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あがりがまち
ふりがな文庫
“
上框
(
あがりがまち
)” の例文
上框
(
あがりがまち
)
に腰をかけていたもう一人の男はやや
暫
(
しば
)
らく彼れの顔を見つめていたが、
浪花節
(
なにわぶし
)
語りのような妙に張りのある声で突然口を切った。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
お夏の
跫音
(
あしおと
)
ではない。うとうとした女房、台所の
傍
(
かたわら
)
なる部屋で目を覚すと、枕許を通るのは愛吉で。
憚
(
はばか
)
りかと思うと
上框
(
あがりがまち
)
の戸を開けた。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
上框
(
あがりがまち
)
には妻の敏子が、垢着いた木綿物の上に女兒を負つて、頭にかゝるほつれ毛を氣にしながら、ランプの
火屋
(
ほや
)
を研いてゐた。
足跡
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
私が
上框
(
あがりがまち
)
に腰を下ろして口笛を鳴らすと、犬は私の足許に寄ってきて、いかにも満足そうに「ワンワン。」と二声吠えた。
犬の生活
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
借家の
格子戸
(
こうしど
)
がガタガタいって容易に
開
(
あ
)
かない。
切張
(
きりば
)
りをした
鼠色
(
ねずみいろ
)
の障子にはまだランプの火も見えない。
上框
(
あがりがまち
)
は
真暗
(
まっくら
)
だ。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
▼ もっと見る
その冷い石の上へ足を預けて
上框
(
あがりがまち
)
のところに腰掛けながら休んだ。玄関の片隅の方を眺めると、壁によせて本箱や机などが彼を待受け顔に見えた。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
腰を曲げ、
瘧
(
おこり
)
にかかったようにブルブルと両手を震わせながら、よろぼけよろぼけ、見る影もないようすで
上框
(
あがりがまち
)
まで出て来て、そこへべッたりとへたり込むと
平賀源内捕物帳:長崎ものがたり
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
お上さんは
纖
(
ほそ
)
い
指尖
(
ゆびさき
)
を
上框
(
あがりがまち
)
に
衝
(
つ
)
いて足駄を脱いだ。そして背中の子を
賺
(
すか
)
しつゝ、帳場の奧に
躱
(
かく
)
れた。
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
艶拭きのかかった
上框
(
あがりがまち
)
へ、助五郎は気易に腰をかけて、縁日物の煙草入れの鞘をぽうんと抜く。
助五郎余罪
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
上框
(
あがりがまち
)
に坐り込んで了ひます。
銭形平次捕物控:038 一枚の文銭
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
彦兵衛は
上框
(
あがりがまち
)
に立った。
釘抜藤吉捕物覚書:08 無明の夜
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
智恵子が
此家
(
ここ
)
の前まで来ると、洗晒しの筒袖を着た小造の女が、十許りの女の児を
上框
(
あがりがまち
)
に腰掛けさせて髪を結つてやつて居た。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
上框
(
あがりがまち
)
を開けようとしたり、
止
(
や
)
めたり、引返して坐ったり、煙草を呑もうとしたり、見合わせたり、とやかく係合いに気を揉んだのは事実で。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「京葉さんはいますか。」ときくと、直に家の内から、小づくりの
円顔
(
まるがお
)
。髪はつぶしにたけながを結んだ女が腰の物一枚、裸体のまま
上框
(
あがりがまち
)
へ出て来て
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
てらてらに
黒光
(
くろびかり
)
した
商人宿
(
あきんどやど
)
の
上框
(
あがりがまち
)
に腰をおろすと、綿入の袖無を着た
松助
(
まつすけ
)
の名工柿右衛門にそっくりのお爺さんが律義に這い出してきて、三十郎の顔をひと目見ると
生霊
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「はい」と
父親
(
おやじ
)
は
上框
(
あがりがまち
)
へ腰を掛けながら
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
上框
(
あがりがまち
)
には妻の敏子が、垢着いた木綿物の上に
女児
(
こども
)
を
負
(
おぶ
)
つて、顔にかゝるほつれ毛を気にしながら、ランプの
火屋
(
ほや
)
を
研
(
みが
)
いてゐた。
足跡
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
時に返事をしなかった、
上框
(
あがりがまち
)
の障子は一枚左の方へ開けてある。
取附
(
とッつき
)
が三畳、次の
間
(
ま
)
に
灯
(
あかり
)
は
点
(
つ
)
いていた、弥吉は土間の処へ
突立
(
つった
)
って、委細構わず
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
荒い大阪格子を立てた中仕切へ、鈴のついたリボンの
簾
(
すだれ
)
が下げてある。其下の
上框
(
あがりがまち
)
に腰をかけて靴を脱ぐ
中
(
うち
)
に女は
雑巾
(
ぞうきん
)
で足をふき、
端折
(
はしょ
)
った裾もおろさず下座敷の電燈をひねり
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
上框
(
あがりがまち
)
に膝をついて
平賀源内捕物帳:長崎ものがたり
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
渠は成るべく音のしない様に、入口の硝子戸を開けて、
閉
(
た
)
てて、下駄を脱いで、
上框
(
あがりがまち
)
の障子をも開けて閉てた。
此室
(
ここ
)
は長火鉢の置いてある六畳間。
病院の窓
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
小町下駄は、お縫が
許
(
とこ
)
の
上框
(
あがりがまち
)
の内に脱いだままで居なくなったのであるから、身を投げた時は
跣足
(
はだし
)
であった。
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
階下
(
した
)
のかみさんは
梯子段
(
はしごだん
)
の下の
上框
(
あがりがまち
)
へ出て取次をしている様子で「お上んなさいましよ。きっと
転寝
(
うたたね
)
でもしておいでなさるんだよ。まだ聞えないのか知ら。田島さん。田島さん。」
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
台所と、この
上框
(
あがりがまち
)
とを隔ての
板戸
(
いたど
)
に、
地方
(
いなか
)
の
習慣
(
ならい
)
で、
蘆
(
あし
)
の
簾
(
すだれ
)
の掛ったのが、破れる、
断
(
き
)
れる、その上、手の届かぬ何年かの
煤
(
すす
)
がたまって、
相馬内裏
(
そうまだいり
)
の
古御所
(
ふるごしょ
)
めく。
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と言つて、定次郎は腹掛から五十錢銀貨一枚出して、
上框
(
あがりがまち
)
に腰かけてゐるお定へ投げてよこした。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
半歳
(
はんとし
)
ちかくたって、或日の朝重吉はいつものように
寐坊
(
ねぼう
)
な女を二階へ置いたまま、事務所への出がけ、独り
上框
(
あがりがまち
)
で靴をはいていると、その鼻先へ郵便
脚夫
(
きゃくふ
)
が雑誌のような印刷物二
ひかげの花
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
何事も思わず開けて入り、
上框
(
あがりがまち
)
に立ちましたが、帳場に寝込んでおりますから、むざとは入らないで
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
これだけで訪問の礼は既に終つたから、
平生
(
いつも
)
の如く入つて行かうと思つて、
上框
(
あがりがまち
)
の戸に手をかけやうとすると、不意、不意、暗中に鉄の如き手あつて自分の手首をシタタカ握つた。
葬列
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
その夜お雪さんは急に歯が痛くなって、今しがた窓際から引込んで寝たばかりのところだと言いながら蚊帳から
這
(
は
)
い出したが、坐る場処がないので、わたくしと並んで
上框
(
あがりがまち
)
へ腰をかけた。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「はい、今開けます、
唯今
(
ただいま
)
、々々、」と内では、うつらうつらとでもしていたらしい、眠け
交
(
まじ
)
りのやや
周章
(
あわ
)
てた声して、
上框
(
あがりがまち
)
から手を
伸
(
のば
)
した様子で、掛金をがッちり。
註文帳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私は乳母が
衣服
(
きもの
)
を
着換
(
きか
)
えさせようとするのも聞かず、人々の声する方に馳け付けたが、
上框
(
あがりがまち
)
に
懐手
(
ふところで
)
して
後向
(
うしろむ
)
きに立って居られる母親の姿を見ると、私は何がなしに悲しい、嬉しい気がして
狐
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
父も私も台所の入口に出てみると、叔父は其雁を
上框
(
あがりがまち
)
の板の上に下して
刑余の叔父
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
慄悚
(
ぞっ
)
とした、玉露を飲んで、中気
薬
(
ぐすり
)
を
舐
(
な
)
めさせられた。その
厭
(
いや
)
な心持。
酔
(
えい
)
も
醒
(
さ
)
めたといううちにも、エイと掛声で、
上框
(
あがりがまち
)
に腰を落して、直してあった下駄を突っかける時
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
叔父は
上框
(
あがりがまち
)
に突立つて、『悪いなら悪いと云へ。
沢山
(
うんと
)
怒れ。
汝
(
うな
)
の小言など屁でもねえ!』と言つて、『馬鹿野郎。』とか、『この源作さんに口一つ利いて見ろ。』とか、一人で怒鳴りながら出て行く。
刑余の叔父
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
折から突然まだ
格子戸
(
こうしど
)
をあけぬ先から、「
御免
(
ごめん
)
なさい。」という
華美
(
はで
)
な女の声、母親が驚いて立つ
間
(
ま
)
もなく
上框
(
あがりがまち
)
の障子の外から、「おばさん、わたしよ。
御無沙汰
(
ごぶさた
)
しちまって、お
詫
(
わ
)
びに来たんだわ。」
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
柳屋は
浅間
(
あさま
)
な
住居
(
すまい
)
、
上框
(
あがりがまち
)
を
背後
(
うしろ
)
にして、
見通
(
みとおし
)
の四畳半の
片端
(
かたはし
)
に、
隣家
(
となり
)
で
帳合
(
ちょうあい
)
をする番頭と
同一
(
おなじ
)
あたりの、柱に
凭
(
もた
)
れ、袖をば胸のあたりで引き合わせて、
浴衣
(
ゆかた
)
の
袂
(
たもと
)
を
折返
(
おりかえ
)
して
三尺角
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
折
(
をり
)
から
突然
(
とつぜん
)
まだ
格子戸
(
かうしど
)
をあけぬ
先
(
さき
)
から、「
御免
(
ごめん
)
なさい。」と
云
(
い
)
ふ
華美
(
はで
)
な女の
声
(
こゑ
)
、母親が
驚
(
おどろ
)
いて立つ
間
(
ま
)
もなく
上框
(
あがりがまち
)
の
障子
(
しやうじ
)
の外から、「をばさん、わたしよ。
御無沙汰
(
ごぶさた
)
しちまつて、お
詫
(
わ
)
びに来たんだわ。」
すみだ川
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
柳屋
(
やなぎや
)
は
淺間
(
あさま
)
な
住居
(
すまひ
)
、
上框
(
あがりがまち
)
を
背後
(
うしろ
)
にして、
見通
(
みとほし
)
の
四疊半
(
よでふはん
)
の
片端
(
かたはし
)
に、
隣家
(
となり
)
で
帳合
(
ちやうあひ
)
をする
番頭
(
ばんとう
)
と
同一
(
おなじ
)
あたりの、
柱
(
はしら
)
に
凭
(
もた
)
れ、
袖
(
そで
)
をば
胸
(
むね
)
のあたりで
引
(
ひ
)
き
合
(
あ
)
はせて、
浴衣
(
ゆかた
)
の
袂
(
たもと
)
を
折返
(
をりかへ
)
して
三尺角
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
すぐに、
上框
(
あがりがまち
)
へすっと出て、柱がくれの半身で、
爪尖
(
つまさき
)
がほんのりと、
常夏
(
とこなつ
)
淡く人を誘う。
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
節穴へ
明
(
あかり
)
が漏れて、古いから森のよう、下した
蔀
(
しとみ
)
を
背後
(
うしろ
)
にして、
上框
(
あがりがまち
)
の、あの……客受けの六畳の
真中処
(
まんなかどころ
)
へ、二人、お太鼓の帯で行儀よく、まるで色紙へ乗ったようでね、ける、かな
吉原新話
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
島野は
睨
(
にら
)
み見て、
洋杖
(
ステッキ
)
と共に
真直
(
まっすぐ
)
に動かず
突立
(
つった
)
つ。お雪は小洋燈に灯を移して、摺附木を火鉢の中へ棄てた手で
鬢
(
びん
)
の
後毛
(
おくれげ
)
を
掻上
(
かいあ
)
げざま、向直ると、はや
上框
(
あがりがまち
)
、そのまま
忙
(
せわ
)
しく出迎えた。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
婦人
(
おんな
)
は
上框
(
あがりがまち
)
に立ちたるまま、
腕
(
かいな
)
を延べたる半身、
斜
(
ななめ
)
に狭き
沓脱
(
くつぬぎ
)
の上に
蔽
(
おお
)
われかかれる。その袖の下を
掻潜
(
かいくぐ
)
りて、
衝
(
つ
)
と
摺抜
(
すりぬ
)
けつつ、池ある
方
(
かた
)
に走り
行
(
ゆ
)
くをはたはたと追いかけて、
後
(
うしろ
)
より
抱
(
いだ
)
き
留
(
とど
)
め
照葉狂言
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
酒の
汚点
(
しみ
)
で
痣
(
あざ
)
かと見ゆる、皮の焼けた頬を伝うて、こけた
頤
(
あぎと
)
へ落涙したのを、
先刻
(
さっき
)
から
堪
(
たま
)
りかねて、
上框
(
あがりがまち
)
へもう出て来て、
身体
(
からだ
)
を橋に釣るばかり、
沓脱
(
くつぬぎ
)
の上へ乗り出しながら、格子戸越に
瞻
(
みまも
)
った
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ト
忌々
(
いみいみ
)
しいと言えば忌々しい、
上框
(
あがりがまち
)
に、
灯
(
ともしび
)
を背中にして、あたかも
門火
(
かどび
)
を焚いているような——その薄あかりが、格子戸を
透
(
すか
)
して、軒で一度暗くなって、中が絶えて、それから、ぼやけた輪を取って
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
お縫は
上框
(
あがりがまち
)
の敷居の処でちょっと
屈
(
かが
)
み、
件
(
くだん
)
の履物を揃えて
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“上框(上り框)”の解説
上り框(あがりがまち/あがりかまち・上框)は、主に玄関の上がり口で履物を置く土間の部分と廊下や、玄関ホール等の床との段差部に水平に渡した横木をいう。まれに式台の部位を指すことがある。日本建築における床の間の段差部では床框(とこがまち)と呼び区別する。
(出典:Wikipedia)
上
常用漢字
小1
部首:⼀
3画
框
漢検1級
部首:⽊
10画
“上”で始まる語句
上
上手
上下
上方
上海
上衣
上野
上総
上人
上﨟