宝物ほうもつ)” の例文
旧字:寶物
……加うるに、紫玉がかついだ装束は、貴重なる宝物ほうもつであるから、驚破すわと言わばさし掛けて濡らすまいための、鎌倉殿の内意であった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これッ。武田家たけだけ宝物ほうもつをしずめた湖水は、ここにそういあるまい、うそいつわりをもうすと、いたいめにあわすぞ、どうじゃ!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同家ではこれを広い世間にたつた一つしか無い宝物ほうもつとして土蔵にしまひ込んで置いた。そして主人が気が鬱々くさ/\すると、それを取り出して見た。
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「これだこれだ。この金環だ。ああよくもわが手に帰ってきたものだ。わが生命よりもとうといこの世界の宝物ほうもつ! どれ、よく中を改めてみよう」
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よくると、それは、みんなほしではなく、金貨きんかに、銀貨ぎんかに、宝石ほうせきや、宝物ほうもつなか自分じぶんはすわっているのである。もう、こんなうれしいことはない。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
げにも由緒ありげな宝物ほうもつである。忠一も霎時しばしは飽かず眺めていたが、やがて手に取って打返うちかえして見ると、兜の吹返ふきがえしの裏には、「飛騨判官藤原朝高ひだのほうがんふじわらのともたか
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
無作法のおとがやっと奥に通じて、雛僧すうそうが一人出て来た。別に宝物ほうもつを見るでもなく、記念に画はがきなど買って出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まず美術商のもっているものからはじめて、それから、各地の博物館や、お寺の宝物ほうもつなどに手をのばしていく。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あるいは宮や寺の宝物ほうもつになっている古い仮面めんをかり、釣鐘つりがねをおろし、また路傍の石地蔵いしじぞうのもっとも霊験れいげんのあるというのを、なわでぐるぐる巻きにしたりして
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つまり負けたらば、何処どこ其処の寺には宝物ほうもつが沢山あるから、それを奪ってつかわすべしと云ったやり方である。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
判事は鍵をあずかっている庭番に命じて礼拝堂の扉を開けさせた。その礼拝堂というのは昔から崇められたものでそこにある立派な彫刻の人物などは宝物ほうもつであった。
二人の持っている不思議な宝物ほうもつを見てたいそう感心をして、すぐに家来にしましたが、間もなく隣の国と戦争がはじまりますと、アアとサアは一番に飛び出して
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
そのわりこんどは和尚おしょうさんにたのんで、ただのちゃがまのようにいろりにかけて、火あぶりになんぞしないようにして、大切たいせつにおてら宝物ほうもつにして、にしき布団ふとんにのせて
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今九枚残っているのが、肥後ひごの熊本の本願寺支配の長峰山ちょうほうざん随正寺ずいしょうじという寺の宝物ほうもつになって居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
木で造った渡船と年老いた船頭とは現在並びに将来の東京に対して最も尊い骨董こっとうの一つである。古樹と寺院と城壁と同じくあくまで保存せしむべき都市の宝物ほうもつである。
「ええ、あれっきりなんです。でも美人だったし、心霊研究者達からは宝物ほうもつのように大切にかけられてた女ですから、今でもその人達の間では時々話に出るようですね」
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
日矛ひほこはこちらへわたって来るときに、りっぱな玉や鏡なぞの宝物ほうもつ八品やしな持って来ました。その宝物は、伊豆志いずし大神おおかみという名まえの神さまにしてまつられることになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
加藤清正公かとうきよまさこう朝鮮征伐ちようせんせいばつにいらしたときわたくし先祖せんぞ道案内みちあんないをしたので、そのおれい清正公きよまさこう紋所もんどころをこうして身体からだへつけてくだすつて代々だい/\まあこうして宝物ほうもつにしてゐるやうなわけですよ
マンマとその宝物ほうもつ正味しょうみぬすとって私の物にしたのは、悪漢わるものが宝蔵に忍びいったようだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それにもかかわらず、宝物ほうもつの持ち主の方は、わずかに頭を動かしただけだった。そしてどこかぼんやりとした顔を星空の方に向けた。たぶん、彼は、その意味が判らなかったのだろう。
「おいそがしいところをおさまたげして済みませぬ。お宅様ではお家の宝物ほうもつを大切にしていらしって、めったに人にお見せにならぬそうですが、無躾ぶしつけながらその品を見せていただきに参ったのです」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
祖先より伝われる名誉ある宝物ほうもつなり、新年の贈物にと貴家に呈す、但し一個の外は無ければ、三人の令嬢の内、この年の暮に、最も勇ましき振舞をせし人、この腕環を得べき権利あり
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
支那の古俗では、身分のある死者の口中には玉を含ませてほうむることもあるのだから、ひどい奴は冢中の宝物ほうもつから、骸骨の口の中の玉までひっぱり出して奪うこともあえてしようとしたこともあろう。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
欲張よくばばあさんは、みずから化物ばけもの葛籠つづらの中に潜在させたから、ふたを開くとともに醜怪しゅうかいなものがあらわれだし、正直しょうじきじいさんは宝物ほうもつ潜在せんざいさせたから、なかからあらわれ出たのがすべて財宝であった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「その石の粉で描いた涅槃像ねはんぞうが現に東福寺の宝物ほうもつになっている」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
山寺の宝物ほうもつ見るや花の雨
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
……加ふるに、紫玉がかついだ装束は、貴重なる宝物ほうもつであるから、驚破すわと言はばさし掛けてらすまいための、鎌倉殿の内意ないいであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
同家ではこれを広い世間にたつた一つしか無い宝物ほうもつとして土蔵にしまひ込んで置いた。そして主人が気が鬱々くさ/\すると、それを取り出して見た。
むウ、ではなにか、武田伊那丸のやつらが、穴山梅雪あなやまばいせつちとり、また湖水の底から宝物ほうもつ石櫃いしびつを取りだしたというのか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしたら、あいするおきさきわらってくれるだろうか? おうさまは、やま宝物ほうもつをおきさきまえまれました。けれど、やはりおわらいにはなりませんでした。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは一旦紛失したおいえ宝物ほうもつを再びたずね出したように喜んで、もろもろの瓦楽多のなかでも上坐に押し据えて、今でも最も敬意を表しています。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つけなかった。これは仏蘭西フランス王家の宝物ほうもつだ。これは国宝だ。我輩は決してこれを自分の物にはしなかった。
泰西たいせいの都市にありては一樹の古木一宇いちうの堂舎といへども、なほ民族過去の光栄を表現すべき貴重なる宝物ほうもつとして尊敬せらるるは、既に幾多漫遊者の見知けんちする処ならずや。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貴様の先祖から代々貴様までも、根も葉もない作り事をして、俺にこのような貴い有り難い宝物ほうもつを近づけぬようにして、自分だけ世界一の利口者になろうとしているのだ
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
日本の羽柴氏に買いとられたもので、あたいにして二百万円という、貴重な宝物ほうもつでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
文福ぶんぶくちゃがまもそれなりくたびれて寝込ねこんででもしまったのか、それからは別段べつだん手足てあしえておどすというようなこともなく、このおてら宝物ほうもつになって、今日こんにちまでつたわっているそうです。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
斯様に林大學頭様の折紙が付いている宝物ほうもつで、私も一度拝見しましたが御維新後坂倉屋が零落おちぶれまして、本所横網よこあみ辺へ引込ひっこみました時隣家より出た火事に仏壇も折紙も一緒に焼いてしまったそうで
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「これが大高源吾おおたかげんごの詫証文といって此家ここの家の宝物ほうもつです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、くやしそうに忍剣が石櫃を引っくりかえすと、なかからごろごろところがりだしたのは、御旗みはた楯無たてなし宝物ほうもつに、ても似つかぬただの石ころ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにしろ、先祖代々せんぞだいだいからの宝物ほうもつですから、なるべくなら手放てばなしたくないとおもっています。よくかんがえてからご返事へんじもうしあげます。」と、おとここたえました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
泰西の都市にありては一樹の古木一宇いちうの堂舎といへども、なほ民族過去の光栄を表現すべき貴重なる宝物ほうもつとして尊敬せらるるは、既に幾多漫遊者の見知けんちするところならずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「だが我輩は、レイモンド嬢と結婚してから、すべて今までの生活は捨てようと決心した。君がいつか令嬢室ドモアゼルむろで見た通り、部下はそれぞれ宝物ほうもつけて逃がしてやった。」
高野山といへば、古美術や古文書こもんじよなどの多く残つてゐるので聞えた山だが、それに目星をつけて方々より狩出しに来るものが多いので、近頃はめつきり宝物ほうもつの数が少くなつた。
俺にとってはこれ位有り難い貴い重宝な宝物ほうもつは無いのだぞ。それをなぜ貴様はそのようににくむのだ。そうしてその仔細を云えと云えばそのように青くなってふるえ上ってしまう。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
くて一年ばかりも過ぎると、或夜あるよ何者か城内へ忍び入って、朝高が家重代いえじゅうだい宝物ほうもつたる金のかぶとを盗み去ったのである。無論、その詮議は極めて厳重なものであったが、その犯人は遂に見当らなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雪舟の山水図というのは、先祖代々小泉家に伝わっている家宝で、国宝に指定されている由緒ゆいしょぶかい名画でした。もしこれを売却するとすれば、二千万円をくだるまいといわれているほどの宝物ほうもつです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひざの上へわがねて宝物ほうもつを守護するようじゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天下てんかぴんといいますので、やすくて千りょうだと、あのりこうものがいいました。なにしろ先祖せんぞ代々だいだい宝物ほうもつでございまして、なるたけりたくはないと、おもっています。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
リイは遠眼鏡を眼に当てながら、一番兄さんの宝物ほうもつの鉄砲はどこにあるかと思いながら
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
不昧公は千家へく途中で、急にその日は大徳寺に宝物ほうもつ虫干むしぼしがある事を思ひ出した。