たん)” の例文
みなみ亭主ていしゆは一たん橋渡はしわたしをすればあとふたゝびどうならうともそれはまたときだといふこゝろから其處そこ加減かげんつくろうてにげるやうにかへつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
天道樣が感應かんおうましまして忠兵衞にはせし者ならん如何にも此長助が一肌ひとはだぬいでお世話致さんさりながら一たん中山樣にて落着らくちやくの付し事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
で、其手紙そのてがみは一わたし押収おうしうすることにして、一たんつくゑ抽斗ひきだしそこれてたが、こんな反故屑ほごくづ差押さしおさへてそれなんになるか。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『いやいや、もう、武士が一たん、貸したと云って手から放した金。戻されても受取れはせぬ。遠慮なく役立ててもらいたい』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意地悪く、ねたみ深く、一たん我物にした女だからというので、無理に引きって連れて行く人の姿が見えたのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
チッバルトは其儘そのまゝたん逃去にげさりましたが、やがてまたってかへすを、いま復讐ふくしうねん滿ちたるロミオがるよりも、電光でんくわうごとってかゝり、引分ひきわけまするひまさへもござらぬうちに
もちろん一たん事ある時は個人の利益や個人の財産生命も投げ出さねばならぬが、平生へいせい何事についても国民より重い犠牲ぎせいを要求するような国家は、国家の一大目的にそむいているもので
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
矢張やつぱ当日たうじつこゝろざした奥州路おうしうぢたびするのに、一たん引返ひきかへして、はきものをへて、洋杖すてつきと、たゞ一つバスケツトをつて出直でなほしたのであるが、くるま途中とちうも、そではしめやかで、上野うへのいたとき
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春枝夫人はるえふじんしきりに辭退じたいしてつたが彼男かのをとこも一たんしたこととて仲々なか/\あとへは退かぬ。幾百いくひやくひと益々ます/\拍手はくしゆする。此時このときたちまわたくし横側よこがは倚子ゐすしきりに嘲笑あざわらつてこゑ、それはれい鷲鳥聲がてうごゑ婦人ふじんだ。
私は一たん落した気も今はやうやく取り直して、あの銀貨はどうしてつかはうとソロ/\分別し始めました。一銭銅貨なんぞどう出来ようと思ひました故、それは始めからあてにしてはりませんかつた。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
虞舜ぐしゆん孳孳じじとして善を爲し、大の日に孜孜せんことを思ひ、成湯せいたうまことに日に新にせる、文王のいとまあきいとまあらざる、しう公のして以てたんつ、孔子のいきどほりを發して食を忘るゝ如きは、皆是なり。
たんうと思ひ込んだら、何をやり出すかわかりません
には卯平うへい始終しじゆくさむしつて掃除さうぢしてあるのに、蕎麥そばまへに一たん丁寧ていねいはうきわたつたのでるから清潔せいけつつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
落せしよりはからずも無實むじつの罪に陷入おちいりたん入牢仰せ付られけるがかみ聖賢せいけんきみましませば下に忠良ちうりやうの臣あつてよく國家を補翼ほよくす故に今かく明白めいはく善惡ぜんあく邪正じやしやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あの部屋に這入はいって見たら、元のようで、一たんそこを出て山になんぞいっていなかったのも同じであろう。女は眠っているな。こんな時は眠っていて、物を言ってくれない方が好い。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
これに反し外見はおだやかにして円満に、人と争うことなきも、しかも一たん事あるときは犯すべからざる力を備えた人を真の武士といっている。しかして世にはかくのごとき人がたくさんある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かかるうえは一こくもはやく、小太郎山のとりでへ帰って、一とう面々めんめんにこのしまつをつげ、いよいよ兵をねり陣をならし、一たんの風雲に乗じるの備えをなすこそ急務きゅうむである——と思ったのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苟且かりそめにも血液けつえき循環じゆんくわん彼等かれら肉體にくたい停止ていしされないかぎりは、一たんこゝろうつつたをんな容姿かたち各自かくじむねから消滅せうめつさせることは不可能ふかのうでなければならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其方儀そのはうぎおもき役儀をも勤ながら百姓九郎兵衞より賄賂わいろの金銀をうけそれため不都合ふつがふの吟味に及びつみなき九助を一たん獄門ごくもんに申付候條重々ぢう/\不屆至極ふとゞきしごくに付大小取上とりあげ主家しうか門前拂もんぜんばらひ申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)