まぬが)” の例文
「何故、正成は、死んだか? 討死をしたか? 死なずにすむ戦であったか、まぬがれぬ戦であったか、は、別の論議としておいて——」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
公儀の御封を受けた品や、東照公御墨附が紛失すれば、明年の御品調べを待たず、小堀家は重くて改易、輕くて減地轉封はまぬがれません。
今までの所ではさいわいに、法律上の罪人となることだけはまぬがれて来た。だが、この先どんなことで、もっとひどい罪を犯すまいものでもない。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この反感の反感から、私は、まだ未成品であったためにいろいろの批議をまぬがれなかった口語詩に対して、人以上に同情をもつようになった。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
汝の知らんと欲するは、はたされざりし誓ひをば人他のつとめによりてつぐのひ、魂をして論爭あらそひまぬがれしむるをうるやいなやといふ事是なり。 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それからわたくし未熟みじゅく自分じぶんにできるかぎりの熱誠ねっせいをこめて、三浦みうら土地とち災厄さいやくからまぬがれるようにと、竜神界りゅうじんかい祈願きがんめますと
脆いのではない、この手でやられては、誰でもまぬがれる由はあるまい。この運命を免れんとするには、最初、招きに応じて出なければよかったのだ。
新しい時代は、多くは抽象たるをまぬがれない。又多くは思想たるを免れない。しかしこれは止むを得ないことだ。
墓の上に墓 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
是故に美術的の文学は是非とも脩辞の発達を待ちて発達するなり。而して明治の文学も亦此通則をまぬがる能はずして脩辞の時代と共に美術的の文学は来れり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
しかし、これとても浮世の無情、有為天変ういてんぺんまぬがれません。いずれはうたかたのはかないものと思って居ります。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
如何いかに為べきかとあるひおそれ、或は惑ひたりしが、つひにそのまぬがるまじきを知りて、彼はやうやう胸を定めつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
体得するところに深浅しんせん高低の差があるのは、おそらくまぬがれがたいところであり、また時としては、自ら知らずして誤まった方向に進んでいる者もないとは限りません。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
だがそれを内密にすましてその男は処罰されることからはまぬがれた。しかし、その代りとして、四年兵になるまで残しておかれるだろうとは、自他ともに覚悟をしていた。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
いまの境遇は、この蘭谷あららぎだにの豪族、雨龍太郎の妾として、贅沢三昧、姐御姐御と多くの配下に立てられているのだけれど、何と云っても斑鳩嶽いかるがだけの山奥の単調さはまぬがれない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〔譯〕人一生ふ所、險阻けんそ有り、坦夷たんい有り、安流あんりう有り、驚瀾きやうらん有り。是れ氣數きすうの自然にして、つひまぬがるゝ能はず、即ち易理えきりなり。人宜しく居つて安んじ、もてあそんでたのしむべし。
そこへ行くと召波の句は、里坊が非常に働いている代りに、多少斧鑿ふさくあとの存するをまぬがれぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
このしゆ海鳥かいてうは、元來ぐわんらい左迄さまで性質せいしつ猛惡まうあくなものでいから、此方こなたさへ落付おちついてれば、あるひ無難ぶなんまぬがれること出來できたかもれぬが、不意ふいこととて、しんから顛倒てんだうしてつたので
いわゆるセヂの均分などは賢い人々の多い時代にも、なお公平を期し難いものであった。ましてその総体の分量のすでに乏しい社会では、争奪と怨恨えんこんとは何としてもまぬがれない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その間壮士らの宿料をば、無理算段してめ合せ、かろうじて無銭宿泊の難をまぬがれたれども、さて今後幾日をば調金の見込み立つべきや否や、如何いかにしてその間を切り抜くべきや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
女性をんなの誰もまぬがれない愛情の潜んで居るのぢや無からうかと思ふんですよ——私などは斯様こんな軽卒がさつなもんですから、直ぐ挙動にあらはして仕舞しまひますがネ、貴嬢の様に強意しつかりした方は、自ら抑へるだけ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これらの論点を部分的にみれば、なるほどそういうこともいえないこともないが、しかし多くは特殊の例外的な場合を取り上げて、それをことさらに一般化したという牽強附会けんきょうふかいの感をまぬがれない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
さればと謂ツて、ナンセンスといふ方では無い。相おうに苦勞もあれば、また女性のまぬがれぬ苦勞性のとこもある。無垢むくか何うか、其れは假りに問として置くとして、左程さほど濁つた女で無いのは確だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
武士らこれをとりもたせて、怪しかりつる事どもをつばらに訴ふ。助も大宮司も妖怪もののけのなせる事をさとりて、豊雄をさいなむ事をゆるくす。されど二〇九当罪おもてつみまぬがれず、かみみたちにわたされて牢裏らうりつながる。
真二つに喰切られたりすることをまぬがれることが出来ました。
殺戮無慙のヘクト,ルの手をまぬがれて水陣に
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
元の夫一刀齋勘兵衞を殺し、續いて、主人の雲龍齋又六を殺したとすれば、磔刑はりつけ火焙ひあぶりはまぬがれぬところでせう。
兄弟よ、人難をまぬがれんため、わが意にそむき、その爲すべきにあらざることをなしゝためしは世に多し 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「うまいッ、益々うまいですよ。被害者の死骸を写生して嫌疑をまぬがれ様というのは、実にズバ抜けた新考案です」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
陰陽いんようむすびは宇宙うちゅう万有ばんゆうってもれぬとうと御法則みのり、いかにたか神々かみがみとてもこの約束やくそくからはまぬがれない。ただその愛情あいじょうはどこまでもきよめられてかねばならぬ。
この目準があるものだから、いくら老僧たちが嘲笑的な態度を執ろうとも最後には彼等の胡散うさんの誘惑からまぬがれて初一念が求むる方向へと一人とぼとぼ思念を探り入れて行った。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
喧嘩ならぬところに喧嘩以上の動揺の起ることはまぬがれないのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これ普通ふつう塲所ばしよなら、かゝる死地しちちても、鐵車てつしやをば此處こゝ打棄うちすてゝ、そのだけまぬが工夫くふういでもないが、千山せんざん萬峰ばんぽう奧深おくふかく、數十里すうじふり四方しほうまつた猛獸まうじう毒蛇どくじや巣窟さうくつで、すで此時このとき數十すうじふ獅子しゝ
又悲慘なる戰にまぬがれ生を保つもの、 230
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
あに閻羅えんら獄卒の責めをまぬがれんや
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ一時発覚をまぬがれたとはいえ、私はどうにも覗き眼鏡のことが気になって仕様がないものですから、夜の内にその装置を取りこわしてしまうつもりで
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
娘盛りの頃、強盜に手籠てごめにされさうになつて、銀簪ぎんかんざしで眼を突いて危ふいところをまぬがれたことがありました。
りかけたふねとやら、これも現世げんせ通信つうしんこころみるものまぬががた運命うんめい——ごうかもれませぬ……。
雌は避けられるだけは避けて、まぬがれようとする。なぜであろうか。処女の恥辱のためであろうか。生物は本来、性の独立をいとおしむためか。それともかえって雄を誘うコケットリーか。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その上あの晩、三村屋の裏で仲吉を見掛けた者もあるし、翌る日仲吉は、燒け跡から放火道具を拾つて、人目に隱れて燒き捨てゝゐるが——これぢやまぬがれやうはない
優れた探偵家のまぬがれ難い衒気げんきであったのか、彼も亦、一度首を突込んだ事件は、それが全く解決してしまうまで、気まぐれな思わせぶりの外には、彼の推理の片影へんえいさえも
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてそれをまぬがれるり方も彼には判っていた。それは簡単だった。時代並みの商人になればそれでよかったのだ。貸越しをもう少し催促して取立て、前借りをもう少し引緊めて拒絶する。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから、雨に當らない筈の千兩箱が、ひどく濡れて居たのも平次の眼をまぬがれやうはなかつたのです。
夫人の一挙一動、どんな些細ささいな事柄も彼の監視をまぬがれることは出来なかった。彼は小間使のお雪と同様に今宵こよいの密会を悟った。そして、お雪には真似の出来ない芸当をやった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「岩松、氣の毒だが、新吉はまぬがれやうはねえ。自分でお駒を殺しましたと、白状して居るんだ」
賣り、夫は女房に別れて、泣かない日とてはない何千人の怨み、公儀の御とがめはまぬがれても、御墨附が紛失した上は、輕くて改易かいえき、重ければ腹でも切らなければなりますまい、おゝいゝ氣味
手拭を忘れて行つたばかりに小三郎は、この恐ろしい疑ひからまぬがれて、恐ろしく智慧の廻る下手人が、小三郎と同じ柄の手拭を買つて來て、お菊を絞め殺したといふ結論にみちびかれるのです。
この事、公儀の御耳に入つては、家事不取締の御とがめはまぬがれない。
これは煙草入の證據があつたにかゝはらず、からくも繩目をまぬがれました。
「氣の毒だが下手人の疑ひはまぬがれつこはねえ」