せい)” の例文
高さこそは私のせいより少し低い位でしたが、三人すわつて遊ぶにはもつてこいといふ加減で、下にぢいやに頼んで枯草かれくさを敷いてらひ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
細身ほそみ造りの大小、羽織はかまの盛装に、意気な何時いつもの着流しよりもぐっとせいの高く見える痩立やせだち身体からだあやういまでに前の方にかがまっていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
孔雀はせい高く、全身がふっくらした肉で包まれていて、その眼にも脣にも、匂いだけで人の心を毒すような、はげしいものがあった。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
顔貌かおかたち……赤痣……揉み上げ……、せい、肉付き……年齢、どこからどこまで寸分の相違もなかったが、ただ眼だけがまったく異っていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「僕は一緒にプールへ行ったことがありますが、とても人を助ける腕前じゃありません。せいの立つところ丈けで活躍しているんです」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やがてせいの低い、ずんぐりした人影が室の中へこっそり這入はいって来た。彼は最早躊躇しなかった。満身に漲る衝動は彼を一気に活躍させた。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このひとすぐれた才子さいしでありましたが形恰好なりかつこうすこへんで、せいたかかたて、見苦みぐるしかつたので、人々ひと/″\わらつてゐました。
電信柱でんしんばしらさん、あんまりおまえはせいたかすぎる。これでははなしづらくてこまるじゃないか。なんとか、もすこしせいひくくなる工夫くふうはないかね。」
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
熊笹が生えていて、歩くたびにゴソ/\として、朝露に袖を濡らしまして、段々と登るほどに熊笹はせいを越し向うが見えず
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女はその時、せいの高い色の黒い男と連立っていて、二人はエリジアン・フィールドの休憩茶屋へ行ったというのである。
せいはすらりとしているし、眼は鈴を張ったようにぱっちりしているし、口はしまって肉はせずふとらず、晴れ晴れした顔には常に紅がみなぎっている。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
せいはスラリとして痩型やせぎすの色の白い、張りのいい細目の男らしい、鼻の高い、私の眼からもれとするような、ねたましいほどの美男子であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
燃えるようなまなざしで、馬道裏うまみちうらの、路地の角にる柳の下にったのは、せいの高い歌麿と、小男の亀吉だった。亀吉は麻の葉の手拭で、頬冠ほおかぶりをしていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
商売に出掛ける金が無くなってしまったからでしょう。それからどちらのシナ人の荷物が失くなったのかと聞きますと、せいの高い方のシナ人だという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それからヴァランタンは——他の誰よりも多くの興味をもって——せいの高い一人の軍服姿の男を見た。この男は英国大使一家の人達に挨拶をしたのだが。
すると忽、美しい、せいの高い女が洞窟から出て来た。此時には、自分も亦既に夢幻の一種に陥つてゐたのである。
ときどき軽くうなる。またときとしてはきしる。あちらこちら、原では、せいの高い草が、不安らしく揺れる。と、とつぜん、石ころにぶつかって、くさめをする。
しかし、一番目立つ三人は——たぶん、人々の中で、最もせいが高い故でもあらうが——イングラム未亡人と、ブランシュ、メァリーの二令孃とであつた。
こえぬと見えせいたか面體めんてい柔和にうわにて眉毛まゆげ鼻筋はなすぢ通りて齒並はならそろいやみなき天晴の美男にして婦人ふじんすく風俗ふうぞくなり衣類は黒七子くろなゝこの小袖にたちばな紋所もんどころつけ同じ羽折はをり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
田丸は、もうそんなのにはかまつてゐられず、きちんとせいの順に並んだ三人の紅顔の勇士の前に一歩進み出る。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ただ平安朝時代の貴族の廣いやかたのやうで、裏には古い塚の傍にこれはまた清らかな水を滿々と湛へた泉があつた。雜草はせいびて枯葉の中から生え上つてゐた。
草の中 (旧字旧仮名) / 横光利一(著)
隣りの料理屋の地面から、せいの高いいちじくがしげり立って、僕の二階の家根やねを上までも越している。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
伊作はせいの高い一番丈夫な男だけに、峠を登る時は、二人から一ちょうほども先きを歩いていました。多助と太郎右衛門は、高い声で話をしながら坂を登って行きました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
眼と鼻のあたりに西洋人らしい俤はあつたがせいの小さい人であつた。行田は圖拔けて背の高い人であつた。いつも眼の中に思想を蓄へてると云ふ樣な顏付をしてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
せいの高い口ひげのある男が長靴をはいて仕事の指図をしていました。その人がこの親方でした。
婆やは六十に近いといっても、まだ髪も黒く、せいも女としては高い方だし歯もよく揃って居た。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こんなせいの立つ所で、ウォオタア・ポロの練習が出来るのかしらん。彼はそれを言おうと思って、上にいる、さっきの中学生の姿を求めた。少年は、だが、最早居なかった。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
イギリスに今からして二百年前に痩ッこけてせいの低いしじゅう病身な一人の学者がおった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
はじめのうちは何だか急にせいが低くなつて、足枷でもつけられたやうに情けなかつたが、もうすつかり慣れてしまつて、この頃では、ぽか/\と霜を踏んで池のふちに駆けつけると
鵞鳥の家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
せいもすら/\ときふたかくなつたやうにえた、婦人をんなゑ、くちむすび、まゆひらいて恍惚うつとりとなつた有様ありさま愛嬌あいけう嬌態しなも、世話せわらしい打解うちとけたふうとみせて、しんか、かとおもはれる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みんなせいがチンチクリンで恐ろしく平らべつたいトタン葺きの平家であつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
突然に叫び出したものですから、同行のせいの少し低いのがビックリして
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひざをおって、せいのたかいそうのひとりへさしだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せいの大きい?……茶褐色ちゃかついろの毛の?……』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
極端な例をいうと、女房に檀那取だんなとりをさせている男さえあるからな。土地会社の時分じぶん外交員に野島というせいの高い出歯でっぱの男がいたろう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
せいの高いほうが和尚さんの手を引っ張って、どこへかつれて行こうとする。洋服の原があとから押す。和尚さんはいつか僧衣ころもを着せられている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
せいが殿下より心持低く、もっと肥りじしのように思われる。が、ほとんど見分け難い。ただ、伯爵がひげを蓄えているだけの違いである。音声は不明。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
縹緻おとこぶりもまんざら捨てたものではない。せいは高く肉付きもよく馬上槍でも取らせたら八万騎の中でも目立つに違いない。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は長い顔をして、明るい髪を持って、キチンと装っていた。もう一人は黒い海象かいぞうのような髭を生やして、せいが低く幅が広いので、滑稽な対照であった。
という所へ出て来たのは、せいは五尺七八寸もあって、すねに毛の生えて居る、熊をみたような男がのそりと立って
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「じゃ、しかたがない。どこかいけかわのふちへいきましょう。わたしみずなかはいってあるくと、おまえさんとちょうどせいたかさがおりあうから、そうしよう。」
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに、ルグリ先生が椅子を薦められなんだことは、まあまあじょすべきだ。其許のせいが低いため、先生はきっと、もう腰かけているものと勘違いされたのだよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
お前のお母さんほどせいは高くなかつたけれど、アンリエツトみたいに、おちびさんでもなくさ……。
落葉日記(三場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
メァリーは彼女のせいの割合にはほつそりし過ぎてゐたが、ブランシュはまるでディアナ(月の女神)のやうに出來てゐた。勿論、私は、特別の興味を以て彼女を觀察した。
只今たゞいま是へいだすべしと言れけば同心はかしこまり候と立て行けるが頓て身には半※はんてん眞向まむきよりほゝへ掛て切下きりさげられし疵痕きずあとありせいひくひげ蓬々ぼう/\として如何にもみすぼらしなる者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それにせいが高いので、役者にしたら、舞台づらがよく利くだろうと思いついた。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
せいもすらすらと急に高くなったように見えた、婦人おんなは目をえ、口を結び、まゆを開いて恍惚うっとりとなった有様ありさま愛嬌あいきょう嬌態しなも、世話らしい打解うちとけた風はとみにせて、神か、かと思われる。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この事はただちに人々の話題となり、彼女がせいの高い立派な服装なりをした色の浅黒い男と一緒に歩いているのを見たというものがあって、眼尻の下った連中に岡焼おかやき半分に噂されたものである。
ツル子のせいは、急に伸びたのではないか? と疑はれた。コテをあてた髪、念入りに化粧された顔、派手な模様の着物、そして彼は、ツル子が嘗てそんな格構の帯をしめた姿は見たこともない——。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
乃公おれせいが低いものだから、食事の時には椅子の上にウェブスターを置いて、其上に腰を掛ける。乃公は奥さんの直ぐ隣席となりに坐る。今朝奥さんが一寸ちょっと立った時に、乃公は手早く椅子を退けてやった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)