ひっ)” の例文
手だの足だの、ひっくりかえされるんですって。……この石の上でしょうか、草の中でしょうか。私、お湯に入るのもきまりが悪かった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うしろに、細君であろ、十八九のひっつめにって筒袖つつそで娘々むすめむすめした婦人が居る。土間には、西洋種の瓢形ふくべがた南瓜かぼちゃや、馬鈴薯じゃがいもうずたかく積んである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「本当のゴリラみたいに、食いついたり、ひっかいたりするんだそうです。巡査が腕に食いつかれて、ひどい怪我けがをしたということです」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どこにひっかかりをこしらえたものかと思案した末、彼女は仕方なしに、藤井の帰りに寄ってくれたというお秀の訪問をまた問題にした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おもて二階を借りている伊東さんというカフェーの女給じょきゅう襟垢えりあか白粉おしろいとでべたべたになった素袷すあわせ寐衣ねまきに羽織をひっかけ、廊下から内をのぞいて
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
岡釣をしていて、変な処にしゃがみ込んで釣っていて、でかいさかなひっかけた途端に中気が出る、転げ込んでしまえばそれまででしょうネ。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
安心して何でもおっしゃいまし、お帰りに重とうござえましょうが、芋茎ずいきでかく成りましたから五六ひっこ抜いてお土産にお持ちなすって
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
網を張っておいて、鳥を追立て、ひっかかるが最期網をしめる、陥穽おとしあなを掘っておいて、その方にじりじり追いやって、落ちるとすぐふたをする。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今一つは大きなぞうひっぱってきて、この象の重さは何千貫かという問いで、これも相応な難題だが、支那の古い本に出ている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「なあに、一ぱいひっかけて、その元気でやって来ただがね、あんまり好い気持だもんだで、つい寝ちまって……はア……。」
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
「それにおかねさんの思いに取着とっつかれでもしちゃ大変だ」お島はそう言いながら、自分の箪笥のなかをひっくら返していた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
れを昼のうちに見て置て、夜になるとその封書や髻のあるのをひっさらえて塾にもって帰て開封して見ると、種々しゅじゅ様々のがんが掛けてあるから面白い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その時Mが遥かむこうから一人の若い男のそでひっぱってこっちに走って来ました。私はそれを見ると何もかも忘れてそっちの方に駈け出しました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
相手方の高慢チキな鼻の表現がひっくり返って「アッケラカン」と空虚になった鼻の表現を期待した言葉であります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子供が魚の骨をのどへ立てて大騒ぎをしたり、老人が餅を喉へひっかけてそれなり窒息ちっそくするような事も折々ありますが
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、ふだんの通りの快活な口のきき方で、斬込きりこんで来た。何とかうまくひっぱずそうと思ったが、手痛い冗談だったので、澤は咄嗟とっさに返事が出来なかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
医者が三月みつきと宣告したんだから、りきんでも踏反ふんぞり返っても三月経てばゴロゴロッとたん咽喉のどひっからんでのお陀仏様だぶつさま——とこう覚悟して置かにゃ虚偽うそだよ
二脚の椅子はひっくり返り、卓子テーブルは壊れ、その他置時計や文具箱などはみんなとこの上に散らばり、あたりに飛び散っている白紙にはそこここに血潮が垂れていた。
金眸はおおいに怒り、「さては黒衣が虚誕いつわりなりしか。さばれ何ほどの事かあらん」ト、いひつつ、鷲郎を払ひのけ、黄金丸につかみかかるを、ひっぱづして肩をめば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「お、おれの死ぬときゃ、き、貴様たちも、地獄へひっぱっていくんだ。は、うん、くるしい」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
下には鼠縮緬ねずみちりめんひっかえしを着、上には黒羽二重はぶたえ両面芥子人形ふたつめんけしにんぎょう加賀紋かがもんの羽織を打ちかけ、宗伝唐茶そうでんからちゃの畳帯をしめていた。藤十郎の右に坐っているのは、一座の若女形わかおやま切波千寿きりなみせんじゅであった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
で、ガルール等の仕事は、綱や鎖で一生懸命にその荷物をひっからげることで、その合間には船員達の作業に手伝をさせられた。そうして彼等はいつの間にか、一廉ひとかどの水夫らしくなって来た。
年増は讓の双手りょうてを握ってひっぱった。讓はどうでもして逃げて帰りたかった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼女は白いブラウスの上に、真紅あかい目のめるようなジャケツをひっかけていた。それよりもなお泉原の心をひいたのは、心持ち唇をかむようにして、じっと空間を見据えている彼女の横顔であった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
塗炭板とたんいたがぐうおうとひっぺがされて
組織された力 (新字新仮名) / 今野大力(著)
離すと、いことに、あたり近所の、我朝わがちょう姉様あねさま仰向あおむけ抱込だきこんで、ひっくりかへりさうであぶないから、不気味らしくも手からは落さず……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
帽子や外套は残っているし、ドアに鍵もかかっていませんので、一寸その辺に出られたのだと思って、そのまま事務所へひっかえしたのです
ねえさん待ちな」と突然いきなり武士さむらいうしろから襟上えりがみつかむから「あれー」と云ううちに足首を取って無理に藪蔭やぶかげかつぎ込み「ひッひッ」というをひっ□し
森本は自分で自分の腹をポンポンたたいて見せた。その腹はへこんで背中の方へひっつけられてるようであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何処どこでも構わないでぶっ込むのですから、ぶち込んだ処にかかりがあればひっかかってしまう。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
殊にその心理遺伝のあらわれ方の奇抜なことは、真に、お負けなしの古今無類で、現代の所謂いわゆる常識や科学知識の如何なる虎の巻をひっくり返して来ても到底歯が立ちそうにない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おい、丸よ。なにをぐずぐずしているんだ。はやく、その麻紐あさひもを、手元へひっぱれ」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつの間にか東京でそんな女にひっかかってそれで何といっても帰らない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その深川ふかがわ吉原よしわらなるとを問わず、あるひは町風まちふうと屋敷風とを論ぜず、天保以後の浮世絵美人は島田崩しまだくずしに小紋こもん二枚重にまいがさねを着たるあり、じれつた結びに半纏はんてんひっかけたるあり、しぼり浴衣ゆかたを着たるあり
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひっぱずし、ぶちこわし
組織された力 (新字新仮名) / 今野大力(著)
蚊帳をうかがうこの姿が透いたら、気絶しないでは済むまいと、思わずよろよろと退すさって、ひっくるまるもすそあやうく、はらりとさばいて廊下へ出た。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕は大急ぎで、窓から首をひっこめました。僕自身妖術にかかっては大変だと思ったのかも知れません。ところが、その時です。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、金と書付をひったくって、無暗むやみに手を引いて、細廊下の処を連れてくと、六畳ばかりの小間こまがありまして、其処そこに床がちゃんと敷いてある。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あとに残った盲目めくらの唖の白髪小僧は、最前の焼けどは熱くも何ともなかったと見えて、赤くれ上ってひっつった顔のまま、ニコニコ笑いながら四ツの道具を抱えて、どこをあてともなく
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
友江田先生の命ずるところにしたがい、僕はあの幅の広い、見上げるほど高い鼠色の階段の下に立った。そして乗降の客たちの邪魔にならぬよう、すこし階段の下に沿って奥へひっこむことにした。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一にはこの間訪問した時からのひっかかりがあった。その時二人の間に封じ込められたある問題を、ぽたりと彼の頭に点じたのは彼女であった。彼にはそのあとくまいとする努力があった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
支那の古俗では、身分のある死者の口中には玉を含ませてほうむることもあるのだから、ひどい奴は冢中の宝物ほうもつから、骸骨の口の中の玉までひっぱり出して奪うこともあえてしようとしたこともあろう。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それを細い針線はりがねの先の輪になったものでひっかけて抜出せばモー安心さ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
といって、またひっくり返した。かしらへッついの前に両足を拡げながら、片手で抜取って銀煙管ぎんぎせるくわえ、腰なる両提りょうさげふらふらとたばこを捻る。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
エエ、ままよこの人形の、艶かしい這面しゃっつらを、叩きのめし、手足をひっちぎってしまったなら、門野とてまさか相手のない恋も出来はすまい。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おみねは何心なにごゝろなく向うの方へ目をつけている油断をうかゞい、伴藏は腰に差したる胴金造どうかねづくりの脇差を音のせぬようにひっこ抜き、物をも云わず背後うしろから一生懸命力を入れて
そのうち泰興たいこう季因是きいんぜという、相当の位地のある者が廷珸にひっかかった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
物もいわないで、あのが前髪のこわれた額際まで、天鵞絨びろうどの襟をひっかぶったきり、ふるえて泣いてるのでございましょう。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は呼鈴を押すどころではなく、何が何だか無我夢中で、頭から毛布をひっかぶると、ひとりでにガタガタ鳴り出す歯を、グッと噛みしめて、油汗を流していた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と二人は厚く礼を云い、伊之助をひっぱって連往つれゆきます。伊之助も怖いから三人で漸々だん/″\逃げて、また大門を這入って松葉屋へあがりました。それなら出て来なければいに。