しん)” の例文
ああ嬉しや、私は本望がかなった。貴下に逢えばしんでもい。と握りたる手に力を籠めぬ。何やらん仔細あるべしと、泰助は深切に
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年忌の法会ほうえなどならばその人を思ひ出すとか、今にまぼろしに見ゆるとか、年月の立つのは早いものとか、彼人がしんでから外に友がないとか
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一日、空が暗く掻き曇った日にこの町で信者の牛肉屋の娘がしんだ。——急にんで死んだのだ——翁は使つかいをうけて早速出掛けた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
何うしやがると云う様な具合に手ンンに奪い返す所から一人と大勢との入乱れと為り踏れるやらうたれるやら何時いつの間にかしんで仕舞ッたんだ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
不図ふと、御自分の御言葉に注意こころづいて、今更のように萎返しおれかえって、それを熟視みつめたまま身動きもなさいません。しんだ銀色の衣魚しみが一つその袖から落ちました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はらすいると、のばしてとゞところなつ無花果いちじく芭蕉ばせうもぎつてふ、若し起上たちあがつてもぎらなければならぬなら飢餓うゑしんだかも知れないが
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私の行方ゆくえが知れなくなったら、私の出た日を命日と思って下され、もう私は思いのこす事もないからしんでしまいます
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
矢比やごろを測つてひょうと放てば。竄点ねらい誤たず、かれが右のまなこ篦深のぶかくも突立つったちしかば、さしもにたけき黄金丸も、何かはもってたまるべき、たちま撲地はたと倒れしが四足を悶掻もがいてしんでけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
此樣こんことふとめうだが、ひと一種いつしゆ感應かんおうがあつて、わたくしごときはむかしからどんな遠方えんぽうはなれてひとでも、『あのひと無事ぶじだな』とおもつてひとに、しんためしはないのです。
結婚の世話になって以来、碌にしみじみ話をする機会も無いうちに、今井は杳然ようぜんとしてしんだ。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
棄ても歎願たんぐわんせねば第一しんだ母親の位牌ゐはいの前へも言譯なし久左衞門とか云人のなさけによりてかく迄に成人ひとゝなりたる者なるか親は無とも子はそだつとの諺言ことわざも今知られけるとは云物の是迄は苦勞くらう辛苦しんく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「で、ちた人はうしました、死んだ人もありましたか」相手はかしらを振って、「イエしんだ方はありません、ただ怪我けがをする位の事です、しかし今から百年ほど以前まえにこのおやしきの若様が、 ...
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しんだやつらは気の毒だが
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その日の主人役が客にすまずとあって、しんだもののようになってるのを引起し、二人両手を取って、小刀ナイフで前髪を切って、座敷をつッ立った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老人は死切しにきらずに居て、必死の思いで頭を上げ、傷口から出る血に指を浸して床へ罪人の名を書附ておいしんだ。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「そこで僕はつくづく考えた、なるほど梶原の奴の言った通りだ、馬鹿げきっている、止そうッというんで止しちまったが、あれであの冬を過ごしたら僕はしんでいたね」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
花「野郎死にやアがったか、くたばったか、野郎しんだか、アヽ死にやアがった、馬鹿な奴だ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それで何日いつ頃から其様そんな事がはじまったのですね」と問えば、番人は小首をかたげて、「サア何日いつ頃からか知りませんが、何でもの若様が窓からちてしんのち、その阿母おふくろ様もブラブラやまいで、 ...
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夫はただ「辛抱を、辛抱を。」と言うんですが、その辛抱をしきれないうち、私はしんでしまいましょう。ついこの間もかぜを引いて三日寝ました。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かねて大塚の父から聞いて居たから寺はぐ分りました。けれども僕は馬場金之助ばばきんのすけの墓のみ見出して、しんだときいた母の墓を見ないので、不審に思って老僧にい、右の事をたずねました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この界隈かいわいの長唄の師匠では、これが一番繁昌して、私の姉も稽古に通った。三宅花圃みやけかほ女史もここの門弟であった。お花さんは十九年頃の虎列剌これらしんでしまって、お路久さんもつづいて死んだ。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
... 書く間も無くしんだ事は僕が受合う」あゝ余と目科との間柄は早やきみぼくと云う程の隔て無きまじわりとれり目「全く相違ないのかね余「傷から云えば全くそうだよ、今に検査の医者も来るだろうから問うて見たまえ、もっとも僕はお卒業もせぬ書生の事だからあてには成らぬかも知れぬが医官に聞けば必ず分る」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
お沢 どうぞ、このままお許し下さいまし、唯お目の前を離れましたら、里へも家へも帰らずに、あの谿河たにがわへ身を投げて、しんでおわびをいたします。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此男このをとこちゝしんあと市街外まちはづれにちひさな莊園しやうゑん承嗣うけついだので、この莊園しやうゑんこそ怠惰屋なまけやみせともいひつべく、そのしろかべ年古としふりくづち、つたかづらおもふがまゝに這纏はひまとふたもん年中ねんぢゆうあけぱなしでとぢたことなく
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
……勿論もちろんもせず、枕元まくらもとれい紫縞むらさきじまのをらして、落着おちつかない立膝たてひざなにくともみゝますと、谿河たにがはながれがざつとひゞくのが、ちた、ながれた、打当ぶちあてた、いはくだけた、しんだ——とこえる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「うわッ、しんだあ。」ときずおさえ、血眼ちまなこになりて、皺枯声しわがれごえを振絞り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)