めくら)” の例文
しかし、三階のとっつきにある杉本の教室はめくらめっぽうな騒音に湧きかえっていた。彼らは教師が現われてもいっこう平気であった。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
と、めくら滅法、谷そこ目がけて逃げ転げていった。その悲鳴といい逃げる恰好も、役人でもなし、武士でもない。林冲りんちゅうはがっかりして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その男は、杖で自分の前をこつこつ叩いているし、眼と鼻との上に大きな緑色の覆いをかけているところをみると、明かにめくらであった。
鬼と見る奴は眼のない奴だ、天下はめくら千人の世の中だ、やあ失敬失敬、君に当てつけて言ったわけではないから、悪くとってくれるなよ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしそうかと言って、この雪の中では野宿も出来ないので、今一度宿屋らしい家はないかとめくら滅法に当ってみることにした。
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「これはめくらじゃないんだぜ。」そう言って兄は、アルコホルランプの焔で引き伸ばした細い硝子の棒の先端を蜘蛛の眼のところへ近づけた。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
のみならず井底の蛙かもしくはめくら、蛇にじずの類であろう。こうした大勢に対して死に物狂いの反撃をしてみたくなった。
探偵小説の真使命 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ベンヺ こりゃなんでも、かくれて、夜露よつゆれのまくという洒落しゃれであらう。こひめくらといふから、やみちょうどおあつらへぢゃ。
さわれば何でも金になるような力のためには、少なくともめくらにさえならなければ、眼鏡の一つ位は棒に振ってもいい。
かようにしてアケタツの王とウナガミの王とお二方をその御子に副えてお遣しになる時に、奈良の道から行つたならば、ちんばだのめくらだのに遇うだろう。
およそ陸鳥りくてうは夜中めくらとなり、水鳥すゐてうは夜中あきらか也。ことにがんは夜中物を見る事はなはだ明也。他国はしらず我国の雁はおほくはひるねふり、夜は飛行とびありく。
「世間にゃあどうしてめくらが多いのかと、わっしも実に呆れましたね。地蔵が踊るのじゃあねえ、踊らせるのですよ」
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はだを左右に揉む拍子に、いわゆる青練あおねりこぼれようし、緋縮緬ひぢりめん友染ゆうぜんも敷いて落ちよう。按摩をされるかたは、対手あいてめくらにしている。そこに姿の油断がある。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何かいざこざが起ったりすると、目顔ですがるお君を見向きもしないで、めくら滅法に、床屋だの銭湯に飛び込んだ。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
にんじんは、しりっぺたに力をめ、かかとを地べたにめり込ませて、闇の中で、ぶるぶるふるえ出す。暗いことといったら、それこそ、めくらになったとしか思えない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ひだりききを無理むりみぎききになおすと、めくらになるとか、あたまわるくなるとか、新聞しんぶんいてあったよ。だから、しぜんのままにしておいたほうがいいのじゃないか。」
左ぎっちょの正ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
例の石級の下に老いたるめくら乞兒かたゐありて、往きかふ人の「バヨツコ」(我二錢ばかりに當る銅貨)一つ投げ入れむを願ひて、薄葉鐵トルヲの小筒をさら/\と鳴らし居たり。
東北でめくら巫女みこが舞わせているオシラサマという木の神は、ある土地ではぬのおおうた単なる棒であり、また他の土地では、その木の頭に眼鼻口だけを描いてある。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
めくらと思うて人をだまそうとはしからぬと罵って、子を投げそうだから、城主更に臣下して自身をしたたか打たしめると、盲人また今度は一番どこがいたいかと問うた。
ああ、その片輪の一人ですね。さっきひげの生えためくらが一人、泥だらけのがしらでまわしながら
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人とも、馬をつれて来たには来たのですが、一人のはめくらで、もう一人のはびっこでした。ふたりは
平家琵琶の検校けんげう藤村性禅しやうぜん氏がまだ生存してゐた頃で、富尾木氏もこのめくら法師が波多野はたの流の最後の人である事はよく知つてゐたので、態々わざ/\宿に招いて平家の一曲を所望する事にめた。
いたし方がありません。めくら滅法に探しちや、ふくろの中の物だつて出せはしません。曲者はこの後何をやり出すかわからないが、曲者の狙ひがわからなきやあつしは手を引いて、高見の見物を
白痴となると、心のおしつんぼめくらですからほとんど禽獣きんじゅうに類しているのです。ともかく人の形をしているのですから全く感じがないわけではないが、普通の人と比べては十の一にも及びません。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あの当座、硫酸で顔を灼かれた痛みがひどくて、それからめくらになって、おれの一生は恐怖と死のほかに何にもないということが初めてわかった時分は、今とは似ても似つかぬ考えに囚われていたんだ。
暗中の接吻 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
殿はめくら大将にして、人の剛臆が分らないのだ。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
つきさまはめくらだ、險難けんのん至極しごくな燈臺だ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
赤いのがあるぢやないの……めくらね。
落葉日記(三場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
笑ひひしめくめくららは西瓜をぞ切る。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一体人間は生涯めくらでいるものです。
「気をつけやがれ、どめくらめ!」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
特に親鸞研究に没頭する準備もなく社命ぜひなく社の文庫や図書館通いをあてに始めたのですからまことにめくらヘビにおじざるものです。
親鸞の水脈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとよりめくらの云うことで、別に取り留めた証拠もないのであるが、半七はそれを一種の不思議な話として、ただ聞き流してしまうわけには行かなかった。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
輪廓だけで内容の要領は得ないが、めくらだとは信じていないらしい。そういう説もあるにはあったようだが、そんなことは信ぜられない、といった口ぶり。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戀人こひゞとそのうるはしい光明ひかりで、戀路こひぢやみをもらすといふ。またこひめくらならば、よるこそこひには一だん似合にあはず
めくらにして七十八歳のおきなは、手引てびきをもれざるなり。手引をも伴れざる七十八歳のめくらの翁は、親不知おやしらずの沖を越ゆべき船に乗りたるなり。衆人ひとびとはその無法なるにおどろけり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
めくらなどは勿論立派りっぱなものです。が、最も理想的なのはこの上もない片輪かたわですね。目の見えない、耳の聞えない、鼻のかない、手足のない、歯や舌のない片輪ですね。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すなわち沖縄諸島において多くの神人を神と呼び、さては奥州でめくらの巫女をオカミといったり、伊豆の島でヤカミシュという神の奉仕者があったりする結果にもなったので
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あるじのつまはらたてゝ、いかに福一、兎角とかくどのゝ鬼のはなししてをられしに鬼かとおもひてみなきもをひやせり、めでたきとしの夜にめくらまどよりふりこみしはいまはしき事なり
「八、お前は、めくらの眞似と、つんぼの眞似と、何方が樂に出來ると思ふ」
阿部はぽんと跳ねあがりめくらめっぽうのはやさで杉本の頭に抱きついた。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
愚図愚図云うと、貴様共をみんなめくらにして終うぞ
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
めくら滅法に 恋をする。
五月の空 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
めくらの上にツンてきときたひにゃ、それこそ、でくのぼうよりなッちゃあいねえからな。ええオイ竹童……おッと、こいつはおれがまちがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それでなにかね、その相手の一人というのは、めくらの武家であったという話だが、それも本当か」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうで隠居いんきょをするというのだから、老者としより覚悟かくごの前だッたが、その疲曳よぼよぼめくらなのには驚いたね。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娵も娘も口をそろへ、鬼にやとていみじくおびえたり、にくめくらめと腹立はらたちていふ。
それが習慣になつたかして、彼女はつてあるくやうになつてもはり暗い部屋を離れなかつた。しかも彼女は決してめくらでもなかつた、跛足びっこでもなかつた。ことにその容貌きりょうはすぐれて美しかつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
マーキュ はて、こひめくらならまと射中いあてることは出來できまい。今頃いまごろはロミオめ、枇杷びわ木蔭こかげ蹲踞しゃがんで、あゝ、わし戀人おてきが、あの娘共むすめども内密ないしょわらこの枇杷びはのやうならば、なんのかのとねんじてよう。
左様、たしかにおりましたよめくらの老婆が。よく縁先の日なたで糸をつむ小車おぐるまを廻していましたが、それが李逵のおふくろでしょう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)