合羽かっぱ)” の例文
二人とも笠を被って長い合羽かっぱを着て、脇差を一本ずつ差していました。先に立っている方が年配で、あとから行くのが若いようです。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのほかに二人、一人は初めて見る顔で、旅の者らしい、手甲てっこう脚絆きゃはん草鞋わらじをはき、合羽かっぱを着て、頭にちりよけの手拭をかぶっている。
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
従って彼は、猿股一つの上に合羽かっぱを着て作業しようと決心でいた。ところが仕事着は小倉が彼に一つくれることにしようと申し込んだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
朝まだき、東の空ようやく白みしころ、人々皆起きいでて合羽かっぱを着、灯燈ちょうちんつけ舷燈たずさえなどして波止場に集まりぬ。波止場は事なかりき。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
又あの支那人の博士が黄いろなレーンコートを着子供の助手が黒い合羽かっぱを着てやぐらの上に立って一生けん命空を見あげているのを見た。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
半蔵は青い河内木綿かわちもめん合羽かっぱを着、脚絆きゃはんをつけて、すっかり道中姿になった。旅の守り刀は綿更紗めんざらさの袋で鍔元つばもとを包んで、それを腰にさした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は、藁靴わらぐつ穿はいて、合羽かっぱを着た。両脚りょうあしは急に太くなって、頭から三角帽子を被ったので、まるで転がるように身体がまるくなった。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
橋を越して合羽かっぱ橋へ出て、頼んでおいた口入くちいれ所へ行く。稲毛の旅館の女中と、浅草の牛屋の女中の口が一番私にはむいている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
突然、八弥は並木の蔭へんだ。——そして傘を伏せたように、すぽっと、合羽かっぱすそをひろげてかがまりながら、鋭い眼を、彼方に向け直した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、峠の頂に近くなったときは、霧がそぼそぼとして、細かい粒の雨が、バラつき出したが、それでも合羽かっぱを出すまでには至らなかった。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
怪飛けしとんだようになって、蹌踉よろけて土砂降どしゃぶりの中を飛出とびだすと、くるりと合羽かっぱに包まれて、見えるは脚ばかりじゃありませんか。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
住吉すみよし移奉うつしまつ佃島つくだじまも岸の姫松のすくなきに反橋そりばしのたゆみをかしからず宰府さいふあがたてまつる名のみにして染川そめかわの色に合羽かっぱほしわたし思河おもいかわのよるべにあくたうずむ。
本朝世事談綺ほんちょうせじだんぎ』に「合羽かっぱは中古のもの也、上古は蓑を用ゆ、軍用にはなお蓑也、今蓑箱といふあり、蓑をおさむる具也」。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
合羽かっぱを着、道中差しを差し、両手を袖に入れている恰好かっこうは、博徒か道中師かといいたげで、厭な感じのする男でした。三白眼であるのも不快でした。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まさかと思って冷やかし半分に、そう云ってみたのであったが、案外にもお合羽かっぱさんが、如何にも簡単にうなずいた。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
霧は次第に深く、かてて雨、止むを得ず合羽かっぱまとい、岩陰で暫時雨を避け、小降りの折を見て、また登り始める。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
外科室に這入はいって見れば石淋せきりんを取出す手術で、執刀の医師は合羽かっぱを着て、病人をばまないたのような台の上に寝かして、コロヽホルムをがせてこれを殺して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ひる少し前までは、ぼんやり雨を眺めていた。午飯ひるめしを済ますやいなや、護謨ゴム合羽かっぱを引き掛けて表へ出た。降る中を神楽坂下まで来て青山の宅へ電話を掛けた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
星野温泉ほしのおんせんへ着いて見ると地面はもう相当色が変わるくらい灰が降り積もっている。草原の上に干してあった合羽かっぱの上には約一ミリか二ミリの厚さに積もっていた。
小爆発二件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
多くは近県や東北の人々で、最初は東京仕入れの自慢半分、寒さ凌ぎも兼帯で、合羽かっぱ代りに用いたのが村の評判になって、たちまち多くの模倣者を出したらしい。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
どうもして見よういたしかたがないから羊の荷物を卸して夜着を取り出してそれをかぶり、それから頭の上から合羽かっぱを被ってしまいましてそこで羊の寝転んで居る間へはいって
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
背中せなかぱい汚泥はねわすれたように、廊下ろうか暖簾口のれんぐち地駄じだんで、おのが合羽かっぱをむしりっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「せっかく、雨の中を沢山えっと歩きまわったにのう」彼は合羽かっぱをゆすりあげていった。私は答えられなかった。目を伏せたまま私は頭をさげ、挙手の礼をする警官と別れた。
演技の果て (新字新仮名) / 山川方夫(著)
半分は番小屋の建築費にあて、半分はめいめいこうだらしのねえ風をしていちゃあみっともねえから、夜警の番に当る者が着るように、合羽かっぱと帽子を二揃ずつ買って来た。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
其の北に入るものは所謂いわゆる、新堀にして、栄久えいきゅう三筋みすじ町等に沿ひ、菊屋きくや橋・合羽かっぱ橋等の下に至る。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
永い歳月を経て定まったしょうとの形があることをも考えず、何でも見れば真似まねをして、上から上からと色々の余分のものを取り重ね、羽織だコートだ合羽かっぱちりよけだと
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
兵衛はまず供の仲間ちゅうげんが、雨の夜路を照らしている提灯ちょうちんの紋にあざむかれ、それから合羽かっぱかさをかざした平太郎の姿に欺かれて、粗忽そこつにもこの老人を甚太夫と誤って殺したのであった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
上に雨よけの合羽かっぱをおおいながら、いましも表へ向かって歩みだそうとしているのです。
すると、私共はその頃和服で袴の上にバンドをつけて通っていたから、合羽かっぱをたたんで、お包みの下へもって、傘をもって、袴に靴という姿で、大いに気取って歩いたものでした。
着附きつけ盲目縞めくらじまの腹掛の上に、紫の肩いれある、紺と白とのらんたつの銘撰めいせんに、絳絹裏もみうらをつけ、黒繻子くろじゅすの襟かけたるを着、紺の白木の三尺を締め、尻端折しりはしょりし、上に盲目縞の海鼠襟なまこえり合羽かっぱ
彼は千次郎といって九つの春から市ヶ谷合羽かっぱ坂下の質屋に奉公していたが、無事に年季を勤めあげて、それから三年の礼奉公をすませて、去年の春から新宿に小さい古着屋の店を出して
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中古のガタガタ自動車を安く買い求めて、車庫が無いので前庭の草花の咲いて居る芝生へ乱暴に押し入れて合羽かっぱをかけて置く。郊外へ出かける折りなど蓄音器を積み込んで交代に操縦して行った。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
五郎は小学生で、おさがりの合羽かっぱを着ていた。早く登校しなければならないが、誰が水死したのか知りたくて、人だかりの中をうろうろしていた。引揚作業の男たちは、裸のもいたし、黒合羽のもいた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
旦那だんな。馬の合羽かっぱがありませんがなあ。」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
五月雨の合羽かっぱつゝぱる刀かな 子規
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「そしたら、お父さんの合羽かっぱきる」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
寄席よせへ来るに道中差を用意するほどのこともなかろうが、なお左の膝の下に合羽かっぱを丸めているところを見ると、たしかに旅の者だ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼らは、雨も雪も降らないのに、合羽かっぱを着ていた、それは寒さをも防ぐし、軽くもあるのだ。そして飛沫ひまつをもけることができるのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
街道には、毛付けづけ(木曾福島に立つ馬市)から帰って来る百姓、木曾駒きそごまをひき連れた博労ばくろうなぞがかさ合羽かっぱで、本陣の門前を通り過ぎつつある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
甲斐はおくみを呼んで、羅紗らしゃのくび巻を持って来させた。周防は頭巾をした上からそれを巻き、合羽かっぱをはおりながら訊いた。
それもいいが、勿体なくも石神様にお尻を向け、道中差どうちゅうざし合羽かっぱまでかかえて来て、何だッて、こんな所で支度をするのか?
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……おおき雨笠あまがさを、ずぼりとした合羽かっぱ着た肩の、両方かくれるばかり深くかぶつて、後向うしろむきにしよんぼりとれたやうに目前めさきを行く。……とき/″\
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おあいは、頭から、黒い合羽かっぱを被ってみすぼらしい風をして逃げるように、並木の、痩せた、寒空にひょろひょろとして立っている細道を歩いて来た。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
下僕しもべとか馬方うまかたとかいうような者は、皆合羽かっぱを着て居るから好都合であるけれども、金襴きんらんの衣裳を着けた大臣達は、顔も手先も雨と霰に打たれながらびしょ濡れになって
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それからまた低気圧が来て風が激しくなりそうだと夜中でもかまわず父は合羽かっぱを着て下男と二人で、この石燈籠のわきにあった数本の大きな梧桐あおぎりを細引きで縛り合わせた。
庭の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
殺される十日程前、夜中やちゅう合羽かっぱを着て、傘に雪をけながら、足駄がけで、四条から三条へ帰った事がある。その時旅宿やどの二丁程手前で、突然うしろから長井直記どのと呼び懸けられた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗き夜の空より雨ななめに降りしきる橋袂はしたもと、縞の合羽かっぱ単衣ひとえの裾を端折はしょりし坂東又太郎ばんどうまたたろうなかにしてその門弟三木蔵七蔵みきぞうしちぞうらぶら提灯ちょうちんみちを照しつついづれも大きなる煙草入たばこいれ下げたる尻端折しりはしょり
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吾輩はそういう令嬢の泣声を聞きながら茫然として相手のお合羽かっぱ頭を眺めていた。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
乗合自動車を乗り棄てると、O先生と私とは駕籠かごに乗り、T君とM君とは徒歩でのぼった。そうして、途中で驟雨が沛然はいぜんとして降って来たとき駕籠夫かごかきは慌てて駕籠に合羽かっぱをかけたりした。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そんな小僧こぞう苦楽くらくなんぞ、背中せなかにとまった蝿程はえほどにもおもわない徳太郎とくたろうの、おせんといた夢中むちゅうあゆみは、合羽かっぱしたからのぞいているなましろすね青筋あおすじにさえうかがわれて、みちわるしも
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)