乃至ないし)” の例文
(四)メリメエ乃至ないしキイランドの如きスタイリスト渡辺温氏が作を示さざるを寂寥とす。僕が嘱望している作家はこの人一人だけ也。
だからロシヤ人は普通まるっきり無知か、乃至ないしは非常に無知なのだ。——そんな意味のことが、チェーホフの『手帖』に書いてある。
けれどふ言ふのが温泉場をんせんばひと海水浴場かいすゐよくぢやうひと乃至ないし名所見物めいしよけんぶつにでも出掛でかけひと洒落しやれ口調くてうであるキザな言葉ことばたるをうしなはない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
速射砲の設備整然たる五百トン級、乃至ないし二百噸級の水雷駆逐艇が五艘、九十線の銅版キメ細やかに浮き出しているとは夢にも知らずに
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日、すぐさま柳さんに、せめて一茶の字、乃至ないしは下手物皿に見えた字に負けないほど無心に書いてもらえれば、申し分ないのである。
けれどお七の心の中には賢もなく愚もなく善もなく悪もなく人間もなく世間もなく天地万象もなく、乃至ないし思慮も分別もなくなって居る。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
そこで、このアパートが普通の下宿屋乃至ないし木賃宿とそんなにちがつたものでないと云つても、あやしむことなく理解されるだらう。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
ここに一種の研究所を設けて、およそ五、六名乃至ないし十名の学者をえらび、これに生涯安心の生計を授けて学事の外に顧慮する所なからしめ
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
また世の父兄が高等女学校乃至ないし現在の女子大学程度の授業を以て女子に高等教育を授けたかの如く誤解されないように希望します。
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
かくの如く嘉靖または万暦の初年と康煕の初年との間、ほとんど百年乃至ないし百五十年のうちにも髣髴ほうふつとして如此かくのごときの音韻変化の迹がたどられる。
真耳鼻舌身意けんにびぜつしんいも無く、色馨香味触法しきしょうこうみそくほうも無く、眼界げんかいも無く、乃至ないし、意識界も無く、無明むみょうも無く、また無明の尽くることもなく……」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
これを作ったわけは、如何なる防潜網ぼうせんもうも海面下二メートル乃至ないし十数メートル下に張ってあるから、普通の潜水艦艇では、突破は困難だ。
湯の温度は百六十三度乃至ないし百五度ぐらいで、打撲うちみ金瘡きりきずは勿論、胃病、便秘、子宮病、僂麻質私りょうまちすなどの諸病に効能きゝめがあると申します。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すべて、海上かいじやう規則きそくでは、ふね出港しゆつかうの十ぷん乃至ないし十五ふんまへに、船中せんちうまは銅鑼どらひゞききこゆるととも本船ほんせん立去たちさらねばならぬのである。
あるひは娘共むすめども仰向あふむけてゐる時分じぶんに、うへから無上むしゃう壓迫おさへつけて、つい忍耐がまんするくせけ、なんなく強者つはものにしてのくるも彼奴きゃつわざ乃至ないしは……
その時の私の心もちと申しましたら、嬉しいとも、悲しいとも、乃至ないしはまた残念だとも、何ともお話しの致しようがございません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
郵船会社の方がかへつて四円乃至ないし四円五十銭と申すのは、余りに公平を欠きまする様で——第一に国家の公益で無い様に思ひまするので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
金作の話にると、内蔵助平は熊や羚羊や猿などの好猟地で、以前は糧食を携えて五日乃至ないし一週間と狩り暮したことがあるという。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
土間無く、天井無く、障子ふすま無く、壁一重にて隣を分ち、大戸一枚道路を隔てる、戸に接してわづかに三畳乃至ないし五六畳の一室あるのみ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乃至ないしは最初の印象を、思い出として心のなかでいつくしんでいるのがほんとうかもしれぬ。改めて観察しようというのが不心得なのであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
帰朝後も独身生活の気やすさにれて家庭を作ろうとしなかったので、今日まで奥さん乃至ないし奥さんらしいものを持ったことがない。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其れが焼鏝やきごてを当てる様になり、乃至ないし「ヌマ」と云ふ曲つたピンに巻いてちゞらす様になると、癖を附けぬ毛の三倍程も毛はふくれるが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
我は心裡しんりにヱネチアの歴史を繰り返して、そのいにしへの富、古の繁華、古の獨立、古の權勢乃至ないし大海にめあはすといふ古の大統領ドオジエの事を思ひぬ。
その雑木林から崖になっている多摩川沿いに至るまでの間がここの本村になっている、東西は一里、南北は五町乃至ないし十町位のものだろう。
具体的に云うと、はなはだしい場合には、彼女の父母は、半間乃至ないし一間の距離で蘭子の柔い肉塊を、ゴムまりみたいにほうりっこするのである。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これらの場所の積雪は一丈乃至ないし三丈にも及ぶものがあるから、暖地の者には想像も及ばぬ凄じいものであるといわねばならない。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
要するし、産婆とか看護婦とか、乃至ないし医師にも口留めをしなければならんし、それに奥さんが承知されるかどうか、それも疑問だ
しかるに海幸うみさちを守る蛭子社を数町乃至ないし一、二里も陸地内に合併されては、事あるごとに祈願し得ず、兵卒が将校をうしないしごとく歎きおり
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
地震直後ぢしんちよくごから大正たいしやう十三四ねんごろまでのやうに十ドル以上いじやうさがつたこともあるけれども、平均へいきんしてづ四乃至ないしさがつてると状況じやうきやうである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
乃至ないしは過失として片づけたい夫人には、良人が新子を愛していると云われたことは、堪えられないことだったので、思わずカッとなって
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ええ、ありません。もっとも、顔面、掌その他に、極めて軽微な表皮剥脱乃至ないし皮下出血がありますが、死因とは無関係です」
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
こんな中腰ちゅうごしの態度で、芝居を見物する原因は複雑のようですが、その五割乃至ないし七割は舞台で演ずる劇そのものに帰着するのかも知れません。
虚子君へ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなら今にいたるまでに、わたくしの見た最古の「武鑑」乃至ないしその類書は何かというと、それは正保しょうほう二年に作った江戸の「屋敷附」である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
近年はだんだんにその跡を絶ったが、むかしは一丈五尺乃至ないし二丈ぐらいのうわばみが悠々とのたくっていたということである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
むろん例外れいがいはありましょうが、現在げんざいでは数百年前すうひゃくねんぜん乃至ないしねん二千ねんぜん帰幽きゆうした人霊じんれいが、守護霊しゅごれいとしておもはたらいているように見受みうけられます。
「生の流転をはかなむ心持ちに纏絡てんらくする煩わしい感情から脱したい、乃至ないし時々それから避けて休みたい、ある土台を得たい」
享楽人 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
則ち人類から他の哺乳類鳥類爬虫はちゅう類魚類それから節足動物とか軟体なんたい動物とか乃至ないし原生動物それから一転して植物、の細菌類
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
淋しい大破した本堂の中にみなぎり渡る寂滅じやくめつの気分は、女や子供、乃至ないしは真面目に考へる人達の心を動かさずには置かなかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
近年ファーブルのものをしきりに飜訳していたが、この種の文学的乃至ないし学術的興味を早くから持っていて、主義者はだよりはむしろ文人肌であった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
本校は、決して、諸君が改進党に入ると自由党に入ると乃至ないし帝政党に入るとを問て、その親疎をわかたざるなり(大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
もとゑんじはまこと心底の胸から出やるか、乃至ないしは唇のおもてからか。いやさ、それを告げいでは、ちやくと教へられぬわい。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
あんまり綺麗でない壁にあんまり綺麗でない大鏡が二個乃至ないし三個ならび、そのあいだに角の演芸館ヴァライティの二週間まえのびらと
全然未知の権力に対して、彼らの場合には、偶然のめぐり合せを期待しなければならない。乃至ないしは、はなはだ微妙な交渉の呼吸が必要になって来る。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
現代ではすべての文筆家が多かれすくなかれ何らかの条件乃至ないしは制限を加えられて書くことを要求されるのである。る作家はこういう註文をうける。
童話における物語性の喪失 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
イクラをはりにさすには、一粒乃至ないし二粒でよろしい。数多くつける必要はないのである。鈎合わせは素早い方がよろしい。
鱒の卵 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
既に従来の道徳は必然服従せねばならぬものでない以上、すべての夫が妻ならぬ女に通じ、凡ての妻が夫ならぬ男に通じても可いものとし、乃至ないし
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
百万人の文学としての通俗小説は、現代では、新聞のメカニズムに乗ることなしには考へられない。乃至ないしは、それがもつとも確実で、早道なのだ。
乃至ないしは幾分のセンセイショナルな意味で「阿呆の首」とか「或る詩人」とでも変えたならばこの難を免れ得るであろうと経川に計ったのであるが
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
日本在来の宗教は主として支那、印度インドから来た仏教乃至ないし儒教で多神教であるが、天主教はそれとは違って一神教である。
又中間若党のたぐいも相応にいたろう。茶坊主、小姓乃至ないし奥女中の類も沢山にいたろう。又家老その他の諸役人もいたろう。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)