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瞼
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まぶた
ふりがな文庫
“
瞼
(
まぶた
)” の例文
いつぞや銀座あたりの喫茶店で、何気なく卓上の砂糖をなめていたら、もう五十年も前に遊んだ故郷の野辺が、ふと
瞼
(
まぶた
)
に浮んできた。
甘い野辺
(新字新仮名)
/
浜本浩
(著)
田部はきんの本当の年齢を知らなかった。アパート住いの田部は、二十五歳になったばかりの細君のそそけた疲れた姿を
瞼
(
まぶた
)
に浮べる。
晩菊
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
けれども、その
瞼
(
まぶた
)
が再び、ショボショボと開かれた時には、前よりも一層深い微笑が、左の頬から唇へかけて現われたようであった。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
旦那様は、安楽椅子に寄懸って、もう
居睡
(
いねむり
)
をしてござった。だがそれは
狸寝入
(
たぬきねいり
)
らしく、ときどき
瞼
(
まぶた
)
がぴくぴくと
慄
(
ふる
)
えて、薄眼があく。
什器破壊業事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
と、息切れのする
瞼
(
まぶた
)
が
颯
(
さっ
)
と、気を込めた手に力が入つて、鸚鵡の胸を
圧
(
お
)
したと思ふ、
嘴
(
くちばし
)
を
踠
(
もが
)
いて
開
(
あ
)
けて、カツキと
噛
(
か
)
んだ小指の
一節
(
ひとふし
)
。
印度更紗
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
故郷
楼桑村
(
ろうそうそん
)
の
茅屋
(
あばらや
)
に、
蓆
(
むしろ
)
を織って、老母と共に、貧しい日をしのいでいた一家の姿が、ふと熱い
瞼
(
まぶた
)
のうちに憶い出されたのであろう。
三国志:05 臣道の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いよいよ
湧起
(
わきおこ
)
る妄想の
遣瀬
(
やるせ
)
なさに、君江は軽く
瞼
(
まぶた
)
を閉じ、われとわが胸を腕の力かぎり抱きしめながら深い息をついて身もだえした。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「
押
(
おし
)
の強い事ばかり云つて。
人
(
ひと
)
の気も知らないで」と梅子は誠吾の方を見た。誠吾は
赤
(
あか
)
い
瞼
(
まぶた
)
をして、ぽかんと
葉巻
(
はまき
)
の
烟
(
けむ
)
を
吹
(
ふ
)
いてゐた。
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
その
謎
(
なぞ
)
めいた、甘いような苦いような口元や、その夢の重みを持っている
瞼
(
まぶた
)
の
飾
(
かざり
)
やが、己に人生というものをどれだけ教えてくれたか。
痴人と死と
(新字新仮名)
/
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
(著)
ただ一度だけ見た小柄で色白なあの娘の、驚愕とも恐怖ともつかぬ開けっぴろげな表情を
瞼
(
まぶた
)
にうかべながら、その沈黙に対抗する。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
由良は、ぷっくりふくれた
瞼
(
まぶた
)
の間から、坂田の顔色をうかがっていたが、相手がおとなしくしているので、いきなり高飛車に出た。
あなたも私も
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
捉
(
とら
)
えどころのない故に一層根強いものであった。ごつんごつんと頭をたたかれたような先年来の労苦が、半夜の
瞼
(
まぶた
)
を濡らすのであろう。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
庭樹の
茂
(
しげり
)
に隠れ行く篠田の
後影
(
うしろかげ
)
ながめ
遣
(
や
)
りたる渡辺老女の
瞼
(
まぶた
)
には、ポロリ一滴の露ぞコボれぬ「きツと、お
暇乞
(
いとまごひ
)
の
御積
(
おつもり
)
なんでせう」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
僕は眼をつぶって、こいしく、こがれて狂うような気持ちになり、
瞼
(
まぶた
)
の裏から涙があふれ出て、毛布を頭から引かぶってしまいました。
斜陽
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
いたずらに、もてあそんでいた三
味線
(
みせん
)
の、いとがぽつんと
切
(
き
)
れたように、おせんは
身内
(
みうち
)
に
積
(
つも
)
る
寂
(
さび
)
しさを
覚
(
おぼ
)
えて、
思
(
おも
)
わず
瞼
(
まぶた
)
が
熱
(
あつ
)
くなった。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
いつの間にか、又、
瞼
(
まぶた
)
が合わさると、一年中開けっぱなしの窓から森を、あの深い森を、ずーっと分けて行くような匂いがした。
蝱の囁き:――肺病の唄――
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
少いときでも、ぐったり首垂れた鳩や山鳥が
瞼
(
まぶた
)
を白く
瞑
(
つむ
)
っていた。父が猟に出かける日の前夜は、
定
(
きま
)
って母は父に小言をいった。
洋灯
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
薄い下り
眉毛
(
まゆげ
)
、今はもとの眉毛を
剃
(
そ
)
ったあとに墨で美しく曳いた眉毛の下のすこし
腫
(
はれ
)
ぽったい
瞼
(
まぶた
)
のなかにうるみを見せて似合って居ても
鶴は病みき
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
お品はいつの間にやら、畳の上へ、水仕事で少し荒れているが、娘らしく
光沢
(
つや
)
のある、美しい手を落して、そっと袖口を
瞼
(
まぶた
)
に当てました。
銭形平次捕物控:014 たぬき囃子
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「駄目だよ。」と落着き払った声でKはいって女の腰でも抱える時のように
柔
(
やさ
)
しくBの腰に手を廻した。そしてすばやくBの
瞼
(
まぶた
)
を撫でた。
扉
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
両掌
(
りょうて
)
をそろえて、顔をおおった。
瞼
(
まぶた
)
がしきりと
痒
(
かゆ
)
かった。坊津での傷は、ほとんどなおっていて、その跡がしわになっているらしかった。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
燁代さんは、檣の櫓に登って、だんだん遠ざかる碧海湾の波をながめながら、なんだか胸がせまって、
瞼
(
まぶた
)
があつくなるのだった。
昭和遊撃隊
(新字新仮名)
/
平田晋策
(著)
見たばかりで、その病人がもう死にかかっていることはわかった。だが登は規則どおりに脈をさぐり、呼吸を聞き、
瞼
(
まぶた
)
をあげて
瞳孔
(
どうこう
)
をみた。
赤ひげ診療譚:02 駈込み訴え
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
睫毛
(
まつげ
)
の長い一重
瞼
(
まぶた
)
が夢見るように細くなって、
片頬
(
かたほお
)
に愛らしいえくぼができて、花弁のような唇から、ニッと白い歯が
覗
(
のぞ
)
いた。
暗黒星
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
崖の崩れ、埋れた池——何といふ
侘
(
わ
)
びしさかな。本堂の仏殿の前に立つて、
礼拝
(
らいはい
)
をしたが、腹の底から
瞼
(
まぶた
)
の熱くなる気がした。
椎の若葉
(新字旧仮名)
/
葛西善蔵
(著)
明子は幼児の幻影を払ひ
退
(
の
)
けようとして幾度も手のひらを
瞼
(
まぶた
)
に斜めの空間に振つた。しかし彼女の手は空しく冷え冷えした秋の風を切つた。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
お浦の首級は、頼母の叫び声を聞くと、眼を開けようとして、
瞼
(
まぶた
)
を痙攣させたが、開く間もなく、一方へ廻り、窓から遠退き、闇へ消えた。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「おやおや、兄弟! 冗談でなしに
瞼
(
まぶた
)
が重くなつたと見えるな。もうそろそろ我が家へ帰つて
煖炉
(
ペチカ
)
の上へ這ひあがりたくなつたのぢやらう!」
ディカーニカ近郷夜話 前篇:06 紛失した国書
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
眉ニ
黛
(
まゆずみ
)
、
瞼
(
まぶた
)
ニアイ・シャドウヲ着ケ、フォールス・アイラッシュデ附ケ睫ヲ着ケ、ソレデモ足リナイデマスカラーデ睫ヲ長ク見セヨウトスル。
瘋癲老人日記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
汗がようよう収まると、入れ代って両の
瞼
(
まぶた
)
がうるんで来た。彼女は自分の未来の
果敢
(
はか
)
ない姿を、もう眼の前に見せられたように悲しくなった。
番町皿屋敷
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
肉の眼で恐ろしい夢でも見るように、産婦はかっと
瞼
(
まぶた
)
を開いて、あてどもなく
一所
(
ひとところ
)
を
睨
(
にら
)
みながら、苦しげというより、恐ろしげに顔をゆがめた。
小さき者へ
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
男が煙草を喫いながら言うと、女は何か言おうとしながら口を
噤
(
つぐ
)
んだ。表情はすぐ
瞼
(
まぶた
)
の顫えたのをきっかけに、
一層
(
いっそう
)
の冷たさと蒼白さを加えた。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
彼が他人の顔を良く見ようとする時は、顔を心持仰向けた上、人差指と親指とでたるんだ
瞼
(
まぶた
)
をつまみ上げ、目の前を塞ぐ壁を取除かねばならぬ。
南島譚:03 雞
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
得たり賢し——多年、冷遇され、閑却され、虐待され、無視されていた
角行燈子
(
かくあんどんし
)
は、時を得たりとばかり、パッとあらん限りの
瞼
(
まぶた
)
を開きました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
頭が熱し、
瞼
(
まぶた
)
が焼けて、じぶんは地獄に
墜
(
お
)
ちてもマヌエラを天に送ろうと、座間は目を
瞑
(
つぶ
)
り絶叫に似た叫びをあげていた。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
また、せめてそれが
瞼
(
まぶた
)
の下にぶらさがるように、彼女は、眼をすっかりつぶるのである。彼女は眠っているように見える。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
暫し、彼が顏をそむけたとき、私は
一滴
(
ひとしづく
)
の涙が閉ぢた
瞼
(
まぶた
)
から流れて、男らしい頬に轉び落ちるのを見た。私の胸は迫つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
その夜は、いくら飲んでも、
酔
(
よ
)
いが
廻
(
まわ
)
らず、
空
(
むな
)
しい興奮と、練習
疲
(
づか
)
れからでしょう、頭はうつろ、
瞳
(
ひとみ
)
はかすみ、
瞼
(
まぶた
)
はおもく時々
痙攣
(
けいれん
)
していました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
そのために
幾度
(
いくたび
)
か
瞼
(
まぶた
)
を
閉
(
と
)
ぢ/\した。
涙
(
なみだ
)
が
徐
(
おもむろ
)
にあふれ
出
(
い
)
でゝもう
直視
(
ちよくし
)
しようとはしない
眼瞼
(
まぶた
)
に
光
(
ひかり
)
を
宿
(
やど
)
して
止
(
と
)
まつてゐた。
日の光を浴びて
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
気の毒なことにはその上に両方の
瞼
(
まぶた
)
がもう逆転しかけていて、瞼の内側の赤い肉の色が半ば外から覗かれるのであった。
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
いつの間にか涙が眼にいっぱいに溢れた。そうして
瞼
(
まぶた
)
を合せると、自分が歌津子と肩を組みながら、兄が馬に喰われているのを眺めている夢を見た。
青草
(新字新仮名)
/
十一谷義三郎
(著)
目たたきしても
瞼
(
まぶた
)
が熱っぽいほどのぼせた頭を、ミネは農婦のように手拭で包み、日かげをよってうつむいて歩いた。
妻の座
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
王様は
鉄槌
(
てつつい
)
のやうに重い
瞼
(
まぶた
)
をこすりこすり、やつとこさで寝床から起きた。亭主は手ばやく
上布
(
シイツ
)
を置きかへて往つた。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
打まもり又も玉なす涙の
雨
(
あめ
)
聲さへ出ず
縋
(
すが
)
り
寄
(
より
)
私も一所に死にたしと身を
慄
(
ふる
)
はして歎く
體
(
さま
)
道理
(
ことわり
)
せめて哀れなり九助も
瞼
(
まぶた
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
瞼
(
まぶた
)
を潤おす涙も見えた。併も女は泣く事に依て一層勇気付けられ、一層雄弁に成るのであった。「
口惜
(
くや
)
しいッ」
独語
(
ひとりごと
)
の様にこう云って置いて又続けた。
偽刑事
(新字新仮名)
/
川田功
(著)
伊豆の地平線は、お乳の先にふれるくらいのところと書かれてあったけれど、ここでみる地平線は私の
瞼
(
まぶた
)
のあたり。
雨の玉川心中:01 太宰治との愛と死のノート
(新字新仮名)
/
山崎富栄
(著)
少年
(
せうねん
)
は
瞼
(
まぶた
)
をこすりつゝ、
悄然
(
しようぜん
)
と
艇
(
てい
)
の
中
(
なか
)
を
見廻
(
みまわ
)
した。
誰
(
たれ
)
でも
左樣
(
さう
)
だが
非常
(
ひじやう
)
な
變動
(
へんどう
)
の
後
(
あと
)
、
暫時
(
しばし
)
夢
(
ゆめ
)
に
落
(
お
)
ちて、
再
(
ふたゝ
)
び
醒
(
めざ
)
めた
時
(
とき
)
程
(
ほど
)
、
心淋
(
こゝろさび
)
しいものはないのである。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
たとえば肖像の
顋
(
あご
)
の先端をそろそろ塗っていると思うとまるで電光のように不意に筆が
瞼
(
まぶた
)
に飛んで行ったりした。
自画像
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
『あわれな郵便集配人よ。』とそれ等を読む度に
瞼
(
まぶた
)
が熱くなるのを覚える。その集配人だとて人である。雪の深い山路などは行き度くないにきまっている。
丸の内
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
すべてこんな蜥蜴が退化してほとんどまたは全く四脚を失うたものと真の蛇を見分けるには、無脚蜥蜴の
瞼
(
まぶた
)
は動くが蛇のは(少数の例外を除いて)動かぬ。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
“瞼(まぶた)”の解説
まぶた(瞼/𥇥、目蓋)は、脊椎動物の魚類を除く多くの種にある、顔の皮膚から連続して眼球(目玉)を上下から覆い保持する不透明で開閉式の器官である。「目蓋」という字からも分かるように、眼球(目)の蓋のような役割を果たしている。眼瞼(眼𥇥、がんけん)ともいう。
上側を上瞼(上𥇥、うわまぶた)、下側を下瞼(下𥇥、したまぶた)という。
(出典:Wikipedia)
瞼
漢検1級
部首:⽬
18画
“瞼”を含む語句
二重瞼
上瞼
一重瞼
眼瞼
瞼毛
蘭瞼
二重眼瞼
下瞼
目瞼
下眼瞼
上眼瞼
冐瞼旅行譚
一重眼瞼
眸瞼
二皮瞼
眼瞼縁炎
瞼下
瞼眼
瞼際
腫瞼
...