土塊つちくれ)” の例文
此の空地を斜に横ぎツて、四十人に餘る生徒が、がんが列を亂したやうになツて、各自てんでん土塊つちくれを蹴上げながら蹴散らしながら飛んで行く。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
試みにその中のただ一つを掘り出してこの世の空気にさらすと、たちまちに色も光も消えせた一片の土塊つちくれに変わってしまった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
が、あんな獣のやうな卑しい男を、懲すために、お前の一身を犠牲にしては、黄金を土塊つちくれと交換するほど、馬鹿々々しいことぢやないか。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
長い触覚と焦茶色の後肢とをもつた小さな精霊が、そこらの土塊つちくれや草葉のなかを押分けて、それを捜し廻つてゐるらしいうちに、またしても
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
陽があがれば野原に出て男達は木の根を掘っくりかえし、女達は土塊つちくれくだき、が沈めば小屋に帰ってるのだった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ロミオ 心臟しんざう此處こゝのこってゐるのに、なんかへることが出來できようぞい? どん土塊つちくれめ、引返ひッかへして、おのが中心たましひさがしをれ。
かけたり、わざと土塊つちくれをほうり込んだりするんですッて。そうして誰もいないと、庭から回ってはいって来るんだそうです
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
折り詰めを開き見るに、土塊つちくれ馬糞ばふんあるのみ。ここにおいて、老僕輩は全くこれを老狐の所為となし、自らこれにだまされたるを深く残念に思いたり
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
逃亡はするが、紳士の逃亡で、人だか土塊つちくれだか分らない坑掘あなほりになりさがる目的の逃亡とは、何不足なく生育そだった自分の頭には影さえ射さなかったろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つひには其處そこ恐怖おそれくははればぼうたゝいたり土塊つちくれはふつたり、また自分等じぶんら衣物きものをとつてぱさり/\とたゝいたりしてそのすことにつとめるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小形の龕燈がんどうが一つ、掘り返した土塊つちくれのうえに置いてあり、その灯がこの見るに忍びない光景を照らしだしていた。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
と、その時、頭上から、土塊つちくれと一緒に、何物か崖をすべって落ちて来、岩に当たり、かすかな音を立て、水へ落ちた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勢いこんだチョビ安の足に、土がくずれて、ド、ドウとこもった音とともに、土塊つちくれが穴のなかへ落ちこんでいく。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その定まった形のない土塊つちくれが身振りをしたり罪を犯したりすること、死んだ無形のものが生命の働きをうばうということ、これはいかにも恐ろしいことであった。
此の木は岩の裂目から生え出してゐたので、ライフはこの裂目をよぢ登り始めた。小さな石が彼の足の下に崩れた。砂利や土塊つちくれが轉がり落ちた。その音より外には深い靜寂。
うぬれの強いかの女はまた、莫迦ばか莫迦しくひがみやすくもある。だが結局人夫にんぷは人夫の稼業かぎょうから預けられた土塊つちくれや石柱をかかえ、それが彼等かれらの眼の中にいっぱいつまっているのだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
暗い足許あしもとには泥土質の土塊つちくれ水溜みずたまりがあって、歩きにくかったが、奥へ奥へと進んで行くと、向側の入口らしい仄明りが見えて来た。人々はその辺で一かたまりになってうずくまった。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ぼんやり見てゐた私はその時、その中洲なかすの上にふと一つの生き物を発見した。はじめは土塊つちくれだとさへ思はなかつたのだが、のろのろとそれが動きだしたので、気がついたのである。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
蕭条たる風雨の中で、かなしく黙しながら、孤独に、永遠の土塊つちくれが存在してゐる。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
また、よくもさっきは、この竹童をめくらとあなどって、土塊つちくれをぶつけたり、お師匠ししょうさまの悪口わるくちをたたいたり、そして、鞍馬くらまの竹童のことを、天下のお乞食こじきさまとののしり恥ずかしめたな。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れた糸が、こまの紐をくように、だんだんからだへ捲きついて行くような気持だ。が、からだを支えていた土塊つちくれが崩れる。すると、にんじんは滑り落ちる。姿を消す。水の底を這う。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかし、婆さんはせがれの打消しを聞かぬふりをして、爪先で土塊つちくれを弾きながら
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
およそ感情の暖かい潮流が其方そちの心にみなぎって、其方そちが大世界の不思議をふと我物と悟った時、其方そち土塊つちくれから出来ている体がふるえた時には、わしの秘密の威力が其方そちの心の底に触れたのじゃ。
与謝野君ですか……与謝野君の玉と珍重する材料を僕はつまらぬ土塊つちくれをひねくって居るように見えてならないです、要するに新詩社一派は根本の一個所に誤解があるように僕には見えるです
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まあ、一つの県全体に一時に雨が降つたとしたところで、其の県と地球全体とを比較すれば広い畑と其の中の一塊の土塊つちくれのやうなものだ。雲は風に追はれて、彼方此方、大空の中を駈け廻る。
一昨日おとといは畑を歩いて、苦しいかわずの鳴き声を聞いた。ドウしてもへびにかゝった蛙の鳴き声と思って見まわすと、果然はたして二尺ばかりの山かゞしが小さな蛙の足をくわえて居る。余は土塊つちくれを投げつけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
三歳の時、囲炉ゐろりに落ちしとかにて、右の半面焼けたゞれ、ひとへに土塊つちくれの如く、眉千切れ絶え、まなじり白く出で、唇、狼の如く釣り歪みて、鬼とや見えむ。獣とか見む。われと鏡を見て打ちをのゝくばかりなり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
喜太郎は、そう言って、地べたに飛び下りたが、すぐその手で土塊つちくれをつかむと、それを部屋の中になげこんだ。土塊は天井にあたってばらはらに砕けた、そしてむざんにも握飯の表面をまだらにした。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この土塊つちくれのお蔭でこれがようやく明るくなったような気がする。
土塊石片録 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
槌で打たなければ、切り崩せない堅さの土塊つちくれであつた。
心象風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
土塊つちくれと一しょにきんの這入った壺を掘り出す。5010
一片ひとかけ土塊つちくれもケイコバードやジャムだよ。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
そして片手に土塊つちくれを掴んで投げつけた。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
土塊つちくれのようにほうり出された章魚人夫
サガレンの浮浪者 (新字新仮名) / 広海大治(著)
ゝゝゝ土塊つちくれ運ぶゝゝゝゝ 行々子
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
中 実生みしょう二葉ふたば土塊つちくれ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が、あんなけだもののようないやしい男を、こらすために、お前の一身を犠牲にしては、黄金を土塊つちくれと交換するほど、馬鹿ばか々々しいことじゃないか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
土塊つちくれのバタバタと棺に当たる音がする。時の間に墓は築かれて小僧の僧衣ころも姿が黒くその前に立ったと思うと、例の調子はずれの読経どきょうが始まった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ぼろぼろに乾いたそこらの土は、土塊つちくれは、その香気のために絶えずき籠められ、いぶしきよめられている。
水仙の幻想 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
勘次の指す背戸口に地底から洩れる青白い光りが、土塊つちくれを隈取ってぼうっと霞んで、心なしか地面が少し盛り上っている。藤吉はつかつかと進んでその上に立った。
けよ! このむねよ! 破産はさんした不幸みじめこゝろよ、一思ひとおもひにけてしまうてくれい! 此上このうへらうはひれ、もう自由じいうるな! けがらはしい塵芥ちりあくため、もと土塊つちくれかへりをれ、きてはたらくにはおよばぬわい
坑夫と云えば名前の示すごとく、あなの中で、日の目を見ない家業かぎょうである。娑婆しゃばにいながら、娑婆から下へもぐり込んで、暗い所で、鉱塊あらがね土塊つちくれを相手に、浮世の声を聞かないで済む。定めて陰気だろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手にさわった土塊つちくれをつかんで、竹童のかげへ、バラッと投げつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐっしゃり一まとめに土塊つちくれのように置いてあった。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
土塊つちくれを一つ動かし物芽出づ
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
金の力などは、本当の正義の前には土塊つちくれにも等しいことを、あの男に思ひ知らせてやりたいと思ひます。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
土塊つちくれや、石ころや、また家々の屋根の瓦などは、この大きな酔つ払ひの顔から、眼から、狂気じみた焦だたしさを感じ、それぞれ自分達の身うちに熱病やみのやうな胸苦しい動悸を覚えながらも
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
パリス (廟の前へ進みて)なつかしいはな我妹子わぎもこはなこの新床にひどこうへいて……あゝ、天蓋てんがいいし土塊つちくれ……そのいた草花くさはな夜毎よごとかほみづそゝがう。しそれがきたなら、なげきにしぼわしなみだを。
金の力などは、本当の正義の前には土塊つちくれにも等しいことを、あの男に思い知らせてやりたいと思います。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
不意に突然に意外に、敵は今彼女の眼前に、何の力もなく何の意地もなく土塊つちくれごとくに横わっている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)