おこ)” の例文
ひ、ひ、ひ、さあ、どうぞ、お娘御、おはいり——火も、おこっている——お茶もある——こんなあばらやへ、ようこそ——ひ、ひ、ひ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その顫音が集って、仄暗い家の中の空気に頼り無い寂寥を満す時、彼女はむやみと火鉢の炭を足して、軽く頬がほてるまでに火をおこした。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「炭だって、そう悪い炭じゃないようですけれど、おこったから安心と思っている間に、水をかけたように立消えてしまうんですものね」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
福は内の晩に——年越しの豆撒まめまきの夜——火鉢の炭火のカッカッとおこっているのにあたっている時、あたしは祖父さんの遺品かたみの、霰小紋あられこもん
何をさせても無駄づくりみたいな母の料理が気に入らない。私は火鉢のかっかっとおこった火に灰をかぶせて、瀬戸引きのやかんをかける。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お留 なにしろ、もう歸つてお出でなさるだらうから、早く火でもおこして置いてあげたら何うです。外は隨分寒うござんすよ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その八帖にはもう膳が出てい、火のよくおこった火鉢には燗鍋かんなべが湯気を立てていたし、派手な色の座蒲団が二枚出してあった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
焔を上げてはいなかったが、カッとおこっている焚火に照らされ、老人と老婆だということが、陶器師の眼に見てとれた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この部屋を兎に角掃除しておいたから、と言はれて或る部屋に入つて行くと疊はじめ/\と足に觸れて、眞中の圍爐裡ゐろりには火が山の樣におこつて居た。
比叡山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
料理場には火がおこされて、片口やさじやフォークなどすべて居酒屋にある錫製すずせいのものが、弾型の中でかされていた。その片手間に人々は酒を飲んだ。
そして夫の、今夜はほとんど五合近い酒を飮んでも醉を發しない、暗い、不機嫌な、屈托顏をぬすみ視た。そして時々薪を足して、爐の火を掻きおこした。
奇病患者 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
桟橋にアセチレンの照明器を灯し、またその近くに僅かばかりの炭火を貸船用のたばこの火鉢におこして、お秀は文吉の着物の裾を着たまゝで乾してやっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
四、五日して工場内に手風呂が持ち込まれた。凍傷にかかることから手を護るためのものである。朝作業が始まるとすぐ、雑役が二つある手風呂の火をおこしにかかった。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
二三度んで見たが、阿母さんは桃枝もヽえおぶつて大原へ出掛けて居無かつた。貢さんは火鉢の火種ひだね昆炉しちりんに移し消炭けしずみおこして番茶ばんちや土瓶どびんわかし、しやけを焼いて冷飯ひやめしを食つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
俺は相国寺の焼ける時ちょっと驚いたのだが、あの乱戦と猛火みょうかが塀一つ向うでおこっている中を、折角せっかくはじめた酒宴を邪魔するなと云ってついに杯を離さずすわり通したそうだ。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
カンカンおこった炭火のまえにまのあたりそれを焼いてみせるのが人気になったのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
私が馬車道へ急いで下りてゆく時に、齒がガタ/\と鳴つた。門番の小屋にはあかりがあつた。私達が門番小屋につくと、門番のお内儀かみさんは丁度火をおこしかけてゐるところだつた。
厭ひもあへず小隱れて覗ひしが、さりとも知らぬ母の親はるかに聲を懸けて、火のしの火がおこりましたぞえ、此美登利さんは何を遊んで居る、雨の降るに表へ出ての惡戲は成りませぬ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大火鉢おほひばちがくわん/\とおこつて、鐵瓶てつびんが、いゝ心持こゝろもちにフツ/\と湯氣ゆげててる。銅壺どうこには銚子てうしならんで、なかにはおよぐのがある。老鋪しにせ旦那だんな新店しんみせ若主人わかしゆじん番頭ばんとうどん、小僧こぞうたちも。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎは勘次かんじ煙草たばこはないので一寸ちよつと煙草たばこをとることにまでは心附こゝろづかなかつた。野田のだでは始終しじうかん/\と堅炭かたずみおこしていくらでもたぎつてよるでも室内しつない火氣くわきることはないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
外はかば篝火かがり真昼まひるの様に明るい。余等の天幕の前では、地上にかん/\炭火すみびおこして、ブツ/\切りにした山鳥や、尾頭おかしらつきのやまべ醤油したじひたしジュウ/\あぶっては持て、炙っては持て来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
薄暗い蚕室さんしつの中で——腐刑ふけい施術後当分の間は風に当たることを避けねばならぬので、中に火をおこして暖かに保った・密閉した暗室を作り、そこに施術後の受刑者を数日の間入れて、身体を養わせる。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
褞袍どてらを浴衣の上に重ねる。それからぽつんとちゃぶ台の前に坐ると、傍の手あぶりには炭火がかっかとおこっている。それでも、ひしゃげた鉄瓶が、さわれば周りの疣々いぼいぼがまだぬくみかけたばかしである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
寝衣ねまき炬燵こたつに掛けて置いて寒かろうからまア一ト口飲めと、義理にも云うのが当然あたりまえだのに、私が更けて帰ると、お母さんは寝酒に旨い物をべてグウ/\大鼾おおいびきで寝て仕舞い、火が一つおこってないから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
農夫室には電燈が明るくき、火はまっ赤におこりました。
耕耘部の時計 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
獅噛しがみの火鉢に火はカンカンとおこっているが、人のいないことは出て行った時と同じで、行燈あんどんはあるが、明りのないことも前と同じ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
炭火のたっぷりおこった火桶、湯気を立てている、小さな茶釜ちゃがま。——古びてあめ色に光っている柱や、すすけた障子やふすま
私達の間には瀬戸の大きい円火鉢に炭火が一杯おこっていた。私はその赤い火をじっと見守った。如何とも出来ないような張りつめた思いが胸に湧いて来た。
運命のままに (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
だが視力は持っていた。しかし瞳は開いていた。そうして白眼は血で充たされ、炭火のようにおこっていた。口は斜に釣り上がり、夜具の裾のようにふくれ上がっていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俺は相国寺の焼ける時ちよつと驚いたのだが、あの乱戦と猛火みょうかが塀一つ向ふでおこつてゐる中を、折角せっかくはじめた酒宴を邪魔するなと云つてついに杯を離さずすわり通したさうだ。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
確乎かっこたる言葉を少し聞かしてやりに行くのが急務だ。彼らが集まるのはリシュフーの家だ。十二時から一時までの間は皆そこにいる。その灰を吹きおこしてやらなければいけない。
カン/\おこった火のまえにまのあたりそれを焼いてみせるのが人気になったのである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
よくおこった火鉢の青い炎の上に、田部の若かりし頃の写真をくべた。もうもうと煙が立ちのぼる。物の焼ける匂いが四囲にこもる。女中のきぬがそっと開いているふすまからのぞいた。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
女房の説明によると、富蔵は自分の飼っている白い仔猫に踊りを仕込むために、長火鉢に炭火をかんかんおこして、その上に銅の板を置く。それは丁度かの文字焼を焼くような趣向である。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いとひもあへず小隠れてうかがひしが、さりとも知らぬ母の親はるかに声を懸けて、火のしの火がおこりましたぞえ、この美登利さんは何を遊んでゐる、雨の降るに表へ出ての悪戯いたづらは成りませぬ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
立處たちどころ手足てあしあぶるべく、炎々えん/\たる炭火すみびおこして、やがて、猛獸まうじうふせ用意よういの、山刀やまがたなをのふるつて、あはや、そのむねひらかむとなしたるところへ、かみ御手みてつばさひろげて、そのひざそのそのかたそのはぎ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
老師と、彼とは、炭火が、赤々とおこっている炉ばたに向い合った。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
農夫室のうふしつには電燈でんとうが明るくき、火はまっおこりました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
が、室内には七輪にも火鉢にも火がかつかとおこつた。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
神は在る、炎炎とおこつてゐる。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこは主膳が今まで飲んでいたところらしく、獅噛しかみのついた大火鉢の火がおこっているし、猩々足しょうじょうあしの台の物も置かれてあります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
火鉢の火はよくおこっていた。その上に掛ってる洗面器からは盛んに湯気が立っていた。床の間にのせられてる机の上には、真白な布巾の下に薬瓶が並んでいた。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
縁の欠けた火鉢に、火をおこして待っていた若い下男は、虎造が帰るとすぐに出ていった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
此裂これでおすげなされとよびかくることもせず、これも立盡たちつくして降雨ふるあめそでわびしきを、いとひもあへず小隱こかくれてうかゞひしが、さりともらぬはゝおやはるかにこゑけて、のしのおこりましたぞえ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
盲目の身の燈火ともしびはいらず、部屋の中はほとんど闇であったが、金網をかけた火鉢があって、そこで炭火が盛んにおこっていて、その余光あおりで頼春のこけた頬と、窪んでいる眼との寂しい顔が
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どうにも空腹にたえられないので、私はまた冷い着物に手を通して、七輪しちりんに火をおこす。湯をわかして、竹の皮についたひとなめの味噌を湯にといて飲む。シナそばが食べたくて仕方がない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
じいさんばァさんで七輪の火をおこしていたていのしがない店の所産だった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
土間には炭火がカンカンとおこっている。接待の大茶釜が湯気を吹いて盛んに沸いている。そこで米友は、こちらの畳の上に胡坐あぐらをかいて遠慮なく大欠伸をしています。
お清は、平ったい竹籠から火鉢に炭をついで、細い息で吹きおこした。周平は変な気がして、その方をじっと眺めた。彼女はその眼付を読み取ってか、微笑みながら云った。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
湯から上つて部屋へ戻ると、赤茶けた畳に、寝床が敷いてあり、粗末な箱火鉢には炎をたてて、火がおこつてゐた。火鉢のそばには、盆が出てゐて、小さいどんぶりいつぱいにらつきようが盛つてある。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)