春風はるかぜ)” の例文
ちょうど、そのうたこえは、うみしおのわくおとのようであり、おんなたちの姿すがたは、春風はるかぜかれるこちょうのごとくに、られたのでした。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とも二人三人召連めしつ春風はるかぜとほがけのうまり、たふのあたりにいたり、岩窟堂がんくつだう虚空蔵こくうざうにてさけをのむ——とある。古武士こぶしがけの風情ふぜいきようあり。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明かなる君が眉目びもくにはたと行き逢える今のおもいは、あなを出でて天下の春風はるかぜに吹かれたるが如きを——言葉さえわさず、あすの別れとはつれなし。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
碧瑠璃海岸コオト・ダジュウル春風はるかぜを肩で切りながら、夢のように美しいニースの『英国散歩道プロムナアド・デザングレ』や、竜舌蘭アロエスの咲いたフェラの岬をドリヴェできるというわけなのよ。
すると窓から流れこんだ春風はるかぜが、その一枚のレタア・ペエパアをひるがえして、鬱金木綿うこんもめんおおいをかけた鏡が二つ並んでいる梯子段はしごだんの下まで吹き落してしまった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二十三年の今まで絶えておぼえなき異樣の感情くもの如く湧き出でて、例へばなぎさを閉ぢし池の氷の春風はるかぜけたらんが如く、若しくは滿身の力をはりつめし手足てあし節々ふし/″\一時にゆるみしが如く
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
子爵ししやく寵愛ちようあいよりもふかく、兩親おやなきいもと大切たいせつかぎりなければ、きがうへにもきをらみて、何某家なにがしけ奧方おくがたともをつけぬ十六の春風はるかぜ無慘むざん玉簾たますだれふきとほして此初櫻このはつざくらちりかヽりしそで
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
春風はるかぜあやの筆
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
春風はるかぜ微吹そよふきぬ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
そよそよ春風はるかぜ
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
春風はるかぜ並木なみき
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたたかな春風はるかぜは、そよそよとそらいて、野原のはらや、うえわたっていました。ほんとうに、いい天気てんきでありました。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
春風はるかぜもああ云うなめらかな顔ばかり吹いていたら定めてらくだろうと、ついでながら想像をたくましゅうして見た。御客さんは三人のうちで一番普通な容貌ようぼうを有している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きに月日つきひながからんことらや、何事なにごともさらさらとてヽ、からず面白おもしろからずくらしたきねがひなるに、春風はるかぜふけばはなめかしき、枯木かれきならぬこヽろのくるしさよ、あはつききか此胸このむねはるけたきにと
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
春風はるかぜ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
春風はるかぜく、あたたかなばんがたでした。おとうとは、S町エスまち露店ろてんへ、いっしょにいってくれというのでした。二人ふたりは、電車でんしゃって、でかけることになりました。
緑色の時計 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むなしき家を、空しく抜ける春風はるかぜの、抜けて行くは迎える人への義理でもない。こばむものへの面当つらあてでもない。おのずからきたりて、自から去る、公平なる宇宙のこころである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春風はるかぜは、とおくからいて、とおくへっていきます。百姓しょう愉快ゆかいそうにはたらいています。おひめさまは、なにをてもめずらしく、こころも、ものびのびとなされました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
生温なまぬるいそから、塩気のある春風はるかぜがふわりふわりと来て、親方の暖簾のれんねむたそうにあおる。身をはすにしてその下をくぐり抜けるつばめの姿が、ひらりと、鏡のうちに落ちて行く。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
惜しい事に作者の名は聞き落したが、老人もこうあらわせば、豊かに、おだやかに、あたたかに見える。金屏きんびょうにも、春風はるかぜにも、あるは桜にもあしらってつかえない道具である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春風はるかぜくころになると、まどのガラスのよごれがきわだってにつくようになりました。ふゆあいだは、ほこりのかかるのにまかしていたのです。裁縫室さいほうしつまどからは、運動場うんどうじょうおおきなさくらえました。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
愛せらるる事を専門にするものと、愛する事のみを念頭に置くものとが、春風はるかぜの吹き回しで、あまい潮の満干みちひきで、はたりと天地の前に行きった時、この変則の愛は成就する。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春風はるかぜいて、たこのうなりがきこえています。おかあさんは
小さな妹をつれて (新字新仮名) / 小川未明(著)
女の声は静かなる春風はるかぜをひやりとった。詩の国に遊んでいた男は、急に足をはずして下界に落ちた。落ちて見ればただの人である。相手は寄りつけぬ高いがけの上から、こちらを見下みおろしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは又三千代をたづねた。三千代は前日ぜんじつの如くしづかいてゐた。微笑ほゝえみ光輝かゞやきとにちてゐた。春風はるかぜはゆたかに彼女かのをんなまゆを吹いた。代助は三千代がおのれを挙げて自分に信頼してゐる事を知つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
若き空には星の乱れ、若きつちには花吹雪はなふぶき、一年を重ねて二十に至って愛の神は今がさかりである。緑濃き黒髪を婆娑ばさとさばいて春風はるかぜに織るうすものを、蜘蛛くもと五彩の軒に懸けて、みずからと引きかかる男を待つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)