突然だしぬけ)” の例文
突然だしぬけに西だの東だのったって、容易に分かりゃしないわ、考え込んでいると、丸顔のふとったもう一人のお役人が磁石を出しかけたの。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
みなまた少時しばしもくしてしまふ。其中そのうちちやる。ドクトル、ハヾトフはみなとの一ぱんはなしうちも、院長ゐんちやうことば注意ちゆういをしていてゐたが突然だしぬけに。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こんな手紙と原稿とを突然だしぬけに投げ付けられては、私も少しく面食めんくらわざるを得ない。宜しく頼むと云われても、これはほどの難物である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや串談じようだんではなし札幌さつぽろ病院長びようゐんちやうにんじられて都合次第つがふしだい明日あすにも出立しゆつたつせねばならず、もつと突然だしぬけといふではなくうとは大底たいていしれてりしが
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「少しはなし突然だしぬけですがね、まず僕の不思議の願というのを話すにはこの辺から初めましょう。その少女むすめはなかなかの美人でした」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
向岸むこうぎし晩香坡バンクーバから突然だしぬけに大至急云々うんぬんの電報が来て、二十四時間以内の出帆しゅっぱんという事になったので、その忙がしさといったら話にならない。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あんまり突然だしぬけに無法な御検分でございますから、当家の老主人も若主人も、親類も組合も土地の口利くちききもみんな呆気あっけに取られてしまいました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
突然だしぬけに夜具を引剥ひつぱぐ。夫婦ふうふの間とはいえ男はさすが狼狙うろたえて、女房の笑うに我からも噴飯ふきだしながら衣類きものを着る時、酒屋の丁稚でっち
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
孝助が石橋を一つ渡った所で、私共が孝助に鉄砲を向けますから、そうするとあとさがる所を後から突然だしぬけに斬っておしまいなさい
その時私は突然だしぬけに、澄子さんからの祝ひ手紙が來てゐるに違ひないと思ひついた。で、そこらを見巡したが、机のあたりには出てゐなかつた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
「なんだか急に父親おとっさんや母親おっかさんの顔が見たく成ったもんですから……突然だしぬけに家へ帰ったら、皆な驚いちゃって……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「兄貴!」と突然だしぬけに声をかけた。甚三の弟の甚内であった。「何をぼんやり考えているな」「おお甚内か、あれを聞きな。何んと素晴らしい音色じゃねえか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お父様、あの、墨がすれましてございます」弥生にいわれてぽっかり眼をあけた鉄斎、サラサラと紙をのべながら、夢でも見ているように突然だしぬけにいい出した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
貴女あなたは小説はお嫌ひですか?』と、信吾は少し突然だしぬけに問うた。其の時はモウ肩もれ/\に並んでゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうかすると突然だしぬけに『この眼は良人あのひとの眼付に似ている。口元といい、頭の恰好といい、そっくりだ』
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
姉さん達は額をあつめて弱っていると、突然だしぬけ呼鈴ベルが鳴った。愈〻来たか、やれやれとみんなが急に元気づくと、何の事だ馬鹿馬鹿しい。お島が澄まして名刺を持って入って来た。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人身ひとだけよりも高い蘆が茂りに茂って、何処に家があるとも分らぬが、此あたりを通って居ると、蘆の中から突然だしぬけ家鴨あひるの声が聞えたり、赤黒い網がぬっと頭を出して居たり、または
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
若い弁護人は耳許から突然だしぬけに、喚呼の声を聞かされて、一時は呆気にとられて居た。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
あなたは何性と突然だしぬけに小歌に問れて、貞之進は素より知らないことゆえ知らぬと云えば、歌ちゃんはとおんなが横合から口を入れると、儂は火なの、じゃア十八で九紫きゅうしだね、く分ってね
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
するとそのかへるさ、わたしみちいそいでをりますと、はなさきにおほきな眞黒まつくろやまのやうなものがふいと浮上うきあがりました。がくらくらツとしてからだれました。まつたく突然だしぬけ出來事できごとです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
夜は晩くまで納屋なやもみずりの響がする。突然だしぬけにざあと時雨しぐれが来る。はら/\とひさしをうってあられが来る。ちら/\と風花かざはなが降る。北からこがらしが吹いて来て、落葉した村の木立を騒々しく鳴らす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ぢいたんだな、おらねえけりやだまつてりてくべとおもつたんだつけが、明日あしたまで伯母をばさんかえ風呂敷ふろしきるつちからしてくんねえか、こめ脊負しよつてくんだから」おつぎは突然だしぬけにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
突然だしぬけに大きな声がして、無作法な服装をした青年が、よろよろしながら、向うの客車から這入ってきた。酔っているらしかった。何か喚くように言って、無理に娘の傍へ腰を下ろそうとした。
夜汽車 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
私は突然だしぬけに好い夢を破られた失望の感と共に、少しでも勘定が不足になるのが気になって、そうしていながらも、ちっとも面白くなかった。私にはまだ自分で待合で勘定を借りた経験はなかった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
たとへば夜けてから澤山の獲物えものを持ツて獨でくらい路を歸ツて來ると、不意に行方ゆくてから、人魂ひとだまが長く尾を曳いて飛出したり、またはのかはうそといふ奴が突然だしぬけ恐ろしい水音をさせて川に飛込むだり
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
すると湯村は突然だしぬけに、「君、寝たかい。」と問ふ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
突然だしぬけに近い所で、でかい声がした。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
みなはまたしばしもくしてしまう。そのうちちゃる。ドクトル、ハバトフはみなとの一ぱんはなしうちも、院長いんちょうことば注意ちゅういをしていていたが突然だしぬけに。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
淋しい処へばら/\降っかけて来る中をのそり/\やって来ると、突然だしぬけに茂みからばら/\と出た武士さむらいが、皆面部を包み
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひとの折角洗つたものに何する、馬鹿めと突然だしぬけに噛つく如く罵られ、癇張声に胆を冷してハッと思へば瓦落離ぐわらり顛倒、手桶枕に立てかけありし張物板に
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
先生の書いたもので思出す深夜の犬の鳴声——こんな突然だしぬけに起って来る記憶が、懐旧の情に混って、先生のことともつかず、自分のことともつかず
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いかにしたるか車夫はぴつたりとかぢを止めて、誠に申かねましたが私はこれで御免を願ひます、代は入りませぬからお下りなすつてと突然だしぬけにいはれて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いけねえ、いくら弱りきった畜生だからと言って、突然だしぬけに棒を出せば怒るのはあたりまえだあな、犬も歩けば棒に当るというのはそれだあな、棒なんぞを
真実ほんとに妙な御縁なのですよ、私は今日、身の上について兄に相談があるので、突然だしぬけに参りますと、妹が小声で大友さんが来宿みえてるというのでしょう、……」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
船長おやじ突然だしぬけに振返って俺の顔を見た。白い義歯いればを一ぱいにき出して物凄ものすご哄笑こうしょうしたもんだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それだから野口君が九州まで訪ねて来てもう驚く筈はないのだが、突然だしぬけだったし、教員の自由のく休暇季節でなかったから、僕は野口君の顔を見た時、悪い予感に襲われた。
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
府中の町を出はなれたかと思うと、おいかけて来た黒雲が彼の頭上ずじょう破裂はれつした。突然だしぬけに天の水槽たんくの底がぬけたかとばかり、雨とは云わず瀑布落たきおとしに撞々どうどうと落ちて来た。紫色の光がぱッと射す。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ある日の夕ぐれ、突然だしぬけにドドンと凄じい音がして、俄に家がグラグラと揺れ出したので、去年の大地震におびえている人々は、ソレ地震だと云う大騒ぎ、ところが又忽ちに鎮って何の音もない。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
突然だしぬけに三人の奴が飛かかって来たので、『やったぞ、出会え出会え』と呶鳴ったのが事の始まりで、そのときはもう、おれの仲間は不意打をくらって梯子から突落され、綱具の中に転がっていた。
と、突然だしぬけに主筆の声が耳に入つた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
梅「確かりせえと云ったって、お前さんひどい事をするじゃないか、眞達さんを殺すなら殺すと云ってお呉れならいに、突然だしぬけで私は腰が抜けたよ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
縁あればこそ力にもなりなられてたがい嬉敷うれしく心底打明け荷物の多きさえいとう旅路の空に婚礼までして女房に持とうという間際になりて突然だしぬけ引攫ひきさらい人の恋を
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
代は入りませぬからおりなすつてと突然だしぬけにいはれて、思ひもかけぬ事なれば阿関は胸をどつきりとさせて、あれお前そんな事を言つては困るではないか
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夫はお房が可愛くて成らないという風で、「この児のほっぺたは俺の母親おっかさんに彷彿そっくりだ」などと言っているかと思えば、突然だしぬけにお雪に向ってこんなことを言出す。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鹿狩しかがりに連れてこうか』と中根なかね叔父おじ突然だしぬけに言ったので僕はまごついた。『おもしろいぞ、連れて行こうか、』人のいい叔父はにこにこしながら勧めた。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
馬に乗っていたお君は、それを突然だしぬけに前から見てしまいましたから、ゾッとしてふるえ上りました。
乃公おれの代りに歌さんが大変怒られたそうだ。最早乃公は叱らないんだろう。叱らないで置いて突然だしぬけに奉公にやる積りかも知れない。歌さんは乃公の顔を見ると白い眼をしてばかりいる。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのうちに右に曲ったり左に折れたりしてドアを三つか四つぐらい潜って、もうだいぶ下へ降りたナ……と思ったトタンに廊下の天井にいていた電燈が突然だしぬけに消えちゃって真暗闇まっくらやみになっちまいました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、院長ゐんちやう突然だしぬけにミハイル、アウエリヤヌヰチのことばさへぎつてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
突然だしぬけに主筆の聲が耳に入つた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)