)” の例文
姫君の最後が普通の死でないことをほかへらすまいとしていても、自然に事実は事実として人が悟ってしまうことであろうと思い
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どんな些細ささいなことでも見逃さないで、例えば、兄は手拭てぬぐいを絞る時、右にねじるか左に捩るかという様なことまで、れなく調べました。
第三、平素勝手元不如意ふにょいを申し立てながら、多く人をあつめ、酒振舞ふるまいなどいたし、武家屋敷にあるまじき囃子はやしなど時折りれ聞え候事
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いくら不自由がないようでも、やはり苦労だけはあると見える。」——わたしはそう思いながら、自然と微笑をらしたものです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かえって大人もまたこの例にれぬ迂愚うぐなものだという事を証明したいと思ってちょっと分りやすい小児を例に用いたのであります。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
耕吉は酒でも飲むと、細君に向って継母への不平やら、継母へ頭のあがらぬらしい老父への憤慨ふんがいやらを口汚なくらすことがあった。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
八畳足らずの一室に、親子六人が居住きょじゅうし、雨はり、月影は屋根を通して眺め得るこの生活にも、彼は十分満足していたものと思う。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
今まで無邪気に天空で戯れていた少年が人のいない周囲を見廻みまわし、ふと下をのぞいたときの、泣きだしそうな孤独な恐怖がれていた。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
かうしてゐる中にも、時はつて行つた。ある夜はすさまじい風雨がやつて来た。本堂ばかりではない、自分の居間にも雨がさかんつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
こうして取調べも一と通り終り、報告書も作られたけれど、直接の被害の中にとうとうれてしまった一つの重大なる品物があった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからこっち、お藤は浅草の自宅いえへも帰されずに、離室からは毎日のように左膳の怒号どごうにもつれてお藤の泣き声がれているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
午後の一番大切な時刻にこう頻繁ひんぱんに附合いをさせられるのは叶わない、と云った風な不平を遠廻しにらしたが、或る時やって来て
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はなしの方は色気があるが、此方こっちはお色気には縁の遠い方だった。だが色っぽくないことは、八人組も御多聞ごたぶんれないのが多かった。
ついでだが、この新聞はなかなか奇抜で、じつによくロンドンにおける「日本紳士ジャパニイス・ジェントルマン」の動勢を調査し、細大らさず報道している。
なお進みて戦闘殺伐、物を盗み人を殺す者も、この主義にれざるものとするときは、人生の目的は、他を害して身を利するにすぎず。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
語らぬことで悟れというわけでもあるまいに、気に入らないなら入らないように、それとなくらしてくれてもよい筈だと思った。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「姐ご、明日にもお訪ねしましょう」ここで金兵衛は嘆息をらした。「いろいろの芸当を持っているので、姐ごは全く幸せだよ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
永い一日の間に、ほんの一寸した雲の切目から薄い日の光が、ほんの一寸のぱーつとれて来た。と思ふともう消えてしまつた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
森槐南もりかいなん依田学海よだがっかいというような顔振れも見えたが、大部分は若い女で、紅葉さん漣さんというなまめかしい囁嚅ささやき其処そこにも此処ここにもれて
最初に、この男の動静がくさいと気がついたのがパリーの第二号、れるべきはずのないことが、立派に洩れている。どうも変だ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
私は買物を言付かって、出掛しなに縁を通りますと、御話声が障子越にれて来る、——どうやら私のことを御話しなさる御様子。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蝙蝠こうもりが一羽ひらひらと地をくう飛んだと見た、早や戸を閉めた縄暖簾なわのれんれて二筋三筋戸外おもてにさす灯の色も沈んだ米屋を背後うしろ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世にも悲しい泣く音がれると、白い細い手が柱から壁、壁から長押なげしと撫で廻しては、最後にまた絶え入るばかり、よよと泣き沈む……
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夫人も、黙々として一語もらさなかった。その中に、バタ/\と廊下に軽い足音がしたかと思うと、先刻の女中が、顔を出した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雲間かられた月の光がさびしく、波の上を照していました。どちらを見ても限りない、物凄い波がうねうねと動いているのであります。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は軽はずみの例にれず、少しくとりのぼせていたのである。よく見ると、犬のくびには最近まで首輪をはめていた形跡がある。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
そのうちにあかりのれてくる次ぎの茶の間から、父と母とが何かしきりに言い合っているらしいのが次第に耳にはいってくる。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おまっちゃんは糸で編んだ網に入れてある、薄い硝子ガラスの金魚入れから水がって廻るように、丸い大きな眼に涙を一ぱいためこらえていた。
この時マリイは諸手もろてを巨勢が項に組合せて、身のおもりを持たせかけたりしが、木蔭をる稲妻に照らされたる顔、見合せてえみを含みつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ちょうど庸三は用達ようたしに外出していたが、夜帰ってみると、彼女は教養ある青年たちのナイトぶりに感激したような口吻こうふんらしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小径の途中の土の層から大溝のみ水がれ出て、音もなく平に、プールの葭簾をで落し、金網かなあみを大口にぱくりと開けてしまっている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
〔譯〕雲煙うんえんむことを得ざるにあつまる。風雨ふううは已むことを得ざるにる。雷霆らいていは已むことを得ざるにふるふ。こゝに以て至誠しせい作用さようる可し。
賑やかにれ聞こえてくる階下の応接間の笑い声に、苦々しげな一瞥いちべつを与えると、物足りなそうに引き揚げて行くのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
斜め上から、船の動揺の度に、チラチラ薄い光の束がれていた。興奮した漁夫の色々な顔が、瞬間々々、浮き出て、消えた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
折しも小春の空長閑のどけく、斜廡ひさしれてさす日影の、払々ほかほかと暖きに、黄金丸はとこをすべり出で、椽端えんがわ端居はしいして、独り鬱陶ものおもいに打ちくれたるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そんなことをしているところへ、船からつぎつぎに泳ぎついて、二十日の間、苦楽をともにした見張台みはりだいの上の人間の顔がれなく揃った。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そうしてその志が満たされない時、憤慨の情をらすのを耳にする。善を愛するその望ましき志に対してなんの異議があろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ワツと泣きる声を無理に制せる梅子は、ヒシとばかり銀子をいだきつ、燃え立つ二人の花の唇、一つに合して、ばし人生のきを逃れぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
思わずれる女の口うらに驚いた、——せかせかと談じこんで行った神山外記の言葉と通ずる何ものかがそこにひらめいている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
いや私が書生仲間しょせいなかまには随分ずいぶんかようなる事に常々つねづね注意ちゅういし、当時の秘密ひみつさぐり出し、互にかたり合いたることあり、なおれたる事柄ことがらも多かるべし
だが、無ろんたがひけうひそかに「なアにおれの方が……」とおもつてゐる事は、それが將棋せうきをたしなむ者のくせで御多分にれざる所。
朝霧ゆふ霧のまぎれに、声のみらして過ぎゆくもをかしく、更けたるまくらに鐘のきこえて、月すむ田面たのもおつらんかげ思ひやるも哀れ深しや。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また特に余をして原野に奔走してれなく諸禽獣に告げ早く来って二王に謁見しその手を吸わしむ。されば汝も速やかに壁上より下るべしと。
番小屋はあるが、灯もれてはいず、人の声もしない。おそらく寝ているのであろう。だが、門の潜戸くぐりどには錠がおりていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大丈夫、かう見えても、御用聞の家は、いろ/\細工さいくがしてある。小さい聲で話す分には、決して外へれる心配はない。
若い寺内氏はそういったつもりであったが、急に覚えた口中のねばねばしさで、それは唇かられずして消えてしまった。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
電灯を消すと、淡い月の光が樹間をれ、周囲は全く音のない静寂の極みの世界であった。あまり静かすぎるのもかえって寝にくいものである。
ネバダ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
くやしいにつけゆかしさ忍ばれ、方様かたさま早う帰って下されと独言ひとりごと口をるれば、利足りそくも払わず帰れとはよく云えた事と吠付ほえつかれ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつの間にか病人のところへれてしまって、枕元まくらもとへ呼び寄せての度重なる意見もかねがね効目ききめなしとあきらめていた父親も、今度ばかりは、打つ
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それに彼は一軒の独立家屋を所有することに異常な熱意を示しており、時々そういうことを僕にらしたこともあります。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)