びながら、砕かれました。そうして焼かれて、立派にセメントとなりました。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「お前はこれまで追分は愚か、鼻唄一つ唄えなかった筈だに、よくまあおいらの追分を、そうまでこまかく調べたものだ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
少しずつしていってパセリをこまかく刻んでいれて塩胡椒で味をつけてい加減な固さになった時ブリキ皿へ盛って上をならしてバターを少し載せてパン粉を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「さうかねえ、それでよくわかったよ。さうして見ると、おまへなんかはまあ割合に早く染めてもらってよかったねえ、なかなかこまかく染まってゐるし。」
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
こまかにして筆鋭し。今日わが文壇に批評の見るべきものなし。悪罵にあらずんば阿諛のみ。車夫馬丁の喧嘩に非ざれば宗匠の御世辞に類するもののみ。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すべ是等これらこまかき事柄はほとんど一目にて余のまなこに映じつくせり、今思うに此時の余の眼はあたかも写真の目鏡めがねの如くなりし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
夫婦の君は我上をこまかに問ひて、今より後も助にならんと契り、こゝに留らん間は日ごとに訪へかしとのたまひぬ。
首藤は熱心な勉強家で國文法に特殊の興味と理解を持つてゐた。彼がこまかく質問し始めると、先生は多くの場合無學さを曝露して答へることが出來なかつた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
蜻蛉の青い、西洋人のやうな眼玉は、鏡のやうに光つてゐて、何かこまかいものがキラキラと美しく映つてゐた。
四郎と口笛 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
半井なからい広明の呈した本は三十巻三十一冊で、けんの二十五に上下がある。こまかに検するに期待にそむかぬ善本であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こまかいので……。大分だいぶあるぞ……。十、二十、三十……九十……と……四……五……六……。二十……七……。間違ひないね。帳面と引合せよう。あとにするか。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
うたがひがかゝると困るとか何とか言つて、女房と口を合せて、大分前に歸つたやうな事を言つてるが、そんなこまかい細工をするのは身に覺えのある奴に限つたことだ
サンシユユとこみちを隔てて向へるツタウルシの木の小さきこまかなる花、その枝に毛虫の繭ひとつ透きて見ゆ。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
胆力双絶の主水之介もいささか呆れ返って、ひょいとそこの床の間に掛けてある軸を見ると、はしなくも目を射たものは次のごとくに書き流されたこまかい文字です。
あの頃がなつかしくてたまらぬと言つた風に、お光は膚理きめこまかい顏に筋肉ををどらせつゝ、小池に寄り添うた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
きめこまかい、きいろい石や、黒い石の上をすべると、思いなしか、沈んだ、冴えた声をして、ついと通る。この谷を一回、大きい徒渉をやる、つづいて二回の小徒渉をやる。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
帆村がそれを開いたのを見ると、こまか罫線けいせんが沢山引いてあって、そこに細い数字が書き込んであった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私が年をとってこまかい文字など見づらいので、校正なども頼みますと、長年れているものですから、手早く親切にやってくれます。それをいつも感謝しておりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
天地は再びもと寂寞せきばくかえったかと思うと、灰のようなこまかい雪が音もせずに降って来た。ういう前触まえぶれの気配を以て降って来た雪は、一丈に達せざれば止まぬのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
思うお人に向っては、女は、怖ろしいほどこまかい心を配っております。けれど、義理の妹の恋を奪って、それで、私ひとりがしあわせになろうなどとは夢にも思やしませんの。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又台所の世帯万端、もとより女子の知る可き事なれば、仮令い下女下男数多あまた召使う身分にても、飯の炊きようは勿論、料理献立、塩噌えんその始末に至るまでも、事こまかに心得置く可し。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
またはこまかく裂かずに一枚の附木を使ったために、身上しんしょうが持てぬと謂って帰された嫁の話なども、つまりはこの物が火吹竹と同じに、ぜにを払わなければならぬ発明であるが故に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼女の林檎りんごのような頬、小鳥のような眼、陽に焼けた手、枯草ヘイの香りのするであろう頭髪、そこには紐育の女なぞに見られない線のこまかい愛らしさがあると、フリント君は思った。
夜汽車 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
仕上の入念さは、日本の手工の特色をよく語る。それはしばしば行き過ぎるまでに完成された仕事である。昔のものと今出来のものとを比べると今の方がずっと神経質で仕事がこまかい。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
此頃になると、感情のあらわし方もこまかく、姿態しなこまやかになっていたものであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
アレサいくら有ってもいのは金、殊に長旅のことなれば、邪魔でもあろうがそう云わずに持って行ってください、そこで私がこまかい金をって、襦袢じゅばんの中へ縫い込んで置く積りだから
「寝ていなさるが枕頭まくらもとに嬢様呼んで何かこまかい声で話をしておいでるようで……」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その上で広い地区をこまかに、細に分割する。分、割と、一字一字力を入れて云つて、手の平で切る真似をしたです。さて細に分割した上で、望の百姓どもにそれを売る。売らなくても好い。
白く肌理きめこまかい金五郎の皮膚にくらべて、友田の身体は、鮫肌さめはだで、どす黒い。そこへ、両腕から背中一面にかけて、自来也じらいやの彫青をしているので、よごれたシャツでも着ているようである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
いろ/\こまかい洋文字のこみいつたスタンプもやつてのけたが、この好景気が続けば私はやがて町に一戸の印章店を構へ、幾人かの下職したしよくを使つて美しいショーウィンドの主人になれさうだつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
もし我が父の知ることもやと例の密室に至りてこのよしを述べけるに、そは難渋むつかしきことにあらず、軟耎やわらかにしてこまかきものを蛇に近づけてそのさわぐを雄と知り、静かなるを雌と知るべしと教へければ
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)