ぷく)” の例文
めてそんなものが一ぷくでもあつたらとおもつた。けれどもそれ自分じぶん呼吸こきふする空氣くうきとゞくうちには、ちてゐないものとあきらめてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
孫行者そんぎょうじゃの負ける心配がないからというのではなく、一ぷくの完全な名画の上にさらにつたない筆を加えるのをじる気持からである。
三尺の壁床かべどこに客の書いたものが余り宜い手では無く、春風春水一時来しゅんぷうしゅんすいいちじにきたると書いてあり、紙仕立かみじたての表装で一ぷく掛けてありますが、余り感心致しません。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こと胡弓こきゅうかなでがどこかに聞え、楼畔ろうはんの柳はふかく、門前のえんじゅのかげには、客の乗馬がつないであった。すべてこれ、一ぷく唐山水とうさんすいの絵であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何百ぷくという絵の大部分が、国宝にもなるべき傑作ばかり、価格にしたら数十億円にもなろうといううわさでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この男が自分の倪雲林げいうんりん山水さんすいぷく、すばらしい上出来なのを廷珸に託して売ってもらおうとしていた。価は百二十金で、ちょっとはないほどのものだった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕は日頃大雅たいがを欲しいと思つてゐる。しかしそれは大雅でさへあれば、金を惜まないと云ふのではない。まあせいぜい五十円位の大雅を一ぷく得たいのである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あめがポツ/\つてる。自分じぶんやまはうをのみた。はじめは何心なにごころなくるともなしにうちに、次第しだいいま前面ぜんめん光景くわうけいは一ぷく俳畫はいぐわとなつてあらはれてた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
はてしもなくつづく浅霞あさかすみ……みずそらとのうあたりにほのぼのと遠山とおやまかげ……それはさながら一ぷく絵巻物えまきものをくりひろげたような、じつなんともえぬ絶景ぜっけいでございました。
薔薇ばら色に一ぷくいている中流の水靄みずもやの中を、鐘ヶ淵へ石炭を運ぶ汽艇附の曳舟が鼓動の音を立てて行く。かもめの群が、むやみに上流へ押しあげられては、飛びあがって汐上げの下流へ移る。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
内証ないしようで大観氏と里栄とに教へる。こゝにお座敷のお客達に黙つて上方舞を見惚みとれさせる一つの秘方がある。それは山村に感心したお客には一ぷくづつ大観氏のを褒美として取らせるといふ事だ。
さながら之れ一ぷく生命反亂の活畫圖くわつぐわづが現はれる。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
... いた軸物かけものがかかっていたね、あれは大層高価なものというではないか」小山「あれは僕の父が二百円である人から買ったが今売れば三百円以上になる。その外僕の家には周文だの雪舟だのほとんど千円近い名画が五、六ぷくもあるよ」中川「サア其処そこだテ。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。下宿料の十円や十五円は懸物かけものを一ぷく売りゃ、すぐいてくるって云ってたぜ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明夕みょうゆう初更までに、各隊の兵は一人も残るなく、おのおの一ぷくきん(衣服)を用意せよ。怠る者は首を斬らん」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
エヽ此水指このみづさしまこと結構けつこうですな、それからむかうのお屏風びやうぶ、三ぷくつひ探幽たんにゆうのおぢくそれ此霰このあられかま蘆屋あしやでげせうな
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何も格別が上手でなくともいい、発行人に幾らか出版費の足し前を出すとか、それとも絵の二三ぷくも寄附すればいいので、さうした訳合わけあひでかなりの地位にわつてゐるひよ画家も少くはない。
またとこには一ぷく女神様めがみさま掛軸かけじがかかってり、そのまえには陶器製とうきせい竜神りゅうじん置物おきものえてありました。その竜神りゅうじん素晴すばらしいいきおいで、かっとおおきなくちけてたのがいままえのこってります。
今、描きかけていたのは、三ぷくの絹地へ、中に人物を描き、左右に、秋の七草と月とを構図したものだった。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外「お前のうちに百ぷく幽霊の掛物があるという事でとくより見たいと思って居たが、何卒どうぞ見せて下さい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただこの景色を一ぷくとして、一かんの詩として読むからである。であり詩である以上は地面じめんを貰って、開拓する気にもならねば、鉄道をかけて一儲ひともうけする了見りょうけんも起らぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先日こなひだもある男が一ぷくそんなのを抱へ込むで来た。
それは一ぷくの画讃の祖師像を、或る時、出入りの経師屋きょうじやが持って来て見せてくれたことからだった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道具類だうぐるゐせきばかりつて、金目かねめにならないものは、こと/″\はらつたが、五六ぷく掛物かけものと十二三てん骨董品丈こつとうひんだけは、矢張やは氣長きながしがるひとさがさないとそんだと叔父をぢ意見いけん同意どういして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うもさう一時いちどきまとめてかれるとわからぬね、このぷくつゐぢくおれ祖父そふ拝領はいりやうをしたものぢやがね、かまなにかはみなおれが買つたんだ、しか貴様きさま見込みこみくらゐものがあるぢやらう、此四品このよしなで。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
渓流けいりゅうへいってからだをあらい、宿のあるじにひかれて、おくの一しつへ落ちつくと、とこに一ぷくじくがかかっていた。それはその部屋へやへはいったとたんに、だれにもすぐ目についた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……一ぷくの絵だ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)