紅葉こうよう)” の例文
そこはたしか山岸荷葉氏——紅葉こうよう門下で、少年の頃は天才書家として知られていた人である——の生家で、眼鏡や何かの問屋だった。
スポーンと紅葉こうようしげりへおちた梅雪ばいせつのからだは、まりのごとくころがりだして、土とともに、ゴロゴロと熊笹くまざさがけをころがってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度同時に硯友社けんゆうしゃの『我楽多文庫がらくたぶんこ』が創刊された。紅葉こうようさざなみ思案しあんけんを競う中にも美妙の「情詩人」が一頭いっとうぬきんでて評判となった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
樹々の中では、モミジの葉がいちばん綺麗きれいだ。もう半分ばかり紅葉こうようしている。かつてカスミ網が張ってあったのは、この樹の根元である。
庭の眺め (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
紅葉こうよう露伴ろはん樗牛ちょぎゅう逍遥しょうようの諸家初めより一家の見識気品を持して文壇にのぞみたり。紅葉門下の作者に至りても今名をなす人々皆然り。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
赤松の間に二三段のこうを綴った紅葉こうようむかしの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁はなびらをこぼした紅白こうはく山茶花さざんかも残りなく落ち尽した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やましずかであり、木々きぎ紅葉こうようはこのうえもなくうつくしかったが、ひとかれはなにかこころにおちつかないものをかんじたのでした。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
手には、美しく紅葉こうようしたかえでの枝を持ちました。そして、林の中に散らばって、大きな木の根本に隠れました。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
紅葉こうよう先生は、その洋傘が好きでなかった。さえぎらなければならない日射ひざしは、扇子おうぎかざされたものである。従って、一門のたれかれが、大概たいがい洋傘を意に介しない。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水に臨んだ紅葉こうようの村、谷をうずめている白雲はくうんむれ、それから遠近おちこち側立そばだった、屏風びょうぶのような数峯のせい、——たちまち私の眼の前には、大癡老人が造りだした
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このへんかえでが割合いに少く、かつひと所にかたまっていないけれども、紅葉こうようは今がさかりで、つたはぜ山漆やまうるしなどが、すぎの木の多い峰のここかしこに点々として
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
主僧の早稲田に通って勉強した時代は紅葉こうよう露伴ろはんの時代であった。いわゆる「文学界」の感情派の人々とも往来した。ハイネの詩を愛読する大学生とも親しかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
露伴の「雲のそで」、紅葉こうようの「多情多恨」、柳浪りゅうろうの「今戸心中いまどしんじゅう」あたりが書かれたころに当るはずである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しもは和歌にては晩秋よりこれを用ゐ、また紅葉こうようを促すの一原因とす。俳句にては霜は三冬に通じて用うれど晩秋にはこれを用ゐず。従ひて紅葉を促すの一原因となさず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
同時にまた「国民小説」「新小説」「明治文庫」「文芸倶楽部ぶんげいくらぶ」というような純文芸雑誌が現われて、露伴ろはん紅葉こうよう等多数の新しい作家があたかもプレヤデスの諸星のごとく輝き
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
『時事新報』の竹下権次郎、『読売新聞』の鈴木芋兵衛、『国会新聞』の野崎左文さぶん、これらの人々のほかに尾崎紅葉こうようは芋太郎の匿名で時々に『読売』の紙上に劇評を寄せていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
紅葉こうようした山々が、絵の様に湖水をふちどって、そこを白いボートが、小さな水鳥の様にすべって行くのが、ホテルの窓から好もしくながめられた。ボートの上には白いものが前後に動いている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
林間に酒を暖めて紅葉こうようを焚く——夜は夜ながらに焚き火が風情をそえて、毎年この夜は放歌乱舞、剣をとってはもろくとも、酒杯にかけては、だいぶ豪の者が揃っていて、夜もすがらの無礼講ぶれいこうだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
紅葉こうよう小波さざなみの門人ら折々宴会を催したるところなり。鰻屋うなぎや大和田おおわだまた箱を入れたりしが陸軍の計吏けいりと芸者の無理心中ありしより店をとざしたり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あるやまに一ぽんのかえでのがありました。もうながいことそのやまえていました。はるになると、うつくしい若葉わかばし、あきになるとみごとに紅葉こうようしました。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
嵐に吹きちる紅葉こうようのくれないを見せ、寸断すんだんされたうわばみの死骸しがいが、バラバラになって大地へ落ちてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孤峭こしょうなおもしろい男だった。どうした拍子か僕が正岡の気にいったとみえて、打ちとけて交わるようになった。上級では川上眉山びざん、石橋思案しあん、尾崎紅葉こうようなどがいた。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美妙や紅葉こうようが文学を以て生命とする志を立てたのも、動機は春廼舎の成功に衝動されたのだ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
これは神経過敏で、頭脳あたまが痛くって為方しかたが無い時に飲むのだという。本箱には紅葉こうよう全集、近松世話浄瑠璃せわじょうるり、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲネーフ全集が際立って目に附く。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
当時は「明治文庫」「新小説」「文芸倶楽部ぶんげいくらぶ」などが並立して露伴ろはん紅葉こうよう美妙斎びみょうさい水蔭すいいん小波さざなみといったような人々がそれぞれの特色をもってプレアデスのごとく輝いていたものである。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
紅葉こうようには大分のある、初秋の鹽原しおばら温泉、鹽の湯A旅館三階の廊下である。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山は高房山こうぼうざん横点おうてんを重ねた、新雨しんうを経たような翠黛すいたいですが、それがまたしゅを点じた、所々しょしょ叢林そうりん紅葉こうようと映発している美しさは、ほとんど何と形容していか、言葉の着けようさえありません。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
尾崎紅葉こうよう、川上眉山びざんたちと共に、硯友社けんゆうしゃを創立したところの眉毛まゆげ美しいといわれた文人で、言文一致でものを書きはじめ『国民の友』へ掲載した「蝴蝶」は、いろいろの意味で評判が高かったのだ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その頃文学小説の出版としいへば殆ど春陽堂一手の専門にて作家は紅葉こうよう露伴ろはんの門下たるにあらずんば殆どその述作をおおやけにするの道なかりしかば
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
甲斐かい東端とうたん北武蔵きたむさしとの山境やまざかいにある、御岳神社みたけじんじゃ紅葉こうよう季節きせつにあたって、万樹紅焔まんじゅこうえん広前ひろまえで、毎年おこなわれる兵学大講会へいがくだいこうえに、ことしは、大久保石見守長安おおくぼいわみのかみながやす
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木々きぎ紅葉こうようして、さながらえついたようにうつくしかったのもつかのであって、をきるようなあらしのたびに、やまはやせ、やがて、そののちにやってくる
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
鼠色ねずみいろしたその羽の色と石の上に買いた盆栽のはぜ紅葉こうようとが如何にあざやかに一面の光沢つやある苔の青さに対照するでしょう。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ぴ、ぴ、ぴ、と何の鳥か、けたたましく密林のうちにこだまを呼んだ。新秋の木々は早や紅葉こうようしていてやがてそこから突然躍り出してきた一個の人間も紅葉の精か、鬼かと見えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに谷川たにがわみず飛沫ひまつのかかるこずえは紅葉こうようをしてなつはいきかけていました。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
第二図三囲みめぐりの堤を見れば時雨しぐれを催す空合そらあいに行く人の影まれに、待乳山まつちやま(下巻第三図)には寺男一人落葉おちばを掃く処、鳥居際とりいぎわなる一樹の紅葉こうように風雅の客二人ににん
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたしはどうかしてこの野卑蕪雑ぶざつなデアルの文体を排棄はいきしようと思いながら多年の陋習ろうしゅう遂に改むるによしなく空しく紅葉こうよう一葉いちようの如き文才なきをたんじている次第であるノデアル。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今戸心中いまどしんじゅう』、『黒蜥蜴くろとかげ』、『河内屋かわちや』、『亀さん』とうの諸作は余の愛読してあたはざりしものにして余は当時紅葉こうよう眉山びざん露伴ろはん諸家の雅俗文よりも遥に柳浪先生が対話体の小説を好みしなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
麻布あざぶ古川ふるかわ芝山内しばさんないの裏手近くその名も赤羽川あかばねがわと名付けられるようになると、山内の樹木と五重塔ごじゅうのとうそびゆる麓を巡って舟楫しゅうしゅうの便を与うるのみか、紅葉こうようの頃は四条派しじょうはの絵にあるような景色を見せる。
初は神田錦町の神田警察署の側に店がありました。それから明治四十二、三年頃には市ヶ谷見附内から飯田町に移ったのです。春陽堂は紅葉こうよう露伴ろはんのものを出すので文学書肆の中では一番有名でした。
出版屋惣まくり (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なめらかな苔の上には再び下り来る鶺鴒の羽の色、菊の花、盆栽の紅葉こうよう
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)