椋鳥むくどり)” の例文
ああ愛する友よ、わが掌の温けきを離れて、あしそよぐ枯野の寒きに飛び去らんとするわが椋鳥むくどりよ、おまえのか弱い翼に嵐は冷たかろう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「渡り鳥が来たようでございますね。満天星どうだんの葉を散らしています。おや、椋鳥むくどりでございます」こういったのはイスラエルのお町。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
盛り場である人がなんの気なしにとった写真に掏摸すり椋鳥むくどりのふところへ手を入れたのがちゃんと写っていたという話を聞いたこともある。
カメラをさげて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
以前いぜんなにかにわたしが、「田舍ゐなかから、はじめて新橋しんばしいた椋鳥むくどり一羽いちは。」とかいたのを、紅葉先生こうえふせんせいわらひなすつたことがある。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『よしよし、判つた。椋鳥むくどり椋鳥』とおつしやつて、とんとんと杖で地面をおたたきになりますと、椋鳥が飛んでまゐりました。
仲のわるい姉妹 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
しかし椋鳥むくどりだけはどうやらもう見切ったらしい。椋鳥に見切られたということは、私の家にとっては実は大事件なのである。
「ならねえ、網にかかった椋鳥むくどりは、尻の毛までくが山賊の定法だ、ふんどしだけはくれてやるから裸になれ、四の五のぬかせば殺して取るばかりよ!」
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むくの木の所へ行って見上げると、椋鳥むくどりも何にもとまっていないで、ただわずかな葉が淋しそうについているきりでした。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そらはるかんだ椋鳥むくどりむれいくつかにわかれて、地上ちじやうひくさわいではこずゑもとめてぎい/\ときつゝ落付おちつかなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たとへば寒き時椋鳥むくどり翼に支へられ、大いなるすきなき群をつくりて浮び漂ふごとく、風惡靈を漂はし 四〇—四二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
自分もさっそく堕落の稽古けいこを始めた。南京米ナンキンまいも食った。南京虫ナンキンむしにも食われた。町からは毎日毎日ポンびき椋鳥むくどりを引張って来る。子供も毎日連れられてくる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ころは秋。そこここわがままに生えていた木もすでに緑の上衣をがれて、寒いか、風にふるえていると、旅帰りの椋鳥むくどりは慰め顔にも澄ましきッてさえずッている。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
もう暁刻の百舌鳥もずも来なくなった。そしてある日、屏風びょうぶのように立ち並んだかしの木へ鉛色の椋鳥むくどりが何百羽と知れず下りた頃から、だんだん霜は鋭くなってきた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ひわ椋鳥むくどりも捕るし、鳥籠も上手にこしらえました。……なに詰らないと言ってしまえばそれまでです。だが、それでも月に十ルーブルは転げ込みましたからね。……
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「そのような椋鳥むくどりが飛び込んで参ったとすれば、ほかの女共がいては邪魔じゃまじゃ。下げい。下げい。残らずいつものあの部屋へ閉じこめて、早うその小娘これへ連れい」
群衆といふことは一体鰯だの椋鳥むくどりだのからすだのにしんだのの如きものの好んで為すところで、群衆につて自族を支へるが、個体となつては余りに弱小なものの取る道である。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そんな連中に比べると、ケチな椋鳥むくどりを引っかけて身上しんじょうをハタカせるのを唯一の楽しみにしている叔父なぞは、オッチョコチョイの悪魔ぐらいにしか見えなくなって来た。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先ず小鳥類のうち田鴫たしぎ雲雀ひばり水鶏くいなひよ金雀ひわ椋鳥むくどりつむぎ、雀なぞは殺してから中を一日置いて三日目を食べ頃としますし、うずら山鴫やましぎ、カケスなぞは四日目を食べ頃とします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ファニーは盃に移されたシャンパンが笑うように笑い続けて身もだえした。頭の上に広がった桜の葉蔭からは桜桃についた一群の椋鳥むくどりが驚いてうとましい声を立てながら一時に飛び立った。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何んでもとれるぜ——うずらだの、椋鳥むくどりだの、藍背あおせだの……
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「うん。非売品だ。椋鳥むくどり連中に配るのだそうだ」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
木兎づくふくろふ椋鳥むくどり
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
椋鳥むくどりか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「そう諦めたものでもない。案外こういうアレの日にいい椋鳥むくどりがかかるものだ」頬髯ほおひげの黒い大男がニヤニヤ笑ってすぐ答えた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分の引き立て役に純ドイツ型の椋鳥むくどりを連れて行く、その椋鳥のタイプとか、パリ遊覧自動車の運転手とか案内者とか、ベデカと首っ引きで
映画雑感(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いまではふたゝび、もとのとほこずゑたかし、しげつてる。暴風雨ばうふううまへ二三年にさんねん引續ひきつゞいて、兩方りやうはう無數むすう椋鳥むくどりれてた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
椋鳥むくどりとか雲雀ひばりとかいう地面を恋しがる鳥は、もう段々退去したが、松のあるために枝移りをして、意外な野鳥までがめいめいの庭へ入って来る。
それからまた見上げると、他の椋鳥むくどりは逃げもしないで、ちゃんと元の枝にとまってるではありませんか。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ぐわつすゑかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びやうゐんにはには椋鳥むくどりしきりにいてたをりしも、院長ゐんちやう親友しんいう郵便局長いうびんきよくちやう立歸たちかへるのを、門迄もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そうして肥った身体からだを自分の椅子に詰め込んで、新聞を読んだり、手紙を書いたりしたあとは、入れ代り立ち代り電話をかけて来るお客や、店に押しかけてくる椋鳥むくどり連に向って
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「……? はてな? いねえぞ、いねえぞ、三てき! 三的! ずらかッちまったぜ。いい椋鳥むくどりだったにな。おめえがあんまり荒ッぽい真似するんで、きもをつぶして逃げちまったぜ」
先ず大別すれば三通りの焼き方がありまして、雀、田鴫たしぎつぐみ椋鳥むくどり雲雀ひばり水鶏くいなひよ金雀ひわ、カケス、山鴫やましぎ、山鳩、鴨、小鴨、がん、牛、羊なぞはあまり焼き過ぎない方が良いとしてあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
遣らねえものは燧木マッチ賭博かけ椋鳥むくどりを引っかける事ばかり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
椋鳥むくどりさまに お頼みなされ
仲のわるい姉妹 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ちがふよ、おまへ椋鳥むくどりふのはれてるからなんだよ。一羽いちはぢやいけない。」成程なるほどむれてるものだとおもつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二人はなかばやけになって、その椋鳥を撃ち始めました。ところがこんどは、どうしても弾丸たまが当たりません。椋鳥むくどりはぴょいと身を交わして、弾丸をみんならしてしまいます。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
がつすえかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びょういんにわには椋鳥むくどりしきりにいてたおりしも、院長いんちょう親友しんゆう郵便局長ゆうびんきょくちょう立帰たちかえるのを、もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
澄まして喰物を注文してポツポツやりながら、椋鳥むくどりを見つけて話し込む。そのうちに都合よく表に飛び出す……といった式が一番ありふれている。ポット出の学生なぞはよくやられる。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「うってつけの椋鳥むくどりっていう奴さね。そろそろ芸当に取りかかるかな……相手は阿片の中毒患者で妄想狂と来ているから此方こっちっては天の助けだ……待つ甲斐あったというものさね」
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
野中兼山のなかけんざんが「椋鳥むくどりには千羽に一羽の毒がある」と教えたことを数年前にかいた随筆中に引用しておいたら、近ごろその出典について日本橋区にほんばしくのある女学校の先生から問い合わせの手紙が来た。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
見ると椋鳥むくどりゃおおぜいさんかもしれねえや。かまわねえから、ほっときな
仲が悪くて 椋鳥むくどりさんに
仲のわるい姉妹 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
渡鳥わたりどり小雀こがら山雀やまがら四十雀しじふから五十雀ごじふから目白めじろきくいたゞき、あとりをおほみゝにす。椋鳥むくどりすくなし。つぐみもつとおほし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白楊ポプラ椋鳥むくどり鳥舎竿とやさおの長い影が道幅一ぱいに伸び、教会の大きな影は黒々と脅かすように、ヂューヂャの家の門を蔽い、家の半ばにまでかぶさっていた。人影はなく、しんとしていた。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
椋鳥むくどりが群れをなしてけて来たが、坪庭の柿の木へ一斉に下り、いかにもガサツに啼き立て、騒ぎ立て、しばらく喧騒けんそうをつづけたかと思うと、真昼の陽のひかりのみなぎっている空を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それで兼山のような一国の信望の厚い人がそう言えば、普通のまじめな良民で命の惜しい人はまずまず椋鳥むくどりを食うことはなるべく控えるようになる。そこが兼山のねらいどころであったろう。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
根かぶが張りひろがり、幹がまっすぐにつき立ち、頂の方は、古枝が枯れ落ちて、新たな小枝がこんもりと茂っていました。朝日がさすと、若葉がさわさわと波だち、椋鳥むくどりや雀がなきたてました。
椎の木 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「馬鹿な……いい椋鳥むくどりに見えたんだろう」
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
鳴子なるこ引板ひたも、半ば——これがためのそなえだと思う。むかしのものがたりにも、年月としつきる間には、おなじ背戸せどに、孫もひこむらがるはずだし、第一椋鳥むくどりねぐらを賭けて戦う時の、雀の軍勢を思いたい。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
事務机、戸棚とだな台秤だいばかりなど。ほかにアーストロフ用のやや小型なテーブル。その上に製図用具や絵具、そばに大きな紙挟み。椋鳥むくどりを入れた鳥籠とりかご。壁には、誰にも用のなさそうなアフリカの地図。