此度こんど)” の例文
まさかとは思うものの、何だか奥歯に物のはさまっているような心持がして、此度こんどはわたくしの方が空の方へでも顔を外向そむけたくなった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ロミオ なう、しかってくださるな。此度こんどをんなは、此方こちおもへば、彼方あちでもおもひ、此方こちしたへば、彼方あちでもしたふ。以前さきのはさうでかった。
此度こんどは妻と瀬川とがそれを信じない方の側になって、彼一人がその説を支持してる形になった。彼の頭にはまた惨めな駄馬の姿が映じた。
愚かな一日 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
これがこの女の本心かな? それとも誇張しているのかな、かく俺の思った通り此度こんどの芝居ではこの女が屹度きっと女形おやまに相違ない
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此度こんどこそ此度こそと思ひながら、彼の呑気さには負けて、何時でも、母親と逸子として、何とか彼とか無理を続けるのだつた。
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
ダガ福禄寿ふくろくじゆには白鹿はくろくそばなければなるまい。甲「折々をり/\はなしかを呼びます。乙「成程なるほど、ダガ此度こんどはむづかしいぜ、毘沙門びしやもんは。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それに聞けば課長さんのとこへも常不断じょうふだん御機嫌伺いにお出でなさるというこったから、きっとそれで此度こんども善かッたのに違いないヨ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかるにはうとのぞみは、つひえずたちまちにしてすべてかんがへ壓去あつしさつて、此度こんどおも存分ぞんぶん熱切ねつせつに、夢中むちゆう有樣ありさまで、ことばほとばしる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そうして此度こんどの歌舞伎座の興行は昨年の春お亡くなりになった貴方様のお父様、中村珊玉様のお追善ついぜんのためであったこと……なぞでございました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すなわちアレキシス・ドーブレクと、ビクトリアン・メルジイと、ルイ・プラスビイユと申上げれば此度こんど事件の裏面りめんはほぼ御解りでしょうと存じます。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
此度こんどは題も二つにしてよほど材料を少くする御覚悟と見つれども、それならば祝詞の代りになるべき文章か俳句かをしっかり集める用意なかるべからず。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「何にも取られるものの無い多々良さんのようなのが一番賢こいんでしょう」と細君が此度こんど良人おっとの肩を持つ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやそれだから、此度こんどなんかもまったくひどく困ったよ。殊に君注文が割合に柔らかな蛋白石たんぱくせきだらう。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
不幸にも娘は旅の途中、やまいを得て家に帰って来たが、間もなく、とうとう此度こんどは、あの世の旅の人となってしまった、父や兄の悲歎は申すまでもなかったが、やがて
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
去年使ふてやつた恩も忘れ上人様に胡麻摺り込んで、たつ此度こんどの仕事をうと身の分も知らずに願ひを上げたとやら、清吉の話しでは上人様に依怙贔屓えこひいき御情おこゝろはあつても
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そこへ持つて参つて、此度こんどの不都合で御座います、それさへ大目に見てくれやうと云ふので御座いますから、まるかたきをば恩で返してくれますやうな、申分まをしぶんの無い主人の所計はからひ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこでひとさとつて改革かいかくはかれば此度こんどくらしをなほして自分じぶん支出ししゆつ何割なんわりげんじて、さうして其剩餘そのじようよもつ從來じうらい借金しやくきん整理せいりをしてくよりほかにはみちはないのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
此度こんど丁度ちょうど私の家と隣屋敷との境の生垣のあたりなので、少し横に廻って、こっそりと様子をうかがうと、如何どうも人間らしい姿が見えるのだ、こいつは、てっきり盗賊どろぼうと思ったので
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
元からよくない所なので、あのかしわの木も、此度こんど丁度ちょうど三人目の首縊くびくくりだ、初めさがった時、一の枝を切ると、また二の枝に下ったので、それも切ると、此度こんどは実に三の枝でやったのだ
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
これは益々ますます不思議だと考えて、私は此度こんどは自由勝手に四辺を歩いて見た。けれど一人の人影すら見えなかった。しかもその辺には、油の詰った石油鑵が幾万となく積み重ねてあるのだ。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分にても此度こんどとても全治すべからざるを悟りて、予に懇切に乞うて曰く、此度このたびは决する事あり、依て又一に面会して能く我等夫婦が牧塲に関する素願そがんたるの詳細を告げ示し置きたし
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
その時ばかりは、そんな気が少しも出ない、何というてよいか、益々ますます薄気味がるいので、此度こんどは手で強く払って歩き出してみた、が矢張やっぱり蝶は前になり後になりして始終私の身辺に附いて来る
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
吾等二人は蘇生いきかえったようになって、此度こんどは道を失わぬように注意して降ったが、休むと蝋燭を消し歩き出すと又点ける、消えたり、点いたりする山腹の火光を見て、山麓の村人は不思議がった
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
此度こんどは最後だと思った。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
乗客が構わずそれをば踏み付けて行こうとするので、此度こんどは女房が死物狂しにものぐるいに叫び出した。口癖になった車掌はきいろい声で
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
じつわたくし貴方あなたとの談話だんわおいて、此上このうへ滿足まんぞくましたのです。で、わたくし貴方あなたのおはなし不殘のこらずうかゞひましたから、此度こんど何卒どうぞわたくしはなしをもおください。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
喜「文治殿、藤原でござります、先程から亥太郎殿がおいでの様子ゆえ少々控えて居りました、数年御苦労の甲斐あって此度こんどの悦び、お察し申上げます」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうも驚ろいたね。君にしてこの伎倆ぎりょうあらんとは、全く此度こんどという今度こんどかつがれたよ、降参降参」と一人で承知して一人で喋舌しゃべる。主人には一向いっこう通じない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやそれだから、此度こんどなんかもまったくひどく困ったよ。ことに君注文が割合にやわらかな蛋白石たんぱくせきだろう。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一方ひとかたではない、如何どういうわけか跳起はねおきる気力も出ないで、違う違うと、ただ手を振りながら寝ていたが、やがてまた廊下に草履ぞうりの音が聞えてガラリと障子がくと、此度こんどは自分の敵娼あいかたの顔が出た
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
ところ仕合しあはせにもミハイル、アウエリヤヌヰチのはうが、此度こんど宿やど引込ひつこんでゐるのが、とうとう退屈たいくつになつてて、中食後ちゆうじきごには散歩さんぽにと出掛でかけてつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
只今申上げました紀伊國屋友之助は図らずも御当家へお出入になりましたことは此度こんど始めて承わりましたが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人が此度こんどのようにここの家へ来合せて、自分と一所に茶ぶ台を取囲んで食事をするような折は、何か特別の事でも起らないかぎり、まず無いと思わなくてはなるまい。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
痛む事おびただしい。此度こんどは仕方がないからにゃーにゃーと二返ばかり鳴いて起こそうとしたが、どう云うものかこの時ばかりは咽喉のどに物がつかえて思うような声が出ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此度こんどばかりはもう年が年だから、大した事はない様だが、長屋の者も相談してね、だけども養子では有るし、お呼び申して出て来て、なんだ是っぱかりの病気に
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
物干竿を掛直かけなおしたかみさんは有合ありあ雑布ぞうきんで赤ぎれのした足の裏をき拭き此度こんどは遠慮なくがらりと襖を明けて顔を出した。眉毛まゆげの薄い目尻の下った平顔ひらがおの年は三十二、三。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云われるから胸に込上げて、又市のぼあがって、此度こんどなお強く藤助の胸ぐらを取ってうーんと締上げる。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
角右衞門殿が臨終いまわきわに何にもいう事はねえが、おらうちの相続人は多助とさだまっている、此度こんどおらア死病と定って居るから、一言いちごん云わねえければならねえと云うものは
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
富「イヤ此度こんどは実に弱りまして、只もうどうも富五郎は両親ふたおやに別れたような心持が致しますなア」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と云われてお國は、此度こんどこそ孝助がお手打になる事と思い、心のうちで仕済ましたりと思っているところへ、金子が出て、孝助に謝まれと云うから残念でたまらないけれども、仕方がないから
私は物心が付きましてお母様はお達者か、御無事でおいでかと案じてばかりおりました所、此度こんどはからずお目にかゝりましたのは日頃神信心かみしんじんをしたお蔭だ、ことにあなたがお手引をなすって
駕「何処だか少しも見当みあてが付きませんが、おい/\、先刻さっき左に見えた土手の燈火あかりが、此度こんど右手こっちに見える様になった、おや/\右の方の森が左になったが、そうすると突当りが山谷の燈火か」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
忠「いえ何うも此度こんどはむずかしゅうございます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
阿「此度こんどは倍賭けで二両で」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)