すべ)” の例文
一般に馬来マレイ全島が非常な低地であつて最高の山がわづかに海抜五百十九尺しか無いのだから、山と云つてもすべて丘陵の様なものであるが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かのあたたかうれしい愛情は、単に女性特有の自然の発展で、美しく見えた眼の表情も、やさしく感じられた態度もすべて無意識で、無意味で
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
六時をすぎて七時となれば、見わたす街は再び昼の熱閙ねつとうと繁劇にかえりて、軒をつらねたる商家の店はすべ大道だいどうに向って開かれぬ。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弱点と申してもっと突込んで観察が深くないと、すべて男の方の勝手に作られた嘘の弱点になって、真実の女の醜い所が出て参りません。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
もし翰が持出した珍書の中にむかし弘前ひろさき医官渋江氏旧蔵のものがまじっていたなら、世の中の事はすべて廻り持であると言わなければならない。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すべひとたるものつね物事ものごとこゝろとゞめ、あたらしきことおこることあらば、何故なにゆゑありてかゝこと出來できしやと、よく其本そのもと詮索せんさくせざるべからず。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
此島に生ずる猫すべて尾短く曲なりと云。依て常にも曲尾なるをば世人號して竹島猫とは稱するなり。多くは是虎生のものと云り(伯耆民談)。
他計甚麽(竹島)雑誌 (旧字旧仮名) / 松浦武四郎(著)
二人の衣裳持物はすべて香以のおくりもので文左衛門の銀装ぎんごしらえの脇差は香以の常にびた物である。この狂言の作者は香以の取巻の一人河竹新七であった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
特に世の常の巌の色はただ一色にしておかしからぬに、ここのはすべての黒きが中に白くして赤き流れ斑の入りて彩色いろどりをなせる、いとおもしろし。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(中略)沙弥・鉦打・鉦扣かねたたきとも、一体百姓より軽き者と心得、すべての取斗とりはからい、百姓並に取扱ひ可然由の挨拶なり。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
なすべきやすべて汝が申立は僞り飾ゆゑ本末不都合の事而已多くむこの惣内は九助が留守中に里と不義致しおのれは惣内母と密通みつつうに及び居しは畢竟ひつきやう子供等が不義を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然うさ、すべて人間といふものは然うしたものさ。ンのちいツぽけな理由からして素敵と大きな事件を惹起ひきおこすね。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
片葉蘆かたはのあし 按ずるにすべて難波は川々多し淀川其中の首たり其岸に蘆生繁おいしげり両葉もろはに出たるも水の流れ早きにより随ふてみな片葉かたはの如く昼夜たへず動く終に其性を
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「田児浦」は今は富士郡だが、いにしえは廬原郡にもかかった範囲の広かったもので、東海道名所図絵に、「すべて清見興津より、ひがし浮島原迄の海浜の惣号そうがうなるべし」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「何等かの運を自分の手で切拓きりひらくまでは、植源や鶴さんや、以前のすべての知合にも顔を合したくない」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
職業の性質既に不法なればこれを営むの非道なるは必然のことわりにて、おのれすところはすべての同業者の為すところにて、己一人おのれいちにんの残刻なるにあらず、高利貸なる者は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すなわち「人の悪の地におおいなると其心の思念おもいすべ図維はかる所の恒に惟悪これあしきのみなるを見たまへ」
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
以上草々ノ略記すべテ後日結写文飾ヲ加ル者ニ勝リ、其真卒ナル当日ノ真ヲ見ルニ足ル故ニ写置
坂本竜馬手帳摘要 (新字旧仮名) / 坂本竜馬(著)
かつ既ニ不覊独立ノ国ト為リタルガ故ニ、或ハ師ヲ出シ或ハ和睦ヲ議シ、或ハ条約ヲ結ビ或ハ貿易ヲ為ス等、すべテ独立国ニ行フベキ事件ハ我国ニ於テモ之ヲ施行スルノ全権アリ。
前の法で取ったのは一月位持ちます。モシにおいが付いてからまた煮返しておくとその先まで持ちます。すべて牛のあぶらでも鳥の脂でも豚の脂でもんな精製しておくと料理に使えます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
東北はねずみが関(岩船郡の内出羽のさかひ)西にし市振いちふり(頸城郡の内越中の堺)にいたるの道八十里が間すべて北の海浜かいひんなり。海気によりて雪一丈にいたらず(年によりて多少あり)又きゆるも早し。
Vanity of vanity, vanity, all is vanity !「くうくうくうくうなる哉すべくうなり」或はうでないにしても……。いや、理窟は何もなかつた。
証する無かるべけん 明珠八顆すべて収拾す 想ふ汝が心光地によりまろきを
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
吾人は運命を以つて「すべて人の意思と気質とに出づる行為の結果なり」
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
……其方共儀そのほうどもぎ一途いちずニ御為ヲ存ジ可訴出うったえいずべく候ワバ、疑敷うたがわしく心附候おもむき虚実きょじつ不拘かかわらず見聞けんぶんおよビ候とおり有体ありてい訴出うったえいずベキ所、上モナクおそれ多キ儀ヲ、厚ク相聞あいきこエ候様取拵申立とりこしらえもうしたて候儀ハ、すべテ公儀ヲはばかラザル致方
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
早く善悪すべむくいなしと知らば
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところで旅行中の費用はすべて官費であるから、政府から請取うけとった金は皆手元に残るゆえ、その金をもって今度こそは有らん限りの原書をかって来ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
家の中の方が学校よりもすべて厳格で、山本町に居る間は土蔵位はあったでしたが下女などは置いて無かったのに
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
要するにすべて人間の屍體で、都て彼に解剖されるのを最後の事蹟として存在から消滅するものと考へてゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
右のけつは『玉池集』へ出し候詩はすべけずり度く存候間此度遣し候詩□□御高評下され十分に御斧正ごふせい願上候。実はわずかに七首と申すもの故如何いかんともいたし方無し。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
常に自分の周囲の男女はすべて不潔な人間だという気がして、それで書物の中の男女にばかり親んでいた。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
堤に上りて下れば即海辺の石砂平遠なり。すべて是赤石あかしの浦といふ。石上に坐するに都て土塵なし。波濤来りて人を追がごとし。海面一仮山のごときものは淡路島なり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼の宮にけるはすべての人の妻となすべき以上を妻として、むしろその望むところ多きに過ぎずやと思はしむるまでに心に懸けて、みづからはその至当なるを固く信ずるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
商ふ物賣ものうりの聲も花街くるわ商人あきんど丁稚でつち寢言ねごと禿かふろと聞え犬の遠吼とほぼえ按摩針あんまはりの聲迄もすべ廓中くるわの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不恰好ぶかっこうな洋服を着たり、自転車に乗ったりして、一年中働いている自分が、すべて見くびっているつもりの男のために、好い工合に駆使されているのだとさえしか思われなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
東北はねずみが関(岩船郡の内出羽のさかひ)西にし市振いちふり(頸城郡の内越中の堺)にいたるの道八十里が間すべて北の海浜かいひんなり。海気によりて雪一丈にいたらず(年によりて多少あり)又きゆるも早し。
月琴げっきんかかえたる法界節の二人づれがきょうの収入みいりを占いつつ急ぎ来て、北へくも南へ向うも、朝の人はすべて希望と活気を帯びて動ける中に、小さき弁当箱携えて小走りに行く十七、八の娘
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
満袖まんしゆう啼痕血痕に和す 冥途敢て忘れん阿郎の恩を 宝刀を掣将とりもつて非命をす 霊珠を弾了して宿冤しゆくえんを報ず 幾幅の羅裙らくんすべて蝶に化す 一牀繍被しゆうひ籠鴛ろうえんしたふ 庚申山下無情の土 佳人未死の魂を埋却す
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
満船すべて相公のしおを載す
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
元来がんらい私の教育主義は自然の原則に重きをおいて、数と理とこの二つのものをもとにして、人間万事有形の経営はすべてソレから割出して行きたい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
天床、畳、壁、障子、襖、小さな天地ではあるけれども、すべ敗頽はいたい衰残すゐざんの影が、ハツキリと眼に映る。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
五月十二日に枕山は竹内雲濤、大沢順軒らと共にすべて四人、舟を柳橋にして月を賞した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日はりて東窓の部屋のうちやゝ暗く、すべての物薄墨色になって、暮残りたるお辰白き肌浮出うきいずる如く、活々いきいきとした姿、おぼろ月夜にまことの人を見るように、呼ばゞ答もなすべきありさま
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たまにはそういう病的な婦人もありましょうが、婦人がすべてそうであるとは思われません。これは婦人でなくてはなかなか解りにくい事で、男の書かれた物のみでは信用し兼ねます。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
しかしこれは男の事ゆえ、勝久の弟子ではあるが、名は家元から取らせた。今の教育はすべて官公私立の学校において行うことになっていて、いきおい集団教育の法に従わざることを得ない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たれよわりしていに安間平左衞門はそばに居たりしが冷笑あざわら否早いやはや御前の樣に御心弱くては表向おもてむき吟味ぎんみの時は甚だ覺束おぼつかなしすべて物事は根深ねぶかはかり決して面色かほいろに出さぬ樣なさねばならぬ事なり然るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何事に就てもすべて其時代の有様を見て立論することなれば、君臣主従は即ち藩主と士族との関係にして、其士族たる男子には藩の公務あれども
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして適當な家を目付けて、其を借りることになツたが、敷金家賃其の他一切の話合はなしあひすべて綾さんが取仕切とりしきツて、由三は只其のあとについて挨拶するだけであツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
形円にして複重す。山際をすぎて洋に出れば三里ありといふ。真の入り海なり。すべてこれ仮山水のごとし。延袤えんぼう二里許あり。土人小舟にて竜鬚菜りゆうしゆさいをとるもの多し。又海船の来り泊するあり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この日より続いて二十五日に至るまで死刑に処せられたものすべて十四人に及んだ。かつて明倫堂の督学であった冢田大峰つかだたいほうの義子謙堂(年六十一)も二十一日に刑せられた者の一人であった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)