ふせ)” の例文
マサニ鬼雄トナツテ、異日兵ヲ以テ吾ガ国ニ臨ムモノアラバ、神風トナツテ之ヲふせグベシト。家人つつシンデ、ソノ言ニしたがフ。…………
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もし忠邦をして答えしめば、まさにいうべし、「内外の積弊駸々乎しんしんことしてふせぐべからず、一日の猶予は則ち一日の大患なりと知らずや」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
プリニウスはいわくバレアリク諸島に熟兎おおくなって農穫全滅に瀕しその住民アウグスッス帝に兵隊を派してこれをふせがんと乞えりと
ぬる年、みやこにありつる日、鎌倉の兵乱ひやうらんを聞き、九二御所のいくさつひえしかば、総州に避けてふせぎ給ふ。管領くわんれいこれを責むる事きふなりといふ。
それをふせぐには何よりも生命保険に入つて置くに限る、何故といつて生命保険は毀れたインキ壺の代りに、おあしを出して呉れる。
此畔ここに石を沢山積んで置けば、その水の氾濫はんらんふせぐ用に供することが出来ます。消極的信仰上偶然の善事とはいいながら誠に結構けっこうな事です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
清水坂長吏は理不尽にもこれをふせ(四巻一号四頁七行目の欠字は、四月付文書によるに「禦」の字であったと察せられる)
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
若し将門が攻めて行つたのをふせいだものとしては、子飼川をわたつたり鬼怒きぬがはを渡つたりして居て、地理上合点が行かぬ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この性質が吹き切らない限り、僕は人にも僕自身にも僕の信ずる所をはつきりさせて、自他に対する意地づくからも、殻の出来る事をふせがねばならぬ。
芸術その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
プリゴネと称する薬草の液に浸し麝香草じゃこうそうの花を詰めて腐敗をふせぎ云々と書いてありますが、こういう習慣が
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
翁の悲しみも、年老いたる翁を見捨てる姫の悲しみも、また昇天をふせごうとする夜、興奮してののしり騒ぐ人々のありさまも、きわめて躍如として描かれている。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かつまた、文脩まれば武備もしたがって起り、仏人、かきせめげども外そのあなどりふせぎ、一夫も報国の大義を誤るなきは、けだしその大本たいほん、脩徳開知独立の文教にあり。
白いものがちらりと見えたり、かちゃりと鎖の音がしでもすると、私は矢をふせぐ楯のようにいそいで傘を右に低く傾ける。登って行く時なら反対の方へ——左へ傾ける。
吠える (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こいつ今のうちにどうにかふせいで置かなきゃいかんわい……それにはロシア語が一番に必要だ。と、まあ、こんな考からして外国語学校の露語科に入学することとなった。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
またこれ賊の遺物なるを白糸はさとりぬ。けだし渠が狼藉ろうぜきふせぎし折に、引きちぎりたる賊のきぬの一片なるべし。渠はこれをも拾い取り、出刃をつつみて懐中ふところに推し入れたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くこの二思想を調和して民衆を誘導していったならば、こういうわざわいを未然にふせぐ事が出来たに相違ないが、惜いかなこういう人物は当時一人もいなかったのでございます。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
辻売つじうりる処売物うりもの台架だいたなもみな雪にて作る、是を里言りげんにさつやといふ。○獣狩けだものがり追鳥おひとり。○積雪せきせついへうづかへつ寒威かんゐふせぐ。○なつ山間やまあひの雪を以て魚鳥うをとりにく擁包つゝみおけば敗餒くさらず。
唯消極的に敵軍の我領土に上陸侵入することをふせぐに足る程度の中途半端な自衛施設などは、却て侵略国を誘びき出す餌となるに止まり、侵略国を引掛ける釣針にはなりませぬ。
新憲法に関する演説草稿 (新字新仮名) / 幣原喜重郎(著)
更に「し人を殺すをたしなまざる者有らば、天下の民皆くびを引いてこれを望まん、誠にかくの如くんば民のこれに帰するほ水のひくきに就くが如し、沛然はいぜんとして誰かくこれをふせがん」
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
其たまの緒に限らず、霊物の逸出をふせぐ為に結び下げて置くものを、ひもと言ふ。
万葉集研究 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
翩翩はそこで落葉を拾いあつめて寒さをふせぐ用意をしたが、羅が寒そうに体をすくめているのを見ると、ずきんを持って洞穴の口を飛んでいる白雲をとり、それで綿入れをこしらえてやった。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
入道、兄弟けいていかきにせめげども、外その侮りをふせぐという。今や稀代の悪魔がこの日本に禍いして、世を暗闇の底におとそうとする危急の時節に、兄はとかくに弟を妬んで、ややもすれば敵対の色目を
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盾を挙げて頭をふせ
第十四 諸山ノ雪ぜんヲ以テ融釈シ常時諸川ニ適宜ノ冷水ヲ送リ曾テ乾涸ヲ致サズ以上人命ノ係ルトコロ最大 夏月ハ冷冬月ハ温 熱ヲ解シ寒ヲふせグ天地ノ神工もとヨリ偶然ニ非ズ 路上ノ積雪我儕わがせいコレヲ蹋過とうかスルガ如キあに奉戴ノ意ヲ存セザルベケンヤ
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
スウェーデンでは五月節日メイデイに妖巫黒兎をして近隣の牛乳を搾り取らしむると信じ、牛を牛小舎に閉じ籠め硫黄でふすべてこれをふせぐ。
されば他国かのくにひじりの教も、ここの国土くにつちにふさはしからぬことすくなからず。かつ八三にもいはざるや。八四兄弟うちせめぐともよそあなどりふせげよと。
その時は、北方から剽悍ひょうかんな遊牧民ウグリ族の一隊が、馬上に偃月刀えんげつとうりかざして疾風しっぷうのごとくにこの部落をおそうて来た。湖上の民は必死になってふせいだ。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
姫の屍体もまたプリゴネと称する薬草の液に浸し麝香草じゃこうそうの花を詰めて腐敗をふせぎ、金銀を象嵌ぞうがんしたる瑪瑙めのうの寝棺に納め、さらにこれを桃金花てんにんかの木にて造れるかくに入れ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
われ聞く、天朝たたかいおこすの策ありと、小邦また敵をふせぐのあり。あにあえみちひざまずいて之を奉ぜんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こゝを以て家居いへゐつくりはさら也、万事よろづのこと雪をふせぐをもつはらとし、ざいつひやしちからつくす事紙筆しひつしるしがたし。農家のうかはことさら夏の初より秋の末までに五こくをもをさむるゆゑ、雪中にいねかる事あり。
一体油を塗るということは外界の空気の侵入をふせぐと同時に体温を保つ効能があるようです。殊にこの丁子油は体温を保つ目的をもって拵えたものであるから非常に暖みを感じたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼は暮れかかる岩と森とを、食い入るように見据えたまま、必死にその誘惑をふせごうとした。が、あの洞穴の榾火ほたびの思い出は、まるで眼に見えない網のように、じりじり彼の心をとらえて行った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その西側に、小な蔀戸しとみどがあって、其をつきあげると、方三尺位なまどになるように出来ている。そうして、其内側には、夏冬なしにすだれが垂れてあって、戸のあげてある時は、外からの隙見をふせいだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
渠輩きょはいは河流をふせぐべし。奔水を逆流せしむべし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もろもろ厭勝まじないを行いその侵入をふせぎ、田畠には彼が作物を損じに来る時、その眼と面を傷つくるよう竹槍をひそかに植うる。
十余年前、鬼雄となって我にあだなすものをふせぐべく熊野灘の底深く沈んだこの伯父の遺骨のことであった。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼長駆してけつを犯さば、何を以てこれふせがん、陛下惑いたもうなかれと。しょう錦衣獄きんいごくに下す。燕王きいおおいに怒る。孝孺の言、まことしかり、而して建文帝のじょう、亦あつしというべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その英国をふせぐにはどうしたらよいか、英国がこのチベットを取ろうという考えを持って居る、その鋒先ほこさきはどういう風にふせいだらよかろうかということを、始終考えて居られるようです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
女の方も男の方も、ともに白人であり現代人であって、何か薬剤の力を借りて腐敗をふせいで、さながら生けるがごとき相貌を保ってはおりますが、これは決して古代羅馬人ではないのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
また二、三の蛇、互いに纏うた処を編み物にして戸口に掲ぐる。ペルシアで絨氈じゅうたんの紋の条を、なるべく込み入って相からんだ画にするも、邪視をふせぐためだ
しかれどもの文章またおのずから佳、前人評して曰く、醇龐博朗じゅんほうばくろう[#「醇龐博朗」は底本では「醇※博朗」]、沛乎はいことしてあまり有り、勃乎ぼっことしてふせしと。又曰く、醇深雄邁じゅんしんゆうまいと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
李広利りこうりを破ったその敵の主力が今どのあたりにいるのか? 今、因杅いんう将軍公孫敖こうそんごう西河せいが朔方さくほうの辺でふせいでいる(りょうと手を分かった路博徳ろはくとくはその応援にせつけて行ったのだが)
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
小刀を投げ付け、洋杖ステッキで右に払い左にいで、必死にふせぎましたが、犬はヒラリヒラリと躍り越えて、私は顔色を失いました。この時ばかりは、駄目だ! と、観念したのです。と、その途端
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
盗賊ふせぎに許されて設けた僧兵が、鴨川の水、双六すごろくさいほど法皇を悩ませたり、貿易のために立てた商会がインドを英国へ取ってしまう大機関となったり
で、其月十七日になつて兵を集めて、大方郷おほかたがう堀越の渡に陣を構へ、敵をふせがうとした。大方郷は豊田郡大房村の地で、堀越は今水路が変つて渡頭ととうでは無いが堀籠村といふところである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
三蔵法師の場合はどうか? あの病身と、ふせぐことを知らない弱さと、常に妖怪ようかいどもの迫害を受けている日々とをもってして、なお師父しふたのしげに生をうべなわれる。これはたいしたことではないか!
婬鬼の迷信は中古まで欧州で深く人心にみ込み、碩学高僧真面目にこれをふせぐ法を論ぜしもの少なからず。
この故に県官常に臘を以て祭る、また桃人とうじんを飾り葦索を垂れ虎を内に画き以て凶をふせぐなり〉、わが朝鍾馗しょうきを五月に祭るが、支那では臘月に祭ったと見えて
プリニウスの『博物志』二八巻三七章にも豕脂が疥癬に効あるを述べ、また新鮮なる豕の脂を陰膣に込んで置くと、子宮中の児に滋養分を給し流産をふせぐと載す。
豕が泥中に転がる事人に飼われた後始まったのでなく、野猪既に泥中に転がるを好みこれをヌタを打つという。あぶ蚊をふせぐため身に泥を塗るのだそうな。ヌタは泥濘の義だ。