やかま)” の例文
作法などをとやかくやかましくいうが、その作法なるものも古美術を尊重し、審美生活を愛する心から生まれているということが出来る。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
三野村のような男にいつまでも係り合っていては後の身のためにならぬとやかましくいうのと、お園自身でだんだんそれとわかって来て
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
起してはいけないと思って、伊織はそのまま黙って、また往来をていた。——しかし、隣の部屋のやかましさは前と少しも変りはない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
緑のスロープも、高地になるに随って明るく、陰影が一刷毛ひとはけに撫で下ろされた。あしくさむらの多い下の沢では、葦切よしきりがやかましくいていた。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ガスストーブなんか使用していないこの下宿では、おかみさんが女中にやかましくいって、毎夜寝る時に必ずこのコックを締めさせている。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
やかましい国侍くにざむらいども、殺風景さっぷうけいな歌ばかり歌いおるわ……そもそも、島原の投節なげぶし、新町のまがき節、江戸の継節つぎぶし、これを三都の三名物という。
そんなに毎晩かしてろくもしないじゃないか。何の事だ。風邪かぜでも引くとくない。勉強にも程のあったものだとやかましく云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
瞬間、今迄やかましかった監房という監房が抑えられたようにシーンとなった。俺は途中まではしを持ちあげたまゝ、息をのんでいた。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「どうも汽車の音がやかましくて仕様が有りません。授業中にあいつをやられようものなら、硝子ガラスへ響いて、稽古も出来ない位です」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「有難う御座いました、いろ/\解りました。稻荷樣のばちといふこともありますから、そのうちには下手人も判りませう。おやかましう——」
矢来の酒井の森にはからすの声がやかましく聞える。どの家でも夕飯が済んで、門口に若い娘の白い顔も見える。ボールを投げている少年もある。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼は、ただもう昏々こんこんと眠った。空襲警報が鳴っても、ボーイが、よほどやかましくいわないと、彼は、防空地下室へ下りようとはしなかった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そんな訳もない事を云ってきずを附けては、むこうの親父さんの耳にでも入ると悪いやね、あの娘のおっかさんは継母でやかましいから可愛かわいそうだわね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やかましい店のことであるから、料理場にものを通したり、表を通る客に声をかけるに大きな声を張りあげるので、彼女たちの咽喉のどはつぶれて
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
三人は、やかましく行々子よしきりの鳴いている蘆間あしまをくぐって、砂洲に出た。そして、しばらく蜆を拾ったり、穴を掘ったりして遊んだ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
女流声楽家三浦たまきと今は故人の千葉秀浦しうほとの関係は一頻ひとしきやかましい取沙汰とりさたになつたので、世間には今だにそれを覚えてゐる人もすくなくあるまい。
境内一面のくすのきの下枝と向い合って、雀の声のやかましい藁葺わらぶき屋根が軒を並べている。御維新以前からのまんまらしい、陰気なジメジメした横町だ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やかましいやい。と白きうなじ鷲掴わしづかみ、「この阿魔、生意気に人ごのみをしやあがる。うぬどうしてもかれないか。と睨附ねめつくれば、お藤は声を震わして、 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのなかに更にもう一つのを投げおとした。阿賀妻は混みあい奪いあうやかましい人々の姿がぽーッと消えるような気がした。眼がかすんだのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
で、その城の下が通路になって居りますけれども私は特別に城の中に入って行きました。別段やかましく言う者もなかったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
樹木の多い郊外の庭にも、うぐいすはもうまれに来て鳴くのみである。すずめの軒近くさえずるのをやかましく思うような日も一日一日と少くなって行くではないか。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこで坊さん・社会教育家・職業的慨世家——これはどこにでもある——がしじゅう何だかんだとやかましく言うんだけれど
眼をふさぎいし十兵衛は、その時例の濁声だみごえ出し、やかましいわお浪、黙っていよ、おれの話しの邪魔になる、親方様聞いて下され。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かなへの湯のやうに沸き立つやかましい近郷近在の評判や取々の沙汰に父は面目ながつて暫らくは一室に幽閉してゐたらしいが其間も屡便りを送つて來た。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
轡蟲くつわむしくらいなかへはなたれゝば、たゞちこゑそろへてく。土地とちれが一ぱんにがしや/\といふ名稱めいしようあたへられてるだけやかましくたゞがしや/\とく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小春日和のうららかさに陽炎かげろうが燃えていた。海岸通りには荷役の権三ごんぞうたちが群をしてやかましく呶鳴り合って居た。外国の水夫が三々五々歩き廻っていた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
近くにいた支那人の一団ひとかたまりが、やかましくがやがや言って席を代えさせまいとしたが、祖母はグングンそばを通っていった。
ここに於て私は新陳代謝の必要を常にやかましく唱えるのである。要するに政界の堕落はもはやその極点に達している。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
口小言のみやかましいのへ、信吾は信吾で朝晩の惣菜まで、故障を言ふたちだから、人手の多い家庭ではあるが、靜子は矢張一日何かしら用に追はれてゐる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
羽根を乱した儘で、鷲はやかましい群衆が近づいて来るのを、すこしも恐れぬらしく、その枝で休息するべく落着いた。
ところが二高に来て見ると、これはまた京都以上に細々した事がやかましかった。第一靴を脱いで上草履に穿き替えなければ板間に上ることが出来なかった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この人がどういうわけか、私たちの母をやかまし屋であったようにいいふらしたので、心外に思ってすごしてきた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わざとやかましく言っておどかして見るのだろうという気もする。あれくらいなことは、今日は失敗しくじっても、二度三度と慣れて来れば造作なく出来そうにも思える。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「実にやかましい!」とルパンが叫んだ。「さあ、上にのぼろうじゃないか。エイギュイユ城の見物も面白いよ。」
やっぱり、今度のそれも大若衆がやったのであろうなど腹の中で考えて一層不安が増し、取り沙汰がやかましくなるという風で、物情実に騒然たる有様であった。
お力の中座をしたるに不興ぶきようしてやかましかりし折から、店口にておやおかへりかの声を聞くより、客を置ざりに中坐するといふ法があるか、皈つたらば此処へ来い
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母はお説教などは何も言ったことはないが、ただ言葉遣いだけは非常にやかましく、何遍直されたか分らない。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
「矢っ張り士族平民がやかましいんだそうですが、考えて見ると此方は私のお母さんのお父さんが御家人ごけにんだったから、満更素町人すちょうにんでもないということになったのさ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やっぱりやかましいの。初めはなぜやかましくなかったかと云うと、それは運動場をコンクリート? か何かで修理するために子供らは皆教室につまっていたのです。
やかましい騒音とともに、聴こえない超音波が、非常に発生しているわけだ、そしてそのなかのある波長のものが人間に眠り音波として作用するらしい——眠り病が
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
大八車が二台三台と続いて通る、その空車からぐるまわだちの響がやかましく起こりては絶え、絶えては起こりしている。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それはここでも好いし、どこかほかへ行ったら、なお好いでしょう。あなたのおばさんがやかましそうですから。
何だやかましい贅言たはごと云ずと此おれを叔父だとぬかせばすむ事だとのゝしる聲の耳にいり九郎兵衞は不※目をさまし猶も樣子を打聞うちきくわびる一人の女の聲扨は我今ねぶりし中惡物わるもの共がお里を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みんな奥様のお口添えがあったからでして、なんでも、旦那様はどちらかというと、口やかましいお方でしたが、奥様は、いかにも大家の娘らしく、寛大で、しとやかで
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
かげで、平和な家禽かきん一同をいっときホッとさせる。ところが、彼女はまたやって来る。前よりもいっそうやかましく、騒々しい。そして、無茶苦茶に地べたを転げ回る。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
その度毎に、隣の裁縫の師匠の家で、小雀のさえずるような娘達の声が一際やかましくなる。それに促されてお玉もどんな人が通るかと、覚えず気を附けて見ることがある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
... せおって! 人に怨みがあるものかないものか! 見よ、見よ、ここ三代が間になんじの屋敷にぺんぺん草を生やしてくれん!』『ええ、やかましいやい、ソレ、もっと薪を ...
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「大鼠や、廿日鼠はつかねずみがたくさんいるわ。ちょろちょろ出て来て、うるさいけど、慣れればやかましいとも思わないわ。ただ枕の上を飛び越えたりされると、いやですけど。」
けれども夜の時計の音は、あまりやかましく耳について、どうしても寝つかれなかつた。それの一刻の音毎にそそられて、彼の心持は一段一段とせり上つて昂奮して来た。
聞えんふりも出来ぬから、渋々って取次に出て、倒さになる。私のお辞儀は家内の物議を惹起ひきおこして度々やかましく言われているけれど、面倒臭いから、構わず倒さになる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)