いや)” の例文
当人へ弟子入りを承諾したように受け取られ上郎氏の細君が当人をれて見えたので、今さらいやともいえず、弟子にしたわけでした。
いやだ。いやだ。イケナイイケナイ。私から先だ私から先だ。私は香気においぎたい。花だの香木だのの芳香においが嗅ぎたい。早く早く」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
いやが応でもだんだんに厄介千万な一大問題に変わって来て、とどのつまりは何とも身動きのならぬ状態に陥ってしまうものである。
吉田は胸のなかがどうにかしてやわらんで来るまではいやでも応でもいつも身体を鯱硬張しゃちこばらして夜昼を押し通していなければならなかった。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
一昨日おとついばんよいの口に、その松のうらおもてに、ちらちらともしびえたのを、海浜かいひんの別荘で花火をくのだといい、いや狐火きつねびだともいった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、別に面白い本も持つて來ないんですが、御覽になるなら何時でも……。すると何ですか、此夏は何處にも被行いらつしやらないんですか?』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お繼をだまして共に打殺し、私と一緒に逃げ延びて遠い処へ身を隠すか、いやじゃアと云えば弐心ふたごゝろじゃア、お前も打殺さなければならん
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そんなにいやなら強いてとまでは云いませんが、そう二三時間のうちに、特別の理由もないのに豹変ひょうへんしちゃ、将来君の信用にかかわる」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いや、似ているよ。随分わからないことを言うでしょう? 友達方に迷惑をかけ通しだろうと陰ながら常々お察し申していますよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたしこゝろむかへなければならなかつた……それはちからよわふゆだからだらうか? いや! どうして彼女かのぢよちからあなどこと出來できよう。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
はらさんと立上りしがいや荒立あらだてては事の破れ何にもせよお浪を引さらひ女房にすれば男は立つたゞにつくきは富右衞門なりよきをりもあらば此遺恨このうらみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いやも應もありません。平次とガラツ八は長兵衞を引立てて源助町まで飛びました。今度こそは一擧に事件の謎が解けさうです。
役人になるのはおれはいやぢや、退屈な時聞きたいから月琴でも習つて置けとお師匠さんを探して呉れましたので、私は暫く稽古しましたが
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
あっぱの宮田は、ほんとにはあ機械からくり同然だ。何をしても憤らなきゃあ、小言も云わない。頼むぞと云いさえすりゃあいやと云えねえ爺さまだ。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それで本人がいやだというたら直ぐ無駄な御骨折を御中止を願います。また異存なしと答えたら何分にも御面倒を願いましょう。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そのなかで割合に気が進まなささうなのが男のしんの臓位のもので、持合せの手帛ハンケチに包まれさうな物だつたら、どんな物だつていやは言はない。
「まあお嬢様、そんなにお改まりあそばして、何の御用でもわたくしに仰せつけ下さるのに、いやおうがございますものですか」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ありふれた古いいやな文句であるが、『孤軍』といふやうな思ひを、一年あるひはもつと、したであらう、と、私は、感じる。
今の下宿の払ひもしなければならぬ。月給は明後日あさつてでなければ渡らないとすると、いやでも応でも其迄待つより外はなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「益々分らなくなった、——いやそうじゃない。秘密の鍵をみつけたのだ。……待て、考えなくちゃならんぞ、是がし——」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お前さんに笑われるかも知れないが、私しゃね、何だかかえるのがいやになッたから、今日は夕刻ゆうかたまで遊ばせておいて下さいな。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
吾等われら幾年月いくねんげつ苦心慘憺くしんさんたんみづあわいや親愛しんあいなる日本帝國につぽんていこくために、計畫けいくわくしたことが、かへつてき利刀りたうあたへることになります。
器用な真似まねが出来ないので、この饒舌家じょうぜつかの婦人の間に挟まった不運を嘆息しながら、いやでも応でもそれを拝聴していなければなりませんでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
六年の田舎住居、多少は百姓の真似まねもして見て、土に対する農の心理の幾分をしはじめて見ると、余はいやでも曩昔むかしみとめずには居られぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
りやうさんお約束やくそくのものわすれてはいやよ。アヽ大丈夫だいじやうぶすれやアしなひしかしコーツとんだツけねへ。あれだものをかけにもあのくらゐねがつておいたのに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いかに心をつくりたりとて手を尽したりとて甲斐かいなき女の何事をかなし得らるべき、あないやいやかかる世を見るもいや
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いや、それよりもこの弥生が、突然小野塚伊織なる若侍の扮装いでたちで今日この子恋の森へ現れるにいたるまでに、そもどのような経路が伏在しているのか?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いやもうこゝで結構です。一寸そこまで散歩に來たものですからな。……それで何ですかな、家が定まりましたでせうな? もう定まつたでせうな?」
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
いや、——誰れにもやられたのではない』と相手は息を切らしながら云った——『ただ……ああ!——ああ!』……
(新字新仮名) / 小泉八雲(著)
いやさらにそれよりもより以上に、「いわゆる特殊部落とは何ぞや」という歴史的事実をよく知るの必要があります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
牛飼いの若者はいやと返事をする代りに、ほおふくらせたまま黙っていた。すると相手は流し眼に彼の顔を覗きこんで
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十二月に御嶽おんたけの雪は消ゆる事もあれ此念このおもいきえじ、アヽいやなのは岩沼令嬢、恋しいは花漬売とはて取乱とりみだして男の述懐じゅっかい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いや、今年の春頃から、かゝあがはりに連れて来たんだといふ話で、何でも、はア、芋沢いもさはあたりの者だつて言ふ事だす。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
と急所を指されて商人も閉口せしが前の広言に対していやとも言われず少し直段を高くして択取よりどりに任せんという。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いや、小説ばかりじゃない、一体の人生観という奴が私にゃ然う思えるんだよ……思えると云うと語弊があるが、那様そんな気がするのだ。どうも莫迦々々ばかばかしくてね。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
つまり、そこです……あのとき、いやとかノオとか、言ってくれたら、すぐ、ひっつかまえていた。あなたが庇いたてをしたばかりに、殺さなくともいい人間を
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ヂュリ おゝ、ロミオ、ロミオ! 何故なぜおまへはロミオぢゃ! 父御てゝごをも、自身じしんをもてゝしまや。それがいやならば、せめてもわし戀人こひゞとぢゃと誓言せいごんしてくだされ。
いやむしおどし付けてくるまに乗って此処まで来たが車夫の密告が怖くなった処から、車夫を殺して着物を剥ぎ、そいつを着て車夫に化け、俥をいて逃亡したのだろう。
らばいかなる身分みぶんの者ぞ、衞府附ゑふづきさむらひにてもあるか』。『いや、さるものには候はず、御所の曹司に横笛と申すもの、聞けば御室おむろわたりの郷家の娘なりとの事』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
事の急変と、その荒ッぽさに驚いたのは、店の一室で寝ていたあだ名、※命べんめい(命知らず)三郎の石秀せきしゅうである。むらむらッとしたが、すぐいやと、胸をなでさすった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやでも応でも、彼らは自己の迷信的恐怖と実在性とを、私に強制しようとするのであった。だが私は、別のちがった興味でもって、人々の話を面白く傾聴していた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
おれは今朝、あるいまわしい場面を、この船の事務員が見たとか、いう話をきいたときは、初めは話のほうが信用できなかった。いや、今でも、そんな話は信用しとらん。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
互にその不思議な現象を笑いながら、なおも人々と進んで行くと、また大きな平原=いや海原に出た。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
むずかしい表情はしているものの、やはり社会大変革の手が当時の若者に分与した夢を抱いていたのだろう。いやでもおうでも抱かねばならなかった立身出世の夢である。
いや、まだなかなかですよ」と老紳士が口をはさんだ。「まだトンネルも越しませんからな」
ただ一撃ちに羽翼締はがいじめだ。いやも応も言わせるものか。しかし彼の容色はほかに得られぬ。まずは珍重することかな。親父おやじ親父。親父は必ず逃がさんぞ。あれを巧く説き込んで。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
家へ帰ると、これを取り返されるからいやだと云って後生ごしょう大事に例の絵馬を抱えている始末。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや、お雪さんは行きゃしないが、おっかさんが、お雪さんの処へ行って、そう言ったんでしょう。……そうして此の頃何だか、ひどくソワ/\して、一寸々々ちょいちょい泊っても来るって。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「幸いにそういう便宜があれば一つ頼みたい。」「よろしい。私の友達だから決していやとはいいますまい。どうせ帰りに荷物を沢山積んで来るので往きには空馬が沢山あるから」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あなたも御存じでしょう、テナルディエの所から子供を取り戻す手紙に私に署名させなすったのを。もう先方でもいやとは言えませんわねえ。きっとコゼットを返してくれるでしょう。