鳥籠とりかご)” の例文
大きな鉄製かねせい鳥籠とりかごに、陶器でできた餌壺えつぼをいくつとなく外からくくりつけたのも、そこにぶら下がっていた。その隣りは皮屋であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでエミリアンは、さつそく町の方へいつて、大きな鳥籠とりかごと、それをつゝむ黒いきれと、黄楊つげの青葉をたくさん、買ひこんできました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
あみつたたか竹竿たけざをには鳥籠とりかごかゝつてました。そのなかにはをとりつてありまして、小鳥ことりむれそらとほたびこゑびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「おほせまでもさふらはず、江戸表えどおもてにて將軍しやうぐん御手飼おてがひ鳥籠とりかごたりとも此上このうへなんとかつかまつらむ、日本一につぽんいちにてさふらふ。」と餘念よねんていなり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
アマリヤ・リッペヴェフゼルの住まいを細かく割っているいくつかの奥の小部屋、というより鳥籠とりかごへ通ずるドアは、あけっ放しになっていた。
敏子は憂鬱な眼を挙げると、神経的に濃いまゆをひそめた。が、一瞬の無言ののち鳥籠とりかごの文鳥を見るが早いか、嬉しそうに華奢きゃしゃな両手を拍った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鳥籠とりかご一つを、必死にかかえて、うろうろしている。その鳥籠を取りあげられたら、彼は舌をんで死ぬだろう。なるべくなら、取りあげないで、ほしいのである。
一灯 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ベソをいている稚妓に聞くと、稚妓をさし措いて小鳥屋の亭主が、店頭みせさきの立派やかな鳥籠とりかごを示し、これは今、蒔絵まきえの鳥籠を註文してあるが、それが出来てくれば
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてそのだだッ広いアトリエの一と間は、彼女のためには大きな鳥籠とりかごだったのです。五月も暮れて明るい初夏の気候が来る。花壇の花は日増しに伸びて色彩を増して来る。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しばらくして任実の町にさしかかった。さいわいにもまた市日に出会う。たちまち四人の眼が忙しく働く。思い切って私たちは大きなものを買った。一つは竹でこしらえた鳥籠とりかごである。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
網のすそは地面にずらりと並べた大きな石で押さえられて、何物もそれをくぐることができないようになっていた。その金網は動物園の大きな鳥籠とりかごに用うるものの一片だった。
太陽は入江の水平線へしゅの一点となって没していった。不弥うみみや高殿たかどのでは、垂木たるき木舞こまいげられた鳥籠とりかごの中で、樫鳥かけすが習い覚えた卑弥呼ひみこの名を一声呼んで眠りに落ちた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
右上の鳥籠とりかごこしかけていた亜米利加美人がばちゃんと、下のプウルに落ちこみました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
丸い鳥籠とりかごがかかっていて、静かな朝などに愛らしいカナリアのき声が、彼の部屋へも聞こえて来たが、それが葉子の引越しを祝って、彼女の弟が餞別せんべつにくれたものだというのはうそ
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大勢の女の目が只一つの物に集注しているので、岡田はその視線を辿たどってこの騒ぎの元を見附けた。それはそこの家の格子窓の上にるしてある鳥籠とりかごである。女共の騒ぐのも無理は無い。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
うるしにかぶれた坊さんや、少しびつこをひく馬や、しをれかかつた牡丹ぼたんはちを、車につけて引く園丁や、いんこを入れた鳥籠とりかごや、次から次とのぼつて行つて、さて坂上に行き着くと、病気の人は
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
事務机、戸棚とだな台秤だいばかりなど。ほかにアーストロフ用のやや小型なテーブル。その上に製図用具や絵具、そばに大きな紙挟み。椋鳥むくどりを入れた鳥籠とりかご。壁には、誰にも用のなさそうなアフリカの地図。
例えば東京などでもスズメカゴといえば小さな鳥籠とりかごのことで、時々は雀も入れるまでであるが、コトリカゴという語が出来ているために、こちらは特に粗末なものだけをそういうようになった。
家の裡には矢張鳥籠とりかごが幾ツもかけてあツて、籠を飛廻ツてゐる目白の羽音が、パサ/\と靜に聞えた。前からある時計もチクチク鈍い音で時を刻むで、以前は無かツた月琴の三挺も壁にかゝツてゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
鳥のいない鳥籠とりかごLa Cage sans oiseaux
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
携へし鳥籠とりかごの青き小鳥の鳴くこゑをさびしみながら
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とあるおうち鳥籠とりかご
鸚鵡:(フランス) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
国王は城の広い庭に鳥籠とりかごを下ろさせ、それから袋を取り去って中をのぞきました。まわりの人達も一度にのぞき込みました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
もとより些細ささいのことながら萬事ばんじしてくのごとけむ、向後かうご我身わがみつゝしみのため、此上このうへ記念きねんとして、鳥籠とりかごとこゑ、なぐさみとなすべきぞ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
下水のためがある。野菜畠も造ってある。縁側に近く、大きな鳥籠とりかごが伏せてあって、その辺には鶏が遊んでいる。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼女は実際この部屋の空気と、——殊に鳥籠とりかごの中の栗鼠りすとはわない存在に違いなかった。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへきたない支那人が二三人、奇麗きれい鳥籠とりかごげてやって来た。支那人てやつ風雅ふうがなものだよ。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暖炉の中には種々なものがはいっていた、火鉢ひばちなべ、こわれた板、くぎにかかってるぼろ、鳥籠とりかご、灰、それから少しの火まで。二本の燃えさしのまきが、寂しげにくすぶっていた。
比叡ひえい根来ねごろ霊山れいざんきはらってしまぬ荒武者あらむしゃのわらじにも、まだここの百合ゆりの花だけはふみにじられず、どこの家も小ぎれいで、まどには鳥籠とりかごかきには野菊のぎく、のぞいてみれば
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよいよもって浮世の金網と鳥籠とりかごとの束縛を、必要とするに至るなきか。
それくらべてときは、鳥籠とりかごなかせまけれども、二疊にでふばかりあるらむを、なんぢ一人ひとり寢起ねおきにはよも堪難たへがたきことあるまじ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜が明けると、国王と王子は強い家来を二十人ばかり引き連れ、皆一人一人象の背に乗り、一つの象には大きな鳥籠とりかごをのせて、城の後の森の中へ上がって行きました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
が、この部屋の天井の隅には針金細工の鳥籠とりかごが一つ、硝子窓がらすまどの側にぶら下げてあった。その又籠の中には栗鼠りすが二匹、全然何の音も立てずに止まり木を上ったり下ったりしていた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕はそのそばに伏せてある鉄網かなあみ鳥籠とりかごらしいものをながめて、その恰好かっこうがちょうど仏手柑ぶしゅかんのごとく不規則にゆがんでいるのに一種滑稽こっけいな思いをした。すると叔父が突然、何分くさいねと云い出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
引掴ひッつかんじゃ不可いけない、そっとそっと。」これがうぐいすか、かなりやだと、伝統的にも世間体にも、それ鳥籠とりかごをと、うちにはないから買いに出るところだけれど、対手あいてが、のりをめるしろもので
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
由雄の手にげた書物は、今朝お延の返しに行ったものに比べると、約三倍の量があった。彼はそれを更紗さらさの風呂敷に包んで、あたかも鳥籠とりかごでもぶら下げているような具合にしてお延に示した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれが書斎の椽前えんさきには、一個数寄すきを尽したる鳥籠とりかごを懸けたる中に、一羽の純白なる鸚鵡おうむあり、ついばむにも飽きたりけむ、もの淋しげに謙三郎の後姿を見りつつ、かしらを左右に傾けおれり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口惜しく腹立たしきまま身の周囲まわりはことごとくかたきぞと思わるる。町も、家も、樹も、鳥籠とりかごも、はたそれ何等のものぞ、姉とてまことの姉なりや、さきには一たびわれを見てその弟を忘れしことあり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口惜くちおしく腹立たしきまま身の周囲まわりはことごとくかたきぞと思わるる。町も、家も、樹も、鳥籠とりかごも、はたそれ何らのものぞ、姉とてまことの姉なりや、さきにはひとたびわれを見てその弟を忘れしことあり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)