およ)” の例文
性来、特に現在はなはだ人間嫌いになった私にとってもこの人が島へくることは一尾のますおよいできたような喜びを与える。——追記。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
あなたはおひるから、ますおよいでるのが見える池へ連れてつてやると仰しやつたぢやないの。あたしまだ鱒を見たことがないんですもの。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
南は常夏とこなつの国とて、緑の色に濃くおおわれ、目も鮮かな花が咲き乱れ、岸辺には紫や青や黄色の魚がおよぐのを見られるでしょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「さア、とくに注意ちゅういしてたわけじやありませんからね。しかしうつくしい金魚きんぎょだとはおもいましたよ。ひらひらおよいでいましてね」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
『史記』には、〈孔子きて弟子にいいて曰く、鳥はわれその能く飛ぶを知り、魚はわれその能くおよぐを知り、獣はわれその能く走るを知る。
源兵衛は、うム! おめくと同時に、およぐように前面へのめってバッタリ、右近の言った通り、胴体どうたいが二つに開いて……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、合引橋あいびきばしの泳ぎで、新富町の寄席よせ内川うちかわ亭にいる娘が泳いでいたのを、別品べっぴん女中を連れておよぎに行くと出ている。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たしか、わたしの部屋のだけがたつた一つの凧ではなかつた筈だが、その日その日を期待しても何処の一隅からもあの物凄い目玉の凧はおよぎ出さなかつた。
山峡の凧 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
柳の根方でポケットから煙草たばこを取り出して火をいつけ、それからおよぐ子を監視する水泳教師のように、微笑を泛べながら二三間後を離れて随いて行った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ふなどじょうを子供が捕る。水底みなそこに影をいて、メダカがおよぐ。ドブンと音して蛙が飛び込む。まれにはしなやかな小さな十六盤橋そろばんばしを見せて、二尺五寸の蛇が渡る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
... ぐる所以ゆゑんかくごと而已のみ』と。孔子こうしつて弟子ていしつていはく、『とりわれぶをり、うをわれおよぐをり、けものわれはしるをる。 ...
多くの「フィッシュ」をおよがせるという意味でなら実に妥当だと言える——の常雇いの世話係りブリガアド・デ・ジュウや、自殺と不正を警戒している探偵や、初心者にゲイムを教える手引役インストラクタア
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
白鳥は人語を口にする程ですから、この主人の命令をも理解したに相違なく、彼女達は胸を揃え、うるしの様な水面に、純白の影を流して、静かにおよぎ始めるのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『そらそら海を海を、もうしめた、海を見ろ、海を』と叔父さんおどり上がって叫んだ。なるほど、ちょっと見ると何物とも判然しないが、しきりに海をおよぐ者がある。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
実をいふと、氏はその日川の容子ようすを見に出掛けたので、魚籠びくの用意だけはしてゐなかつた。で、兵児へこ帯を縦にいてうをあぎとくゝつて、その儘水におよがせておいた。
朱塗りの器、といっても丁度小タライといった恰好に出来ている器物だが、この中に白魚をおよがしてある。よく身のいった、どれも三寸は越していようという立派なものだ。
茶粥の記 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「今朝起きて見ますと、一匹やっとおよぐようなのを、皆が後からせッせと追いまわしておりますから、弱ったのを助けて游がせてやるのかと思ったら、いじめておりますんです」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして此等の者の報告によって、至って危い中から至って安らかな道を発見して、精神気魄きはくの充ち満ちた力足を踏みながら、忠三郎氏郷はかぶとの銀のなまずを悠然とおよがせたのだろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
湖水のみどりなるを見るより、四一うつつなき心にびて遊びなんとて、そこに衣をてて、身ををどらして深きに四二飛び入りつも、彼此をちこちおよぎめぐるに、わかきより水にれたるにもあらぬが
彼はその後から、婦人のほっそりとした後姿を見失わない程度に離れて、後から後からと流れて来る漫歩者の肩の間をおよいだ。あの綺麗な立派な指を見逃みのがしてはならないと思いながら……。
指と指環 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
また暑い午後にはただ一人水の中にかって空行く雲を眺め、水草の花を摘み、水の中に透きとおって見える肌のまわりに集まってくる小さな魚の群れのおよぐのをじっと眺めているときに
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
をりからはるかのおきあたつて、小山こやまごと數頭すうとう鯨群くじらのむれは、うしほいておよいでた。
湖から朝靄あさもやが立ちこめて、ローエングリンを送り届けた帰りみちの、道草は可笑おかしいが、もとより浮き草もない小波さざなみの上に、靄の色の羽づくろいして白鳥が一羽、おつにすましておよいでいたばかり
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
というのは、荷がないから、まるでその赤い腹のほとんど全部をむき出して、スクルーでなみをけっ飛ばしながらおよいで行くのであった。従ってデッキから水面までの距離が、うんと遠くなった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
顔の前へ小魚がおよいできてもこれを捕えようとはしなかった。
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
ついてゐたりしが一個點頭此方に向ひ能くおよぐ者はおぼるゝとやら平常へいぜいよりして女ぎらひで學問にのみおこりなさるゝ和君あなたが計ず見染れば思ひの程も又つよは然ながら夫程まで御執心ごしふしんなる女兒をなごなら假令たとへ旦那樣御夫婦が何と仰が有らうとも此管伴このばんたうが引受て急度きつと和君の思ひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ええ……そうですね。それはたしかに、あたりまえですが……そのきていたときには、元気げんきにひらひらおよいでいたといいましたから……」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
亀獅にむかい汝がこの川を跳び越えるよりも疾く予はこの川をおよぎ渡って見すべしと言った、獅奇怪な申し条かなと怪しんで日を定めて競争を約した
あれよ/\とののしり騒ぐ内に、愚なる白、弱い白は、斜に洪水の川をおよぎ越し、陸に飛び上って、ぶる/\ッと水ぶるいした。若者共は一斉いっせいに喝采の声をあげた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『背のとどかないところまで出ないとおよいだ気がしないからわたしはもすこし沖へ出るよ』とお絹はお常を誘うて二人の身体からだかろく浮かびて見る見る十四、五間先へでぬ。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
はしものもつ(八)あみく、およものもつ(九)いとく、ものもつ(一〇)いぐるみし。りよういたつては、われ風雲ふううんじようじててんのぼるをることあたはず。
地におちた瓦は、炸音さくおんをたてて割れ散った。人々は、怒号と叫喚のうちに、たおれる者を踏み、よろめく者を排して、皆、和泉屋の側の家なみの下をめざしてわれ勝ちにおよいだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
日夜々々、私の脳裏を間断なく去来するものは、あの美しく奇怪な凧が天空を悠々とおよぎ廻つてゐる姿のみだつた。そして彼は、私に限りない憧憬を強ひ、空々しい同情を与へた。
鱗雲 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
この流れる群集・およぐ乗物・踊る騒音の一大市民行列——人呼んでマドリッド名物「闘牛行アウロス・トウロス」と言う——が Calle de Alcala の町幅をうずめて、その絵画的な色彩
この喫茶店のアカデミックな空気の中におよがせて置けば、かの女は、立派に愉快を取り戻せるものと信じ切っているらしく、かの女に茶を与え、つまみ物を取って与えた後は、ぽかんとして
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鼻に長き鬚あり尾ひらたくしてえび(またはいなご)に似、大きさ鯨のごとく両側に足多く外見あたかもトリレミスのごとく海をおよぐ事はやしと、トリレミスとは
「あッ、そうか、それも……そうでした。ランチュウはあたまおもいせいか、およぎながらでも、しやつちよこちになることがおおいんですよ。——ええと、しかし、へんですねえ」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
青の鯉が行列をつくつておよぎ回つてゐるので水底は不断にもや/\と煙つてゐたが
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
よろめく富、畳に刺さった斬先を立て直そうとする間一髪、物をも言わず齧りついた鉄火の勘次、およぐ体を取って腰で撥ねるのは関口流の岩石落がんせきおとしだ。卍の富五郎そこへ長くなってしまった。
氏の『巫来マレー群島篇』に図せるごとく、その四足に非常に大きなみずかきあり、蹼はもと水をおよぐための器だが、この蛙はそれを拡げて、樹から飛降を便たすくという(第二図)。
生来この藻は流水や噴泉で不断あらわるる処に生えるがその胞子が偶然止水中に入ってくるしんだ余り一計を案じ魚に託生してその魚がおよぐとちょうど生活に必要ほどな振動を
いずれも以前蜥蜴を崇拝した遺風であろう(紀州日高郡丹生にゅう川で、百年ばかり昔淋しい川を蜥蜴二匹上下に続いておよぎ遊ぶを見、怖れて逃げ帰りしを今に神異と伝え居る)
蛙がうめくを聞き、いて見ると尋常なみの青大将が、蛙一つくわえ喉へみ下すたびに呻くので、その傍に夥しく蛙がさして、驚いた気色もなく遊びおよぎ居るを、蛇が一つ呑みおわりてまた一つ
普通に邪視を以てにらみ詰めると、虫や鳥などが精神恍惚とぼけて逃ぐる能わず、蛇に近づき来り、もしくは蛇に自在に近づかれて、その口に入るをいうので、鰻が蛇に睥まれて、頭を蛇の方へ向けおよ