たっ)” の例文
何もも話さねば判らぬが、僕が今の妻と知合になって、正式に結婚を申込もうしこんだ時、仲にたって世話してくれたのは、この今井であった。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
ナゼそんな処にたっているのです、ズット奥へお通りなさい。今も婆やを貴嬢あなたの処へ上げてお昼の副食物おかずを伺おうと思っていた処です。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
れがその交際つきあい朋友ほういう互に交って遊ぶ小供遊こどもあそびあいだにも、ちゃんと門閥と云うものをもっ横風おうふう至極しごくだから、小供心に腹がたって堪らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
瓢然ひょうぜんたる一種の道楽息子と成果てつ、家にあっては父母を養うの資力なく、世にたっては父母をあらわすの名声なし、思えば我は実に不幸の子なりき。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「よろしゅう御座います、それでは一ついただきましょう。」と自分の答うるやぐ彼は先にたって元の場処ばしょへと引返えすので、自分も其あとに従った。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
寒いって胼胝あかぎれだらけな足を上げて、たって居てかゝとをあぶるので、旦那はすっかり怒って仕舞って早々そう/\いとまになりました、実に女だけは江戸に限ります
博士と看護婦とがたっています。二人の四本の手は真赤です。寝台には学生が寝ていました。勿論殺されているのでした。ああ手術は済んだのでした。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしながらこれは信仰的立場にたっはじめて充分に了解せらるる書である。我らはこの書を研究する時、まず著者に対して深き同情と尊敬とを抱かねばならぬ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
じったっていると手足がしびれて来てだんだん気が遠くなった。遂に何処にどうしているのやら分らなくなった。——種々いろんなものが見えた。種々な音が聞え始めた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いぎたなく眠れる善作を揺り起して、炊事を命じ、自分一人寒気にふるえながら小舎の前の石峰にたった。
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
その前には十二三の少女が男の方を向いてたっている。少し離れてへやの入口には盲目めくら床几しょうぎに腰をかけている。調子の高い胡弓こきゅうと歌の声はこの一団から出るのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新聞懐中して止むるをきかずたって畳ざわりあらく、なれ破屋あばらや駈戻かけもどりぬるが、優然として長閑のどかたて風流仏ふうりゅうぶつ見るよりいかりも収り、何はさておき色合程よく仮に塗上ぬりあげ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
所が後から段々と確な証拠がたって来るから遂にうしても支那人だと思い詰め今では其住居其姓名まで知て居ます、其上殺した原因から其時の様子まで略ぼ分って居ます
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
まる狂気きちがいだ。チョイと人が一言いえばすぐに腹をたってしまッて、手も附けられやアしない」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何と思ったか婢もまたたっいったので、この間にと皺のない紙へ皺をつけて、両女ふたりの坐って居た辺へ投出した、小歌は手水ちょうずに下りたので、帳場の前で箱丁はこやに何か云って居る処へ婢が来て
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ところが暫らくたってから、同じ人から、貴国からの返事が遅いものだから、きに出資を申出た富豪がモウ出資を見合せるといい出した、右の次第だから御返事には及ばぬといって来た。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
諸方ほうぼう店頭みせさきにはたっ素見ひやかしている人々もある。こういう向の雑書を猟ることは、もっとも、相川の目的ではなかったが、ある店の前に立って見渡しているうちに、不図眼に付いたものがあった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これまた慌てて帰ったとの事だが、この噂がぱったって、客人の足が絶え営業の継続が出来ず、遂々とうとうこのいえ営業しょうばいやめて、何処どこへか転宅てんたくしてしまったそうだ、それに付き或る者の話を聞くに
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
つづいてダリュシカもなんともえぬかなしそうなかおをして、一時間じかん旦那だんな寐台ねだいそばにじっとたったままで、それからハバトフもブローミウム加里カリびんって、やはり見舞みまいたのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
茂った樹々の下陰には、もう夜の闇が、陰気なくまを作っていた。私は何となく身内みうちがゾクゾクして来た。私の前にたっている青白い青年が、普通の人間でなくて、魔法使まほうつかいかなんかの様に思われて来た。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今日しも満天下の常識屋どものきもっ玉をデングリ返してくれんがために、突然の自殺を思いたったるそのついでに、古今無類の遺言書を発表して、これを読む奴と、書いた奴のドチラが馬鹿か、気違いか
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
爛々らんらんたる火焔かえんはきすっくたったる
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
「この乱暮さを御覧なさい、座る所もないのよ。」と主人あるじの少女はみしみしと音のする、急な階段を先にたっのぼって
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
馬関の渡海小倉こくらから下ノ関に船で来る時は怖い事がありました。途中に出た所が少し荒く風がふいなみたって来た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちげえねえ、側に居たなア、何を云やアがるんで、耄碌もうろくウしてえるんだ、あん畜生ちきしょう、ま師匠腹をたっちゃアけねえヨ、己はあわてるもんだからへこまされたんだ
妻君も客を残してたって行く。大原ひと茫然ぼうぜんとして座敷にありしが半襟の失敗にて心安からず。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つまらないものを作ったものだなと考えた。箱の上に尺四方ばかりの姿見があってその左りに「カルルス」泉のびんたっている。その横から茶色のきたない皮の手袋が半分見える。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三の戸まで何ほどの里程みちのりかと問いしに、三里と答えければ、いでや一走りといきせきたって進むに、とうげ一つありて登ることやや長けれどもきず、雨はいよいよ強く面をあげがたく
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貞婦良人おっとの病を苦慮し東天いまだ白まざる前に社壇にがんを込むる処これ神の教会ならずや、余世の誤解する所となり攻撃四方に起る時友人あり独りたって余を弁ずる時これ神の教会ならずや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
黄色な窓から頭を出している者で、踏切番の小舎こやの前にたって白い旗を出していたこの男に眼を止めたものがあろう、或者は、黙って見て過ぎた。或者は唾を吐いて過ぎた。中にはあわれな老人だ。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
東京へ来てからは、性来の吏才りさいが役にたって、大蔵省の判任官を奉じ、長い間煙草たばこ専売局に勤めていた。妻と男の子一人、女の子三人の六人暮しで、住宅は麹町下六番町十番地の長屋建ながやだてであった。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
誰が腹をたってると云いました。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「まだ小供ですもの、ねえ」とお富はたって二人は暗い階段はしごだんを危なそうにり、お秀も一所に戸外そとへ出た。月は稍や西に傾いた。夜はしんと更けてる。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僅かな金でも……腹アたっちゃアいけない、取ったと云うのではない、是には何か理由いりわけの有る事だろうと思うが、今帰って、家内これやかましく小言を申して居る処で
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
所が私の盗だ嗽茶椀が役に立て、その中に一杯飯を入れて、その上に汁でも何でも皆掛けて、たっう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ああ、全く不思議! 私はいつしか例の長い梯子の下に来てたっていたのである。私はこの時また、二本の頭の上に突き立った黒い、太い烟突を見上た。きっとの烟突に触れて見たら熱いだろう。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また教会外にたって局外よりこれを見る時は今日までは神意の教導によりて歩む仁人君子の集合体と思いしものもまたその内に猜疑せいぎ、偽善、佞奸ねいかんの存するなきにあらざるを知れり、尖塔せんとう天を指して高く
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかるにふと物音のたようであるから何心なく頭を上げると、自分から四五間離れたところに人がたって居たのである。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今考えて見れば馬鹿々々しい訳ですが、実に強い男で「これは亥太郎には出来まい」と云うと腹をたって、「何でも出来なくって」と云い、人が蛇や虫を出して
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まだ新しいけれど粗末な家であった。家の傍には、幹ばかりの青桐あおぎりが二本たっている。若葉が、びらびらと湿っぽい風に揺れている。井戸がその下にあって、汲手くみてもなく淋しい。やはり雨が降っている。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
生も死も、宇宙万般の現象も尋常茶番となって了う。哲学でそうろうの科学で御座るのと言って、自分は天地の外にたっているかの態度を以てこの宇宙を取扱う。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
傳「わっち左様そう言いましたよ、柳田典藏さんと云う手習てなれえの師匠で、易をたっうとすっかりならべ立ったので」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お富はカラコロカラコロと赤坂の方へ帰ってゆく、お秀はじっと其後影を見送みおくったって居た。(完)
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
立膝をおろして煙草を呑もうといたすと、ざア/″\/″\という音が庭でするは、丁度傘をさして人のたってゞもいるように思われますんで、疵もつ足の二人は驚きあわて顔見合せましたが