みずうみ)” の例文
入り江の海をみずうみのような形にみせる役をしている細長いみさきの、そのとっぱなにあったので、対岸の町や村へゆくには小舟でわたったり
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
やがて、ガンたちは、おなかいっぱいたべてしまいますと、またみずうみへ飛んでいって、おひるごろまで、いろんなことをして遊びました。
山のみずうみにも、風がさわぐと、大きななみがたった。けれども、海にくらべると、まるで、おとなと子どものような、ちがいであった。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
それがこのごろになって、このみずうみ時々ときどきらしにまいりまして、そのたんびにわたくしどもの子供こども一人ひとりずつさらって行くのです。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
燈心草の色——氷塊を流す淡緑色の水の色——をしている両眼のみずうみに、善と悪とを包み込んでいる汝は、悪を超越しまた善を超越している。
それにも一つここを海岸と考えていいわけは、ごくわずかですけれども、川の水が丁度ちょうど大きなみずうみきしのように、せたり退いたりしたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
蛇はその夜、県城を攻め落して一面のみずうみとした。唯その獄屋だけには水がひたさなかったので、書生は幸いに死をまぬかれた。
一朶いちだの紫雲かとまごう琵琶びわみずうみを見出していたろうに——はやさは觔斗雲に劣らないまでも、そんな他見よそみなどは、城太郎にはちっとも出来ない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不安な一夜をすごして、翌朝ドノバンらはみずうみのほとりに、フハンをさがしにいった。富士男とバクスターは例のごとくトンネルをほりつづけた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
琵琶湖で名高い近江おうみは滋賀県であります。大津絵で名高い大津がその都であります。みずうみのぞんだ古い町は、昔の姿を今もそう変えておりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
まだ、みずうみうえ鉛色なまりいろけきらぬ、さむあさかれは、ついに首垂うなだれたまま自然しぜんとの闘争とうそうの一しょうわることになりました。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
テントのてっぺんからは四方八方しほうはっぽうへ、赤と青の電灯でんとうつながはりわたされて、それがみずうみからいて来る夜風にゆらりゆらりとゆれかがやいています。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
きょうだいたちは、手をとりあって、さえた月の光の中で、静かなみずうみのふちにでて、おどりをおどります。三人とも妖女ようじょではなくて、にんげんでした。
走っていると云うよりはねていると云うのかも知れない。ちょうど昔ガリラヤのみずうみにあらしを迎えたクリストの船にも伯仲はくちゅうするかと思うくらいである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを追つて信濃の國の諏訪すわみずうみに追い攻めて、殺そうとなさつた時に、タケミナカタの神の申されますには
「はい、吾妻あずま川のみずうみへ出ますところで、二人とも、しっかり抱き合い身を投げたのを、今朝の暗いうちに、倉屋敷の船頭衆が見つけまして大騒ぎになりました」
廻沢めぐりさわと云い、船橋と云い、地形から考えても、昔は此田圃は海かみずうみかであったろうと思われる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
みずうみも山もしっとりとしずかに日が暮れて、うす青い夕炊きの煙が横雲のようにただようている。舟津のいその黒い大石の下へ予の舟は帰りついた。老爺も紅葉の枝を持って予とともにあがってくる。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
みずうみに映りてこゝにはかゞやけり。
みずうみこえて鳴ったれば
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しげった木立こだちのあいだを、あっちにぶっつかり、こっちにぶっつかりしながら、そのガンは、やっとのことでみずうみまで帰ってきました。
いのきちは、山でまれた。みずうみの上をながれるきりをおっぱいとしてのみ、谷をわたるカッコウの声を、もりうたにきいて、大きくなった。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
それでも先日の大雨以来、明るい日の色も俄に秋らしくなって、あいを浮かべたようなみずうみの上を吹き渡って来る昼の風も、たもと涼しくなった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さしもひろいみずうみの水も、ながい道も、このあたりは見るかぎり落葉おちばの色にかくされて、足のふみ場もわからないほどである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてきらきらと、みずうみの上にかがやきだしたはるの日をあびて、ふわりふわりちて行く白いものの姿すがたがはっきりとえました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そして空からひとみを高原にてんじました。まったすなはもうまっ白に見えていました。みずうみ緑青ろくしょうよりももっと古びその青さは私の心臓しんぞうまでつめたくしました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かすみうらといえば、みなさんはごぞんじでしょうね。茨城県いばらきけんの南の方にある、周囲しゅうい百四十四キロほどのみずうみで、日本第二の広さをもったものであります。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
だが、これはだれもがボートをあやつる知識と熟練にかけているのでしかたのないことだ。うららかな春光をあびてぼくらはみずうみの南端をさしてすすんだ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかし、かれらは、ある山中やまなかみずうみうえとおったときに、ついにそこへりなければなりませんでした。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
……風よげ! アリババのようにわたしが命令をくだすと、風はたちまち力をぬいて、海はうそのように静まりかえる。まるで、いまねむりからさめたばかりのみずうみのような静かさです。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
斯様こんな事を彼が妹なる妻に話す間に、小蒸汽は汽笛を鳴らしつゝ湖水を滑べって、何時見ても好い水から湧いて出た様な膳所ぜぜの城をかすめ、川となるべく流れ出したみずうみの水と共に鉄橋をくゞり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
みずうみに入る。
けれど、またまたこのガンも、きずひとつ受けずにげてしまいました。そして、ひとことも言わないで、みずうみのほうへ飛んでいきました。
というのは、いのきちが、よしむらさんにほしはなしをせがむより、いつも、よしむらさんがいのきちに、山のはなしや、みずうみはなしをさきにききだした。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
そうかといって、このままてておけば子供こどものこらず、わたくしまでもむかでにられて、このみずうみの中にきもののたねきてしまうでしょう。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
内浦鼻うちうらばなのあたりから、かなり大きな黒船のかげが瑠璃るりみずうみをすべって、いっさんにこっちへむかってくるのが見えだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しろ公は、そのようにして、林太郎がゆきだおれているみずうみきしへ、おとっつあんをりっぱに案内あんないしたのです。おとっつあんは、たおれている林太郎をだきあげると
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
自分じぶんたちのみじめな生活せいかつにくらべて、つねに、だれにすがるということなく、みずからのちからで、うみや、みずうみや、かわあさり、みなみからきたへ、きたからみなみへとわたって、雄々おおしく生活せいかつする
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
阿耨達池あのくだっちやすべて葱嶺パミールから南東の山の上のみずうみは多くはかがみのように青くたいらだ。なぜそう平らだかとならば水はみんな下に下ろうとしておたがい下れるとこまでくからだ。
一同は富士男らの見送りをうけてだちょうの森を左にして、みずうみにそうて北へ北へとすすみ、その日は左門洞さもんどうをさる十二マイルの河畔かはんで一ぱくした。一同はこの河を一泊河いっぱくがわと名づけた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
呉郡の無錫むしゃくという地には大きいみずうみがあって、それをめぐる長いどてがある。
いまは失意の貧しい生活たつきを、この大河やみずうみばかりな蕭々しょうしょうのうちにたくして、移りあるいている身の上と、ほそぼそ語った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういいながらはしの下にりて、なみってみずうみの中にはいって行きました。藤太とうだもそのあとからついて行きました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
林太郎は、おきぬねえちゃんの手につかまって、たんぼのあぜ道をみずうみの方へ歩いていきました。月がでていましたが、かすみにつつまれてほの白く見えているだけでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ふゆのない南方なんぽうは、まだ真夏まなつであります。みずうみみずは、ぎんのごとく、ひかり反射はんしゃしていました。
南方物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして早くもそのえ立った白金のそら、みずうみの向うのうぐいすいろの原のはてからけたようなもの、なまめかしいもの、古びた黄金、反射炉はんしゃろの中のしゅ、一きれの光るものがあらわれました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それと同時に、城は突然に陥没して一面のみずうみとなった。
「もうおかくしもうしても、かなわぬところでござります。おっしゃるとおり、御旗みはた楯無たてなしの宝物は、石櫃いしびつにおさめて、このみずうみのそこに沈めてあるにそういありませぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、としとったがんにとって、この山中やまなかみずうみかれのしかばねをほうむるところとなりました。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
といいながら、われわすれてけわしい坂道さかみち夢中むちゅうりて、白鳥はくちょうみずうみほうりて行きました。やっとみずうみのそばまでましたが、もう白鳥はくちょうはどこへ行ったか姿すがたえませんでした。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)