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擲
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なげう
ふりがな文庫
“
擲
(
なげう
)” の例文
と、同時に、そのために「一個の私情」たる恋愛を
擲
(
なげう
)
つたといふ潔さは、彼義一にとつては、当然すぎるほど当然なことに思はれた。
花問答
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
孝孺
大
(
おおい
)
に数字を批して、筆を地に
擲
(
なげう
)
って、又
大哭
(
たいこく
)
し、
且
(
かつ
)
罵
(
ののし
)
り且
哭
(
こく
)
して曰く、死せんには
即
(
すなわ
)
ち死せんのみ、
詔
(
しょう
)
は断じて草す可からずと。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
あの学問のある尼さんのためには男も捨て僧職も
擲
(
なげう
)
ったというアベラアルの名はどれ程若かった日の彼の話頭に上ったか知れない。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
徳義を重んじ、主義を重んじ、なおその上に日本国のために身命を
擲
(
なげう
)
って働くところの真の愛国者を養成したいというのであったらしい。
新島先生を憶う:二十回忌に際して
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
そして、一体妙だな、人生を快く
擲
(
なげう
)
ってしまおうと思ったのは、あれは、実は体の直った快さであったかと思っているのである。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
▼ もっと見る
北欧の古雷神トールが巨鬼を平らぐるに用いた槌すなわち電は
擲
(
なげう
)
つごとに持ち主の手に還った由で、人その形を模して守りとし
十二支考:08 鶏に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
貧しい階級だけは業務を
擲
(
なげう
)
って、毎晩のように見に来るでしょうけれど、毎晩見に来るのもよくなければ、ちっとも見に来ないのも困ります
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
幕に、それが消える時、風が
擲
(
なげう
)
つがごとく、虚空から、——雨交りに、電光の青き中を、
朱鷺色
(
ときいろ
)
が八重に縫う乙女椿の花一輪。
陽炎座
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
好く文学者の成功の事を、大いなる
coup
(
クウ
)
をしたと云うが、あれは
采
(
さい
)
を
擲
(
なげう
)
つので、つまり芸術を
賭博
(
とばく
)
に比したのだね。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
そうしてその残骸が、
最早
(
もはや
)
この上には白骨になるよりほかに変化の仕様がないところまで腐ってしまったのを見ると、決然筆を
擲
(
なげう
)
って
起
(
た
)
った。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
それも苦しいのでその夜はそれを
擲
(
なげう
)
ってしもうたが、翌日になって見ると一枝の花を裏と表と両面から書いてあったのがちょっと面白かったので
病牀苦語
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
すべてのものを
擲
(
なげう
)
って、肉体と魂と一切のものを——生命までも
捧
(
ささ
)
げるようでなかったら、とても僕の高い愛に値しないというような意味なのよ。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
ところがこの李之楫氏はもうほとんど私のためには身命を
擲
(
なげう
)
っても事をやろうという程私を信じてくれたお方です。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
一男子は笑ひつゝ、さらば我は
骨牌
(
かるた
)
の爲めに帶び來れる此金殘らずを置かんと云ひて、その
財嚢
(
ざいなう
)
を
擲
(
なげう
)
てり。われ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
狂気のごとく自己を
擲
(
なげう
)
ったごとく、我々の世界もいつか王者その冠を投出し、富豪その金庫を投出し、戦士その剣を投出し、智愚強弱一切の差別を忘れて
謀叛論(草稿)
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
それゆえに自分自身の利便を
擲
(
なげう
)
って恐れず、時には自己の身命をも棄てて顧みない人の心において初めて、素直なもしくはナイーブで率直な心は成立する。
語られざる哲学
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
三十一歳までの
清浄身
(
しょうじょうしん
)
を、
擲
(
なげう
)
って、現在の僧侶にいわせれば、
汚濁
(
おじょく
)
の海、罪業の谷ともいうであろう、
蓄妻
(
ちくさい
)
噉肉
(
たんにく
)
の
徒
(
やから
)
になろうという意志を固めているのだ。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
漫然と私自身を他の境界に移したら、即ち私の個性を本当に知ろうとの要求を
擲
(
なげう
)
ったならば、私は今あるよりもなお多くの不安に責められるに違いないのだ。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
彼は
終
(
つひ
)
に心を許し
肌身
(
はだみ
)
を許せし
初恋
(
はつごひ
)
を
擲
(
なげう
)
ちて、絶痛絶苦の
悶々
(
もんもん
)
の
中
(
うち
)
に一生最も
楽
(
たのし
)
かるべき大礼を挙げ
畢
(
をは
)
んぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
倒
(
さか
)
さに銀河を崩すに似ている飛泉に、碧澗から
白刃
(
はくじん
)
を
擲
(
なげう
)
つように
溌溂
(
はつらつ
)
として躍り狂うのであるから、鱒魚の豊富な年ほどそれだけ一層の壮観であるそうである
平ヶ岳登攀記
(新字新仮名)
/
高頭仁兵衛
(著)
其信心は何時から始まったか知らぬが、其夫が
激烈
(
げきれつ
)
な
脚気
(
かっけ
)
にかゝって已に
衝心
(
しょうしん
)
した時、彼女は
身命
(
しんめい
)
を
擲
(
なげう
)
って祈ったれば、神のお告に九年
余命
(
よめい
)
を
授
(
さず
)
くるとあった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
緒桛
(
をがせ
)
の滝を見に行けば、崖の樹の梢にあまたをり、人を見れば逃げながら木の実などを
擲
(
なげう
)
ちて行くなり。
遠野物語
(新字旧仮名)
/
柳田国男
(著)
彼が政綱もまた
然
(
しか
)
り、彼は倹約を以て、唯一の政綱となし、これを実行するにおいては、殆んど幕府の全力を賭するをも、自個の生命を
擲
(
なげう
)
つも敢て顧慮せざりき。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
オリヴィエは、自分自身に沈潜して自分の思想の完全な表現のみをしか口にしたくない欲求を感じていたので、ようやくにして得た教師の職をも
擲
(
なげう
)
ってしまった。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
五年前の進は勉学の志を
擲
(
なげう
)
たない
真率
(
しんそつ
)
な無名の文学者であったが、
今日
(
こんにち
)
の進は何といってよいのやら。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
太祇は
句三昧
(
くざんまい
)
と
称
(
とな
)
えて一切他事を
擲
(
なげう
)
ち
蟄居
(
ちっきょ
)
して句作にのみ苦心する事などがあったそうな。とにかく作句に苦心して熱心であった事は古今有数の一人とせねばなるまい。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
身には片布をだに着くるを
允
(
ゆる
)
さず馬上にして城下に
曝
(
さら
)
す、
牽
(
ひ
)
きゆくこと数里、断崖の上より
擲
(
なげう
)
ちて死にいたらしむ、臭骸腐爛するに及ぶも白骨を収むる人なかりきといふ。
都喜姫
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
彼は何所へ行っても、すぐれた人格者として愛慕されたのであるが、たまたま咽喉を病み、演説や説教を医師から厳禁されたので、止むなく永久に教職を
擲
(
なげう
)
つこととなった。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
余の全心全力を
擲
(
なげう
)
ち余の
命
(
いのち
)
を捨てても彼を救わんとする
誠心
(
まごころ
)
をも省みず、
無慙
(
むざん
)
にも無慈悲にも余の
生命
(
いのち
)
より貴きものを余の手よりモギ取り去りし時始めて
予察
(
よさつ
)
するを得たり。
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
国家のためには身命を
擲
(
なげう
)
つ特志家が幾人も続出するが、かようなときでさえ、大多数の人々は、わが国が敗けては自分が困る、それゆえ是非ともわが国を勝たせねばならぬと
人間生活の矛盾
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
僕の
魂
(
たましい
)
の生み出した真珠のような未成品の感情を君は
取
(
とっ
)
て
手遊
(
おもちゃ
)
にして空中に
擲
(
なげう
)
ったのだ。
痴人と死と
(新字新仮名)
/
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
(著)
思わず知らず得意の棒を
擲
(
なげう
)
ってみたところで、鷲はあの通り、千尺の高みにいる、いくら米友さんが棒の名人だからといって、矢も鉄砲も届くはずのないあんな高いところまで
大菩薩峠:35 胆吹の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
自分は
恁
(
かう
)
信じたからこそ、
此市
(
ここ
)
の名物の長沢屋の豆銀糖でお茶を飲み乍ら、稚ない時から好きであつた伯母さんと昔談をする楽みをさへ
擲
(
なげう
)
ち去つて、明からぬ五分心の洋燈の前に
葬列
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
そこで其事が成就してしまふと、直ぐにそれを
擲
(
なげう
)
つて、何か新しい方角に向つて進む。兎に角或る事件を企てる、それを成功して人を凌駕しようとする精神がこの男を支配してゐる。
パアテル・セルギウス
(新字旧仮名)
/
レオ・トルストイ
(著)
ケートは窓から
外面
(
そと
)
を
眺
(
なが
)
める。
小児
(
しょうに
)
が
球
(
たま
)
を投げて遊んでいる。彼等は高く球を空中に
擲
(
なげう
)
つ。球は上へ上へとのぼる。しばらくすると落ちて来る。彼等はまた球を高く擲つ。再び三度。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その文に
曰
(
いわ
)
く(中略)貴嬢の朝鮮事件に
与
(
くみ
)
して一死を
擲
(
なげう
)
たんとせるの心意を察するに、葉石との交情旧の如くならず、他に婚を求むるも
容貌
(
ようぼう
)
醜矮
(
しゅうわい
)
突額
(
とつがく
)
短鼻
(
たんび
)
一目
(
いちもく
)
鬼女
(
きじょ
)
怪物
(
かいぶつ
)
と
異
(
こと
)
ならねば
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
終生を
擲
(
なげう
)
ちたるの学者もありきと、もし彼女は、これら宝石の類にはあらざるか。
一青年異様の述懐
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
彼女が三十三に於いて眞に死に得た時は、その三十三の生がどんなに華やかな力づよいものとなるであらう。その時の死は勝利の
凱旋
(
がいせん
)
である。死を定めてすべてを
擲
(
なげう
)
つたのでなかつた。
三十三の死
(旧字旧仮名)
/
素木しづ
(著)
ですから、娘達の
敵
(
かたき
)
を取るためには、わしの全財産を
擲
(
なげう
)
っても惜しくはありません。君に一切をお任せしますから、警視庁の中村君とも
聯絡
(
れんらく
)
を取って、出来るかぎりの手段をつくして下さい
悪魔の紋章
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
勘次
(
かんじ
)
は
續
(
つゞ
)
いて
擲
(
なげう
)
つた。
曲者
(
くせもの
)
は
既
(
すで
)
に
遁
(
に
)
げ
落
(
お
)
ちたけれど
彼
(
かれ
)
の
不意
(
ふい
)
の
襲撃
(
しふげき
)
に
慌
(
あわ
)
てゝ
節
(
ふし
)
くれ
立
(
だ
)
つた
柹
(
かき
)
の
根
(
ね
)
に
蹶
(
つまづ
)
いて
倒
(
たふ
)
れた。
彼
(
かれ
)
は
次
(
つき
)
の
日
(
ひ
)
足
(
あし
)
を
引
(
ひき
)
ずらねば
歩
(
ある
)
けぬ
程
(
ほど
)
足首
(
あしくび
)
の
關節
(
くわんせつ
)
に
疼痛
(
とうつう
)
を
感
(
かん
)
じたのであつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
併し今の場合で金を動機だとするには、その下手人を非常なぐづだとしなくてはならない。馬鹿だとしなくてはならない。さうしなくては動機と金とを一しよに
擲
(
なげう
)
つたわけになるのだからね。
病院横町の殺人犯
(新字旧仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
そこで僕もおおいに
歓
(
よろこ
)
んで彼の帰国を送った。彼は二年間の貯蓄の三分の二を平気で
擲
(
なげう
)
って、
錦絵
(
にしきえ
)
を買い、
反物
(
たんもの
)
を買い、母や
弟
(
おとと
)
や、親戚の女子供を喜ばすべく、
欣々然
(
きんきんぜん
)
として新橋を
立出
(
た
)
った。
非凡なる凡人
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
大地に身を
擲
(
なげう
)
った市五郎は、身も浮くばかりに泣いて泣いて泣き入ります。
銭形平次捕物控:017 赤い紐
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
是を地に
擲
(
なげう
)
って弟の氏照に向い、一片の文書で天下の北条を
恫喝
(
どうかつ
)
するとは片腹痛い、兵力で来るなら平の維盛の二の舞で、秀吉など水鳥の羽音を聞いただけで
潰走
(
かいそう
)
するだろうと豪語したと云う。
小田原陣
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
ここに田舎の富豪があって、最愛の娘のために最上の嫁入り支度を調達せんとして、数千円の金を
擲
(
なげう
)
って、田舎ではとうてい東京の中等呉服店にあるほどの品物もなかなか得られないのである。
私の小売商道
(新字新仮名)
/
相馬愛蔵
(著)
あの日以来、彼はいつか身命を
擲
(
なげう
)
つ日の来ることを待っていたのだ、其の日の他にはなんの役にも立たなくともよい、そう覚悟していたのだ。それで娶っても子を生むことを欲しなかったのだ。
松風の門
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
併
(
しか
)
し天性弱きを助け強きを
挫
(
ひし
)
ぐの資性に富み、善人と見れば
身代
(
しんだい
)
は申すに及ばず、
一命
(
いちめい
)
を
擲
(
なげう
)
ってもこれを助け、また悪人と認むれば
聊
(
いさゝ
)
か容赦なく
飛蒐
(
とびかゝ
)
って殴り殺すという七
人力
(
にんりき
)
の
侠客
(
きょうかく
)
でございます。
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
仕方なく右の出版事業をそのまま
擲
(
なげう
)
っておいて、
匆々
(
そうそう
)
東京を出発する用意をし、間も無く再び東京へ出て来るから、今度出て来たが最後、大いに矢田部に対抗して奮闘すべく意気込んで国へ帰った。
牧野富太郎自叙伝:01 第一部 牧野富太郎自叙伝
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
そのずれなこと、二十五になれば立派な侍、そのように
女子
(
おなご
)
に似た声とは声からして違うわ!
拙者
(
わし
)
は世評があまり高いに気にかかり、旅出の前の
忙
(
せわ
)
しさを
擲
(
なげう
)
ってわざわざ此事を訊ねに来たのじゃ。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
……京都の土地で職を求める事、郷里の母をやがて呼ぶ事、そしてまだ数年は××教授の
傍
(
そば
)
で一心に研究する事——さういふすべての空想や計画をすつかり
擲
(
なげう
)
つて、和作はこの正月東京に戻つて来た。
朧夜
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
擲
漢検1級
部首:⼿
18画
“擲”を含む語句
打擲
放擲
抛擲
擲倒
擲附
擲弾兵
手擲弾
投擲
擲殺
擲出
擲却
乾坤一擲
一擲
御打擲
擲弾
酒銭擲三緡
革擲
擲銭卜
書擲
横擲
...