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睨
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にら
ふりがな文庫
“
睨
(
にら
)” の例文
母親はきつい眼で
睨
(
にら
)
んだが、唇には微笑がうかんでいた。黙って居間へゆき、ひき返して来ると、紙に包んだ物を渡しながら云った。
落ち梅記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
朽ちかけた
梯子
(
はしご
)
をあがろうとして、眼の前の小部屋の障子が開いていた。なかには蒲団が敷いてあり、人の眼がこちらを
睨
(
にら
)
んでいた。
ある心の風景
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
成瀬九十郎の変名に相違ないと
睨
(
にら
)
みましたが、さすがの平次も、この忍術の師匠を縛るだけの証拠は一つも手に入らなかったのです。
銭形平次捕物控:096 忍術指南
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
けれどもそのうちにフイッと何か
思出
(
おもいだ
)
したように私の顔を押し離すと、私の眼をキット
睨
(
にら
)
まえながら、今までと丸で違った低い声で
支那米の袋
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
どっと笑い
囃
(
はや
)
す観衆をちょっと
睨
(
にら
)
んで黙らせ、腹が痛い、とてれ隠しのつまらぬ
嘘
(
うそ
)
をついて家へ帰って来たが、くやしくてたまらぬ。
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
▼ もっと見る
その信仰や極めて
確乎
(
かっこ
)
たるものにてありしなり。海野は熱し詰めて
拳
(
こぶし
)
を握りつ。
容易
(
たやす
)
くはものも得いはで唯、唯、
渠
(
かれ
)
を
睨
(
にら
)
まへ詰めぬ。
海城発電
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
「お江戸から、その殿様のお妾を盗んで来て、なんでも、たしかにこの府中のうちに泊ったにちがいないと
睨
(
にら
)
まれたんだそうでがす」
大菩薩峠:21 無明の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「こいついよいよ関所だわえ。
安宅
(
あたか
)
の関なら
富樫
(
とがし
)
だが鼓ヶ洞だから多四郎か。いや
睨
(
にら
)
みの
利
(
き
)
かねえ事は。……あいあい
某
(
それがし
)
一人にて候」
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
この三本の松の下に、この灯籠を
睨
(
にら
)
めて、この草の
香
(
か
)
を
臭
(
か
)
いで、そうして御倉さんの長唄を遠くから聞くのが、当時の日課であった。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そして城中に
囚
(
とら
)
われている黒田官兵衛の身と、この城下へ
潜入
(
せんにゅう
)
している黒田家の決死救出組の諸士の行動とをひそかに
睨
(
にら
)
みあわせて
黒田如水
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
花子は額にて君子を
睨
(
にら
)
め、白くなよやかなる手にて、軽く君子を打つ真似はしたれど、どこやらに嬉しさうなる素振りも見ゆるに
当世二人娘
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
鏡
(
かゞみ
)
と
睨
(
にら
)
め
競
(
くら
)
をして
頤
(
あご
)
をなでる
唐琴屋
(
からことや
)
よ、惣て世間一切の善男子、若し遊んで暮すが御執心ならば、直ちにお宗旨を変へて文学者となれ。
為文学者経
(新字旧仮名)
/
内田魯庵
、
三文字屋金平
(著)
しかし権兵衛さんは、
頬髯
(
ほおひげ
)
に
埋
(
うず
)
まった青白い顔に、陰性の
凄
(
すご
)
い眼を光らせて
睨
(
にら
)
みつけるばかりで、微笑を浮かべた事さえなかった。
大人の眼と子供の眼
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
そうしたら部屋のむこうに日なたぼっこしながら
衣物
(
きもの
)
を縫っていた
婆
(
ばあ
)
やが、
眼鏡
(
めがね
)
をかけた顔をこちらに向けて、
上眼
(
うわめ
)
で
睨
(
にら
)
みつけながら
碁石を呑んだ八っちゃん
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
ひそかに原庭先生に化けて教壇の上から敬二たちを
睨
(
にら
)
んでいるように思えて、急に身体がガタガタふるえてきたことを覚えている。
○○獣
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
僕は心の中ではこの詩に感服していながら、ちょっとここのところがこざかしいと云えば云える腹立たしさで、彼女をジロリと
睨
(
にら
)
んだ。
魚の序文
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
運転手に
睨
(
にら
)
まれ、もじもじ恥にふるえながら目的地のアルジに車代を
払
(
はら
)
って
貰
(
もら
)
う、人生至るところただもう卑屈ならざるを得ない。
オモチャ箱
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
鷹揚
(
おうよう
)
に腰を下した、出札の河合は上衣の
袖
(
そで
)
を通しながら入って来たが、横眼で
悪々
(
にくにく
)
しそうに大槻を
睨
(
にら
)
まえながら、奥へ行ってしまった。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
ひとをからかいやがってと、俺が女を
睨
(
にら
)
んだとき、奥の部屋の障子が開いて、ワンピースの若い女が出てきた。ひと眼見て、俺は
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
そして、その男とすれ違う時、ぎらぎらする二つの眼が丹治の方を
睨
(
にら
)
むように光った。丹治は
二
(
ふ
)
た
眼
(
め
)
と見返すことができなかった。
怪人の眼
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
プロマイドにサイン組でないことは初手から
睨
(
にら
)
んではいたが、それにしても乙にモナ・リザを気取っていやがる。ちと
小癪
(
こしゃく
)
にさわるて。
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
娘は口元で笑いながら額越しに
睨
(
にら
)
む真似をした,自分はわがまま子と言われるのよりは、何とかほかの名を附けてもらいたかッた。
初恋
(新字新仮名)
/
矢崎嵯峨の舎
(著)
そして腕組みをして
昂然
(
こうぜん
)
とした態度を作つた。それには不自然なところがあつた。兄はありたけの勇を
揮
(
ふる
)
つて弟の瞳に
睨
(
にら
)
み合つた。
過去世
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
ようやく楽屋を出て来た小柳は、そこの暗いかげにも二人の手先が立っているのを見て、くやしそうに半七の方をじろりと
睨
(
にら
)
んだ。
半七捕物帳:02 石灯籠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
幾度悲鳴を上げられたり、つねられたり、
睨
(
にら
)
まれたりしても、一向感じないし、感じても次の時には忘れてしまうのかも知れない。
狼疾記
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
もし怪しい奴と
睨
(
にら
)
まれて、町奉行の手にでも引渡されたら……そして、どうしても密事を吐かねばならぬような
嵌目
(
はめ
)
に
陥
(
おちい
)
ったら……
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
それが眼に入るか入らぬに
屹
(
きっ
)
と
頭
(
かしら
)
を
擡
(
あ
)
げた源三は、白い横長い雲がかかっている雁坂の山を
睨
(
にら
)
んで、つかつかと山手の方へ上りかけた。
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
他の一人は絶頂に足を止めると、昂然と頭をあげて断崖の彼方を一
睨
(
にら
)
みし、さてその上で口を結ぶと、黙って平原のほうに帰って来た。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
稍
(
やゝ
)
老いた顔の肉は
太
(
いた
)
く落ちて、鋭い眼の光の中に無限の悲しい影を宿しながら、じつと今打ちに
蒐
(
かゝ
)
らうとした若者の顔を
睨
(
にら
)
んだ
形状
(
かたち
)
は
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
あゝ、
海賊船
(
かいぞくせん
)
か、
海賊船
(
かいぞくせん
)
か、
若
(
も
)
しもあの
船
(
ふね
)
が
世界
(
せかい
)
に
名高
(
なだか
)
き
印度洋
(
インドやう
)
の
海賊船
(
かいぞくせん
)
ならば、
其
(
その
)
船
(
ふね
)
に
睨
(
にら
)
まれたる
我
(
わが
)
弦月丸
(
げんげつまる
)
の
運命
(
うんめい
)
は
最早
(
もはや
)
是迄
(
これまで
)
である。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
ドクトルは
其後
(
そのあと
)
を
睨
(
にら
)
めてゐたが、
匆卒
(
ゆきなり
)
ブローミウム
加里
(
カリ
)
の
壜
(
びん
)
を
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く、
發矢
(
はつし
)
と
計
(
ばか
)
り
其處
(
そこ
)
に
投
(
なげ
)
付
(
つけ
)
る、
壜
(
びん
)
は
微塵
(
みぢん
)
に
粉碎
(
ふんさい
)
して
了
(
しま
)
ふ。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
瞬間私は怒りのためにワナワナと全身を顫わせながら、眼も眩みそうな気持で、横たわった妻の姿態を、
睨
(
にら
)
み付けてくれたのであった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
声する方を松本は
睨
(
にら
)
みつ「証人の名を言ふに及ばぬ、
若
(
も
)
し諸君が僕を信用するならば、
敢
(
あへ
)
て証人の姓名を問ふに及ばぬではないか」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
私はその折
他
(
ひと
)
に貸す程の金を持合せてゐなかつたし、それに折角質屋の
通帳
(
かよひ
)
があると
睨
(
にら
)
むで来た小説家にもそれでは済まなかつた。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
しかしながらかつて論じたのは東山時代を主として
睨
(
にら
)
んだ足利時代の総論で、本篇は足利時代を東山時代に総括しての論である。
東山時代における一縉紳の生活
(新字新仮名)
/
原勝郎
(著)
髪をこってりと櫛目だてて分け、安物だがズボンの折目はきっちり立った荒い縞背広を着たその男は、黒い四角い顔で私を
睨
(
にら
)
み
刻々
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
マツイがこの小型フォードを操縦する手並を想像してスマ子女史は愉快になっていた。猫舌のアメリカ人がスープを
睨
(
にら
)
んでいる。
職業婦人気質
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
全世界を愚物の充満と見たクロイゲルの眼光がこの巴里を一望のうちに見降ろす丘の中腹に注がれたのは、いかにも革命児の
睨
(
にら
)
みである。
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
成程然ういえば、何か気に入らぬ事が有って祖母が
白眼
(
しろめ
)
でジロリと
睨
(
にら
)
むと、子供心にも何だか無気味だったような
覚
(
おぼえ
)
がまだ有る。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
と、どこから登って来たか、
爛々
(
らんらん
)
と眼を光らせた
虎
(
とら
)
が一匹、
忽然
(
こつぜん
)
と岩の上に
躍
(
おど
)
り上って、杜子春の姿を
睨
(
にら
)
みながら、一声高く
哮
(
たけ
)
りました。
杜子春
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
過半数のものは
諦
(
あきら
)
めていたが、それでも銘々、うぬぼれは持っていた。壺皿を見詰めるような目付で、喜蔵の
手許
(
てもと
)
を
睨
(
にら
)
んでいた。
入れ札
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
薄い寝具の中に
潜
(
もぐ
)
り込んだまま、死んだようになっていた父親が出し抜けにもくりと
蒲団
(
ふとん
)
に起き上って、血走った目で宙を
睨
(
にら
)
み
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
校長さんはかいって
呆
(
あき
)
れてしまわれたのんか、ただ恐い眼エしてじっと
睨
(
にら
)
んでおられるだけで、もう何ともいいなされしません。
卍
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
而
(
しか
)
してその妖巫の眼力が邪視だ。本邦にも、
飛騨
(
ひだ
)
の
牛蒡
(
ごぼう
)
種てふ家筋あり、その男女が悪意もて
睨
(
にら
)
むと、人は申すに及ばず菜大根すら
萎
(
しぼ
)
む。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
なるほど、青味がかった
汚点
(
しみ
)
のようなものが目につく。しかし、彼は、それが
凍傷
(
しもやけ
)
の始まりだといい張った。どうせ、
睨
(
にら
)
まれているんだ。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
棟梁送りはどうなるんだ、と、わかりきったことを
咎
(
とが
)
めていたのだ。しばらく
睨
(
にら
)
めていた松岡は、うん——と、くびれた
顎
(
あご
)
をしゃくった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
そして虚空から、「天王寺の
妖霊星
(
ようれぼし
)
を見ずや」と歌います。その声が聞えると、高時は正気に返って立上り、小
長刀
(
なぎなた
)
片手に空を
睨
(
にら
)
みます。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
其
(
その
)
少し藪
睨
(
にら
)
みな白い大きな目が赤い紙で包んだ電灯の
下
(
もと
)
で光るのは不気味だが、
其
(
その
)
好い声を聴き、
垂下
(
たれさが
)
つた胡麻塩髭の素直なのを見れば
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
そのときふと彼は、そういう彼自身の痛ましい後姿を、さっきから片目だけ開けたまんま、じっと
睨
(
にら
)
みつけている別の彼自身に気がついた。
恢復期
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
婆さんはきつと豆小僧を
睨
(
にら
)
みましたから、豆小僧はえりもとから水をかけられたやうに、ぞつとして何にも言はないで、お寺へ帰りました。
豆小僧の冒険
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
睨
漢検1級
部首:⽬
13画
“睨”を含む語句
睨付
一睨
睨合
睨廻
睨返
睨視
睥睨
藪睨
睨附
白睨
睨着
八方睨
端睨
御睨
横睨
睨𢌞
睨上
睨殺
傲睨
下睨
...