徜徉さまよ)” の例文
かかる折から、柳、桜、緋桃ひもも小路こみちを、うららかな日にそっと通る、とかすみいろど日光ひざしうちに、何処どこともなく雛の影、人形の影が徜徉さまよう、……
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はやし彼等かれら天地てんちである。落葉おちばくとて熊手くまでれるとき彼等かれらあひともなうて自在じざい徜徉さまよふことが默託もくきよされてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
第一だいいちに、もと身長せいにならなくては』と、もりなか徜徉さまよひながらあいちやんは獨語ひとりごとつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
二人ふたり三人みたりづゝ、いづくへくともらず、いづくからるともかず、とぼ/\したをんなをとこと、をんななとこと、かげのやうに辿たゞよ徜徉さまよふ。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あいちやんはうかしてこのくらあなからて、うつくしい花壇くわだんや、清冽きれいいづみほとり徜徉さまよひたいとしきりにのぞみました、が其戸口そのとぐちからはあたますことさへも出來できませんでした、可哀相かあいさうあいちやんは
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
どこにも座敷がない、あっても泊客とまりきゃくのないことを知った長廊下の、底冷そこびえのする板敷を、影の徜徉さまようように、我ながら朦朧もうろうとして辿たどると……
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
占めようと、右の猟夫りょうしが夜中真暗まっくらな森を徜徉さまよううちに、青白い光りものが、目一つの山の神のように動いて来るのに出撞でっくわした。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、世のさまとて、絶えてその人のおもかげを見る事の出来ずなってから、心も魂もただ憧憬あこがれに、家さえ、町さえ、霧の中を、夢のように徜徉さまよった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯、糸七の遠い雪国のその小提灯の幽霊の徜徉さまよう場所が小玉小路、断然話によそえて拵えたのではない、とすると、蛙にちなんで顕著なる奇遇である。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くもくらし、くもくらし、曠野あらの徜徉さまよかり公子こうしが、けものてら炬火たいまつは、末枯うらがれ尾花をばな落葉おちばべにゆるにこそ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その行燈の枕許まくらもとに、有ろう? 朱羅宇しゅらお長煙管ながぎせるが、蛇になって動きそうに、蓬々おどろおどろと、曠野あれの徜徉さまよう夜の気勢けはい。地蔵堂に釣った紙帳より、かえってわびしき草のねやかな。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一度冥途めいど徜徉さまよってからは、仏教にしたしんで参禅もしたと聞く。——小母さんは寺子屋時代から、小僧の父親とは手習傍輩てならいほうばいで、そう毎々でもないが、時々は往来ゆききをする。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
る、かぜなくしてそのもみぢかげゆるのは、棚田たなだ山田やまだ小田をだ彼方此方あちこちきぬたぬののなごりををしんで徜徉さまよさまに、たゝまれもせず、なびきもてないで、ちからなげに
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぶつぶつと、我とも分かず、口のうちで、何とも知らず、覚えただけの経文をつぶやき呟き、鶯谷から、上野の山中を徜徉さまよって歩行あるいたはてが、夜ふけに、清水の舞台に上った。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朧夜おぼろよにはそこぞと思う小路々々を徜徉さまよい徜徉い日を重ねて、青葉に移るのが、酔のさめ際のように心寂しくってならなかった——人は二度とも、美しい通魔とおりまを見たんだ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人はふいとふすまを出て、胸をおさえて、じっと見据えた目に、閨の内をみまわして、ぼうとしたようで、まだ覚めやらぬ夢に、菫咲く春の野を徜徉さまようごとく、もすそも畳にただよったが、ややあって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人あるじ居室ゐま迷出まよひいでて、そゞろに庭を徜徉さまよひしが、恐しき声を発して、おのれ! といひさま刀を抜き、竹藪に躍蒐をどりかゝりて、えいとぎたる竹の切口きりくちなゝめとがれる切先きつさきまろべる胸を貫きて
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この土地の新聞一種ひといろ、買っては読めない境遇だったし、新聞社の掲示板の前へ立つにも、土地は狭い、人目に立つ、死出三途さんずともいう処を、一所に徜徉さまよった身体からだだけに、自分から気がけて
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの、紅また薄紅、うつくしい小さな天女の、水晶の翼は、きらきらと輝くのだけれど、もう冬で……遊びもたけなわに、恍惚うっとりしたらしく、夢を徜徉さまようように、ふわふわと浮きつ、沈みつ、ただよいつ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今だってやっぱり、私は同一おなじこの国の者なんですが、その時は何為なぜか家を出て一月あまり、山へ入って、かれこれ、何でも生れてから死ぬまでの半分は徜徉さまよって、漸々ようよう其処そこを見たように思うですが。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くすぶった、その癖、師走空に澄透すみとおって、蒼白あおじろい陰気なあかりの前を、ちらりちらりと冷たい魂が徜徉さまよう姿で、耄碌頭布もうろくずきんしわから、押立おったてた古服の襟許えりもとから、汚れた襟巻の襞襀ひだの中から、朦朧もうろうあらわれて
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
玉簾たますだれなかもれでたらんばかりのをんなおもかげかほいろしろきもきぬこのみも、紫陽花あぢさゐいろてりえつ。蹴込けこみ敷毛しきげ燃立もえたつばかり、ひら/\と夕風ゆふかぜ徜徉さまよへるさまよ、何處いづこ、いづこ、夕顏ゆふがほ宿やどやおとなふらん。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かくて幾分時のその間、足のままに徜徉さまよえりし、お通はふと心着きて
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月の夜路よみち深山路みやまじかけて、知らない他国に徜徉さまようことはまた、来る年の首途かどでにしよう。帰り風がさっと吹く、と身体からだも寒くなったと云う。私もしきりに胸騒ぎがする。すぐに引返ひっかえして帰ったんだよ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かくては、一城の姫か、うつくしい腰元の——敗軍には違いない——落人おちゅうどとなって、辻堂に徜徉さまよった伝説をのあたり、見るものの目に、幽窈ゆうよう玄麗げんれいの趣があって、娑婆しゃば近い事のようには思われぬ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怨念おんねんの蛇がぬらぬらと出たり、魔界のちまたに旅人が徜徉さまよったり。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道子は声も徜徉さまようように
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)