まが)” の例文
まがいの神尾主膳に附添いの者共はみな集まって来たし、この家の主人や婢僕ひぼくまでもみな廊下のところに、そっと様子を見に来ている。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
正宗相伝の銀河にまが大湾おおのだれに、火焔鋩子ぼうしの返りが切先きっさき長く垂れて水気みずけしたたるよう……中心なかごに「建武五年。於肥州平戸ひしゅうひらとにおいて作之これをつくる盛広もりひろ
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
常の衣の上に粗𣑥あらたへ汗衫じゆばんを被りたるが、そのさんの上に縫附けたる檸檬リモネからは大いなるぼたんまがへたるなり。肩とくつとには青菜を結びつけたり。
まが唐棧たうざんの袖口がほころびて、山の入つた帶、少し延びた不精髯——叔母さんが見たら、さぞ悲しがるだらうと思ふ風體でした。
コンボチェリー(渦巻羊毛布)。ツクツク(羊毛まがいの段通)等で、その他モンゴリヤへの輸出品中最大部分を占めて居るものは経典である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
僧都、すぐに出向うて、遠路であるが、途中、早速、硝子ビイドロとそのまがたまを取棄てさして下さい。お老寄としよりに、御苦労ながら。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その画がまがいもない歌麿うたまろの筆であったことは、その後見た同じ描者かきての手に成った画のしなやかな線や、落着きのいい色彩から推すことができた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
不寝番ねずばんの男は私たちを奥まった二階の部屋へ案内しました。洋室まがいに窓を狭め、畳が敷いてある様子までが、胡乱うろんに感じられる部屋つきです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
従四位といへば、絵で見る天神様のやうにかんむりて、直垂ひたたれでも着けてゐなければならぬ筈だのに、亡くなつた八雲氏はまがひもない西洋人である。
まがい物と来てはそれこそ人間の資格がない。彼の祖母が四度よど目の投身をしなかったのは善良の女でないと阿Qは思った。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
人なき室をキヨロ/\と見巡してまたそれを熱心に見る。——鉛筆の走書の粗末ではあるが、書かれてあるのはまがひもなく静子自身の顔ではないか!
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
まがひアストラカンの冬帽をかむつて、三日ばかり剃刀かみそりを知らないほほのままの礼助、しかも何処どことなく旅先のあわただしい疲労を浮べてゐる目つきの礼助は
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
随分ばか/\しいようなお話で、今日の人たちは嘘のように思うかも知れませんが、これはまがいなしの実録です。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
右の眼は初月みかづきのような半眼はんがん、それに蓬蓬ぼうぼうの髪の毛、口は五臓六腑が破れ出た血にまがわして赤い絵具を塗り、その上処どころ濃鼠こいねずの布で膏薬張こうやくばりをしてあった。
お化の面 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
外国まがいの長々しい読みづらい字がそこに書いてあった。しかし仙太は「なにくそ!」という気がした。
競馬 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
イギリスのまがい黒玉とドイツの黒ガラス玉とをまねて製造する特殊な工業があったが、原料が高くて賃金があまり出せないので、いつもはかばかしくゆかなかった。
両替屋稼業が店中の小銭を片ッ端から紙片へ包まれてしまっては始末にわるい、いわんやその上にビラ字まがいで落語家の名がひとつひとつ記されているにおいておや。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
噴火口とまがいそうな欠けたところが、大屋根の破風はふのようにそびえて、霧を吐く窓になっている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
私はまがい物やこけおどしな品は扱いません、金をもうけるにはそのほうが早みちでございましょうが、性分でどうも筋の通った物でないと手に取る気にもならないんでございます
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つつうと進み出ると、噛みつくように言ったのはまが鎮西ちんぜい八郎のあの大兵漢です。
さらにいっそう薄気味悪いことには、まがうかたなくそれが、黒死館で邪霊と云われるテレーズ・シニヨレだったのである。法水ははたの驚駭にはかまわず、その妖しい幻の生因を闡明せんめいした。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
居間の床の間に、まがいの応挙おうきょらしい一幅の前に、これだけは見事な碁盤と埋れ木細工のついの石入れがあったことを思い出しながら、伝二郎はなれなれしく飯をかっこむ真似をして見せた。
鶏肉熟せるを見て少しずつ盗み食いついに平らげてしまい、今更骨と汁のほかに一物なきを知って狼狽ろうばいの末呻吟する、たまたま、とびが多く空に舞うを見て自分の尻赤く鶏肉にまがうに気付き
第三に尋常のものと違って、まがいの西洋館らしく、一面に仮漆ニスかかっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くくり枕へ半紙を巻きつけた所には、まがうかたもない庸之助の似顔が、半面は、彼がふだん怒ったときにする通り、眉の元に一本太い盛り上りが出来、目を釣り上げ、意気張ってにらまえている。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
煉瓦造りの江崎は別として他はペンキ塗りの洋風まがい、三尺の入口に更紗さらさ暖簾のれん、左右は箱形の硝子張りへ見本の写真、はいるとすぐ人力車の蹴込けこみのようなリノリウムの敷いてある撮影場
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
その代りノズドゥリョフは酒にかけては眼がなかった。まだスープも出ないうちから客の大きなコップへなみなみとポルトワインを注ぎ、また、別のコップへはまがいの*5ソーテルンを注いだ。
昨日きのふあまへてふてもらひしくろぬりの駒下駄こまげた、よしやたゝみまが南部なんぶにもせよ、くらぶるものなきときうれしくて立出たちいでぬ、さても東叡山とうえいざんはるぐわつくも見紛みまがはな今日けふ明日あすばかりの十七日りければ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは緑の水中に、消え残る雪の塊ともまがうべき浴泉の婦人を見出したからであった。丈にも余る黒髪を、今洗い終ったところらしかった。それからまた離れた川中に、子供の群が泳ぎ戯れてもいた。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
を指のさきのほのきてあからむ花とまがふかな
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まが唐桟とうざんの袖口がほころびて、山の入った帯、少し延びた不精髯ぶしょうひげ——叔母さんが見たら、さぞ悲しがるだろうと思う風体でした。
刀のつかへ手をかけて立ち上ったまがいの神尾主膳は、竜之助の槍の穂先で咽喉のどを押えられて動きが取れなくなってしまった。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜は、間遠いので評判な、外濠そとぼり電車のキリキリきしんで通るのさえ、池の水に映って消える長廊下の雪洞ぼんぼりの行方にまがう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
臥し向っている洋室まがいの腰張のニス板が、睫毛まつげの間から見はるかす限りもない大地の拡がりに感ぜられて来ました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鴻池の主人は吃驚びつくりして皿を取り上げて見た。まがかたもない立派な青磁である。そばにゐる誰彼は幾らか冷かし気味に
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
十個の味噌桶の底にそれぞれまがい小判を平等に入れて、上から鋸屑おがくずおおいかぶせ、その上から味噌を詰込んでアラカタ百斤の重さになるように手加減をした。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さうして次の寫眞の間に、横手の、便所へ行く方のずつと前へ行つてゐて、こんだよく見屆けてやらうと思つて明るくなるのを待つてゐると、矢張まがひなしの高橋ぢやないか。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
白飾玉はノールウェーからき、黒飾玉はイギリスからき、黒ガラス玉はドイツから来る。飾り玉の方が軽くてとうとくて価も高い。そのまがい玉はドイツでできるが、フランスでもできる。
何分にも吉良の形見では人気が付かないのですが、河辺の家では吉良の形見というよりも先祖の形見という意味で大切に保存していたそうで、これはまがい無しの本物だと云うことでした
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まがいも無い池田家の定紋。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
青苔あをごけの美しくした、雨落のところに据ゑた、まがい物ながら大きい鞍馬石くらまいしの根に、ポカリと小さい穴があいてゐるのです。
権六は、少しく不安心になってきたものだから、後ろの席でこれもまがい勤番の木村に尋ねると、権六とは負けず劣らずの代物しろもので、岡引おかっぴきを勤めていた男。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鴻池の主人は吃驚びつくりして皿を取り上げて見た。まがかたもない立派な青磁である。そばにゐる誰彼は幾らか冷かし気味に
坊主は、欄干にまが苔蒸こけむした井桁いげたに、破法衣やれごろもの腰を掛けて、けるが如く爛々らんらんとしてまなこの輝く青銅の竜のわだかまれる、つのの枝に、ひじを安らかにみつゝ言つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
両岸は洋館や洋館まがいの支那家屋の建物が塀のように立ち並んでいるところが多く、ところどころに船が湊泊する船溜りボート・ケイが膨らんだように川幅をひろげている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
全体が耐震耐火のルネッサンスまがいという、故伯爵のしょうと用心深さを遺憾なく発揮したものであった。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
洋風まがひの家屋うちの離れ/″\に列んだ——そして甚麽どんな大きい建物も見涯みはてのつかぬ大空に圧しつけられてゐる様な、石狩平原の中央ただなかの都の光景ありさまは、やゝもすると私の目に浮んで来て
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
偽りの真珠たる露の玉を見、まがいの金剛石たる霜を見、ほころびた人類と補綴つぎをあてた事変とを見、太陽に多くの汚点と月に多くの穴とを見、至る所にかくも多くのみじめさを見る時
平次はそう言いながら、お夏の丸髷まるまげから、まがい物の鼈甲べっこうに、これも怪しい銀の帯をしたこうがいを取って、スッと抜きました。
「いや、みんなまがひものでさ。」大金持ちの Stotesbury 氏は、星のやうに光つてゐる自分の女房と、無作法な客とを等分に見ながら答へた。