小綺麗こぎれい)” の例文
この時小綺麗こぎれいな顔をした、田舎出らしい女中が、かんを附けた銚子ちょうしを持って来て、障子を開けて出すと主人が女房に目食めくわせをした。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
身寄りのない六十五歳の年寄りであったが、耳が遠い外には、これという病気もなく、至極まめまめした、小綺麗こぎれいな老人であった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
其處は荒物屋の裏二階で、何となく小綺麗こぎれいに住んで居りますが、家主の荒物屋でくと、與三郎の評判はまことに滅茶々々めちや/\です。
そこもまたふだんよりも小綺麗こぎれいだった。唯目金めがねをかけた小娘が一人何か店員と話していたのは僕には気がかりにならないこともなかった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
万事がそういう風だから、独身で一家を構え小綺麗こぎれいにくらして行こうと思うと、とてもうちを明けて毎日出勤するようなことは出来なくなる。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
顔立ちの整った、ちょっと小綺麗こぎれいな娘だった。気立てもやさしく、することなすことしっかりしていて、几帳面きちょうめんで、てきぱきした性質であった。
わたしも無遠慮に出かけてゆくと、老人は小綺麗こぎれいに片付けてある別室に控えていて、茶や菓子などの御馳走をした上に、いろいろの芝居話をしてくれた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこを少し行って、大通りを例の細い往来へ切れた彼は、何の苦もなくまた名宛なあて苗字みょうじ小綺麗こぎれいな二階建の一軒の門札もんさつ見出みいだした。彼は玄関へかかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
街路は清潔に掃除そうじされて、鋪石ほせきがしっとりと露にれていた。どの商店も小綺麗こぎれいにさっぱりして、みがいた硝子の飾窓かざりまどには、様々の珍しい商品が並んでいた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
小綺麗こぎれいなメリンスの掛蒲団かけぶとんをかけて置炬燵おきごたつにあたりながら気慰みに絽刺ろさしをしていたところと見えて、右手にそれを持っている。私は窓の横からのぞきながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
全くジャボールは小綺麗こぎれいな島だ。砂の上に椰子と蛸樹たこのきと家々とを程良くあしらった小さな箱庭のような。
奸智かんちにたけた鈴川源十郎、たちまちおさよを実の母のごとくうやまって手をついて詫びぬばかり、ただちにしょうじて小綺麗こぎれいな一をあたえ、今ではおさよ、何不自由なく
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若い詩人はその粗末な小さな部屋を小綺麗こぎれいに片けて居た。一つしか無い窓を開けると小路こうぢを隔てて塀の高い監獄の構内をぐ見おろすのである。妙なところに住んでるね。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
此所にはまた菜飯なめし茶屋という田楽でんがく茶屋がありました。小綺麗こぎれいねえさんなどが店先ででんがくをってお愛想をいったりしたもの、万年屋、山代屋やましろやなど五、六軒もあった。
喫驚びツくりしてひと見境みさかひもないんだわ!だけど、扇子せんす手套てぶくろつててやつたはういわ——さうよ、つたら』をはると同時どうじ小綺麗こぎれいちひさなうちました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
マダムの常子も春日町の借家を一軒立ち退かせ、そこで小綺麗こぎれいに暮らしていたが、もう内輪同様になっているので、気が向くと松の家へ入りこみ、世間話に退屈をしのいだ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
時に大原君よろこび給え。万事好都合で、好い時には好い事のあるものさ。君も知っているだろう、中川君の家の一軒置いた先に門構もんがまえ小綺麗こぎれいな家がある。あの家が今朝引越しさ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
行ってみると鶴吉のうちは、お厩河岸うまやがしに近い露路裏ろじうらで、ちょっと小綺麗こぎれいな格子づくりです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東京の道玄坂を小綺麗こぎれい整頓せいとんしたような街である。みちの両側をぞろぞろ流れて通る人たちも、のんきそうで、そうして、どこかハイカラである。植木の露店には、もう躑躅つつじが出ている。
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さぞかし姉が所帯やつれをしているであろうと想像していたのに、思ったよりは髪かたちも小綺麗こぎれいに、身なりを整えているのを見ては、どんなになってもたしなみを忘れないところのある姉に
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お松は船の仕事着ではなく小綺麗こぎれい身扮みなりをして、船着場の茶屋に待っています。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此の汚れたのは持って帰って小綺麗こぎれいなのと取替えて持って来て貸して下さるか
私は例のチベット服しかないからその服を着てずっと大宮さんの所に行ったです。大宮君はある商家の小綺麗こぎれいな二階を借りて居られる。誠に綺麗好きな人で入るからが気持ちの好い室である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
修めて最早もはや卒業せんとせし頃(時に余が年二十三)余は巴里府ぱりふプリンス街に下宿したるが余が借れるの隣のへやに中肉中背にて髭髯くちひげ小綺麗こぎれい剃附そりつけて容貌にも別に癖の無き一人の下宿人あり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
主人の方は横浜の商会に勤めていて、土曜の夕方になるとやって来ては、また月曜の朝早く帰って行くという風で、小綺麗こぎれいな若い妻君がその小さなお嬢さんを相手に物静かに暮らしていました。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
近頃ちかごろ東京とうきやうける、あるひ日本にほんける麻雀マアジヤン流行りうかうすさまじいばかりで、麻雀倶樂部マアジヤンくらぶ開業かいげふまつた雨後うごたけのこごとしで邊鄙へんぴ郊外かうぐわいまちにまでおよんでゐるやうだが、そこはどこまでも日本式にほんしき小綺麗こぎれい
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
奉公名儀で小綺麗こぎれいな娘をつぎつぎと手に入れるキッカケをつくる。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
たとえお霜は襤褸ぼろを下げても彼女には小綺麗こぎれいの着物を着せた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて私はあの小綺麗こぎれいな明るい臺所の中に立つてゐた。
その日も濡れ仏の石壇のまわりはほとんど鳩で一ぱいだった。が、どの鳩も今日こんにちのように小綺麗こぎれいに見えはしなかったらしい。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まけ小綺麗こぎれいな所で店賃の安い所へ越したいから、世話をしてくれろと云うので、切通しの質屋の隠居のいた跡へ、面倒を見て越させて遣った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ベートーヴェンが都振りの小綺麗こぎれいな紳士で終ったならば、——私はそれを考えただけでも戦慄せんりつを禁じ得ない——我らはおそらく音楽芸術の巨大な分野
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
うろうろ徘徊はいかいしている人相にんそうの悪い車夫しゃふがちょっと風采みなり小綺麗こぎれいな通行人のあとうるさく付きまとって乗車をすすめている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのなかにただ一人、市川九女八くめはちの弟子で、以前は三崎座に出ていたかつらという小綺麗こぎれいな若い女優があった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はかつて夢の中で、数人の友だちと一緒に、町の或る小綺麗こぎれいな喫茶店に入つた。そこの給仕女に一人の悧発りはつさうな顔をした、たいそう愛くるしい少女が居た。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
その向う横町に代言だいげんだか周旋屋しゅうせんやだか分らない小綺麗こぎれい格子戸作こうしどづくりのうちがあって、時々表へ女記者一名、女コック一名至急入用などという広告を黒板ボールドへ書いて出す。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
椰子の根元に立った二人の幼児は、島民らしくない小綺麗こぎれいな服を着ている。彼らと話を始めようとしたのだが、生憎あいにく、コンニチハの外、何にも日本語を知らないのである。
待合の建物があまり瀟洒しょうしゃでもなく、雰囲気ふんいきも清潔でないので、最初石畳のき詰まった横町などへ入ってみた時には、どこも鼻のつかえるようなせせっこましさで少し小綺麗こぎれいうちはまた
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、そこの茶の間の古い長火鉢ながひばちの傍には、見たところ六十五、六の品の好い小綺麗こぎれいな老婦人が静かに坐って煙草たばこっていた。母親はその老婦人にちょっと会釈しながら、私の方を向いて
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と落ちついて言って私に蜜柑みかんなどをすすめる。電気をつけてみると、部屋が小綺麗こぎれい整頓せいとんせられているのがわかり、とても狂人の住んでいる部屋とは思えない。幸福な家庭の匂いさえするのである。
女神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それも京橋辺きょうばしへんの酒屋の隠居所を、ある伝手つてから二階だけ貸して貰ったので、たたみ建具たてぐも世間並の下宿に比べると、はるか小綺麗こぎれいに出来上っていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
うろ/\徘徊はいくわいしてゐる人相にんさうの悪い車夫しやふ一寸ちよつと風采みなり小綺麗こぎれいな通行人のあとうるさく付きまとつて乗車をすゝめてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
わたしが毎日入浴する麹町こうじまち四丁目の湯屋にも二階があって、若い小綺麗こぎれいねえさんが二、三人いた。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その上、当時の中学生といえば、シラミをひねってエラそうなことをいうのが一番豪傑で、いやに小綺麗こぎれいで、勉強ばかりしているのは「あいつは話せない」と、一蹴された。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
女の家は狭かったけれども小綺麗こぎれいにかつ住心地よくできていた。縁のすみに丸く彫り抜いた御影みかげ手水鉢ちょうずばちえてあって、手拭掛てぬぐいかけには小新らしい三越の手拭さえゆらめいていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこは見附みつきの好い小綺麗こぎれいな店屋であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「そりやその方が好いだよう。子供のなりも見好くしたり、自分も小綺麗こぎれいになつたりするはやつぱし浮世の飾りだよう。」
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
湯屋ゆうやの二階というものは、明治十八、九年の頃まで残っていたと思う。わたしが毎日入浴する麹町四丁目の湯屋にも二階があって、若い小綺麗こぎれいねえさんが二、三人居た。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小綺麗こぎれいに片づいた茶の間は勿論、文化竈ぶんかかまどを据えた台所さえ舅や姑の居間よりもはるかに重吉には親しかった。彼は一時は知事などにもなった或政治家の次男だった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しもた家の多い山の手を始め小綺麗こぎれいな商店の軒を並べた、江戸伝来の下町も何か彼を圧迫した。