金襴きんらん)” の例文
業平朝臣なりひらあそんから、先々代染井右近、當代染井鬼三郎の名を連ねた、牙軸げぢく鳥の子仕立、金襴きんらん表裝の系圖書が何處へ行つたかわかりません。
一枚の金襴きんらんきれで、自分の一生がめちゃめちゃになった、という考えかたが間違いだった、ということだけは認めなければならない。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また、僧を金襴きんらん木偶でくと思うている俗の人々がいうのじゃ。われらには、自分の信心を信ずるがゆえに、さような窮屈なことはいとう。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金襴きんらんの帯が、どんなに似合ったことぞ、黒髪に鼈甲べっこうくしと、中差なかざしとの照りえたのが輝くばかりみずみずしく眺められたことぞ。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おれの青梅と眼がついたな、あの金襴きんらん織りの守り袋からだよ。ありゃ青梅おうめ金襴といってな、ここの宿でなきゃできねえ高値こうじきなしろものさ。
ぷんと、麝香じゃこうかおりのする、金襴きんらんの袋を解いて、長刀なぎなたを、この乳の下へ、平当てにヒヤリと、また芬と、丁子ちょうじの香がしましたのです。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い長袍に金襴きんらん外衣クロークを羽織った白髪の老人と肩をならべひとのこころをときめかすような優雅な香りを流しながらしずしずと歩いています。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その行列は朝鮮人か支那人かというような風をして頭に冠をかぶり金襴きんらんの旗を立てて大勢が練って行きましたが、この行列が一番変っていました
金襴きんらんなんかこの頃織らないのですって。ですからうちにあった丸帯のちゃんとしたふさわしいのを切ってこしらえてゆきました。立派で御満足。
隣室へ通う三つの戸口へこればかりは華美はなやかな物として垂れ掛けた金襴きんらんの垂れぎぬ等を、幻想の国のお伽噺とぎばなしのように、模糊髣髴もこほうふつと浮き出させている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今その、十文字にかけた真田さなだをといて、サッと箱のふたをとったとしましょうか。中にはもう一枚、金襴きんらんの古ぎれで壺が包んであるに相違ない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分はおごそかなる唐獅子の壁画に添うて、幾個いくつとなく並べられた古い経机きょうづくえを見ると共に、金襴きんらん袈裟けさをかがやかす僧侶の列をありありと目にうかべる。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
暮れんとする春の色の、嬋媛せんえんとして、しばらくは冥邈めいばくの戸口をまぼろしにいろどる中に、眼もむるほどの帯地おびじ金襴きんらんか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お蓮に駄目だめを押された道人は、金襴きんらんの袋の口をしめると、あぶらぎった頬のあたりに、ちらりと皮肉らしい表情が浮んだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それからその仏壇の奥の赤い金襴きんらん帷帳とばりを引き開いてみると、茶褐色に古ぼけた人間の頭蓋骨が一個ひとつ出て来たので皆……ワア……と云って後退あとしざりした。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのうちでも金襴きんらん羽二重はぶたえ縮緬ちりめん緞子どんす繻珍しゅちん綾錦あやにしき綸子りんず繻子しゅす、モミ、唐縮緬、白地薄絹、絹糸、絹打紐、その他銀塊、薬種等も多く輸入されます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
神居古潭かむいこたんの停車場から乗車。金襴きんらん袈裟けさ紫衣しえ、旭川へ行く日蓮宗の人達で車室は一ぱいである。旭川で乗換のりかえ、名寄なよろに向う。旭川からは生路である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
換言すれば教会の主長で、金襴きんらんをまとい、記章をつけ、年金を受け、ばく大な収入を有する人々の一人である。
河内介はその問いには答えずに、再び懐を探ったかと思うと、今度も同じような金襴きんらんの袋に包んだ小型のつぼを取り出して、それをうや/\しく夫人の前に捧げた。
もし器の作者に、今それ等のものが「名物」と称えられて、金襴きんらんの衣を着、幾重の箱に納められていると聞かせたら、どこにその言葉を信ずる者があるでしょう。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
天蓋てんがいの、華鬘けまんの、金襴きんらんの帯の、雲の幾流は、になびき、なびきて朱となり、褪紅たいこうとなり、灰銀かいぎんをさえまじえたやわらかな毛ばだちのかばとなり、また葡萄紫となった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
が、同時に彼は、美しいつばをはめた刀や、蒔絵まきえの箱や、金襴きんらん表装ひょうそうした軸物などが、つぎつぎに長持の底から消えていくのを、淋しく思わないではいられなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
士「あゝ、草臥くたびれたから少し腰を掛けさせてくれ…其の金襴きんらんの莨入を遣物つかいものにしたいと思うが見せろ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
扱いにくい死骸を相手に、一人では随分ずいぶん骨が折れたが、派手な紋服もんぷく金襴きんらんの帯もシャンと結べた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
花嫁は裾模様の長い着物を着て、金襴きんらんの帯を背負ひ、角隠しつけて、堂々正式の礼装であつた。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
「それはね、帯というたとて、金襴きんらん緞子どんすでこしらえた帯ではない、天にある雲のことですよ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紙入かみいれ莨入たばこいれなどに細工を込め、そのほかの品にも右に准じ、金襴きんらんモールの類に至るまで異風を好み、その分限ぶんげんわきまえず、ゼイタク屋などと家号を唱え候者これ有るよう相聞え
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
かみはまだおろさないで、金襴きんらん染絹そめぎぬの衣、腺病質せんびょうしつのたちと見え、き通るばかり青白いはだに、切りみ過ぎたかのようなはっきりした眼鼻立めはなだち、男性的なするどい美しさを持つ青年でした。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
外に、金襴きんらんの帯——師匠菊之丞へは、黄金きん彫りの金具、黄金ぎせるの、南蛮更紗なんばんさらさ莨入たばこいれ——ほかに、幕の内外、座中一たいに、一人残らず目録の祝儀という、豪勢な行き渡りだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
専念寺の和尚以下七ヶ寺の番僧が金襴きんらんの袈裟をかけて、棺の前に立ち並んだ。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
すなはち京都四条坊門しじょうぼうもんに四町四方の地を寄進なつて、南蛮寺の建立を差許さるる。堂宇どうう七宝しっぽう瓔珞ようらく金襴きんらんはたにしき天蓋てんがいに荘厳をつくし、六十一種の名香は門外にあふれて行人こうじんの鼻をば打つ。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
男のことであるから割合に若々しく、墨染すみぞめ法衣ころも金襴きんらん袈裟けさを掛け、外陣の講座の上に顕はれたところは、佐久小県辺さくちひさがたあたりに多い世間的な僧侶に比べると、はるかに高尚な宗教生活を送つて来た人らしい。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
精好せいがうあけとしら茶の金襴きんらんのはりまぜ箱に住みし小皷こつゞみ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
よくこそ心掛給ひしといた賞美しやうびなし外々にて才覺致候はんと申ければ隱居は暫く考へ脊負葛籠せおひつゞら一ツ取出し中より猩々緋しやう/″\ひとらかは古渡こわたりのにしき金襴きんらんたん掛茶入かけちやいれ又は秋廣あきひろの短刀五本骨ほんぼねあふぎの三處拵ところごしらへの香箱かうばこ名香めいかう品々しな/″\其外金銀の小道具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、赤地錦の——といっても余りに古びて金襴きんらんの光よりは、垢光あかびかりの方がよけいにする巾着の耳をつまんで、武蔵の顔の前へ出した。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道具袋の中に金襴きんらんきれがはいっていたというだけで、十年続いた心と心のつながりが、たこの糸の切れるようにぷつんと切れてしまうんだ。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
實は親分——あの赤ん坊は、最初立派な紋服を着せて金襴きんらんの守袋と、小判をうんと入れた財布を附けて捨ててあつたさうですよ
では、こっちの弥吉どんだが、おまえさんこっそり次郎松にお会いなすって、あの金襴きんらん織りの守り袋を見せてもらったんじゃござんせんかい
縫いの振袖に、だらりに結びさげた金襴きんらんの帯、三条四条の大橋を通る舞妓姿は、の姫君かと見とれさせるばかりだった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
金銀五色の色糸で雲龍を織出した金襴きんらん大段通おおだんつうを背中に掛け、四本の脚の中へ人間が一人ずつ入って肩担かたにないに担ってゆく。
と、むらさきの紐が、あおいの御紋散しでふちどった御簾みすをスルスルと捲きあげて、金襴きんらんのおしとねのうえの八代将軍吉宗公を胸のあたりまであらわした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すると老人は座敷の隅から、早速二人のまん中へ、紫檀したんの小机を持ち出した。そうしてその机の上へ、うやうやしそうに青磁せいじ香炉こうろ金襴きんらんの袋を並べ立てた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
不浄よけの金襴きんらんきれにくるんだ、たけ三寸ばかり、黒塗くろぬりの小さな御厨子みずしを捧げ出して、袈裟けさを机に折り、その上へ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
函館停車場はごく粗朴そぼくな停車場である。待合室では、真赤にくらい酔うた金襴きんらん袈裟けさの坊さんが、仏蘭西人らしいひげの長い宣教師をつかまえて、色々くだを捲いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
で、いろいろなものがはき出され、往来へ金襴きんらんの袈裟、種々の仏具などがててあったのを見ました。
私はジーッと見て居りますと馬がおよそ三百騎ばかりで、その大ラマは金襴きんらんあるいは異様の絹布類で装われてある宝輦ほうれんに乗って来ました。それが実に立派なものである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
支那人はこの時大変こわい顔をしましたが、何も知らずに羽子をついている美代子さんのすぐうしろに来て、小さな金襴きんらん巾着きんちゃくをポケットから出してその口を拡げながら
クチマネ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
「紫の法衣ころもをお召しになり、金襴きんらんの袈裟をお懸けになり、片手に数珠、片手に水盤、刺繍ぬいとりをしたくつを穿いた」そういう立派な人物ではなく、きたないみすぼらしい乞食であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長髯ちょうぜんの豪傑が四つの金襴きんらんの旗を背中にさして長槍ちょうそうを振りまわし、また、半裸体の男が幾人もそろって一斉にとんぼ返りを打ったり、小旦わかおやまが出て来て何か甲高かんだかい声で歌うかと思うと
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
蟠「緑町みどりちょうの口入屋のばゝアを頼んで置いたが、髪は奥女中の椎茸髱しいたけたぼってな、模様の着物も金襴きんらんの帯も或る屋敷から借りて置いた、これ/\安兵衞、緑町の婆アが来たら是れへ通せ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)