引立ひきた)” の例文
番甲 此邊このあたりだらけぢゃ。墓場はかば界隈かいわいさがさっしゃい。さゝ、つけ次第しだいに、かまうたことはい、引立ひきたてめさ。
とよ何分なにぶんよろしくと頼んでおたき引止ひきとめるのを辞退じたいしていへを出た。春の夕陽ゆふひは赤々と吾妻橋あづまばしむかうに傾いて、花見帰りの混雑を一層引立ひきたてゝ見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大丈夫だいぢやうぶよ」とつた。このこたへとき宗助そうすけなほこと安心あんしん出來できなくなつた。ところ不思議ふしぎにも、御米およね氣分きぶんは、小六ころく引越ひつこしててから、ずつと引立ひきたつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
浅黄あさぎの帯に扱帯しごきが、牛頭ごず馬頭めず逢魔時おうまがとき浪打際なみうちぎわ引立ひきたててでもくように思われたのでありましょう——わたくしどもの客人が——そういう心持こころもちで御覧なさればこそ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
猶且やはり毎朝まいあさのやうにあさ引立ひきたたず、しづんだ調子てうし横町よこちやう差掛さしかゝると、をりからむかふより二人ふたり囚人しうじんと四にんじゆうふて附添つきそふて兵卒へいそつとに、ぱつたりと出會でつくわす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これ/\昔馴染とはなんの事だ、屋敷にいる時は手前の親を引立ひきたってやった事はあるが、恩を受けたことは少しもない、それを昔馴染などとはもってほかのことだ、一切いっせつ出来ません
景色のみを書いた文章はどうも刺戟しげきすくないのであります。人間が出て来て活動を始めると読者の心もちは急に引立ひきたって来ます。長い文章で景色のみを叙する事は不適当であります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
また苟且かりそめにも一つの神社じんじゃに一とう神馬しんめもないとあってはなんとなく引立ひきたちませんでナ……。
すべて食物に関する私の興味は、連想の美しさに引立ひきたてられる時だけ極めて活溌かっぱつに私の注意を呼びさますので、その点まことに、御主人伯爵にはお気の毒な次第であります。——例えば
とらへて引立ひきたつるにらばまゐるべしおはなしなされ大方おほかた人違ひとちがひとおもへどおにかゝりしうへならではおうたががたからん御案内ごあんないたのまをすと明瞭めいれうこたへながらこゝろうち依然いぜん濛々漠々まう/\ばく/\
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暗礁あんせうどころか、ま、はやく/\。』とわたくし引立ひきたてるやうにして夫人ふじんともなひ、喫驚びつくりしてみはつて少年せうねんをば、ヒシとうでかゝへて甲板かんぱんはしつた、あまりにひと立騷たちさわいでへんは、かへつ危險きけんおほいので
ぢいさんは只管ひたすら卯平うへい元氣げんき引立ひきたてようとした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やはり毎朝まいあさのようにこのあさ引立ひきたたず、しずんだ調子ちょうし横町よこちょう差掛さしかかると、おりからむこうより二人ふたり囚人しゅうじんと四にんじゅううて附添つきそうて兵卒へいそつとに、ぱったりと出会でっくわす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とらへてくれう。……やい、モンタギューめ、破廉恥はれんち所行しょぎゃうめい。うらみ死骸むくろにまでおよぼさうとは、墮地獄だぢごく人非人にんぴにんめ、引立ひきたつる、尋常じんじゃういてい。けてはおかぬぞ。
それからがく/″\して歩行あるくのがすこ難渋なんじふになつたけれども、此処こゝたふれては温気うんき蒸殺むしころされるばかりぢやと、我身わがみ我身わがみはげまして首筋くびすぢつて引立ひきたてるやうにしてたうげはうへ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ただ枕元で喋るばかりでちっとも手が届かねえ、奥のふとったおきんさんと云うかみさんは、おれ引立ひったって、虎子おまるへしなせえってコウ引立ひきたって居てズンとおろすから、虎子でしりつのでいてえやな
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
縄付にて、引立ひきたてられる若い男もあります。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
入相いりあいの浪も物凄ものすごくなりかけた折からなり、あの、赤鬼あかおに青鬼あおおになるものが、かよわい人を冥土めいど引立ひきたててくようで、思いなしか、引挟ひきはさまれた御新姐ごしんぞは、何んとなく物寂ものさびしい、こころよからぬ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて友之助と立花屋の主人あるじ召捕めしとって相生町あいおいちょうの名主方へ引立ひきたてゝまいりました。玄関にはかね待受まちうけて居りました小林藤十郎、左右に手先をはべらせ、友之助を駕籠から引出して敷台に打倒うちたお
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
パリス どうたのまうともかぬわい。重罪人ぢゅうざいにんとして引立ひきたつるは。
と云いながらズッと番頭を引立ひきたてに掛るから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
引立ひきたてても、目ばかり働いて歩行あるき得ない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)