やす)” の例文
腕組みして仔細らしく考へ込んでゐるしぼんだ青瓢箪あをべうたんのやうな小僧や、さうした人達の中に加つて彼は控所のベンチに身をやすませた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
人待石にやすんだ時、道中の慰みに、おのおの一芸をつかまつろうと申合す。と、鮹が真前まっさきにちょろちょろと松の木の天辺てっぺんって、脚をぶらりと
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「よくよく武芸事にはしょうがあわぬと見えまする——それはそうと、まだ早うござるゆえ、どこかその辺で少しやすみましょうか」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はそれには頓着なしでずん/\あらぬ方向へ行つた。そこらには倉庫が新らしく建たうとして、杭打くひうちの綱引女がだらしなくやすんでゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
暫く遊んだ牧人が小やすみをしに傍の叢に横わったとき、その全身にちりばめられたように輝く露の珠は、何と奇麗でしょう。
まさか宿屋を聞いて廻るわけもならず、エミ子はすっかり気抜けがしてしまいました。——ひょっとして、岩本樓あたりにやすんでいるのかも知れない。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
十二階から吉原への、ちょうど活動館のうしろの通りの、共同便所にならんで、いつも一台の自動車がやすんでいた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なんてヒステリーなら好加減よすとして、今晩はこれで眠るとして、精神をやすめておいて、また明日の散歩だ……
散歩生活 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
有名な髑髏洞カタコンブの前まで来てそのむかひの珈琲店キヤツフエ一寸ちよつとやすまうと滋野君が云つた。同じく飛行場を観たいと云ふあるお嬢さんを其処そこで待合す約束に成つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
わたくしは散策の方面を隅田河の東に替え、溝際どぶぎわの家に住んでいるお雪という女をたずねてやすむことにした。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
またすこしやすもうということになって見廻すと、ちょうどそこにいた椅子がふたつ私たちを招いていた。
藤戸大尉は、帯剣を釣る手をやすめて何か重大命令を受けて来たらしい僚友に、哲学じみたことを言った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寺の在る処はもとは淋しい町端まちはずれで、門前の芋畠を吹く風も悲しい程だったが、今は可なりの町並になって居て、昔やすんだ事のある門脇もんわきの掛茶屋は影も形も無くなり
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
奥へ蚊帳吊ってやすませる、これがずるずるその晩泊り込んでしまう手だてとはなるのである。
粂吉も連れず一人でそんなところを歩いているとき、不図ふと綺麗な松落葉の積った箇所を見つけ出して緩々ゆるゆると腰かけてやすんで居るときなどその騒々しい気分がよく了解されてくる。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
菊人形では植木屋半兵衛の小屋がいちばん古く、人形のほかに蕎麦を喰わせる、藪下の蕎麦といって菊人形の見物につきもののようになり、菊を見たかえりには、たいていここでやすむ。
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのも、海蔵かいぞうさんよりさきに三にん人力曳じんりきひきが、茶店ちゃみせなかやすんでいました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
また畑の中に立つた夏蜜柑や朱欒ざぼんのその青い実のたわわに枝にやすんでゐる、この遠い街道に沿つた、村の郵便局の、壁にあるポストの金具を、ちよいと指さきに冷めたく思つたそのあとで
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
そこで源三は川から二三けんはなれた大きな岩のわずかにひらけているその間に身をかくして、見咎みとがめられまいとひそんでいると、ちょうど前に我が休んだあたりのところへ腰を下してやすんだらしくて
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしは歩み入る、街路樹の鈴懸プラタナスを涵してゐる闇へ。それはSといふ外国商館のまへで、注文帳オオダアブックの黒の背革よりもくろい。闇に紛れてわたしはみる、二輪車のいくつかが、闇なかにやすんでゐるのを。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
草のあひだに やすんでゐた
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ (新字旧仮名) / 立原道造(著)
もうやすんでいる寺僧の世話までかけて、広い境内を歩かずに、この御堂の縁へ、いきなり建物伝いに来て立ったのでも分る。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆるい、はけ水の小流こながれの、一段ちょろちょろと落口を差覗いて、その翁の、また一息やすろうた杖に寄って、私は言った。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ベンチも一つ置いて腰かけてやすむようにするといいね、そこで旅行者は何でも好きなように連れと話をしてもいいんだから、来年の夏にはそうしなさい
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ドユマアゼル君は断念して帰つて行つた。僕達は場外へ出て少時しばらく珈琲店キヤツフエやすんだ。和田垣博士の駄洒落が沢山たくさんに出た。「巴里パリイに多い物はづくし」を並べて種種いろいろの頭韻をかぶつた句などが出来る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
つぎ大野おおのまちきゃくおくってきた海蔵かいぞうさんが、むら茶店ちゃみせにはいっていきました。そこは、むら人力曳じんりきひきたちが一仕事ひとしごとしてると、つぎのおきゃくちながら、やすんでいる場所ばしょになっていたのでした。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
大きな金属製のおけに、その白い液体が入っていた。桶の下は電熱で温められている。ちょっとでも、手をやすめるいとまはない。白い液体は絶えずグルグルと渦を巻いて掻き廻わされていなければならない。
殺人の涯 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どつかにはひつてやすみませうよと。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
Ⅰ やすらひ
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ (新字旧仮名) / 立原道造(著)
津の川波はうろこがたの細かいしわを見せ、男の古い狩衣かりぎぬには少し寒いくらいだった。青い下帯をしめた彼は渡舟を待つあいだ、筒井と土手に腰をおろしてやすんだ。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
名物めいぶつかねく、——まへにも一度いちど神田かんだ叔父をぢと、天王寺てんわうじを、とき相坂あひざかはうからて、今戸いまどあたり𢌞まは途中とちうを、こゝでやすんだことがある。が、う七八ねんにもなつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「千浪どの、どうやらひる近い陽あし、あれに見える葭簀よしず茶屋でやすんで参ると致しましょう」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで良寛さんは、辻堂つじだうかたはらに腰をおろしてやすんだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「どうしたい。ちとやすんではどうか」
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女中部屋でやすみさせてから、灯のいた下で、また赤児に乳房をくわえさせたが、二度ばかりで泣き出してしまった。しらべると一滴ずつしか出なかった。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
突立つツたつてては出入ではひりの邪魔じやまにもなりさうだし、とばくち吹降ふきぶりのあめ吹込ふきこむから、おくはひつて、一度いちどのぞいた待合まちあひやすんだが、ひとつのに、停車場ステエシヨンときはりすゝむほど
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
音無瀬おとなせの水がやすらかによる鷺ヶ淵は、まだ峯間みねあいから朝の陽も覗かないので、ほのかな暁闇の漂う中に、水藻の花の息づかいが、白い水蒸気となってすべてを夢の世界にしていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おじさま、何処かでおやすみにならない、銀座に来たわよ、あたい、塩からい物がたべたいわ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ところで、一せんたりとも茶代ちやだいいてなんぞ、やす餘裕よゆうかつたわたしですが、……うやつて賣藥ばいやく行商ぎやうしやう歩行あるきます時分じぶんは、兩親りやうしんへせめてもの供養くやうのため、とおもつて
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あとでやすませていただきます。ただ今は筒井怠けていては皆さまの教えにはなりませぬ。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
年紀としわかいのに、よっぽど好きだと見えて、さもおいしそうに煙草たばこみつつ、……しかしはげしい暑さに弱って、身も疲れた様子で、炎天の並木の下にやすんでいる学生がある。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼処あすこさ、それ、かさの陰にやすんでござる。はははは、礼を聞かっせえ、待ってるだに。」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
舟のへさきに白い小鳥が一羽、静かに翼をやすめて止っている。——その影は冴えた百合花のように水の上にあるが、小波もない湖の底まで明るい透きとおった影の尾を曳いている。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「お呼吸の苦しい間、お背中が強張こわばっていましたけれど、あ、そう、わたくしもお水いただいて置きましょう。お廊下に出ておやすみになったら? 上山さんの講演も終りましたし。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
おきれいなのが三人さんにんばかりと、わたしたち、そろつて、前津まへつ田畝たんぼあたりを、冬霧ふゆぎり薄紫うすむらさきにそゞろあるきして、一寸ちよつとした茶屋ちやややすんだときだ。「ちらしを。」と、夫人ふじんもくずしをあつらへた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かよわいその人の、一人、毛氈に端坐して、城の見ゆる町をはるかに、開いた丘に、少しのぼせて、羽織を脱いで、蒔絵まきえの重に片袖を掛けて、ほっとやすらったのを見て、少年は谷に下りた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やすませておあげしたの、もう、おじさまのお話が済んだ後だったから、クッションの上で永い間お話したわ、水のようにお廊下に人気がなくて、その方の顔の色があたいの五体にしみ亘るほど
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
控所の茶屋でやすむように、と皆さんが、そう言って下さいましたから、い都合に、点燈頃あかりのつきごろの混雑紛れに出ましたけれど、宅の車では悪うございますから、途中で辻待のを雇いますと
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十段くらいずつ登ってはやすみ、さらにまた十段ずつ登りはじめた。
白糸は欄干に腰をやすめて、しばらくなすこともあらざりしが、突然声を揚げて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)