あらは)” の例文
ヱルレトリの少女の群は、頭に環かざりを戴き、美しき肩、圓き乳房のあらはるゝやうに着たる衣に、襟のあたりより、いろどりたるきれを下げたり。
「世路風塵不耐多。池亭相値聴高歌。無端破得胸中悪。漫把觥船巻酒波。」枳園立之きゑんりつしは此年二十二歳、やゝ頭角をあらはした時であつただらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかしもう隅々には薄汚いカンヴアスをあらはしてゐた。僕はにかは臭いココアを飲みながら、人げのないカツフエの中を見まはした。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
して、事あらはれなば一振ひとふりやいばに血を見るばかり。じやうの火花のぱつと燃えては消え失せる一刹那いつせつなの夢こそすなはち熱き此の国の人生のすべてゞあらう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼の為人ひととなりを知りて畜生とうとめる貫一も、さすがに艶なりと思ふ心を制し得ざりき。満枝は貝の如き前歯と隣れる金歯とをあらはして片笑かたゑみつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ロチスターさまの奧さまだつてことが分つたのですよ! その事があらはれたのは、幸ひにも不思議な風にです。ホールに家庭教師を
さうしてかの柳河のただ外面うはべに取すまして廃れた面紗おもぎぬのかげに淫らな秘密を匿してゐるのに比ぶれば、凡てがあらはで、元気で、また華やかである。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
が、彼女の存在が、最も彼に衝動を与へたことは、彼女が、そのしなびた右の手を、あらはに延ばして吊皮に依つて漸く身体を支へて居る事だつた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
心持り出た粗い二本の前歯があらはになつて居たのが物凄く見えた。鏡に映つた自分のやつれた顔を眺めて、お桐はこれが自分の顔かと怪む程であつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
而してヤスナヤ・ポリヤナの老伯が近代文明呪詛じゆその声として、その一端をかの「芸術論」にあらはしたるに至りては、全く賛同の意を呈する能はざるなり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
さう思つて彼が或る部屋へ這入つて行くと疲れ衰へた胡乱なその姿があまりに甚しく心のおののきがあまりに外にあらはに見えてゐるので、妹などもしまひには
二人とも異様に光つた眼をチラリと射交いかはし、あゝ彼奴は自分に話したがつてゐるのだなア、と双方で思つてもあらはに仲直りの希望を言ふことをしなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
すると、クフ王は頼し気な微笑を、厳かな王冠の影にあらはにして、静に私の肩へ貴き御手をお掛けになりました。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
鼻は尖つて、干からびた顔の皮は紙のやうになつて、深く陥つた、周囲まはりの輪廓のはつきりしてゐる眼窩がんくわは、上下うえしたの瞼が合はないので、狭い隙間をあらはしてゐる。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
天徳のを女房歌合せと言ふ訣は、後宮方の歌合せなる事をあらはにして言はねばならぬ理由のあつた為なのだ。
「佐々木さんが、あなたのところらしつたでせう」と云つて例の白い歯をあらはした。女のうしろにはさきの蝋燭たて暖炉台マントルピースの左右に並んでゐる。きんで細工をした妙なかたちだいである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
尾を股の間へしつかりとはさんで、耳を後へ引きつけ、その竹片に噛みついた口からは、白い牙をあらはして、よだれをたらたらと流しながら、彼の家の前の道をひた走りに走つて行く。
腰元は驚き恐れつゝくだんの部屋を覗けば、内には暗く行灯あんどうともりて、お村ははぎあらはよこたはれるかたはらに、一人いちにんの男ありて正体も無く眠れるは、けだし此家このやの用人なるが、先刻さきに酒席に一座して
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
兵を河のに隱し、またその山の上に、絁垣きぬがきを張り、帷幕あげばりを立てて、詐りて、舍人とねりを王になして、あらは呉床あぐらにませて、百官つかさづかさゐやまひかよふ状、既に王子のいまし所の如くして
半ばあらはした肩の滑な光沢つやのある皮膚の上には、瑪瑙めのうの光がゆらめき、大きな黄味のある真珠を綴つた紐は——其色の美しさは殆ど彼女の頸に匹敵する——彼女の胸の上にたれてゐる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
ばちを土中にうづめて其縁そのふちの部を少し高く地上にあらはし置けば竪穴の雛形ひながたと成るなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
一杯々々と重ねてゐる間に、雲は斷えず眼前に動いて、瀧は見えては隱れ、消えてはあらはれてゐる。うつとりして窓にかけた肱のさきには雨だか霧だか、細々と來て濡れてゐるのである。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
わがあらはな胸が初めて君の赤い脣をうけ、君の脣を押しあてられた一瞬時
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
進み來るをあらはなる腕に射あてしチュウクロス
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
茯苓ぶくりゃうは伏しかくれ松露しょうろあらはれぬ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
許をも受けで校外に出で、士官と倶に酒店に入りしは、輕からぬ罪なれば、若し事あらはれなば奈何いかにすべきと、安き心もあらざりき。
さうしてかの柳河のただ外面うはべに取すまして廢れた面紗おもぎぬのかげにみだらな秘密をかくしてゐるのに比ぶれば、凡てがあらはで、元氣で、またはなやかである。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
(マコはクリスト伝第七章二五以下にこの事実を記してゐる。)バプテズマのヨハネは彼の前には駱駝らくだ毛衣けごろもいなごや野蜜に野人の面目をあらはしてゐる。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はるか木隠こがくれの音のみ聞えし流の水上みなかみは浅くあらはれて、驚破すはや、ここに空山くうざんいかづち白光はつこうを放ちてくづれ落ちたるかとすさまじかり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
呪言に伴うて精霊が表す神秘な標兆として、末端ウラあらはれるものゝ意である。
さしては折角せつかくこゝろざしにしてなんぢ忠心まごころあらはれず、第一だいいちがたしなみにならぬなり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わしは片手をクラリモンドの肩にまはして、彼女の片手をわしの手に執つてゐた、彼女の頭はわしの肩にもたれて、わしは半ばあらはした彼女の胸が軽く、わしの腕を圧するのを感じるのである。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
お嬢さんは空色のフロツクの下に裸の脚をあらはしてゐた。その又脚には小さい泥がたつた一つかすかに乾いてゐた。
横須賀小景 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おきなにドメニカ、ドメニカと呼ばれて、荒𣑥あらたへ汗衫はだぎひとつ着たるおうなでぬ。手足をばことごとくあらはして髮をばふり亂したり。媼は我を抱き寄せて、あまたゝび接吻す。
貫一はさすがに驚けり、宮がきぬはだけてゆき可羞はづかしあらはせる膝頭ひざがしらは、おびただしく血に染みて顫ふなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのむねは、合歡ねむはなしづくしさうにほんのりとあらはである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うす痘痕いものある顔は、顴骨くわんこつばかりあらはに痩せ細つて、皺に囲まれた唇にも、とうに血の気はなくなつてしまつた。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たゞし老職らうしよく諸役人しよやくにん不滿足ふまんぞくいろおもてあらはれたり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この無位の侍には、五位の事を考へる度に、世の中のすべてが急に本来の下等さをあらはすやうに思はれた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それも実は新聞や雑誌へ出る方は、世間を相手にしてゐるんだが、大学でやる方は学生だけを相手にしてゐるんだから、それだけ馬脚があらはれずにすんでゐるんだらう。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしクリストは無政府主義者ではない。我々人間は彼の前におのづから本体をあらはしてゐる。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お前は何ごともあらはれないうちにお前の愛してゐる女の夫へ一切の事情を打ち明けてしまつた。
闇中問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
芒原はいつか赤い穂の上にはつきりと噴火山をあらはし出した。彼はこの噴火山に何か羨望せんばうに近いものを感じた。しかしそれは彼自身にもなぜと云ふことはわからなかつた。……
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、そこにも一枚のポスタアの中には聖ヂヨオヂらしい騎士が一人翼のある竜を刺し殺してゐた。しかもその騎士はかぶとの下に僕の敵の一人に近いしかめつらを半ばあらはしてゐた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
僕はこのカンテラの為にそこを通ることも困難だつた。すると若い土工が一人ひとり、穴の中から半身をあらはしたまま、カンテラをわきへのけてくれた。僕は小声に「ありがたう」と言つた。
都会で (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これだけはいささか快とするに足る。なほ又次手ついでにつけ加へれば、北原君は底抜けの酒客しゆかくなれども、座さへうてくづしたるを見ず。わづかに平生の北原君よりも手軽に正体をあらはすだけなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は時々大石の上に足を止めて、何時か姿をあらはし出した、槍ヶ嶽の絶巓ぜつてんを眺めやつた。絶巓は大きな石鏃やじりのやうに、夕焼の余炎が消えかかつた空を、何時も黒々と切り抜いてゐた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
焦げ破れたころものひまから、清らかな二つの乳房が、玉のやうにあらはれて居るではないか。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼自身をあざむいてゐるパピニの詩的情熱はそこにも亦馬脚をあらはしてゐる。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)