うつ)” の例文
真に千古末だ見ざるの凶、万代遭わざるの禍、社稜宗廟しゃしょくそうびょう、危、旦夕たんせきに在り。乞う皇上早く宮眷きゅうけんひきいて、速やかに楽土にうつれよ云云。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
すなわ曹国公そうこくこう李景隆りけいりゅうに命じ、兵を調してにわかに河南に至り、周王しゅく及び世子せいし妃嬪ひひんとらえ、爵を削りて庶人しょじんとなし、これ雲南うんなんうつしぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
嶺松寺にあった無縁の墓は、どこの共同墓地へうつされたか知らぬが、もしそれがわかったなら、尋ねにきたいものであるといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
君が御名みなさちの井の、ゐどのほとりの常磐木ときはぎや、落葉木らくえふぼく若葉わかばして、青葉あをばとなりて、落葉おちばして、としまた年と空宮くうきうに年はうつりぬ四十五しじふいつ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
越州の三国みくにと、佐州の小木おぎと、羽州うしゅうの酒田とが、船箪笥を造った三港であることは前から聞いていた。だがうつる時が需用を消した。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ましてや最近三年ほどの東京の生活は、優に戦争前の二十年にも三十年にも劣らぬほどのうつり変りを含んでゐると言はれてゐます。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そうして都が京へうつって跡が畑になってしまっても、この辺のお寺丈けはその儘残っていましたから、日曜から土曜へかけて……あら
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
以前、不動堂がまだふもとの登り口にあった時分は麓にいたが、不動堂が頂上の奥の院へうつされると共に、この老人もまた頂上へ移りました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
光陰は穩にうつりぬ。課業の暇あるごとに、恩人の許におとづれて、そを無上の樂となしき。小尼公は日にけに我になじみ給ひぬ。
かかるうちに、火は東華門から五鳳楼ごほうろうへ燃えてきたので、帝は御座所を深宮にうつされ、ひたすら成行きを見まもっておられた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鴻雁こうがんは空を行く時列をつくっておのれを護ることに努めているが、うぐいすは幽谷をでて喬木きょうぼくうつらんとする時、ぐんをもなさず列をもつくらない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
早い速力でうつって行くから、一つの行動の必要が起ったとき、その意味や価値をじっくり自分になっとく出来るまで考えているゆとりがなくて
明治三十一年十月、雑誌『ホトトギス』が松山から東京にうつるに及んで、俳句関係の居士の文章は、ほとんどこの誌上に集中される形になった。
「俳諧大要」解説 (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
生理上にて男性なるが故に女性を慕ひ、女性なるが故に男性を慕ふのみとするは、人間の価格を禽獣の位地にうつす者なり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
他人の名句を読みて後自ら句をものする時は、趣向流出し句調自在になりて名人の己に乗りうつりたらんが如き感あるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この同盟会なるものはすなわち第二期政論より第三期にうつるの連鎖にして、なお第一期の後における民選議院建白とほとんど同一の効力ありき。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
けだし釈迦は波羅門バラモンを破り、路得ルターは天主教を新にす。わが邦の沙門しゃもんもまたよくすうを興せり。これによりてこれを見れば、信あにうつすべからざらんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
つまりはいずれの城下町でも城廓本位から商売本位にうつるために、多少不自然な変更を加えるまでも、いったん発生した町をほかへ移すことはなく
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
中川「現在の有様ではそれも便利だろう。しかし将来を考えてみ給え。日本料理は追々と西洋料理にうつって行くのだ。 ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「世はうつり人は代るが、人間の食意地は変らない」「食ものぐらい正直なものはない、うまいかまずいかすぐ判る」
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
連歌の発句、俳諧の発句とうつって来まして今日では俳句という名前で呼ばれておりますが、これは発句といった昔のものと少しも変らないのであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それからそれへと思いめぐらして、追懐おもいではいつしか昔の悲しい、いたましい母子おやこの生活の上にうつったのである。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
世に越前家えちぜんけと云うは徳川家康の第二子結城ゆうき宰相秀康ひでやす。その七十五万石の相続者三河守忠直みかわのかみただなおは、乱心と有って豊後ぶんごうつされ、配所に於て悲惨なる死を遂げた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「世家」によると、孔子がさいうつって三年、呉が陳を伐ち、楚が陳を救った。その時楚は、孔子が陳・蔡の間にあるを聞いて、人をして孔子をへいせしめた。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
また脚船を押寄せ支うるならば、急に飛附き、長鳶口ながとびくち、長熊手、打鈎うちかぎを以て引寄せ乗うつり船中の夷輩を鏖殺おうさつし脚船を奪うべし〔何ぞ壇の浦の戦に似たる〕。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
山から山に渡るには頂上より頂上まで行くのが最も近道ちかみちであるが、実際山より山にうつるには、一度ふもと渓間たにまに降りてまたまたけわしき峰をよじ登らねばならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一首は、明日香に来て見れば、既に都も遠くにうつり、都であるなら美しい采女等の袖をもひるがえす明日香風も、今は空しく吹いている、というぐらいに取ればいい。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
翌年になってついに清須を落して自らうつり住し、信光をして郡古野に、その弟信次を守山に居らしめた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それはさっと琥珀から黄金にかわりまた新鮮しんせんみどりうつってまるで雨よりもしげって来るのでした。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これには裁判官もはたと当惑し、如何にしてこの裁判の強制執行をしたものかと、額をあつめて小田原評議に日をうつす中に、毛虫は残らず蝶と化して飛び去ってしまった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
全軍の車輛しゃりょうについて一々調べたところ、同様にしてひそんでいた十数人の女が捜し出された。往年関東の群盗が一時にりくったとき、その妻子等がわれて西辺にうつり住んだ。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
先頃さきごろ祖母様を新築の一室にうつしまつらんとせしとき祖母様三日も四日も啼泣ていきゅうし給ひしなど御考被下くだされ候はば、小生がにわかに答ふること出来ざる所以ゆえんも御解得なされ候ならんと存候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その中に「うつされ」という字があったが、先生から、聞かれても、誰も答えられない。
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
将軍より上奏する所の条約一条、朝廷においてご聴許ない時は、大老らは承久の故事を追い、鳳輦ほうはいを海島にうつし奉るか、さもなくば主上を伊勢に遷し両宮の祭主となし奉るべし——
『七面鳥』と『忘れ褌』 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
大和の国中くになかに、宮うつし、宮さだめ遊した代々よよの日のみ子さま。長く久しい御代御代に仕えた、中臣の家の神業。郎女さま。お聞き及びかえ。遠い代の昔語り。耳明らめてお聴きなされ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
御陵は初めは磐余いわれ掖上わきがみにありましたが後に科長しながの中の陵におうつし申し上げました。
彼は地方官として遠いところへうつされた。時の人びとは彼を称して壁龍へきりゅうといった。
すなわち善を求め善にうつるというのは、つまり自己の真を知ることとなる。合理論者が真と善とを同一にしたのも一面の真理を含んでいる。しかし抽象的知識と善とは必ずしも一致しない。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
高倉たかくらみや宣旨せんじ木曾きそきたせきひがしに普ねく渡りて、源氏興復こうふくの氣運漸く迫れる頃、入道は上下萬民の望みにそむき、愈〻都を攝津の福原にうつし、天下の亂れ、國土の騷ぎをつゆ顧みざるは
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
まだそういう観念と義務とに慣らされていなかったせいもあったろうが、父は生来片意地な性格の一面を持っていた。新時代の要請に容易に志をうつすということをなしえなかったのである。
長崎高資たかすえはかりごとを用い承久の例にのっとって、人臣の身としては不埓ふらちにも、主上を絶島にうつし参らせ、大塔宮様をとらえたてまつり、ともかくもせんものと計画し、このむねを六波羅へ申しやった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はかまをつけたままの改まった心持ちで、山吹村追分おいわけ御仮屋おかりやから条山神社の本殿にうつさるるという四大人の御霊代みたましろを想像し、それらをささげて行く人のだれとだれとであるべきかを想像した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは、女自身がそれぞれ自分の性質なり姿顔形なりにしっくりふさわしいものがどれだというしっかりした考えがなくて、ただ猫の目のようにうつり変わる流行ばかりを追うからだと思います。
朝顔日記の深雪と淀君 (新字新仮名) / 上村松園(著)
それも秋田から横手にうつされて、今では樺太かばふとの校長をしているのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが今では鏑木清方画伯の厳父と一々断らねば通ぜぬほど時代はうつる。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
そもそも民選議院建設の時節は、国体の変じて君主専権より君民分権にうつるの時なり。この時や、人民は権利を得ることなれば、あるいは不承知あるまじきか、それすらいまだ屹度きっととはいいがたし。
しかしこれはとんだ履き違いで、同情は必ずしも優越観念を伴う訳のものではありません。恐れ多いことではありますが、私どもは歴史を読んで、隠岐にうつされ給うた後醍醐天皇にも同情し奉る。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
来る冬も来る冬も寒い寒いとこぼしながら、思い切って暖かい国へ都をうつすこともできず、後年羅馬で亡くなってしまいましたが、ともかくこういう莫迦ばかげたことを考えるような性質の皇帝ですから
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
かがなべて、た歳を、宮うつらしき。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
翌年仲平が三十、お佐代さんが十七で、長女須磨子すまこが生まれた。中一年おいた年の七月には、藩の学校が飫肥おびうつされることになった。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)