有無うむ)” の例文
ただしだぞ、万一またも失策しくじッたばあいは、有無うむをいわせず頭を丸坊主にして、国元の寺へ左遷させんするぞと、先に言い渡してからつらを出せ
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三五郎と松吉はすぐに駈け出して行って、有無うむを云わせずに二人の日本人を取り押えた。ロイドはおどろいて一目散いちもくさんに逃げ去った。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中川「ウムこう。この話の有無うむにかかわらず大原君は僕らの親友だから情誼じょうぎとして尋ねなければならん」小山「それでは昼飯の支度したくを ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ゆえに一口ひとくちにいえば悪い意味における裏面の有無うむを判断する者は当事者とうじしゃ一人というべく、他人は容易にこれを断定し得るものではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
有無うむを言わさず引括ひっくくり上げるつもりであったが、相手を甘く見すぎたのか。そうではない、相手が全く意表に出でたからである。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
次の瞬間には、お民の手が蚊帳の中に伸びて来て、有無うむを言わせず、彼の体をずるずると板の間に引き出してしまったのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
鉱脈こうみゃくを探る時など、よく鉱山かなやまの山師などは、笛か鼓を持って行って、それを奏して金の有無うむを、うまくてるということだよ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日本にほんの現在は文化の爛熟してしまった西洋大陸の社会とはちがって資本の有無うむにかかわらず自分さえやる気になれば為すべき事業は沢山ある。
私は、妻が私に外出の有無うむを問われて、眼を大きくしながら、「いいえ」と云った顔を、今でもありありと覚えて居ります。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、「いき」が野暮と一対いっついの意味として強調している客観的内容は、対他性の強度または有無うむではなく、対自性に関する価値判断である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
一酸化炭素等の有無うむも判明せず、従ってその処女なるや否や、又は過失の焼死なるや否やも決定し難い模様であるが、しかし現場の状況、及
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
第一のうごき有無うむを知らん爲にも、はたまた一の直角なき三角形が半圓の内に造らるゝをうるや否やを知らん爲にもあらざりしを 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
だから、もしドイツ兵に見つかれば、有無うむをいわさず、敵性てきせいある市民、あるいはスパイとして殺されてしまうであろう。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これを政治上より見れば各国共に領域がげんに区画せられてあることは言うまでもないが、貿易上の見地に立って観察すれば、各国相互に有無うむ相通あいつう
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
僕は今日こそ父に向い、断然此方こっちから言い出して秘密の有無うむただそうと決心し、学校から日の暮方に帰って夜食を済ますや、父の居間にゆきました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「うむ!」と言ったまま、小平太はもう一度振返って、後をけるものの有無うむを見定めてから、始めて座敷へ上った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
以て私しへ仰せきけらるゝやと申立るを越前守殿きかだまれ長庵其みぎりは確然しかとした證據人のなかりし故なり此度は其せつの證據人と對決申し付る間其時有無うむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いやしくも未来みらい有無うむ賭博かけものにするのである。相撲取草すまうとりぐさくびぴきなぞでは神聖しんせいそこなふことおびたゞしい。けば山奥やまおく天然てんねん双六盤すごろくばんがある。仙境せんきやうきよくかこまう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二度目の請求を京都へ出してから以後の彼は、絶えず送金の有無うむを心のうちで気遣きづかっていたのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
物産を蕃殖はんしょくせしめ、有無うむを相通ぜしめ、水道、溝渠こうきょ、貯蓄等の民政を振作し、いて鰥寡かんか孤独こどく愛恤あいじゅつする等のおのずから現時の国家社会制を実践したるもの一にして足らず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
かわっているのはただ肉体にくたい有無うむだけ、そして愛情あいじょう肉体にくたい受持うけもちではないらしいのでございます。
車がとまると、小林君と緑ちゃんとは、ふたりのインド人のために、有無うむをいわせず、客席から引きだされて、そこに建っていた一けんの小さい洋館の中へつれこまれました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
れば当時積弱せきじゃくの幕府に勝算しょうさんなきは我輩わがはいも勝氏とともにこれを知るといえども、士風維持の一方より論ずるときは、国家存亡そんぼう危急ききゅうせまりて勝算の有無うむは言うべき限りにあらず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
川崎で平次に逢つた八五郎は、其儘有無うむを言はせず、石原町へ引つ張つて行きました。
「も」の字は元来理窟的の言葉にて、俳句などにては「も」の字の有無うむを以て月並的俗句なるか否かを判ずる事さへある位に候へども、さりとて「も」の字ことごとく理窟なるにも無之候。
あきまろに答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これはクセの有無うむにかかわらず、やわらかいだけが特徴で、決して美味いものではない。かといって、天然のうなぎが必ずしもいいとはいえない。これはうなぎの項で述べた通りである。
鱧・穴子・鰻の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
軍隊の有無うむは国家としての不可欠の条件とみられないようになるかも知れぬ。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
これはようするに素人しろうとの臆測で、最初のリッパア事件突発と同時に、警察は早くもこの点に着眼し、全英はもちろん、広く欧州大陸から南米にまで照会の電報を飛ばして、精神病院の有無うむ
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
有無うむあいだまよひしこゝろもとこゝろかへりしときは、花垣はながきつきたかんで、ながれにうつるかげわれ一人ひとりになりぬ、さるにてもひとたれならん、隣家となり植木屋うへきやきゝたるが、おもひのほか人品ひとがらかなと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
内乱の性質せいしつ如何いかんは以て干渉の有無うむ判断はんだんするの標準ひょうじゅんとするにらざるなり。
我と言ふ名に迷ひ出でて麻糸あさいと有無うむにはなれぬ身こそつらけれ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
かれの一しん有無うむすこしも村落むらためには輕重けいちようするところがなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
有無うむ相通あいつうじ、長短ちょうたん相補あいおぎなう。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一刻も捨てておいた日には危なくてたまらないから、米友は有無うむをいわせず道庵を引き立てて、また人の頭の上を飛んで走り戻りました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
麹町日枝神社こうじまちひえじんじゃ山門さんもんの甚だ幽邃ゆうすいなる理由を知らんには、その周囲なる杉の木立のみならず、前に控えた高い石段の有無うむをも考えねばなるまい。
躍りかかって、有無うむをいわせず縄を打とうとした判官末貞の部下も、振向いた僧の一喝いっかつと、その眼光にはっと足をすくめて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金があればあるでいそがしからう。金がなければないで忙しからう。清閑を得られる得られないは、金の有無うむよりも、むしろ各自の心境の問題だと思ふ。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おとなしい彼女は世間にもう顔向けができないように思って、その事実の有無うむを弁解するよりも、いっそ死んだ方がましであると一途に思いつめた。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「その女を貝十郎より引き放し、阿蘭陀オランダ部屋へ閉じこめよ! 有無うむを申さば貝十郎を、飛び道具もて撃ってとれ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「……ええ……さような事実の有無うむを、お尋ねに来たんですがね。事を荒立てたくないと思いましたので……」
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しからば男一匹たるの資格は、勇気の有無うむのみをもって定むるかというにそうは行かぬ。勇気なるものは目的に達する方法であって目的でも動機でもない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
したがって、「いき」と上品との関係は、一方に趣味の卓越という意味で有価値的であるという共通点を有し、他方に媚態の有無うむという差異点を有するものと考えられる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
二十九日爆弾の影におびえ、三十日爆弾を噂し、三十一日爆弾の有無うむを論じ、一日ついたち爆弾に賭けるというわけで、ついに金博士の時限爆弾は、住民たちの生活の中に溶けこんでしまった
改めしに金子四十三兩と縮緬ちりめん單物ひとへもの木綿もめんすぢの單物眞岡まをか中形ちうがた浴衣ゆかた三枚紛失ふんじつせり因て家主孫八へ委細ゐさいはなして訴へに及しによく日定廻りの同心どうしん孫八方へ出張にて道庵だうあんへ心當りの有無うむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日本を天下第一の最良国とすべき法を論ずれば「カムサスカ」の土地に本都をうつし、西唐太からふと島に大城郭を建立し、山丹、満州と交易して有無うむを通じ、その交易に金銀を用いず品物同士の遣取やりとりなれば
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
有無うむを言はさず縛り上げる外はなかつたのです。
さながらパッチ網にかかった雲雀ひばりを抑えるが如く、左右から道庵を押し転がし、取って抑えて、有無うむをも言わせません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゆうべも、お吉ッつぁんのうちで泊まっていたのだ。どかどかと寝込みを襲やがって、有無うむも云わせず、この中だ。調べるものなら、調べてくれっ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声を聞きつけて、ほかの者も駈けて来て、有無うむをいわさずに私を縛りあげて、庭の立木につないでしまいました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
上げ潮につれて灰色の帆を半ば張った伝馬船てんまぶねが一そう、二艘とまれに川を上って来るが、どの船もひっそりと静まって、かじる人の有無うむさえもわからない。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)