ひもと)” の例文
卑しくも私の趣味性をそそるものあらば座右に備えて悠々自適ゆうゆうじてきし、興来って新古の壱巻をもひもとけば、河鹿笛かじかぶえもならし、朝鮮太鼓も打つ
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
僕はうどんが煮える間を、米がける間を大抵いつも詩集をひもとく。小説なんかよりはこの方が勝手だから。こんな詩を見つけたりする。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
わたくしは或日蔵書を整理しながら、露伴先生の『讕言らんげん』中に収められた釣魚ちょうぎょの紀行をよみ、また三島政行みしままさゆきの『葛西志』をひもといた。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
東西の犯罪史をひもとけば分る様に、大犯罪者であればある程、常人には理解し難い様な、子供らしい、馬鹿げた虚栄心を持っているのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小勢こぜい人数にんずには広過ぎる古い家がひっそりしている中に、わたくし行李こうりを解いて書物をひもとき始めた。なぜか私は気が落ち付かなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は「戦後わたくしがひもといた新しい仏蘭西の詩集はアポリネール、ヴァレリイ、ジュル・ロマンその他二三家の集に過ぎない」
「珊瑚集」解説 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
試みに『霊異記』や『法華験記』『今昔物語』等の古書をひもといてみるならば、これらの例話はいくらでも提出することができるのである。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
鈍根な貧乏性をかたくなに守っている吝嗇家りんしょくかのように、本多正信とぼそぼそ話していない時は、独り居室で書物などひもといている折が多かった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この様な句を読むとすると、かつてロデンバックの短篇集をひもといたことのある人ならきつとあの廃都ブリュジュの夕暮を思ひ描くに相違ない。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
一巻の絵巻物が出て来たのをひもといて見て行く。始めの方はもうぼろぼろに朽ちているが、それでもところどころに比較的鮮明な部分はある。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
第二種の論者よりは幾分か多くの洋籍をひもとき、英米学者の代議政体論、議院政治論、憲法論、立法論などは彼らよりも一層精しく講究せり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
露伴、幸田氏のものされたる、「いさなとり」をひもとけば、その壮観、目に親しくるがごとき詳細なる記述に接す、われ敢てここにぜいせず。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それを研究することもこんがよく、ひまがあれば古今の医書をひもといて、細かに調べているのだが、どうしたものか先生の病で
いづれの題目といへども芭蕉または芭蕉派の俳句に比して蕪村の積極的なることは蕪村集をひもとく者誰かこれを知らざらん。一々ここにぜいせず。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そうしてその堕落史をひもとく人があるなら、それは近代から筆が起され、現代において絶頂に近づいてきたのを知るであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
詩集はかなりひもときましたが白楽天のは殊に愛誦して居りましたし中でもこの長恨歌には深い懐かしみを持って居りました。
しかしたつた一つの彼女の形見である『ワザーリング、ハイツ』をひもとく者には何れだけ強く深い人生の経験が、この不幸な
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
昨日きのうまでは督責とくせきされなければ取出さなかッた書物をも今日は我からひもとくようになり、したがッて学業も進歩するので、人も賞讃ほめそやせば両親も喜ばしく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
では何故かと云うに、僕がそれ以前に図書室を調査した時、ポープ、ファルケ、レナウなどの詩集が、最近にひもとかれていたのを知ったからだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
も一つは余が餘りに君とは近親であるから平常君が文學書などひもといて居るのを知つて居ても、所謂文士仲間にう言はれる程では勿論ないし
私は一日医書をひもとき、「若返り法と永遠の生命」の項について研究した。その結果得た結論は次の如きものであった。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
種々いろいろな経営にいそがしいあの吉本さんにも、こうした「モダアン・ペインタアス」なぞをひもとこうとした静かな時があったであろうかと想像して見た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのつまびらかなることは今わたくしの記憶に存せぬが、彼批評家には必ずや文集があるべく、これをひもといたら、百物語評を検出することもまた容易であろう。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わが奇を好む心は、かの露肆ほしみせの主人が言にいどまれて、愈〻さかんになりぬ。われは人なき處に於いて、はじめて此卷をひもとかん折を、待ち兼ぬるのみなりき。
どこの国の犯罪史をひもといてみても、絶対的に先例が無かっただろう‥‥‥と思われるような、あの異常な事件の上にようやく一道の光明を投げあたえた。
犯罪史をひもといて、犯罪の暴露の経過を見ると、犯人にとって最も危険なのは彼自身の良心です。彼等は勇敢に犯行をなすに不拘かかわらず、犯行後極めて臆病です。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
(モウロは像を押頂きて元の棚に祭り、正吉とテーブルに向い合いて、再び聖書をひもとく。月のひかり。梟の声。)
人狼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一夜いちや幼君えうくん燈火とうくわもと典籍てんせきひもときて、寂寞せきばくとしておはしたる、御耳おんみゝおどろかして、「きみひそか申上まをしあぐべきことのさふらふ」と御前ごぜん伺候しかうせしは、きみ腹心ふくしん何某なにがしなり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今は孝行者が多い世の中だから、孝経なぞ読まなくなつたが、往時むかしは何ぞといつてはこの経書をひもといたものだ。
伯父の死後七年にして、支那シナ事変が起った時、三造は始めて伯父の著書『支那分割の運命』をひもといて見た。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ある日『おもろさうし』の十の巻「ありきゑとのおもろさうし」(旅行の歌の双紙の義)をひもといていると、ふと「ねいしまいしがふし」というオモロが目についた。
土塊石片録 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
贔負目ひいきめには雪中せつちゆううめ春待はるまつまの身過みす世過よす小節せうせつかゝはらぬが大勇だいゆうなり辻待つじまちいとま原書げんしよひもといてさうなものと色眼鏡いろめがねかけて世上せじやうものうつるは自己おのれ眼鏡めがねがらなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……諸君……牢記ろうきして忘るる勿れ。神様というものは常に吾が○○以上に尊敬せねばならぬものである。その実例は日本外史をひもといてみれば直ぐにわかる事である。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はては文学者A氏の全集をひもとき、その遺書の第一節の文章なり意味なりから、何か解決の手がかりは得られないかと詮索して見たが、結局何も得るところはなかった。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
兄の宗次郎は、その時唐物の香炉に、銀葉を置いて、秘蔵の名香をたきながら、静かに歌書をひもとき、妹の芳江はその側で、兄の冬物のつくろいなどをしておりました。
暫くしてその書が到着したので鬼の首でも取ったように喜び、日夜その書をひもといてこれを翫読がんどくし自得して種々の植物を覚えた。それがために大分植物の知識が出来た。
勿論、退屈な時、手当り次第に雑誌でもひもとくように其場かぎりな、相手にも自分にも責任をもたない気分で目だけ楽しませようと云うのならば何も云うべきことはない。
印象:九月の帝国劇場 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
名所圖繪をひもときても、其頃はみち嶮に、けいあやうく、少しく意を用ゐざれば、千じん深谷しんこくつるの憂ありしものゝ如くなるを、わづかに百餘年を隔てたる今日こんにち棧橋かけはしあとなく
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
などゝ云う冷罵れいばを、店員どもに浴びせられながら、一種の反抗心を以てひもといたようなものゝ、己には実際、の有名なる戯曲ぎきょく妙味みょうみが、何処どこにあるのやら分らなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もはやうち震えながらしかひもとくことのできない神聖な作品のうちに、愛していたものの純潔さを何物にも曇らされることなく、昔と同じ激しい感動をふたたび見出す時
こんな不潔な絃歌げんかちまたで、女に家をもたせたりして納まっている自分をくすぐったく思い、ひそかに反省することもあり、そんな時に限って、気紛きまぐれ半分宗教書をひもといたり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
石川の歌集をひもとく人は、その作品の中に小奴こやつこといふ女性が歌はれてゐることを気づくであらう。
石川啄木と小奴 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「ウィルヘルム・テル」をひもとくときはじめて記される言葉はクーライエンのメロディーである。反響エコーのようにこれに答える山上の牧歌は、そのヴァリアツィヨーンである。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
私がその決心をしたのは、先生の『善の研究』をひもといて以来のことである。それはこの本がまだ岩波から出ていなかった時で、絶版になっていたのを、古本で見附けてきた。
西田先生のことども (新字新仮名) / 三木清(著)
嗣いで起こるべき少壮の学徒は、むしろこの一書をひもとくことによって、相戒めてさらに切実なる進路を見出そうとするであろう。それがまたわれわれの最大なる期待である。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
たれでも、國史こくしひもとひとは、かなら歴代れきだい天皇てんのうがそのみやこせんしたまへることをるであらう。それは神武天皇即位じんむてんのうそくゐから、持統天皇ぢとうてんのうねんまで四十二だい、千三百五十三年間ねんかん繼續けいぞくした。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
すなはち文化の一具を欠くものと謂可いふべし。(中略)余ここに感ずる所あり。寸暇すんかを得るの際、米仏とうの書をひもとき、その要領を纂訳へんやくしたるもの、此冊子さつしを成す。よつて之を各国演劇史となづ
本の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
我国においては、藤原咲平ふじわらさくへい博士がその権威者であって、『雲』という立派な著書が出ているから、その方に興味のある方はこの藤原博士の『雲』をひもとかれるのがよいであろう。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
竹刀しないや木刀で打ち合うことだけでは満足しないで、沢庵禅師の「不動智」とか、宮本武蔵の「五輪の書」とか、そういう聖賢や名人の著書をひもとくことによって、研究を進めた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくてあるべきにあらざれば下宿へ還って『用捨箱ようしゃばこ』をひもとくと「鍋取公家なべとりくげというは卑しめていうにはあらず、老懸おいかけを掛けたるをいえるなり、老懸を俗に鍋取また釜取かまとりともいう」